72 / 159
お月見大騒動
5.出会い
しおりを挟む
アキの自宅から最寄りのトラム停留所まで徒歩で行くと、緑色の車体のトラムがちょうど来ていた。
アキと、その隣に並んで歩く人間に扮したオッツォは、やや駆け足気味にトラムに乗り込んだ。
発車した3両編成のトラムは大通りをまっすぐ南へ下っていく。
座席に座っているオッツォは窓越しに外の風景を眺めている。
音楽劇場を通過すると、道路は混み始め、人の姿も比例するように多くなった。
中心部にあるデパートに差しかかるタイミングで、アキは停車のボタンを押した。
やがてトラムがデパート横の停留所に停まる。
アキはオッツォの手を取って、トラムから降りた。
それから、信号が青になるのを待って、アキたちは道路を横断して、脇道へ入る。
少し歩くと左右に公園が見えてきた。
アキとオッツォが右側の公園へ入ると、ワイナミョイネンとアイノと、2人に挟まれているエリアス・リョンロットの銅像があった。
「着いた」
アキは独り言ちると、周囲を見回し、
「トゥーリ、ヌーッティ。もう出てきても大丈夫だよ」
フードの中にいる2人に声をかけた。
アキの言葉を待っていたトゥーリとヌーッティがひょこっと顔を出す。
きょろきょろ辺りを見ると、フードから出て、アキの肩の上に立った。
「オッツォ。キルシの気配の跡は残ってる?」
トゥーリがオッツォに尋ねた。
オッツォはコートの襟を手で少し下げると、鼻をひくひくさせて匂いを嗅ぐような仕草をした。
「うーん。もう残ってないみたいだ。最初から探さないとだめっぽいね」
残念そうに言い終えて、オッツォは、再び鼻を襟で覆った。
もんもんと悩むオッツォとトゥーリとアキをよそに、ヌーッティがオッツォの真似をするかのように、鼻をひくひく動かした。
「あっちだヌー!」
言い終えるが早いか、ヌーッティはアキの肩から跳躍し、大地に降り立った。
そして、周りの目など気にすることなく駆け出した。
「ヌーッティ⁈」
気づいたトゥーリとアキの声が重なった。
ヌーッティはすでに公園を出ていた。
「アキ! 追いかけて! ヌーッティも迷子になっちゃう!」
トゥーリの言葉が終わらぬうちにアキも駆け出した。
やや遅れて、オッツォもヌーッティとアキの後を追った。
飛び出すように走り出したヌーッティは風を切り、多くの人が行き交う道を全力で駆けていた。
「匂う匂う匂うヌー! こっちから匂いがするヌー! 甘くて美味しいものの匂いがすつヌー!」
ヌーッティの口からよだれが少し垂れた。
オールドチャーチの公園を左側に見つつ、ヌーッティは走った。
ヌーッティの目の前にブレヴァルディ大通りが見え、右折しようとしたときであった。
右手側の建物の陰から小さい何かが現れ、ヌーッティはどんっとぶつかった。
「痛いヌー! なんだヌー⁈」
尻もちをついたヌーッティは軽く目を回した。
頭を振ったヌーッティが、目の前に現れた何かを視界に捉えた。
そこには、うす桃色の毛並みの、ヌーッティと同じ大きさの小熊の女の子がいた。
「いったぁ……。何なの、もう」
小熊の女の子は額に手を当てて、頭を振っていた。
そこへ、アキとトゥーリとオッツォが、やや遅れてヌーッティのもとに着いた。
ヌーッティの前に座り込んでいる小熊の女の子を見たオッツォが目を見開き、
「キルシ!」
探していた小熊の精霊の女の子の名を呼んだ。
ヌーッティとトゥーリとアキの視線がキルシと呼ばれた小熊の女の子に向けられた。
ヌーッティの瞳にキルシが映った。
運命の歯車は回り始めたのであった。
アキと、その隣に並んで歩く人間に扮したオッツォは、やや駆け足気味にトラムに乗り込んだ。
発車した3両編成のトラムは大通りをまっすぐ南へ下っていく。
座席に座っているオッツォは窓越しに外の風景を眺めている。
音楽劇場を通過すると、道路は混み始め、人の姿も比例するように多くなった。
中心部にあるデパートに差しかかるタイミングで、アキは停車のボタンを押した。
やがてトラムがデパート横の停留所に停まる。
アキはオッツォの手を取って、トラムから降りた。
それから、信号が青になるのを待って、アキたちは道路を横断して、脇道へ入る。
少し歩くと左右に公園が見えてきた。
アキとオッツォが右側の公園へ入ると、ワイナミョイネンとアイノと、2人に挟まれているエリアス・リョンロットの銅像があった。
「着いた」
アキは独り言ちると、周囲を見回し、
「トゥーリ、ヌーッティ。もう出てきても大丈夫だよ」
フードの中にいる2人に声をかけた。
アキの言葉を待っていたトゥーリとヌーッティがひょこっと顔を出す。
きょろきょろ辺りを見ると、フードから出て、アキの肩の上に立った。
「オッツォ。キルシの気配の跡は残ってる?」
トゥーリがオッツォに尋ねた。
オッツォはコートの襟を手で少し下げると、鼻をひくひくさせて匂いを嗅ぐような仕草をした。
「うーん。もう残ってないみたいだ。最初から探さないとだめっぽいね」
残念そうに言い終えて、オッツォは、再び鼻を襟で覆った。
もんもんと悩むオッツォとトゥーリとアキをよそに、ヌーッティがオッツォの真似をするかのように、鼻をひくひく動かした。
「あっちだヌー!」
言い終えるが早いか、ヌーッティはアキの肩から跳躍し、大地に降り立った。
そして、周りの目など気にすることなく駆け出した。
「ヌーッティ⁈」
気づいたトゥーリとアキの声が重なった。
