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ヌーッティの秘密・前編
10.小さな火の精霊たち
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ヘルマンニとの戦いに注意を払っていたため、トゥーリとヌーッティは今の今まで、火の精霊エルノのことを忘れていた。
「うそつき火の精霊だヌー! どこに逃げてたヌー⁈ ひきょうだヌー!」
ヌーッティは立ち上がってエルノを指さすと、怒りを口にした。
エルノは申し訳なさそうな表情で頭を垂れた。
「エルノのせいでトゥーリが大変だったヌー! ヘルマンニに記憶を全部食べられちゃうところだったヌー!」
「ごめんよ、本当にごめんよ」
叱責されたエルノは、ただひたすら二人に謝った。
「謝っても許してあげないヌー! ヌーは怒ってるヌー!」
「ヌーッティ、落ち着いて」
地団駄を踏みながら鼻息荒く、まくし立てるようにエルノを非難したヌーッティの手を、トゥーリは握ると軽く引っ張った。
ヌーッティは隣に立ち並ぶトゥーリを見た。
「ヌーッティ。エルノを怒るのもうやめよう。エルノも子どもたちをヘルマンニに人質に取られてたんだし。もちろん、だかといって、エルノがしたことはいいことじゃないけど」
ヌーッティはトゥーリをじっと見つめ、それからエルノに視線を移した。
じぃっと、後ろめたさが浮かんでいるエルノの目を見据えた。それから、
「わかったヌー。でも、また同じことをトゥーリにしたら、絶対に許してあげないヌー!」
言い終えると同時に、顔をぷいっとエルノから逸らした。
エルノは二人に向かって、再び頭を下げた。
「本当に悪かった。お詫びになるかわからないけど、僕にできることを何かさせてよ」
そう提案されたトゥーリとヌーッティは互いの顔を見合わせた。
こくりと二人は頷くと、
「さっきのレンポは、私たちがここへ来ることをどうやって知ったの? 普段からこの森にいたの?」
「いや、いつもはいないよ。いきなり現れたんだ。あいつが来るちょっと前から森の精霊や妖精たちが騒いでてね。トントゥと小熊の妖精がやって来るって」
「それであのレンポは私たちのことを知ったってわけか」
トゥーリの言葉にエルノは首肯した。
それから、今までの経緯をトゥーリとヌーッティに話し始めた。
太陽が昇り始めた頃、エルノは6匹の子どもたちを連れて、森を散策していた。
すると、いきなり辺りが濃い霧に包まれた。
気づいたときには遅かった。
エルノが後ろを振り返ると、ついてきていた子ギツネたちの姿が消えていた。
子ギツネたちが濃霧ではぐれてしまったと思ったエルノはひと鳴きした。
子ギツネたちからの応答はなかった。
もうひと鳴きした。
子ギツネたちの声は上がらなかった。
そこへ、突如、緋色の目の魔物レンポが、音を立てることなく霧をかき分け、現れた。
魔物ヘルマンニはこのようにエルノに告げた——子どもらを食べられたくなければ、これからこの森に足を踏み入れる女のトントゥと小熊の妖精を、森の奥深くまで誘いこめ。そうしたら、子ギツネたちを返してやると。
魔物レンポの言葉を信じられなかったエルノは火を生み出し、ヘルマンニを撃退しようとした。
だが、エルノの攻撃はヘルマンニに届かなかった。
魔物はすでにその場から消えていたからであった。
「それで、僕は君たちを森の奥へ連れて行ったってわけさ。ごめん、本当にごめん」
エルノは何度もトゥーリとヌーッティに謝った。
悔しそうな表情で、苦しそうに何度も謝った。
ヘルマンニは自身の腹を指して言っていた。
子ギツネたちは腹の中だと。
