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ヌーッティの秘密・前編
4.静かな森に潜むもの
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ほっそりとした木々の間を通り抜け、丈の短い茂みを避けながら、緩やかな傾斜が続く森の中を、トゥーリとヌーッティは歩いた。
知り合ったばかりの赤ギツネの姿をした火の精霊エルノの先導で、2人は森の奥深くへ歩みを進めていった。
「まだ着かないヌー?」
ヌーッティがエルノに尋ねると、
「もう少しだよ」
エルノは後ろを振り向かずに答えた。
「エルノは呪われた小熊の妖精のことをどう思ってるヌー?」
先ほどよりも密やかな声量でヌーッティは訊いた。
「どうもこうも、僕にはまったく関係のないことだったんだ」
返答したエルノの口調は少し鋭さを帯びていた。
「関係ないって……森に住むエルノにとっては重要なことじゃないの?」
エルノの言葉に引っかかりを感じたトゥーリが尋ねた。
返事はすぐに返ってこなかった。
落ち葉を足で踏んだときの乾いた音が響くだけであった。
しばらく間があり、
「重要さ。けど、僕には本当に関係のないことだったんだよ」
苛立ち混じりにエルノは答えると、重いため息をついた。それから、歩く足を止めた。
トゥーリとヌーッティも立ち止まると、辺りを見渡した。
「ここが目的の場所ヌー?」
きょろきょろと見回しながらヌーッティが、歩みを止めたエルノに尋ねた。
けれども、エルノからの返答はなかった。
仄暗い森の中は不気味なほどの静寂に満ちていた。
それは、まるで、森に住む動植物たちが不安に怯えて息を潜めているかのようであった。
「エルノ。本当にここがパッラス・ユッラストントゥリなの?」
周囲に警戒を払いつつ、トゥーリは背を向けているエルノに、険しい口調で尋ねた。
そのとき、冷気を帯びた風が吹き、木々の枝を大きく揺らした。
エルノがゆっくりと後ろを振り返り、トゥーリとヌーッティを見た。
「悪いね、お二人さん」
そう言ったエルノの顔は青白く、酷い焦燥と恐怖の色が表れていた。
大きく息を吸ったエルノはひと鳴きすると、
「さあ、約束通り小熊の妖精を連れてきたぞ!」
森中に響き渡るくらいの大きな声で叫んだ。
突如、森の闇深い奥から冷たくて白いもやが流れ込んできた。
「どういうこと⁈」
臨戦態勢のトゥーリがエルノに訊いた。
けれども、エルノは答えなかった。
白いもやは、あっという間にトゥーリとヌーッティを取り囲み、二人の退路を断った。
「罠にはめたの⁈ エルノ! 答えて!」
トゥーリは無言を貫くエルノに問いただした。
「そう、罠さ」
返事はエルノからではなかった。
目の前の、より濃い白いもやの中から返ってきたのであった。
ゆらりと、トゥーリとヌーッティの真正面のもやが揺らいだ。
もやの揺らぎの奥から、大きな二本の猛る火の角が見えた。
「よくやった、火の精霊よ」
火の大角を生やした、オオジカに似た頭部が口を動かしながら出てきた。
緋色の目が二つに、角の間にエルクのような耳が二つ。
四足歩行の体に黒い毛皮をまとわせた巨体のそのものの気配は、明らかに生物ではなかった。
圧倒的な威圧感にトゥーリとヌーッティは気圧され、思わず後退りそうになった。
「だ、誰だヌー⁈」
黒いオオジカの口が再び開いた。
「失礼な小熊の妖精だ。名を訊くのであれば、最初に名乗るのが礼儀だろう?」
からかうような口調で、ヌーッティに問い返した。
びくりと肩を振るわせたヌーッティは、
「ヌ、ヌーッティだヌー!」
語気強く名乗った。
オオジカの頭をした何かは、緋色の目でヌーッティをなめるように上から下まで見た。
「ふむ、小熊の妖精くん、君の名前はヌーッティというのだね。私はヘルマンニ。そうだなぁ、君たちにはレンポと名乗ったほうがわかりやすいかもしれないね」
それを聞いてトゥーリの顔が強ばった。
ヘルマンニは口角を上げて、うっすらと笑みを浮かべた。
