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ヨウルプッキと空の旅
7.ヨウルプッキのお手伝い
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どんどんどん。
トゥーリが力を込めてドアを叩いた。
中からばたんばたんと物をひっくり返したような大きな物音が壁を通して聞こえてきた。
「ヨウルプッキ、私だよ。ドアを開けて」
トゥーリがドアに向かって呼びかけると、軋んだ音を立ててドアがわずかに開いた。
開いたドアの隙間から、巻毛の白髪と長い髭をたくわえた大柄な老人の顔がひょこっと現れた。丸い金の縁の眼鏡をかけたその老人はトイミの姿にとてもよく似ていた。
老人はきょろきょろと辺りを見回し、それから視線を足元へ落とした。
「ひさしぶり、ヨウルプッキ」
トゥーリがぶっきらぼうに挨拶をするや否やドアが思いっきり開き、ヨウルプッキと呼ばれた老人はトゥーリを抱き上げた。
「トゥーリ! やっとわしのもとへ戻って来てくれたんだね! さみしかったよぉおお!」
ヨウルプッキは泣きじゃくりながら、トゥーリに頬擦りをした。
「戻って来たんじゃないの。ヌーッティのお願いを叶えて欲しくて来たの」
トゥーリは両手でヨウルプッキの頬を押し離した。
「ヌーッティ? 誰?」
ヨウルプッキは泣くのを止めて、怪訝な表情でトゥーリに尋ねた。
トゥーリはヨウルプッキの足元を、玄関のポーチに立っているヌーッティを指さす。
ヨウルプッキは視線を落として足元を見る。そこには行儀正く、真っ直ぐに立つヌーッティがいた。
「はじめましてだヌー! ヌーッティだヌー!」
闊達に挨拶をしたヌーッティからトゥーリに視線を移したヨウルプッキは、
「トゥーリの彼氏?」
疑惑の瞳でそう尋ねた。
「違う。友だちの小熊の妖精」
トゥーリのその一言にヨウルプッキは安堵の溜め息を漏らす。
「なんだぁ、それなら良かった。もし彼氏だったら八つ裂きにしてしまうところじゃったよ」
それを聞いたヌーッティの顔が強張った。そして、言葉に表せない違和を胸に抱いた。
「とりあえず、中へ。ここでは寒いじゃろ。ほれ、小熊の妖精も中へお入り」
こうして、ヨウルプッキとの対面を果たした2人は、彼の案内で暖かい小屋の中へ入って行った。
「さて、ヌーッティよ、用とはなんじゃ?」
ヨウルプッキは暖炉の前ロッキングチェアに浅く腰掛けて、目の前の丸い天板のテーブルの上に座っているヌーッティを見据えた。
ヌーッティは緊張の面持ちで、ゆっくりと開口した。
「単刀直入に言うヌー! ヨウルプッキからクリスマスプレゼントが欲しいヌー!」
「だめじゃのう」
ヨウルプッキは即答した。
「ヌーッティは今年とっても良い子だったヌー!」
「どこがじゃ? トントゥたちの報告書を読む限り、悪さばかりして人間の友だちのアキを困らせておったそうじゃないか」
ヨウルプッキの話しをトゥーリは深く頷きながら聞き、ヌーッティは非常にまずいといった様子で返答に困っていた。
「この間もティーポットの中に入って人間を驚かそうとしたり、あまつさえ、ポットから出られなくなってトゥーリの手を煩わせたではないか。悪い子リストの1位にこそ相応しい振る舞いじゃが、良い子ではなかろうが、たわけめ」
ヌーッティの顔から血の気が徐々に引いていく。
ヨウルプッキは眉間に皺を寄せ、
「それに何よりも、トゥーリを独占していてずるいではないか」
若干の苛立ち混じりにヌーッティへ向けて言い放った。
「だいたい何でおぬしがいつもトゥーリと一緒なんじゃ? わしとてトゥーリとずっと一緒にいたいのに、あのクソジジイ、ワイナミョイネンが、わしとトゥーリの中を妬んで引き離しおって。あまつさえ、こんな小熊の妖精と……」
ヨウルプッキはぶつぶつと愚痴をこぼし始めた。
「ヨウルプッキ?」
ヌーッティが恐る恐る独り言ちるヨウルプッキに呼びかけた。それに気づいたヨウルプッキは咳払いを一つすると、
「とにかくプレゼントはだめじゃ」
そう結論づけた。
諦めまいとヌーッティは今までヨウルプッキが話した内容を整理した。だが、そこであることに気がついた。そして、それを尋ねずにはいられなかった。
「ヨウルプッキはトゥーリのことが好きなんだヌー?」
「大好きに決まっておるじゃろが! トントゥの中で最も優秀な助手であったのじゃぞ⁈」
ヨウルプッキは声を張り上げて即答した。