トゥーリとヌーッティは何と言えばいいのかわからなかった。
ぽろぽろと涙をこぼし始めたエルノを見て、二人の胸も締めつけられた。
そのとき、茂み葉がこすれる音が聞こえてきた。
トゥーリとヌーッティは身構えた。
だが、草むらから現れたのは6匹の小さなキツネたちであった。
「お父さんをいじめないで!」
赤毛色の子ギツネたちはエルノの側に駆け寄った。
「どうして⁈ みんな無事だったのか⁈ 今までどこに⁈」
エルノは子ギツネたちそれぞれに頬ずりをしながら尋ねた。
「気づいたら霧が晴れたところにいたんだ」
1匹の子ギツネがエルノに答えた。
「みんな、レンポに食われたんじゃなかったのか⁈」
エルノは涙を流しながら子ギツネたちに訊いた。
「食べられてないよ。どこも怪我もしてないし。気づいたら森の茂みの中で寝てたんだ」
別の子ギツネが首を傾げて答えた。
「森の女主人ミエリッキが助けてくれたんだよね」
「ねー。ミエリッキがここまで案内してくれたんだよ」
「ところで、この二人は誰? 何でお父さんをいじめてるの?」
6匹の子ギツネたちの視線がトゥーリとヌーッティに集まった。
「この二人はおまえたちとお父さんを助けてくれたんだよ」
そう言うと、エルノは詳しい事情を子ギツネたちに話した。
話を聞き終えた子ギツネたちはそれぞれの顔を見やると、再びトゥーリとヌーッティに顔を向けた。
「ありがとう。でも、もうお父さんを怒ったりしないでね」
「ぼくたちも君たちのお手伝いをするから、許してあげて」
不安げな表情を湛える子ギツネたちを見てトゥーリは、
「大丈夫だよ。もう怒ってないから」
安心させるような口調で応えた。
「許してあげるヌー。だから、ヌーたちをパッラス・ユッラストゥントゥリまで案内して欲しいヌー」
エルノとその子どもたちはヌーッティの頼みごとを快諾した。
そうして、エルノとエルノの子どもたちを先頭に、トゥーリとヌーッティは歩き出した。
こうして、再び目的の地を目指すのであった。
「うそつき火の精霊だヌー! どこに逃げてたヌー⁈ ひきょうだヌー!」
ヌーッティは立ち上がってエルノを指さすと、怒りを口にした。
エルノは申し訳なさそうな表情で頭を垂れた。
「エルノのせいでトゥーリが大変だったヌー! ヘルマンニに記憶を全部食べられちゃうところだったヌー!」
「ごめんよ、本当にごめんよ」
叱責されたエルノは、ただひたすら二人に謝った。
「謝っても許してあげないヌー! ヌーは怒ってるヌー!」
「ヌーッティ、落ち着いて」
地団駄を踏みながら鼻息荒く、まくし立てるようにエルノを非難したヌーッティの手を、トゥーリは握ると軽く引っ張った。
ヌーッティは隣に立ち並ぶトゥーリを見た。
「ヌーッティ。エルノを怒るのもうやめよう。エルノも子どもたちをヘルマンニに人質に取られてたんだし。もちろん、だかといって、エルノがしたことはいいことじゃないけど」
ヌーッティはトゥーリをじっと見つめ、それからエルノに視線を移した。
じぃっと、後ろめたさが浮かんでいるエルノの目を見据えた。それから、
「わかったヌー。でも、また同じことをトゥーリにしたら、絶対に許してあげないヌー!」
言い終えると同時に、顔をぷいっとエルノから逸らした。
エルノは二人に向かって、再び頭を下げた。
「本当に悪かった。お詫びになるかわからないけど、僕にできることを何かさせてよ」
そう提案されたトゥーリとヌーッティは互いの顔を見合わせた。
こくりと二人は頷くと、
「さっきのレンポは、私たちがここへ来ることをどうやって知ったの? 普段からこの森にいたの?」
「いや、いつもはいないよ。いきなり現れたんだ。あいつが来るちょっと前から森の精霊や妖精たちが騒いでてね。トントゥと小熊の妖精がやって来るって」
