トゥーリとヌーッティ<短編集>

御米恵子

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ヌーッティの7日間ダイエット

3.トゥーリズ・ブート・キャンプ

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 トゥーリは、まず、ヌーッティの全身を裁縫用のメジャーで測定した。
 それから、忘れないうちに勉強机に置かれていていたメモ紙に青のペンで、測ったヌーッティの体長とお腹まわりとヒップのサイズを書き出した。
「どうヌー? ヌーの肉体美は?」
 上腕を隆盛させるポーズをとりながらヌーッティは尋ねた。
「聞きたい?」
 トゥーリはちらっとヌーッティを見た。
 ヌーッティは頷いた。
「体長33センチ、お腹30センチ、おしり29センチ」
「うそだヌー!」
 ヌーッティは顔を真っ赤にして否定した。
「事実だよ。受け止めて。ポテトチップス250グラムをひとりで食べたんだよ? このくらいになるよ」
 淡々とトゥーリに言われてヌーッティは言葉を失い、さらに、ヌーッティの顔が赤から紫へ、そして青色、白へと変化した。
 トゥーリは腕を胸の前で組んでうなる。
「そうだなぁ。体長は変えられないとして、お腹は23センチで、お尻は22センチにしたいよね」
 そう言うと、トゥーリは先ほど書いた数値の横に、今度は赤のペンで目立つように大きく書いた。
「よし! じゃあ、始めるよ!」
 トゥーリは手をぱんっと叩いた。
「え⁈ もうやるヌー⁈」
「あたりまえでしょ? さ、ヌーッティ、仰向けに寝転がって」
 ヌーッティは右往左往しつつも、言われるがままに床の上に寝そべった。
 トゥーリはがしっと寝転んだヌーッティの両足を両手で押さえる。
「膝は軽く曲げて。手は前に突き出していいから、それで、上体を起こす!」
「わかったヌー。楽勝だヌー。せーの……」
 だが、上体は起き上がらなかった。
「おかしいヌー。もう一回だヌー。せーの!」
 ヌーッティは寝そべったまま、両手を上へ伸ばしつつ固まった。
「ちょっと待って、ヌーッティ。もしかして、起き上がれないの?」
 トゥーリの質問に、ヌーッティはトゥーリを見つめることで答えた。
「わかった」
 トゥーリは言うやいなや、ヌーッティとあい向かいに座った。
 それから、両手で持っていたヌーッティの足を彼女自身の足で踏んで固定し、ヌーッティの手を取って、思いっきり引っ張った。
「痛いヌーっ!」
 ヌーッティの上体がようやく起き上がった。
 すると、トゥーリは起き上がったヌーッティを突っぱねて寝転がせる。
 ごんっと音を立てて、ヌーッティの頭が床に激突した。
「痛いヌーっ!」
 トゥーリはこれを50回繰り返した。
 50回目が終わる頃には、ヌーッティは虫の息であった。
「立って!」
 トゥーリはヌーッティの腕を引っ張って立ち上がり、ふらふらと立ち上がったヌーッティの胴体に紐を括りつけた。それから、ぶらりと垂れ下がっているほうの紐をトゥーリの腰に巻きつけた。
 ヌーッティは嫌な予感しかしなかった。
「な、なにするヌー?」
 恐る恐る尋ねた。
「家を走る」
 トゥーリは軽くストレッチをしながら答えた。
 ヌーッティは首を横に振った。
 だが、遅かった。
「よしっ!」
 トゥーリは言うと駆け出した。
 ヌーッティがぐいっと引っ張られた。
 足をもたつかせたヌーッティが転ぶ。
 転倒したヌーッティを引き連れて(引きずって?)、トゥーリが家中を走った。全力で。ヌーッティを走らせるために。
 しかし、
「止まってヌーっ!」
 ヌーッティが転がる。跳ねる。廊下の角に激突する。
 トゥーリがアキの部屋を出発してから10分後。
「まあまあ走ったかな」
 トゥーリは息を整えながら満足そうな顔で、後ろにいるヌーッティを見た。
 ヌーッティはうつ伏せでぜえぜえと呼吸荒くトゥーリを見上げていた。
「次はスクワットやるよ!」
「い、いやだヌー!」
 そのとき、
「トゥーリ、ヌーッティ? おやつ食べる?」
 部屋のドアを開けて、大袋のポテトチップスを手に持つアキが入って来た。
「アキー! トゥーリがいじめるヌー!」
 ヌーッティがアキの胸にジャンプしてしがみつく。
「は?」
 アキは何事かといった表情で泣きじゃくるヌーッティを見ると、トゥーリに視線を移す。
「違う! ヌーッティがダイエットしたいって言うから手伝ってあげてたんでしょ!」
 トゥーリは頬を膨らませて全否定した。
「ダイエット?」
「そうだよ! ヌーッティが250グラムのポテトチップスとビスケットを食べ過ぎて、ヒーローの服が着られなくなって、もとの体型に戻りたいって言うから……!」
「えっと、詳しく教えて。トゥーリ」
 トゥーリはこくんと頷いた。そして、ことのあらましをアキに説明した。
 事情を聴いたアキは手を額に当て、頭を垂れた。
「そういうことか。それなら、おれも手伝うから、7日間じゃなくて、1ヶ月でもとの体型に戻ろう。な?」
 アキは胸で泣くヌーッティを抱えると、そっと床にいるトゥーリの隣に下ろした。
「ヌーッティ。トゥーリはヌーッティのためにって手伝ってくれたんだから、そういうときは何て言うんだっけ?」
 アキはしゃがみ込んで、ヌーッティの背中をぽんっと軽く押した。
 ヌーッティは目を手でこすると、
「……ありがとうだヌー。さっきは言い過ぎてごめんだヌー」
 トゥーリはワンピースのポケットから小さなハンカチを取り出すと、ヌーッティへ差し出した。
 ヌーッティはハンカチを受け取って、びーんと鼻をかんだ。それから、アキが足元に置いたポテトチップスに目をやった。
 ヌーッティの目がきらりと輝いた。
「ヌーっ!」
 叫んだヌーッティがポテトチップスの袋に飛びかかる。
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