「何年間もわしは出て行ってしまったトゥーリを探し回っていたんじゃぞ⁈ 見つけてからは、いつまたわしの元へ手伝いに戻って来るのかと、影からこっそり見守っておった! その度に警察に声をかけられて怖い思いをしたんじゃぞ⁈」
ヨウルプッキの話から察せられる彼の行動は、ヌーッティでも理解できた。つまり、
「トゥーリのストーカーだヌー!」
ヌーッティの言葉にトゥーリは首肯し、
「だから似た物同士のワイナミョイネンと仲が悪いんだよ」
そう付け加えた。
トゥーリはヌーッティの方へ顔を向ける。
「それでも、このヨウルプッキからクリスマスプレゼントが欲しい?」
ヌーッティはしばし悩んだ様相を見せたが、
「いちおうはヨウルプッキだヌー。欲しいヌー」
両肩をすくめて答えた。
「わかった」
トゥーリはそう言うと視線をヨウルプッキへ戻す。
「ねえ、ヨウルプッキ。もし、私がヌーッティと一緒にお手伝いしたら、今年だけでいいからヌーッティにクリスマスプレゼントをあげられない?」
「トゥーリも手伝いをしてくれるのか?」
ヨウルプッキの質問にトゥーリは頷きつつ、
「無茶な手伝いを要求してきたらぶん殴った上で通報するけど」
警告を付け加えた。
ヨウルプッキは両腕を胸の前で組み、黙考し始める。やがて、何か閃いた様子で顔を上げる。
「そうじゃ! あれじゃ!」
「あれ?」
トゥーリとヌーッティの声が重なった。
「新しい機能を追加した橇の試運転じゃよ。クリスマス前までに終わらせねばならんのじゃが、わし一人では心細くてまだ終わっておらんのじゃ。どうじゃ? わしと橇に乗って空の旅は?」
「やるヌー!」
ヌーッティはヨウルプッキの提案を即座に受け入れた。他方、トゥーリは条件を一つ、
「ヘルシンキのアキの家に送って行ってくれる試運転ならいいよ」
そう追加した。
「別に人間の家に帰らんでもよかろうに」
ぼそりと呟いたヨウルプッキにトゥーリは目を細める。
「じゃあ、ひとりで試運転して。私たちはもう帰るから」
そう言って立ち上がった。
「わ、わかった! ヘルシンキの家までの片道でよいから! わしを置いていかんでくれ!」
懇願するヨウルプッキを見つめてトゥーリはこくりと頷いた。
ヌーッティははしゃぎ、ヨウルプッキは肩を落とし、トゥーリは無事にアキの元へ帰れるかどうかを心配した。
こうして、ヨウルプッキと空の旅が始まるのである。
トゥーリが力を込めてドアを叩いた。
中からばたんばたんと物をひっくり返したような大きな物音が壁を通して聞こえてきた。
「ヨウルプッキ、私だよ。ドアを開けて」
トゥーリがドアに向かって呼びかけると、軋んだ音を立ててドアがわずかに開いた。
開いたドアの隙間から、巻毛の白髪と長い髭をたくわえた大柄な老人の顔がひょこっと現れた。丸い金の縁の眼鏡をかけたその老人はトイミの姿にとてもよく似ていた。
老人はきょろきょろと辺りを見回し、それから視線を足元へ落とした。
「ひさしぶり、ヨウルプッキ」
トゥーリがぶっきらぼうに挨拶をするや否やドアが思いっきり開き、ヨウルプッキと呼ばれた老人はトゥーリを抱き上げた。
「トゥーリ! やっとわしのもとへ戻って来てくれたんだね! さみしかったよぉおお!」
ヨウルプッキは泣きじゃくりながら、トゥーリに頬擦りをした。
「戻って来たんじゃないの。ヌーッティのお願いを叶えて欲しくて来たの」
トゥーリは両手でヨウルプッキの頬を押し離した。
「ヌーッティ? 誰?」
ヨウルプッキは泣くのを止めて、怪訝な表情でトゥーリに尋ねた。
トゥーリはヨウルプッキの足元を、玄関のポーチに立っているヌーッティを指さす。
ヨウルプッキは視線を落として足元を見る。そこには行儀正く、真っ直ぐに立つヌーッティがいた。
「はじめましてだヌー! ヌーッティだヌー!」
闊達に挨拶をしたヌーッティからトゥーリに視線を移したヨウルプッキは、
「トゥーリの彼氏?」
疑惑の瞳でそう尋ねた。
「違う。友だちの小熊の妖精」
トゥーリのその一言にヨウルプッキは安堵の溜め息を漏らす。
「なんだぁ、それなら良かった。もし彼氏だったら八つ裂きにしてしまうところじゃったよ」
それを聞いたヌーッティの顔が強張った。そして、言葉に表せない違和を胸に抱いた。
「とりあえず、中へ。ここでは寒いじゃろ。ほれ、小熊の妖精も中へお入り」
こうして、ヨウルプッキとの対面を果たした2人は、彼の案内で暖かい小屋の中へ入って行った。
「さて、ヌーッティよ、用とはなんじゃ?」
ヨウルプッキは暖炉の前ロッキングチェアに浅く腰掛けて、目の前の丸い天板のテーブルの上に座っているヌーッティを見据えた。
ヌーッティは緊張の面持ちで、ゆっくりと開口した。
「単刀直入に言うヌー! ヨウルプッキからクリスマスプレゼントが欲しいヌー!」
「だめじゃのう」
ヨウルプッキは即答した。
「ヌーッティは今年とっても良い子だったヌー!」
「どこがじゃ? トントゥたちの報告書を読む限り、悪さばかりして人間の友だちのアキを困らせておったそうじゃないか」
ヨウルプッキの話しをトゥーリは深く頷きながら聞き、ヌーッティは非常にまずいといった様子で返答に困っていた。
「この間もティーポットの中に入って人間を驚かそうとしたり、あまつさえ、ポットから出られなくなってトゥーリの手を煩わせたではないか。悪い子リストの1位にこそ相応しい振る舞いじゃが、良い子ではなかろうが、たわけめ」
ヌーッティの顔から血の気が徐々に引いていく。
ヨウルプッキは眉間に皺を寄せ、
「それに何よりも、トゥーリを独占していてずるいではないか」
若干の苛立ち混じりにヌーッティへ向けて言い放った。
「だいたい何でおぬしがいつもトゥーリと一緒なんじゃ? わしとてトゥーリとずっと一緒にいたいのに、あのクソジジイ、ワイナミョイネンが、わしとトゥーリの中を妬んで引き離しおって。あまつさえ、こんな小熊の妖精と……」
ヨウルプッキはぶつぶつと愚痴をこぼし始めた。
「ヨウルプッキ?」
ヌーッティが恐る恐る独り言ちるヨウルプッキに呼びかけた。それに気づいたヨウルプッキは咳払いを一つすると、
「とにかくプレゼントはだめじゃ」
そう結論づけた。
諦めまいとヌーッティは今までヨウルプッキが話した内容を整理した。だが、そこであることに気がついた。そして、それを尋ねずにはいられなかった。
「ヨウルプッキはトゥーリのことが好きなんだヌー?」
「大好きに決まっておるじゃろが! トントゥの中で最も優秀な助手であったのじゃぞ⁈」
ヨウルプッキは声を張り上げて即答した。
「何年間もわしは出て行ってしまったトゥーリを探し回っていたんじゃぞ⁈ 見つけてからは、いつまたわしの元へ手伝いに戻って来るのかと、影からこっそり見守っておった! その度に警察に声をかけられて怖い思いをしたんじゃぞ⁈」
ヨウルプッキの話から察せられる彼の行動は、ヌーッティでも理解できた。つまり、
「トゥーリのストーカーだヌー!」
ヌーッティの言葉にトゥーリは首肯し、
「だから似た物同士のワイナミョイネンと仲が悪いんだよ」
そう付け加えた。
トゥーリはヌーッティの方へ顔を向ける。
「それでも、このヨウルプッキからクリスマスプレゼントが欲しい?」
ヌーッティはしばし悩んだ様相を見せたが、
「いちおうはヨウルプッキだヌー。欲しいヌー」
両肩をすくめて答えた。
「わかった」
トゥーリはそう言うと視線をヨウルプッキへ戻す。
「ねえ、ヨウルプッキ。もし、私がヌーッティと一緒にお手伝いしたら、今年だけでいいからヌーッティにクリスマスプレゼントをあげられない?」
「トゥーリも手伝いをしてくれるのか?」
ヨウルプッキの質問にトゥーリは頷きつつ、
「無茶な手伝いを要求してきたらぶん殴った上で通報するけど」
警告を付け加えた。
ヨウルプッキは両腕を胸の前で組み、黙考し始める。やがて、何か閃いた様子で顔を上げる。
「そうじゃ! あれじゃ!」
「あれ?」
トゥーリとヌーッティの声が重なった。
「新しい機能を追加した橇の試運転じゃよ。クリスマス前までに終わらせねばならんのじゃが、わし一人では心細くてまだ終わっておらんのじゃ。どうじゃ? わしと橇に乗って空の旅は?」
「やるヌー!」
ヌーッティはヨウルプッキの提案を即座に受け入れた。他方、トゥーリは条件を一つ、
「ヘルシンキのアキの家に送って行ってくれる試運転ならいいよ」
そう追加した。
「別に人間の家に帰らんでもよかろうに」
ぼそりと呟いたヨウルプッキにトゥーリは目を細める。
「じゃあ、ひとりで試運転して。私たちはもう帰るから」
そう言って立ち上がった。
「わ、わかった! ヘルシンキの家までの片道でよいから! わしを置いていかんでくれ!」
懇願するヨウルプッキを見つめてトゥーリはこくりと頷いた。
ヌーッティははしゃぎ、ヨウルプッキは肩を落とし、トゥーリは無事にアキの元へ帰れるかどうかを心配した。
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