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ヨウルプッキと空の旅
5.3人の息子
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「なにを言っているのかわからないヌー。ヨウルプッキは世界に1人しかいないヌー」
ヌーッティは両腕を胸の前で組み首を傾げる。
「あのね、ヨウルプッキっていうのはニックネームなんだよ。説明するからちゃんと聞いてて」
トゥーリはそう話を切り出すと、ヨウルプッキについてヌーッティでもわかるように説明し始めた。
もともとヨウルプッキというのは小人や妖精、精霊たちの間で、喜びの魔術を使うおじいさんのことをヨウルプッキと呼んでいたという。昔々、神話の時代に、喜びをもたらす者として生まれた人物である。
生まれた時から周りの人たちに不思議な力で喜びを与えていて、仕事ができるくらいにまで大きくなってからは、喜びの魔術を使い、つらい思いをしている者や悲しみで涙が止まらない者たちを助けていたという。
また、その老人は『カレワラ』にも登場する有名な不滅の賢者ワイナミョイネンの知人でもあった。ただし、性格的に相性が悪く、犬猿の仲であるという。姿もそこはかとなく似ているので、2人はそのことを気にしているそうだ。
とにもかくにも、喜びを与えるヨウルプッキと呼ばれる人物が、人間たちの間に広まったとき、それまで人間たちの間で親しまれていた聖ニコラスとヨウルプッキが同じ人物として扱われるようになった。
困ってしまったのはヨウルプッキ当人であった。何しろこの老人、極度の小心者で、急に有名人になってしまったことで、年間を通じて基本的に自宅に引きこもるようになったという。
そんな彼が唯一外出する時が12月24日から26日の早朝にかけてのわずかな時間。みんながヨウルプッキよりも世界中の色々なサンタクロースに夢中になっている間に、小人たちの調査に基づいて作成された良い子リストを参考に、喜びを与えるようになったという。
そんなヨウルプッキに訪れた最大の危機はフィンランド国営放送からの取材が来たことであった。その時、ある1人の小人が困り果てたヨウルプッキにアドバイスのようなものを与えた。それは、ヨウルプッキに分身がいればいいのにね、という一言であった。それを聞いたヨウルプッキは彼自身に似せて3人の息子を魔術で生み出した。それがトイミとヤロとイロである。
3人の息子を生み出したヨウルプッキは1番目の息子ヤロに良い子リストの作成やプレゼントの経費などの仕事を、2番目の息子イロにはプレゼントの製造と橇のメンテナンスの仕事を、そして3人目の最もサンタクロースの姿に近い容姿のトイミに人間たちの相手ーー観光大使とメディア対応の仕事を任せた。こうして、人間たちの預かり知らないところでヨウルプッキは喜びという名のプレゼント配りにのみ専念できるようになったのである。
トゥーリの話がひと段落したところで、ヌーッティは、
「本物のヨウルプッキはどこにいるヌーッティ?」
そうトゥーリに尋ねた。
「コルバトゥントゥリにいるよ」
「それならコルバトゥントゥリに行くヌー! 三男には用はないヌー!」
ヌーッティが横柄な態度でトゥーリにせがんだ。
それを聞いてトゥーリとトイミは呆れた表情になった。カティは吹き出して笑った。
「いいの? そのコルバトゥントゥリへ行き方はこのトイミじゃないと知らないんだよ? まあ、正確に言えば3人の息子たちと、その3人の息子の1番側にいる小人なんだけど」
ヌーッティははっとした様子でトイミを見つめた。
「トイミさん、ヌーッティはいい子だヌー。案内して欲しいヌー」
礼儀正しい口調でヌーッティはトイミに頼んだ。
「もう諦めなよ。トイミが困ってるじゃん」
トゥーリがヌーッティのしっぽをつねった。
「痛いヌー! トゥーリは本物のヨウルプッキに会いたくないヌー⁈」
「うん。会いたくない」
トゥーリは即答した。
「なんでだヌー⁈」