ヌーッティはすでに公園を出ていた。
「アキ! 追いかけて! ヌーッティも迷子になっちゃう!」
トゥーリの言葉が終わらぬうちにアキも駆け出した。
やや遅れて、オッツォもヌーッティとアキの後を追った。
飛び出すように走り出したヌーッティは風を切り、多くの人が行き交う道を全力で駆けていた。
「匂う匂う匂うヌー! こっちから匂いがするヌー! 甘くて美味しいものの匂いがすつヌー!」
ヌーッティの口からよだれが少し垂れた。
オールドチャーチの公園を左側に見つつ、ヌーッティは走った。
ヌーッティの目の前にブレヴァルディ大通りが見え、右折しようとしたときであった。
右手側の建物の陰から小さい何かが現れ、ヌーッティはどんっとぶつかった。
「痛いヌー! なんだヌー⁈」
尻もちをついたヌーッティは軽く目を回した。
頭を振ったヌーッティが、目の前に現れた何かを視界に捉えた。
そこには、うす桃色の毛並みの、ヌーッティと同じ大きさの小熊の女の子がいた。
「いったぁ……。何なの、もう」
小熊の女の子は額に手を当てて、頭を振っていた。
そこへ、アキとトゥーリとオッツォが、やや遅れてヌーッティのもとに着いた。
ヌーッティの前に座り込んでいる小熊の女の子を見たオッツォが目を見開き、
「キルシ!」
探していた小熊の精霊の女の子の名を呼んだ。
ヌーッティとトゥーリとアキの視線がキルシと呼ばれた小熊の女の子に向けられた。
ヌーッティの瞳にキルシが映った。
運命の歯車は回り始めたのであった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
知ったかぶりのヤマネコと森の落としもの
あしたてレナ
児童書・童話
ある日、森で見つけた落としもの。
動物たちはそれがだれの落としものなのか話し合います。
さまざまな意見が出ましたが、きっとそれはお星さまの落としもの。
知ったかぶりのヤマネコとこわがりのネズミ、食いしんぼうのイノシシが、困難に立ち向かいながら星の元へと落としものをとどける旅に出ます。
全9話。
※初めての児童文学となりますゆえ、温かく見守っていただけましたら幸いです。
昨日の敵は今日のパパ!
波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。
画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。
迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。
親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。
私、そんなの困ります!!
アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。
家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。
そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない!
アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか?
どうせなら楽しく過ごしたい!
そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。
魔法のステッキ
ことは
児童書・童話
小学校5年生の中川美咲が今、夢中になっているもの。それはバトントワリングだ。
父親の転勤により、東京のバトン教室をやめなければならなくなった美咲。だが、転校先の小学校には、放課後のバトンクラブがあるという。
期待に胸を膨らませていた美咲だが、たった三人しかいないバトンクラブはつぶれる寸前。バトンの演技も、美咲が求めているようなレベルの高いものではなかった。
美咲は、バトンクラブのメンバーからの勧誘を断ろうとした。しかし、クラブのみんなから、バトンクラブの先生になってほしいとお願いされ……。
【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。
https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl
おねしょゆうれい
ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。
※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐︎登録して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
月神山の不気味な洋館
ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?!
満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。
話は昼間にさかのぼる。
両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。
その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる