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ヌーッティの7日間ダイエット
4.秘密のダイエット
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ヌーッティの手がポテトチップスに伸びる。
「待った!」
アキが制止させようと呼び止めた。
だが、ヌーッティの耳にアキの声は届かなかった。
「ふんヌー!」
ヌーッティがよだれを垂らしながら、ポテトチップスの入った大袋を両手で開けた。
「だめー! それ、500グラム!」
トゥーリがヌーッティのもとへ駆け出した。
がさがさがさっと大きな音を立てて、ヌーッティはポテトチップスをむさぼり食った。
見かねたアキが袋に手を突っ込んで、中にいるヌーッティを引っ張り出そうとする。
背後に迫るアキの手を気配で察知したヌーッティは、くるっと振り向いて、がぶっとアキの手に食らいついた。
「いてっ!」
アキは思わず声を上げた。
袋からさっと手を出すと、アキの手にヌーッティがぶら下がっていた。
「正気じゃない⁈」
トゥーリは驚いた。見れば、ヌーッティの目が完全に据わっていた。
「食べ物のことで頭がいっぱいになって、いつも以上になんにも考えられなくなってるんだ!」
「ど、どういうこと⁈」
アキはヌーッティを噛みつかれている手から離そうと、空いているほうの手でヌーッティの胴体を引っ掴む。そして、
「ヌーッティ! 落ち着け! 正気に戻れ!」
ぎゅーっと引っ張った。けれども、食らいついたヌーッティはびくともしない。
そのとき、ヌーッティの鼻がぴくぴくと動いた。
「ヌーっ!」
咆哮を上げたヌーッティがアキの手から離れる。
宙を飛び、颯爽と4足で床に降り立つ。
ヌーッティの目が光った。
同時にヌーッティが走り出した。
「ヌーッティ⁈」
アキがヌーッティを捕らえようとした。
だが、伸ばしたアキの手は虚しく空を切っただけであった。
「ヌーッティ、どこへ⁈」
ぼやくように言ったアキの肩に、ひらりとトゥーリが乗った。
「アキ、急いで! キッチンの食べ物が全部なくなっちゃう!」
「はあっ⁈ 全部って、ヌーッティがひとりで食べられるわけ……いや、待て待て待て!」
アキは嫌な予感を抱いた。
瞬間、アキの足は動き出していた。
廊下を走り、階段を降りる。
すると、キッチンから物が落下するやかましい音が、アキとトゥーリの耳に入ってきた。
「ヌーッティ! いい加減に……」
アキは言葉を切ったーー否、切らざるをえなかった。
棚はすべて開けられ、中から食べ物が外へ放り出されていた。キャビネットの引き出しも開けっぱなし状態で、物色されたかのように、入っていたものが床に散乱していた。
この空き巣に入られたような、荒れ散らかされたキッチンの成れの果てを見て、絶句しない者はいない。それは、アキも例外ではなかった。ただ一人、トゥーリを除いて。
「ふヌー!」
キッチンの中央の大きなワゴンの上にヌーッティは座って、手当たり次第に食べている。
ヌーッティは豪華な見た目の木箱に入ったチョコレートを片手でとると、口の中にチョコレートを放り込んだ。それから、5、6回ほど噛むと、ごくんと喉の奥に流し入れた。
「げっぷぅ」
ヌーッティは幸せそうな顔をした。
そのとき、ヌーッティの背後に殺気が生まれた。
同時に、ヌーッティの体が、後ろから伸びる2本の細やかな腕によって持ち上げられた。
ヌーッティを抱えたのは、ブチ切れモードのトゥーリであった。
トゥーリはヌーッティを抱きかかえたまま身体を逸らし、
「正気に戻れ!」
ヌーッティの頭を思いっきり台に叩きつけた。
断末魔すら上げることなくヌーッティはその場にダウンし、トゥーリは右手を上にあげた。
数時間後、キッチンのワゴン台の上で意識を取り戻したヌーッティを待っていたものは……
「1ヶ月おやつなしはいやだヌー!」
アキからの無慈悲な宣告であった。
泣きすがるヌーッティに対して、アキはもうひとつ、
「キッチンは1人で片付けること。制限時間は4時間以内。ばーちゃんが仕事から戻って来るまでに終えること。できなかったら、1分過ぎるごとにおやつマイナス1食だからな」
ヌーッティは聞くや否やトゥーリに泣きついた。
「トゥーリ! 手伝って欲しいヌー!」
トゥーリは首を横に振り、
「私も今回は仕方ないって思っちゃう。ごめんね」
ヌーッティの背中をぽんと押した。
崖っぷちに立たされたヌーッティは腹を括った。
「やってやるヌー! おそうじ大好きだヌー!」
やけっぱちのヌーッティは、荒れ果てたキッチンへ、1人勇んで進撃した。
アキとトゥーリは、泣きながら掃除をするヌーッティを見守っていた。
こうして、ヌーッティのダイエットは7日と持たずに終わったのであった。
ーーが、しかし。
「ねえ、アキ。1ヶ月のおやつ抜きが本当はダイエットだっていうのは内緒?」
トゥーリは声を潜めてアキへ耳打ちした。
アキは人さし指を立てると、そっと口に当て、
「内緒。こうすれば、ヌーッティがキレることなくダイエットできるだろ?」
そう静かに言うと、視線をトゥーリから忙しなく動き回っているヌーッティへ移した。
ヌーッティの本当のダイエットはこれから始まるのであった。
「待った!」
アキが制止させようと呼び止めた。
だが、ヌーッティの耳にアキの声は届かなかった。
「ふんヌー!」
ヌーッティがよだれを垂らしながら、ポテトチップスの入った大袋を両手で開けた。
「だめー! それ、500グラム!」
トゥーリがヌーッティのもとへ駆け出した。
がさがさがさっと大きな音を立てて、ヌーッティはポテトチップスをむさぼり食った。
見かねたアキが袋に手を突っ込んで、中にいるヌーッティを引っ張り出そうとする。
背後に迫るアキの手を気配で察知したヌーッティは、くるっと振り向いて、がぶっとアキの手に食らいついた。
「いてっ!」
アキは思わず声を上げた。
袋からさっと手を出すと、アキの手にヌーッティがぶら下がっていた。
「正気じゃない⁈」
トゥーリは驚いた。見れば、ヌーッティの目が完全に据わっていた。
「食べ物のことで頭がいっぱいになって、いつも以上になんにも考えられなくなってるんだ!」
「ど、どういうこと⁈」
アキはヌーッティを噛みつかれている手から離そうと、空いているほうの手でヌーッティの胴体を引っ掴む。そして、
「ヌーッティ! 落ち着け! 正気に戻れ!」
ぎゅーっと引っ張った。けれども、食らいついたヌーッティはびくともしない。
そのとき、ヌーッティの鼻がぴくぴくと動いた。
「ヌーっ!」
咆哮を上げたヌーッティがアキの手から離れる。
宙を飛び、颯爽と4足で床に降り立つ。
ヌーッティの目が光った。
同時にヌーッティが走り出した。
「ヌーッティ⁈」
アキがヌーッティを捕らえようとした。
だが、伸ばしたアキの手は虚しく空を切っただけであった。
「ヌーッティ、どこへ⁈」
ぼやくように言ったアキの肩に、ひらりとトゥーリが乗った。
「アキ、急いで! キッチンの食べ物が全部なくなっちゃう!」
「はあっ⁈ 全部って、ヌーッティがひとりで食べられるわけ……いや、待て待て待て!」
アキは嫌な予感を抱いた。
瞬間、アキの足は動き出していた。
廊下を走り、階段を降りる。
すると、キッチンから物が落下するやかましい音が、アキとトゥーリの耳に入ってきた。
「ヌーッティ! いい加減に……」
アキは言葉を切ったーー否、切らざるをえなかった。
棚はすべて開けられ、中から食べ物が外へ放り出されていた。キャビネットの引き出しも開けっぱなし状態で、物色されたかのように、入っていたものが床に散乱していた。
この空き巣に入られたような、荒れ散らかされたキッチンの成れの果てを見て、絶句しない者はいない。それは、アキも例外ではなかった。ただ一人、トゥーリを除いて。
「ふヌー!」
キッチンの中央の大きなワゴンの上にヌーッティは座って、手当たり次第に食べている。
ヌーッティは豪華な見た目の木箱に入ったチョコレートを片手でとると、口の中にチョコレートを放り込んだ。それから、5、6回ほど噛むと、ごくんと喉の奥に流し入れた。
「げっぷぅ」
ヌーッティは幸せそうな顔をした。
そのとき、ヌーッティの背後に殺気が生まれた。
同時に、ヌーッティの体が、後ろから伸びる2本の細やかな腕によって持ち上げられた。
ヌーッティを抱えたのは、ブチ切れモードのトゥーリであった。
トゥーリはヌーッティを抱きかかえたまま身体を逸らし、
「正気に戻れ!」
ヌーッティの頭を思いっきり台に叩きつけた。
断末魔すら上げることなくヌーッティはその場にダウンし、トゥーリは右手を上にあげた。
数時間後、キッチンのワゴン台の上で意識を取り戻したヌーッティを待っていたものは……
「1ヶ月おやつなしはいやだヌー!」
アキからの無慈悲な宣告であった。
泣きすがるヌーッティに対して、アキはもうひとつ、
「キッチンは1人で片付けること。制限時間は4時間以内。ばーちゃんが仕事から戻って来るまでに終えること。できなかったら、1分過ぎるごとにおやつマイナス1食だからな」
ヌーッティは聞くや否やトゥーリに泣きついた。
「トゥーリ! 手伝って欲しいヌー!」
トゥーリは首を横に振り、
「私も今回は仕方ないって思っちゃう。ごめんね」
ヌーッティの背中をぽんと押した。
崖っぷちに立たされたヌーッティは腹を括った。
「やってやるヌー! おそうじ大好きだヌー!」
やけっぱちのヌーッティは、荒れ果てたキッチンへ、1人勇んで進撃した。
アキとトゥーリは、泣きながら掃除をするヌーッティを見守っていた。
こうして、ヌーッティのダイエットは7日と持たずに終わったのであった。
ーーが、しかし。
「ねえ、アキ。1ヶ月のおやつ抜きが本当はダイエットだっていうのは内緒?」
トゥーリは声を潜めてアキへ耳打ちした。
アキは人さし指を立てると、そっと口に当て、
「内緒。こうすれば、ヌーッティがキレることなくダイエットできるだろ?」
そう静かに言うと、視線をトゥーリから忙しなく動き回っているヌーッティへ移した。
ヌーッティの本当のダイエットはこれから始まるのであった。
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