ヌーッティは不可解極まりないといった面持ちでトゥーリににじり寄る。
「だって、元上司なんだもん」
その言葉はヌーッティをさらに混乱させたのであった。
ヌーッティは両腕を胸の前で組み首を傾げる。
「あのね、ヨウルプッキっていうのはニックネームなんだよ。説明するからちゃんと聞いてて」
トゥーリはそう話を切り出すと、ヨウルプッキについてヌーッティでもわかるように説明し始めた。
もともとヨウルプッキというのは小人や妖精、精霊たちの間で、喜びの魔術を使うおじいさんのことをヨウルプッキと呼んでいたという。昔々、神話の時代に、喜びをもたらす者として生まれた人物である。
生まれた時から周りの人たちに不思議な力で喜びを与えていて、仕事ができるくらいにまで大きくなってからは、喜びの魔術を使い、つらい思いをしている者や悲しみで涙が止まらない者たちを助けていたという。
また、その老人は『カレワラ』にも登場する有名な不滅の賢者ワイナミョイネンの知人でもあった。ただし、性格的に相性が悪く、犬猿の仲であるという。姿もそこはかとなく似ているので、2人はそのことを気にしているそうだ。
とにもかくにも、喜びを与えるヨウルプッキと呼ばれる人物が、人間たちの間に広まったとき、それまで人間たちの間で親しまれていた聖ニコラスとヨウルプッキが同じ人物として扱われるようになった。
困ってしまったのはヨウルプッキ当人であった。何しろこの老人、極度の小心者で、急に有名人になってしまったことで、年間を通じて基本的に自宅に引きこもるようになったという。
そんな彼が唯一外出する時が12月24日から26日の早朝にかけてのわずかな時間。みんながヨウルプッキよりも世界中の色々なサンタクロースに夢中になっている間に、小人たちの調査に基づいて作成された良い子リストを参考に、喜びを与えるようになったという。
そんなヨウルプッキに訪れた最大の危機はフィンランド国営放送からの取材が来たことであった。その時、ある1人の小人が困り果てたヨウルプッキにアドバイスのようなものを与えた。それは、ヨウルプッキに分身がいればいいのにね、という一言であった。それを聞いたヨウルプッキは彼自身に似せて3人の息子を魔術で生み出した。それがトイミとヤロとイロである。
3人の息子を生み出したヨウルプッキは1番目の息子ヤロに良い子リストの作成やプレゼントの経費などの仕事を、2番目の息子イロにはプレゼントの製造と橇のメンテナンスの仕事を、そして3人目の最もサンタクロースの姿に近い容姿のトイミに人間たちの相手ーー観光大使とメディア対応の仕事を任せた。こうして、人間たちの預かり知らないところでヨウルプッキは喜びという名のプレゼント配りにのみ専念できるようになったのである。
トゥーリの話がひと段落したところで、ヌーッティは、
「本物のヨウルプッキはどこにいるヌーッティ?」
そうトゥーリに尋ねた。
「コルバトゥントゥリにいるよ」
「それならコルバトゥントゥリに行くヌー! 三男には用はないヌー!」
ヌーッティが横柄な態度でトゥーリにせがんだ。
それを聞いてトゥーリとトイミは呆れた表情になった。カティは吹き出して笑った。
「いいの? そのコルバトゥントゥリへ行き方はこのトイミじゃないと知らないんだよ? まあ、正確に言えば3人の息子たちと、その3人の息子の1番側にいる小人なんだけど」
ヌーッティははっとした様子でトイミを見つめた。
「トイミさん、ヌーッティはいい子だヌー。案内して欲しいヌー」
礼儀正しい口調でヌーッティはトイミに頼んだ。
「もう諦めなよ。トイミが困ってるじゃん」
トゥーリがヌーッティのしっぽをつねった。
「痛いヌー! トゥーリは本物のヨウルプッキに会いたくないヌー⁈」
「うん。会いたくない」
トゥーリは即答した。
「なんでだヌー⁈」
ヌーッティは不可解極まりないといった面持ちでトゥーリににじり寄る。
「だって、元上司なんだもん」
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