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ヌーッティは背中で語りたい!
2.語れる回し蹴り
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トゥーリとリュリュはじっとヌーッティの背中を見据えている。ヌーッティは背中に2人の視線を感じてにやりと笑う。
「ばかなの?」
トゥーリから思いもよらぬ言葉が発せられた。ヌーッティはくるりと向きを変えてトゥーリを見ると、
「ばかじゃないヌー! なんでヌーのかっこよさをわからないヌー⁈ トゥーリはセンスないヌー!」
頬を膨らませて怒った。他方、トゥーリは不可解なものを見るような目でヌーッティを見ている。
「だって、あなた背中で語っているじゃないですか。『ぼくはばかです』って」
リュリュの指摘にヌーッティはますます怒る。ヌーッティのその様子を見かねたトゥーリが彼の背面へ回り、ヌーッティの背中をポンと叩くようにさすった。
「なにするヌー⁈」
目を釣り上げて怒っているヌーッティに、トゥーリはヌーッティの背中から剥がした1枚の紙を手渡した。状況を飲み込めていないヌーッティは訝りながらもそれを受け取り、目を通した。そこには「Olen tyhmä ーーぼくはばかです」と書かれていた。
やや間があった。そして、
「やられたヌー!」
ヌーッティは頭を抱えて叫んだ。
「それ、誰にやられたの?」
トゥーリは、地団駄を踏みながら紙をぐしゃぐしゃに丸めているヌーッティに尋ねた。
「アレクシだヌー! ヌーが真面目に相談したのに酷いヌー!」
ヌーッティは乱雑に丸めた紙を台の上に叩きつけた。丸められた紙は勢い余って、トゥーリの足元に転がって来た。
トゥーリとリュリュは溜め息を吐いた。
「いたずら好きなアレクシなんだから仕方ないでしょ」
トゥーリは転がっている紙を手に取ると、再び平たい状態へ戻した。
「そうですわ。人選ミスですわ」
ヌーッティの瞳が潤むと、
「ヌーはヨルマみたいに背中で語りたいだけだヌー!」
言い終えるが早いか泣き始めた。
リュリュがトゥーリの顔を見た。
「ああ、ヨルマっていうのはね、最近、ヌーッティがハマってるドラマの主人公のクマのこと。ヌーッティ、すっごく憧れてるんだ。よくヨルマの決めのポーズとかしてるよ」
それを聞いたリュリュはなるほどといった表情で納得した。
そこへ、がたんと物音がした。
トゥーリとリュリュは音のした方を、冷蔵庫の方を見た。すると、そこには鼻歌を歌いながら冷凍庫を引き開けているアレクシがいた。
「リュリュ、ヌーッティのこと任せた」
そう言ってトゥーリは作業台の上を悠然と歩き始めた。
その様子を見てリュリュは、はっと気づいた。そして、わんわん泣いているヌーッティの背後に回りヌーッティの両肩にそっと手を置き、
「ヌーッティ。トゥーリ様が今から背中で語るということは何かを実践してくださいますわ。ほら、涙を拭いて、ちゃんと見て」
優しい口調で声をかけた。
ヌーッティは両手でごしごし目を擦って涙を拭くと、身構えているトゥーリの背中を見た。じっと見てヌーッティは、
「あれは、これからアレクシをやっつける気満々のいつものトゥーリだヌー」
何を今さらといった風体で話した。
「そうですよ。あれが『背中で語る』ということですわ。ほら、アレクシが冷凍庫を開けましたよ。さあ、トゥーリ様を見ていてください!」
ヌーッティとリュリュは、アレクシが冷凍庫の中へ入ったタイミングを見計らって作業台から勢いよく跳躍したトゥーリを見ていた。
「凍えろ! ブルーベリー泥棒!」
トゥーリは叫びつつ、回し蹴りを繰り出すように冷凍庫のドアを足で蹴って閉めた。
ドアが閉まると同時に、冷凍庫の中から庫内を力強く叩く音が聞こえてきた。けれども、トゥーリは気に留めることなく颯爽とした姿でその場を離れた。
その様子を静観していたヌーッティとリュリュは、
「あれが『背中で語る』ですわ」
「なんか違う気がするけど、納得だヌー」
そう話しながらトゥーリの帰還を待っていた。
やがてトゥーリが戻ってくるとヌーッティは彼女の手を取った。
「トゥーリ! ヌーにもさっきのを教えて欲しいヌー!」
「え? 空中回し蹴りのこと?」
きょとんとした目のトゥーリは、凛とした面差しのヌーッティを見た。
「そうだヌー! ヌーもそれができれば背中で語れるクマになれるヌー!」
「ヌーッティの運動神経じゃ無理だよ」
トゥーリは即答した。
「ヌーはやればできる子だヌー! 空中回し蹴りを教えて欲しいヌー! 背中で語りたいヌー!」
またしてもヌーッティは地団駄を踏み始めた。そこへ、
「いやぁ、凍え死ぬかと思ったよ」
半身凍った状態のアレクシが宙をふらふらと漂いながらヌーッティたちのもとへやって来た。
「あら、生きてますわ」
「リュリュ! きみを残してぼくが死ぬ……ぶへっ⁈」
言い終える間を与えずに、トゥーリはアレクシの顔面に「ぼくはばかです」の紙を貼り付けた。そのアレクシの姿を見たヌーッティとリュリュ、そしてトゥーリは吹き出すように笑った。
「何の嫌がらせかな?」
顔を紙で隠されたアレクシが不満そうに3人に尋ねた。
「自業自得だヌー」
そう言うとヌーッティは再び笑い出した。
両肩をすくめたアレクシは顔に貼り付けられた紙を取ると、
「これ、ヌーッティのことをよく言い表していると思ったけどなぁ」
手に持つ紙の文字とヌーッティを交互に見た。
「わかりやすいとは思うけど」
トゥーリは拗ねているヌーッティを一瞥した。
「そうですわね。微妙に合っているから何とも言えませんわ」
リュリュもちらりと不服そうなヌーッティを見やった。
「みんな酷いヌー! ヌーは背中で語りたいだけだヌー!」
ヌーッティは両手足をばたつかせて駄々をこね始めた。その様子を見てトゥーリは呆れた顔で溜め息を吐いた。
「そんなことだから背中で語れないんだよ、ヌーッティは。掃除をしてる時のアキを思い出してみなよ。ものすごく背中で語ってるでしょ?」
ヌーッティは動きを止めて思い返し始めた。言われてみれば、散らかった部屋を片付けている時のアキの背中は何か語っている風でもあったなぁとヌーッティは思った。
「じゃあアキに訊けば背中で語る方法がわかるヌー!」
はしゃぐヌーッティはトゥーリの手を取ってその場でスキップした。目を細めて2人を見ているリュリュとアレクシは何か言いたそうな表情を浮かべていたが、あえて口に出さなかった。わずかばかりの気配りであった。
こうして、ヌーッティたち4人はアキが学校から帰ってくるのを、おやつを食べつつ、アキの部屋で待つことにした。
ヌーッティはまだ何も気づいていない。
ヌーッティを待ち受ける試練のことを。
「ばかなの?」
トゥーリから思いもよらぬ言葉が発せられた。ヌーッティはくるりと向きを変えてトゥーリを見ると、
「ばかじゃないヌー! なんでヌーのかっこよさをわからないヌー⁈ トゥーリはセンスないヌー!」
頬を膨らませて怒った。他方、トゥーリは不可解なものを見るような目でヌーッティを見ている。
「だって、あなた背中で語っているじゃないですか。『ぼくはばかです』って」
リュリュの指摘にヌーッティはますます怒る。ヌーッティのその様子を見かねたトゥーリが彼の背面へ回り、ヌーッティの背中をポンと叩くようにさすった。
「なにするヌー⁈」
目を釣り上げて怒っているヌーッティに、トゥーリはヌーッティの背中から剥がした1枚の紙を手渡した。状況を飲み込めていないヌーッティは訝りながらもそれを受け取り、目を通した。そこには「Olen tyhmä ーーぼくはばかです」と書かれていた。
やや間があった。そして、
「やられたヌー!」
ヌーッティは頭を抱えて叫んだ。
「それ、誰にやられたの?」
トゥーリは、地団駄を踏みながら紙をぐしゃぐしゃに丸めているヌーッティに尋ねた。
「アレクシだヌー! ヌーが真面目に相談したのに酷いヌー!」
ヌーッティは乱雑に丸めた紙を台の上に叩きつけた。丸められた紙は勢い余って、トゥーリの足元に転がって来た。
トゥーリとリュリュは溜め息を吐いた。
「いたずら好きなアレクシなんだから仕方ないでしょ」
トゥーリは転がっている紙を手に取ると、再び平たい状態へ戻した。
「そうですわ。人選ミスですわ」
ヌーッティの瞳が潤むと、
「ヌーはヨルマみたいに背中で語りたいだけだヌー!」
言い終えるが早いか泣き始めた。
リュリュがトゥーリの顔を見た。
「ああ、ヨルマっていうのはね、最近、ヌーッティがハマってるドラマの主人公のクマのこと。ヌーッティ、すっごく憧れてるんだ。よくヨルマの決めのポーズとかしてるよ」
それを聞いたリュリュはなるほどといった表情で納得した。
そこへ、がたんと物音がした。
