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ヨウルプッキと空の旅

3.ロヴァニエミへ

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 列車に乗ったトゥーリは、食堂車へ行きたがるヌーッティの手を引っ張って、まず運転士のもとへ向かった。運転室へやって来たトゥーリは背負っていた荷物を下ろして、中に入っている綺麗な石をドアの前に置いた。この石はトゥーリが魔術をかけたお手製の魔除け石で、悪意のある妖精や精霊を近づけない魔術が込められている。
 それからトゥーリは荷物の中から小さな紙片を取り出し、石の下に敷いた。その紙には「Kiitoksia. Se on taian kiviä. ーーありがとうございます。魔法の石です」というメッセージが書かれていた。
 それらを置くと、トゥーリはヌーッティと一緒に食堂車へ行った。ここが1番、人間に気づかれにくいとトゥーリは考えたのである。
 食堂車に辿り着くや否や、
「ごはんだヌー!」
 ヌーッティが走り出そうとしたので、トゥーリは間髪入れずにヌーッティの手を掴んだ。
「だめ! まだ人がいるでしょ? みんながいなくなってからお菓子をもらうの」
 そう言って、車両の端っこのテーブルの下まで行き、ヌーッティの背負っている荷物の中からカラフルな果物の柄のスカーフを1枚取り出した。それを床に敷いてトゥーリとヌーッティはその上に座った。
 やがて人間が1人もいなくなると、トゥーリの荷物から5ユーロ紙幣を1枚取り出しお菓子などが置かれているカウンターまで行く。
「ヌーッティはここで待ってて」
 トゥーリはそう言うと小さく屈み、大きくジャンプした。すたっとカウンターの上へ降り立ったトゥーリは、ビスケット4枚と一口サイズのチョコレート4個、小さいパックのリンゴンベリーのジュースに紙のカップ2つを手際よく下にいるヌーッティに落として渡した。紙幣を風などで飛ばされないようにペン立ての下に置くと、床へ飛び降りた。
 ヌーッティと手分けして、荷物の置いてある端っこまでお菓子などを運ぶと、2人はそれらを分け合って食べた。途中でヌーッティがトゥーリのチョコレートをねだり、トゥーリから1個余分に貰ったのはいつものこと。
 満腹になった2人はスカーフの上に寝転び、外套を毛布代わりにして眠りについた。
 車内アナウンスでトゥーリが目を覚ますと、朝日が列車の窓から差し込んでいた。隣ではヌーッティがまだ寝息を立てていた。ヌーッティは外套を放り出すように寝ている。トゥーリはヌーッティの外套を手に取ると、そっとヌーッティの体にかけた。
 時間が経ち、アナウンスがロヴァニエミ到着を知らせる。トゥーリはいびきをかいているヌーッティの体をばんばん叩いて起こした。眠そうなヌーッティは目を手で擦りながら、むくりと起き上がる。
 トゥーリは外套を羽織ると床に敷いていたスカーフを、ヌーッティが乗った状態で引っ張り、素早く丁寧に畳んで荷物入れに入れた。
「もう着くよ。早く外套を着て」
 トゥーリに言われ、ヌーッティは、はっとした表情で外套を羽織る。同時に列車が止まる。
 2人はタイミングを見計らって食堂車を出て、列車の入り口のドアへ行き、下車する人間に混じって列車から降りた。
 地面にジャンプすると、降り積もっていた雪に足を奪われ体のバランスを崩すも、2人は互いを支え合って、転倒を免れた。
 辺り一面雪で装飾された風景がトゥーリとヌーッティの眼前に広がる。2人は舞い散る雪の中、バス停まで行きサンタクロース村行きのバスに飛び乗った。
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