「それであのレンポは私たちのことを知ったってわけか」
トゥーリの言葉にエルノは首肯した。
それから、今までの経緯をトゥーリとヌーッティに話し始めた。
太陽が昇り始めた頃、エルノは6匹の子どもたちを連れて、森を散策していた。
すると、いきなり辺りが濃い霧に包まれた。
気づいたときには遅かった。
エルノが後ろを振り返ると、ついてきていた子ギツネたちの姿が消えていた。
子ギツネたちが濃霧ではぐれてしまったと思ったエルノはひと鳴きした。
子ギツネたちからの応答はなかった。
もうひと鳴きした。
子ギツネたちの声は上がらなかった。
そこへ、突如、緋色の目の魔物レンポが、音を立てることなく霧をかき分け、現れた。
魔物ヘルマンニはこのようにエルノに告げた——子どもらを食べられたくなければ、これからこの森に足を踏み入れる女のトントゥと小熊の妖精を、森の奥深くまで誘いこめ。そうしたら、子ギツネたちを返してやると。
魔物レンポの言葉を信じられなかったエルノは火を生み出し、ヘルマンニを撃退しようとした。
だが、エルノの攻撃はヘルマンニに届かなかった。
魔物はすでにその場から消えていたからであった。
「それで、僕は君たちを森の奥へ連れて行ったってわけさ。ごめん、本当にごめん」
エルノは何度もトゥーリとヌーッティに謝った。
悔しそうな表情で、苦しそうに何度も謝った。
ヘルマンニは自身の腹を指して言っていた。
子ギツネたちは腹の中だと。
トゥーリとヌーッティは何と言えばいいのかわからなかった。
ぽろぽろと涙をこぼし始めたエルノを見て、二人の胸も締めつけられた。
そのとき、茂み葉がこすれる音が聞こえてきた。
トゥーリとヌーッティは身構えた。
だが、草むらから現れたのは6匹の小さなキツネたちであった。
「お父さんをいじめないで!」
赤毛色の子ギツネたちはエルノの側に駆け寄った。
「どうして⁈ みんな無事だったのか⁈ 今までどこに⁈」
エルノは子ギツネたちそれぞれに頬ずりをしながら尋ねた。
「気づいたら霧が晴れたところにいたんだ」
1匹の子ギツネがエルノに答えた。
「みんな、レンポに食われたんじゃなかったのか⁈」
エルノは涙を流しながら子ギツネたちに訊いた。
「食べられてないよ。どこも怪我もしてないし。気づいたら森の茂みの中で寝てたんだ」
別の子ギツネが首を傾げて答えた。
「森の女主人ミエリッキが助けてくれたんだよね」
「ねー。ミエリッキがここまで案内してくれたんだよ」
「ところで、この二人は誰? 何でお父さんをいじめてるの?」
6匹の子ギツネたちの視線がトゥーリとヌーッティに集まった。
「この二人はおまえたちとお父さんを助けてくれたんだよ」
そう言うと、エルノは詳しい事情を子ギツネたちに話した。
話を聞き終えた子ギツネたちはそれぞれの顔を見やると、再びトゥーリとヌーッティに顔を向けた。
「ありがとう。でも、もうお父さんを怒ったりしないでね」
「ぼくたちも君たちのお手伝いをするから、許してあげて」
不安げな表情を湛える子ギツネたちを見てトゥーリは、
「大丈夫だよ。もう怒ってないから」
安心させるような口調で応えた。
「許してあげるヌー。だから、ヌーたちをパッラス・ユッラストゥントゥリまで案内して欲しいヌー」
エルノとその子どもたちはヌーッティの頼みごとを快諾した。
そうして、エルノとエルノの子どもたちを先頭に、トゥーリとヌーッティは歩き出した。
こうして、再び目的の地を目指すのであった。
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