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ヌーッティのイメチェン

4.ヌーッティのイメチェン

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「何があったの⁈」
 ヌーッティに駆け寄って来たトゥーリが心配そうな面持ちでヌーッティに問いかけた。
 ヌーッティは期待していた反応を得られず戸惑ったが、ややあってトゥーリが心配していることを理解すると、
「大丈夫だヌー。失恋とかじゃないヌー」
 トゥーリの不安を解消すべく答えた。
「そうじゃなくって!」
 トゥーリが語気強く否定して、
「誰がヌーッティの髪を切ったのですか?」
 同じく心配な表情を湛えているリュリュが尋ねた。
 ヌーッティは首を少し傾げると、
「アレクシだヌー」
 はっきりと答えた。
 トゥーリとリュリュは顔を見合わせて頷いた。それから、トゥーリはヌーッティの両肩をがっしりと掴むと真剣な顔つきでヌーッティを見据えた。
「安心して。私たちが仇を取ってあげるから!」
 仇という言葉を聞いてヌーッティは訝った。
 そこへ、ドアをコンコンとノックする音が聞こえ、3人はドアの方へ視線を移す。
「もう鏡は見たかい?」
 頭を掻きながらアレクシが立っていた。
 トゥーリとリュリュの形相が変貌し、それに気付いたヌーッティとアレクシはぎょっとした。
「アレクシーーーー‼︎」
 憤怒を身にまとったトゥーリとリュリュがアレクシに襲いかかった。
 よくわからないままのアレクシの命運が呆気ないほど簡単に尽きた。
 床に伏せるアレクシのもとに立つトゥーリとリュリュは、振り返ってヌーッティを見やる。
「もう、大丈夫だよ」
 トゥーリは親指を立てて、ヌーッティに向かって微笑んだ。
 アレクシをしばき倒したトゥーリとリュリュを見ていたヌーッティは怯えた表情で2人を見据え、
「な、何でアレクシをタコ殴りにしちゃったヌー?」
 震えた声で尋ねた。
「何でって、あなたの頭をそんなふうにした犯人がアレクシだからでしょう? アレクシはもうこんなことを2度としないとは思いますが……」
 リュリュは沈痛な表情で溜め息をもらす。
「そんなふうにって、ヌーの髪型、何かおかしいヌー?」
「え? おかしいっていうか……あ! まだ気づいてなかったの⁈ ちょっとこっち来て!」
 トゥーリは、眉をひそめるヌーッティの手を引っ張って、大きな鏡の前まで行くと、
「ちゃんと見て!」
 そう言ってヌーッティを鏡の前に立たせた。
 ヌーッティは自信満々の顔つきで鏡の中のヌーッティを見た。
 すると、たちまちのうちにヌーッティの顔から血の気が引いた。
 頭部にある耳の間の毛が頭頂部を除いて刈られていたのである。
 悲壮な顔つきのヌーッティは、慌てて鏡に背を向けて後頭部を見た。頭頂部から首筋まで一直線に毛が残っていた。だが、それ以外の毛はすべて刈られてしまっていたのである。
「どうしてだヌーーーーーーーー⁈」
 鏡の前のヌーッティは半泣き状態で、何度も角度を変えて自身の頭を見た。
「どうしてって、それは私たちが訊きたいよ。何でモヒカンになんかされたの?」
 トゥーリは心配そうな声で、ヌーッティに尋ねた。
「わかんないヌー! ヌーは雑誌に載ってたかっこいい髪型にしてってアレクシに頼んだだけだヌー!」
 その一言を聞いたトゥーリとリュリュは、再び顔を見合わせた。それから、2人は視線を移し、ドアのところで倒れているアレクシを見た。
「ごめん! アレクシ生きてる⁈」
 トゥーリとリュリュは大慌てでアレクシの元に駆け寄った。
 他方、ヌーッティは鏡の前で泣き崩れていた。

 ***

「いててて。まったくの勘違いだよ。ぼくは、ただ、ヌーッティから髪の毛を切って欲しいって頼まれただけさ」
 起き上がったアレクシは頭を振りながら、トゥーリとリュリュにことの顛末を一通り話した。
「そういうこと。ヌーッティ、今回のことは自業自得だからね」
 トゥーリは溜め息混じりにヌーッティを見やる。
 ヌーッティは絶望の海に深く沈み込んでいるようで、立ち上がることすらできず、ただただ泣いている。
「毛が生え揃うまではけっこう時間がかかりそうですわね」
 リュリュは手を口元に添えて溜め息を吐いた。
「まあ、これで髪を切るなんてことはもうしないだろ」
 アレクシは両手を胸の前で組みながら、ヌーッティの哀愁漂う背中を見守った。
 こうして、ヌーッティのイメチェンは大失敗に終わったのであった。この後、帰宅したアキの手によってヌーッティが被れる帽子が作られた。

 ***

 ヌーッティのイメチェン大失敗から数週間後。
 ヌーッティはアキの祖母の部屋である女性用の雑誌を読んでいた。ぱらぱらとページをめくる手が、あるページでぴたりと止まる。そこには、
「今年の夏までに完全脱毛で美肌宣言?」
 という見出しを見つけた。
「『脱毛』ってなにかわくわくする響きだヌー! こうしたらヌーも美肌をゲットできそうだヌー! でもどうしたらいいのかわからないヌー」
 ヌーッティはじーっと雑誌を凝視しつつ思案した。そして、ぱっと明るい表情になると、
「そうだ! アレクシなら教えてくれるはずだヌー! アレクシー! どこにいるヌー?」
 このようにして悪夢は再び繰り返されるのであった。
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