トゥーリとヌーッティ<短編集>

御米恵子

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トゥーリとヌーッティの夏休み

1.始まりのウトランサーリ

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 フィンランド東部にある都市ヨエンスー。
 その中心街から自転車で30分ほど北東部へ上ったところに小さな小島ウトランサーリがある。
 右手側にピエリス川を眺めながら、東へと向かう自転車が一台ウトラ通りを走っている。
「見えてきたよ」
 アキは自転車の前かごに入っているトゥーリとヌーッティへ呼びかけた。
 トゥーリとヌーッティはかごから身を乗り出し、太陽の光で水面がきらめく川を見ていた。
「きらきら光ってるヌー! 早く遊びたいヌー!」
 目を輝かせているヌーッティが楽しそうにお尻を振った。
「アキ! アキ! もう着く⁈」
 いつもは冷静なトゥーリも気持ちが高まっているのか、興奮気味にアキへ尋ねた。
 アキは少しずつブレーキをかけて、木製の看板の前で止まる。
「さ、着いたよ」
 自転車から降りたアキの肩へトゥーリ一跳躍で飛び乗り、ヌーッティはアキの腕を駆け上った。
 アキは手近な木の幹に自転車を立てかけると、鍵を掛けた。
 それから、かごの中に入れておいた少し大きめのリュックを背負うと、
「行こうか」
 トゥーリとヌーッティに声をかけた。
「行くヌー! 焼きマシュマロが食べたいヌー!」
「それはデザートでしょ! ごはんが先!」
 アキは木製の簡素な造りの橋を2つ渡り、ウトランサーリに到着した。
 そして、ピエリス川を左に見ながら、白樺が生い茂る林の中を歩き出した。
 学校が夏期休暇中の7月。
 アキはトゥーリとヌーッティを連れて、ヨエンスーを訪れていた。
 度々、ヨエンスーを訪れているアキはウトランサーリにも1度来たことがあった。
 そのときは、迷子になったヌーッティが、ポントゥスと名乗る小さな熊とけんかをしていた。
「そういえば、あのポントゥスって小熊も精霊か妖精だったのかな?」
 アキは左肩に乗っているヌーッティに尋ねた。
「知らないヌー! ヌーのおやつを横取りするやつは熊でも精霊でも妖精でもない、ただの熊だヌー!」
「熊でもない、ただの熊ってなに?」
 トゥーリがヌーッティに突っ込んだ。
「だから、ただの熊だヌー! でも熊じゃないヌー!」
 二人の噛み合わないやり取りを聞いていたアキは吹き出すように笑った。
 しばらく林の中を歩くと、ウトランサーリの西の端へ着いた。
 川に面した場所に三角錐を半分にしたような小屋があった。
 小屋というよりは、木製のテントを半分に切った感じの休憩所、といったほうが的確かも知れない。
 四角く切られた木がこの字を描くように置かれ、それが椅子の代わりでもあった。
 木に囲われた中央に小さなドラム缶があった。その中には薪が入っていた。
「ここが目的の場所なの?」
 右肩に乗っているトゥーリがアキに尋ねた。
「そうだよ」
 アキはリュックを下ろしながら答えた。
「バーベキューだヌー!」
 トゥーリとヌーッティとアキの3人はここでバーベーキューをするべく、ウトランサーリへ来たのであった。
 ヌーッティはアキの肩から飛び降りると、木のベンチの上へ着地する。
 トゥーリも跳躍して、ベンチに飛び移った。
「ヌーの荷物はどこだヌー?」
 ヌーッティがアキのリュックにの中に頭を突っ込んだ。
「今、出すから、ちょっと待ってて」
 アキは言いながらヌーッティの首根っこをひょいっと掴むと、ヌーッティの体を持ち上げて、リュックの隣に腰掛けさせた。
 アキはリュックの中から食材を出すと、その下に埋もれていたヌーッティの荷物を引っ張り出して、ヌーッティへ渡した。
「泳いできていいヌー?」
 ヌーッティは荷物を受け取ると、アキへ尋ねた。
「みんなでごはん食べた後ならいいよ」
「やったヌー!」
 ヌーッティは両手を挙げて嬉しそうな声を上げた。
「ねえ、ヌーッティ。そのバッグ中、何が入ってるの?」
 トゥーリがヌーッティへ尋ねた。
「見たいヌー?」
 ちらちらと、トゥーリとアキを見ながらヌーッティは尋ね返した。
 こういうとき、たいてい、ヌーッティは見せたがっているだけなので、
「じゃあ、見たい」
 いつも通り、トゥーリはそう返答した。
 ヌーッティはバッグを開けると中から、海パンを取り出した。
 ピンクと白のストライプの柄で、ヌーッティが履けるサイズであった。
「アキ。あれ、作ったの?」
 トゥーリは、海パンを持って、嬉しそうにはしゃぎ小躍りしているヌーッティを、あきれた目で見ながらアキに訊いた。
「えーっと……うん。作った。面白そうだったから、つい」
 苦笑混じりに答えたアキを、目を細めたトゥーリが見つめる。
「そ、それじゃあ、バーベキューの準備でもしよっか!」
 アキは木を取り直すべく、話題を本題のバーベキューに変えた。
 こうして、これから3人の夏の宴が始まるのであった。
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