トゥーリとリュリュは音のした方を、冷蔵庫の方を見た。すると、そこには鼻歌を歌いながら冷凍庫を引き開けているアレクシがいた。
「リュリュ、ヌーッティのこと任せた」
そう言ってトゥーリは作業台の上を悠然と歩き始めた。
その様子を見てリュリュは、はっと気づいた。そして、わんわん泣いているヌーッティの背後に回りヌーッティの両肩にそっと手を置き、
「ヌーッティ。トゥーリ様が今から背中で語るということは何かを実践してくださいますわ。ほら、涙を拭いて、ちゃんと見て」
優しい口調で声をかけた。
ヌーッティは両手でごしごし目を擦って涙を拭くと、身構えているトゥーリの背中を見た。じっと見てヌーッティは、
「あれは、これからアレクシをやっつける気満々のいつものトゥーリだヌー」
何を今さらといった風体で話した。
「そうですよ。あれが『背中で語る』ということですわ。ほら、アレクシが冷凍庫を開けましたよ。さあ、トゥーリ様を見ていてください!」
ヌーッティとリュリュは、アレクシが冷凍庫の中へ入ったタイミングを見計らって作業台から勢いよく跳躍したトゥーリを見ていた。
「凍えろ! ブルーベリー泥棒!」
トゥーリは叫びつつ、回し蹴りを繰り出すように冷凍庫のドアを足で蹴って閉めた。
ドアが閉まると同時に、冷凍庫の中から庫内を力強く叩く音が聞こえてきた。けれども、トゥーリは気に留めることなく颯爽とした姿でその場を離れた。
その様子を静観していたヌーッティとリュリュは、
「あれが『背中で語る』ですわ」
「なんか違う気がするけど、納得だヌー」
そう話しながらトゥーリの帰還を待っていた。
やがてトゥーリが戻ってくるとヌーッティは彼女の手を取った。
「トゥーリ! ヌーにもさっきのを教えて欲しいヌー!」
「え? 空中回し蹴りのこと?」
きょとんとした目のトゥーリは、凛とした面差しのヌーッティを見た。
「そうだヌー! ヌーもそれができれば背中で語れるクマになれるヌー!」
「ヌーッティの運動神経じゃ無理だよ」
トゥーリは即答した。
「ヌーはやればできる子だヌー! 空中回し蹴りを教えて欲しいヌー! 背中で語りたいヌー!」
またしてもヌーッティは地団駄を踏み始めた。そこへ、
「いやぁ、凍え死ぬかと思ったよ」
半身凍った状態のアレクシが宙をふらふらと漂いながらヌーッティたちのもとへやって来た。
「あら、生きてますわ」
「リュリュ! きみを残してぼくが死ぬ……ぶへっ⁈」
言い終える間を与えずに、トゥーリはアレクシの顔面に「ぼくはばかです」の紙を貼り付けた。そのアレクシの姿を見たヌーッティとリュリュ、そしてトゥーリは吹き出すように笑った。
「何の嫌がらせかな?」
顔を紙で隠されたアレクシが不満そうに3人に尋ねた。
「自業自得だヌー」
そう言うとヌーッティは再び笑い出した。
両肩をすくめたアレクシは顔に貼り付けられた紙を取ると、
「これ、ヌーッティのことをよく言い表していると思ったけどなぁ」
手に持つ紙の文字とヌーッティを交互に見た。
「わかりやすいとは思うけど」
トゥーリは拗ねているヌーッティを一瞥した。
「そうですわね。微妙に合っているから何とも言えませんわ」
リュリュもちらりと不服そうなヌーッティを見やった。
「みんな酷いヌー! ヌーは背中で語りたいだけだヌー!」
ヌーッティは両手足をばたつかせて駄々をこね始めた。その様子を見てトゥーリは呆れた顔で溜め息を吐いた。
「そんなことだから背中で語れないんだよ、ヌーッティは。掃除をしてる時のアキを思い出してみなよ。ものすごく背中で語ってるでしょ?」
ヌーッティは動きを止めて思い返し始めた。言われてみれば、散らかった部屋を片付けている時のアキの背中は何か語っている風でもあったなぁとヌーッティは思った。
「じゃあアキに訊けば背中で語る方法がわかるヌー!」
はしゃぐヌーッティはトゥーリの手を取ってその場でスキップした。目を細めて2人を見ているリュリュとアレクシは何か言いたそうな表情を浮かべていたが、あえて口に出さなかった。わずかばかりの気配りであった。
こうして、ヌーッティたち4人はアキが学校から帰ってくるのを、おやつを食べつつ、アキの部屋で待つことにした。
ヌーッティはまだ何も気づいていない。
ヌーッティを待ち受ける試練のことを。
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