「さぁて、ひさびさに美味い食事にありつけたようだ」
嬉々とした口調で独り言ちたヘルマンニの言葉は、痛いほど静まる森に残響したのであった。
知り合ったばかりの赤ギツネの姿をした火の精霊エルノの先導で、2人は森の奥深くへ歩みを進めていった。
「まだ着かないヌー?」
ヌーッティがエルノに尋ねると、
「もう少しだよ」
エルノは後ろを振り向かずに答えた。
「エルノは呪われた小熊の妖精のことをどう思ってるヌー?」
先ほどよりも密やかな声量でヌーッティは訊いた。
「どうもこうも、僕にはまったく関係のないことだったんだ」
返答したエルノの口調は少し鋭さを帯びていた。
「関係ないって……森に住むエルノにとっては重要なことじゃないの?」
エルノの言葉に引っかかりを感じたトゥーリが尋ねた。
返事はすぐに返ってこなかった。
落ち葉を足で踏んだときの乾いた音が響くだけであった。
しばらく間があり、
「重要さ。けど、僕には本当に関係のないことだったんだよ」
苛立ち混じりにエルノは答えると、重いため息をついた。それから、歩く足を止めた。
トゥーリとヌーッティも立ち止まると、辺りを見渡した。
「ここが目的の場所ヌー?」
きょろきょろと見回しながらヌーッティが、歩みを止めたエルノに尋ねた。
けれども、エルノからの返答はなかった。
仄暗い森の中は不気味なほどの静寂に満ちていた。
それは、まるで、森に住む動植物たちが不安に怯えて息を潜めているかのようであった。
「エルノ。本当にここがパッラス・ユッラストントゥリなの?」
周囲に警戒を払いつつ、トゥーリは背を向けているエルノに、険しい口調で尋ねた。
そのとき、冷気を帯びた風が吹き、木々の枝を大きく揺らした。
エルノがゆっくりと後ろを振り返り、トゥーリとヌーッティを見た。
「悪いね、お二人さん」
そう言ったエルノの顔は青白く、酷い焦燥と恐怖の色が表れていた。
大きく息を吸ったエルノはひと鳴きすると、
「さあ、約束通り小熊の妖精を連れてきたぞ!」
森中に響き渡るくらいの大きな声で叫んだ。
突如、森の闇深い奥から冷たくて白いもやが流れ込んできた。
「どういうこと⁈」
臨戦態勢のトゥーリがエルノに訊いた。
けれども、エルノは答えなかった。
白いもやは、あっという間にトゥーリとヌーッティを取り囲み、二人の退路を断った。
「罠にはめたの⁈ エルノ! 答えて!」
トゥーリは無言を貫くエルノに問いただした。
「そう、罠さ」
返事はエルノからではなかった。
目の前の、より濃い白いもやの中から返ってきたのであった。
ゆらりと、トゥーリとヌーッティの真正面のもやが揺らいだ。
もやの揺らぎの奥から、大きな二本の猛る火の角が見えた。
「よくやった、火の精霊よ」
火の大角を生やした、オオジカに似た頭部が口を動かしながら出てきた。
緋色の目が二つに、角の間にエルクのような耳が二つ。
四足歩行の体に黒い毛皮をまとわせた巨体のそのものの気配は、明らかに生物ではなかった。
圧倒的な威圧感にトゥーリとヌーッティは気圧され、思わず後退りそうになった。
「だ、誰だヌー⁈」
黒いオオジカの口が再び開いた。
「失礼な小熊の妖精だ。名を訊くのであれば、最初に名乗るのが礼儀だろう?」
からかうような口調で、ヌーッティに問い返した。
びくりと肩を振るわせたヌーッティは、
「ヌ、ヌーッティだヌー!」
語気強く名乗った。
オオジカの頭をした何かは、緋色の目でヌーッティをなめるように上から下まで見た。
「ふむ、小熊の妖精くん、君の名前はヌーッティというのだね。私はヘルマンニ。そうだなぁ、君たちにはレンポと名乗ったほうがわかりやすいかもしれないね」
それを聞いてトゥーリの顔が強ばった。
ヘルマンニは口角を上げて、うっすらと笑みを浮かべた。
「さぁて、ひさびさに美味い食事にありつけたようだ」
嬉々とした口調で独り言ちたヘルマンニの言葉は、痛いほど静まる森に残響したのであった。
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