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今までの記憶とこれからの思い出

4.今までの記憶とこれからの思い出

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 グミをくすねたヌーッティとグミを盗み食いしたアレクシはベッド下を掃除することに、リュリュはトゥーリの掃除を手伝うことにした。
 アレクシはほうきを持って床に散らばっているカビの生えた食べかすを集めた。
 ヌーッティはちりとりを持って、アレクシが集めたゴミを収集し、ゴミ箱に入れた。
 トゥーリは写真を1枚1枚吟味し、整理した。
 リュリュは水気を絞ったハンドタオルで本棚に付着したテープの汚れを落としていた。
 アキは部屋全体とデスク周辺を片付けた。
 全員の掃除が終わったのは午後3時を過ぎた頃であった。
 一足先に掃除を終えたアキは一階のキッチンへ行き、お茶とクリスマスに作ったクッキーを全員分用意して、部屋へ戻ってきた。
「もう終わった?」
 トレーを勉強机に置いたアキは振り返って、部屋を見渡した。
「終わったヌー!」
 ヌーッティが手の甲で額の汗を拭いながら答えた。
「こっちも終わったよ」
 トゥーリが本棚の上から返答した。
「じゃあ、お茶でもしようか」
 アキの提案に4人全員が喜びの声を上げた。
 それから、トゥーリとヌーッティ、アレクシとリュリュは勉強机の上に座り、アキはデスクからキャスター付きの椅子を引き出して腰掛けた。
 大きな焦げ茶色のティーポットを持ったアキは、小さな4つのティーカップと自身のお気に入りのマグカップに紅茶を注ぎ入れた。
「今日はミルクティー?」
 トゥーリがアキに訊いた。
「そう。ジャスミンとはちみつのロイヤルミルクティーだよ」
 アキは微笑んで答えた。
「こっちの大きなお皿のクッキーはアキお手製のシナモンジンジャークッキーだヌー! ヌーはこれが一番好きだヌー!」
 言いながらヌーッティはクッキーに手を伸ばした。
 だが、リュリュがぱしっとヌーッティの手を叩いた。
「乾杯がまだでしょう! もう、この食いしん坊は!」
 ヌーッティは照れ笑いをして誤魔化した。
「じゃあ、全員マグカップを持ったし、掃除おおつかれさま! 乾杯キッピス!」
「乾杯!」
 言いながら5人はマグカップをコツンと合わせた。
 穏やかな年の瀬の午後が過ぎていった。
 アキはひとくち紅茶をすすると、マグカップをデスクに置いた。
「そういえばさ……」
 手近にあった藍色のハードカバーの本を手に取ったアキは、本を開いて中から1枚の写真を取り出した。
「掃除中にこれ見つけたんだよ」
 アキはみんなに写真を見せた。
「なつかしいヌー!」
 真っ先に声を上げたのはヌーッティであった。
 写真には幼い男の子と白く長い髭と白髪の老男性が写っていた。
 けれど、よくよく目を凝らして見ると、すみっこにトゥーリとヌーッティも写っていた。
「これって、アキが5歳のときのだよね?」
 トゥーリがアキを見つめて尋ねた。
「そう。トゥーリとヌーッティがうちへやって来たときに撮った写真」
「アキ様のお隣の老人は、まさか……」
「ワイナミョイネンだよ」
 リュリュの言葉に続けて、アキが答えた。
「あの不滅の賢者は日本に行っていたのか」
 アレクシは長く細いヒゲを手でさすりながら言った。
「それでさ、今度はみんなで一緒に写真を撮らない?」
 アキは4人に提案した。
「撮るヌー!」
「いいよ! 撮ろう!」
 ヌーッティとトゥーリが真っ先に返答した。
「まあ、いいよ。かっこよく撮ってくれるなら」
 アレクシが首もとのマントのリボンをきれいに結び直しながら答えた。
「トゥーリ様の隣でしたら撮っていただいて構いませんわ」
 リュリュは言いながら真っ白な毛並みを手で整えていた。
「じゃあ、みんなベッドの上に行って。スマホ設置するから」
 トゥーリたち4人は、そわそわしながらベッドへ移動した。
 アキは、やや厚めの本を3冊横積みにすると、スマホスタンドをその上に置いた。
 それからスマホを持ち、カメラアプリを起動させて、スタンドに横向きで立てかけた。
 アキはタイマーをセットすると足早にベッドへ行き、腰掛けた。
 トゥーリとヌーッティはアキに抱きかかえられ、アレクシとリュリュはそれぞれアキの両肩にそれぞれ乗った。
 やがて、タイマーの音がしてシャッター音が聞こえてきた。
 アキは全員を連れてデスクへ戻り、写真が上手く撮れているか確認した。
 写真を見たアキは微笑ましそうに笑い声をもらした。
 抱きかかえられているトゥーリとヌーッティはぬいぐるみのフリをしているし、アレクシはしっぽだけを、リュリュは耳だけをアキの肩から出していた。
「ヌーがいつも以上に可愛く写ってるヌー!」
「トゥーリ様のほうが可愛いですわ」
「ぼくの立派なしっぽもちゃんと写ってるね」
「アレクシとリュリュはちゃんと写れてないじゃん」
 トゥーリたち4者はそれぞれに感想を言い合った。
「まあ、面白く撮れたかな」
 アキは言いながらラップトップパソコンを開いてスリープを解除すると、先ほど撮影した写真をパソコンに転送し、ハガキサイズでプリントした。
 それから、引き出しにしまっておいた木製のフォトフレームを取り出し、印刷した写真を入れてデスクに飾った。
 トゥーリとヌーッティ、アレクシとリュリュは好奇心溢れる笑顔で写真を眺めた。
「みんな」
 アキの呼び声で4人は振り向いてアキを見た。
「これからもよろしくな」
 嬉しそうな笑顔と弾んだアキの言葉に、4人は「こちらこそ」と答えた。
 こうして、トゥーリとヌーッティたちの新しい思い出が紡がれてゆくのであった。
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