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ヨウルプッキと空の旅
2.旅立ちの夜
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トゥーリとヌーッティは悩んでいた。
それというのも、フィンランド北部にある都市ロヴァニエミまでどのように行けばいいのかと考えあぐねているのである。トゥーリたちのいるヘルシンキからロヴァニエミまでは、列車あるいは高速バスを使えば乗り換えなしで行くことができる。問題はどうやって列車やバスに乗り込むかであった。
「アキに付いてきてもらえばいいヌー」
ヌーッティは、アキのスマホで列車とバスの時刻を見比べているトゥーリに提案した。
「無理だよ。明日アキは学校があるもん。だから2人で行かなきゃなんだよ」
トゥーリは言いながら、調べた列車とバスの時刻を小さな紙に書き出す。
「電車やバスじゃなくて、鳥さんや精霊たちに運んでもらうヌー。それでもだめならトゥーリの魔術でどうにかできるヌー」
ヌーッティが言い終えるが早いか、トゥーリは手に持っていたボールペンでヌーッティの頬を小突く。
「それができないから列車かバスで行こうとしてるの。あと、ヌーッティも魔術使えるんだから魔術でぽんっと行けないことくらいわかるでしょ? 移動系の魔術は難しいんだよ」
トゥーリは呆れた目でヌーッティを見やった。だが、すぐに時刻を書いた紙に視線を落とし黙考する。しばらく間があり、やがてトゥーリは結論を出す。
「列車で行こう。こっちのほうがひと目につきにくいし、時間的にもちょうどいいかな」
「どうやって行くのかヌーッティにも教えて欲しいヌー」
そう尋ねられたトゥーリはロヴァニエミまでの道程をヌーッティに話して聞かせた。
まず、今夜23時13分ヘルシンキ中央駅発、翌日11時13分ロヴァニエミ駅着の列車に乗る。ロヴァニエミ駅からサンタクロース村まではバスが出ているので、それに乗る。乗車時間が30分程度ということもあり長くないので、ぬいぐるみと人形のフリをしていられることと、ヌーッティが飽きていたずらをしないで済むとトゥーリは判断したのである。
ヌーッティはこくこく頷きながら大人しくトゥーリの話を聞いていた。
「アキには部屋に戻って来てから言おう。いきなり私たちがいなくなったら心配すると思うから」
2人が旅の計画を話し合って、まとめているうちに夕方となり、アキが部屋へ戻って来た。トゥーリとヌーッティは今までの経緯をアキに話した。話を聞いたアキは心配そうな面持ちで溜め息を吐くと、
「行って来てもいいけど、気をつけて行ってくるんだぞ。あと、列車とバスの運転手さんには何かお礼をすること。それと、今からヨウルプッキ宛に手紙を書くから、それを渡してくること。できる?」
「できるヌー!」
「ありがとう、アキ!」
トゥーリとヌーッティは元気よく返事をした。
「おれが手紙を書いている間に、トゥーリとヌーッティは支度を整えて」
言われて2人は早速身支度に取り掛かる。アキは椅子に座ると、デスクの引き出しから黄色いレポートパッドとカラメル色の封筒を一枚取り出した。それから、青色のインクの万年筆でヨウルプッキ宛の手紙を書き始めた。やがて書き終えた1枚の用紙をパッドから取って丁寧に折り畳み、封筒の中へ入れた。糊で封をすると裏面にアキの名前を、表面に「Joulupukki」と宛名を書いた。そして、その封書をトゥーリに手渡した。
旅の前の腹ごしらえも兼ねた夕ごはんを、トゥーリとヌーッティはたくさん食べた。もちろんお代わりもした。それから軽くシャワーを浴びて部屋へ戻ると、2人はアキから真新しい赤い外套をそれぞれ受け取った。北極圏に位置するロヴァニエミへ行くのに、2人がヘルシンキで来ている服では寒いだろうと思ったアキが僅かな時間の中で作り上げた物であった。
外套の生地はウールとラマの毛の混合でできていて、襟には薄茶色のボアがマフラーの様に巻かれていた。先端に金色の装飾が施された農茶色のリボンを首で結べる様に作られていた。それをアキから受け取った2人は満面の笑みをアキに見せた。アキも2人が喜んでいる様子を見て嬉しい気持ちになった。
そうして過ごしているうちに、あっという間に22時を過ぎていた。
アキの自宅からヘルシンキ中央駅までは大人の人間の足で約30分ほど。駅まではアキが見送っていくというので、トゥーリとヌーッティはアキが着るコートのフードの中に入った。
夜の外の空気はすぐに凍ってしまうかと思うほどに冷たかった。トゥーリとヌーッティはフードの中で身を寄せ合い暖をとっていた。
「寒くない?」
アキが小さな声で、2人にだけ聞こえる声で尋ねた。
ヌーッティはアキのマフラーに潜り込んで、アキの右頬からひょこっと顔を出した。
「あったかいヌー!」
ヌーッティはアキに頬ずりをした。
それを見ていたトゥーリもマフラーに潜り込むとアキの左頬から顔を出して、アキの頬にぴたっとくっついた。
ほどなくして3人はヘルシンキ中央駅の中央口に辿り着く。アキはドアを開けて中に入ると、電光掲示板を見てロヴァニエミ行きの列車のホーム番号を確認した。見るとホームにはすでに列車が停車していた。
アキが列車の先頭車両まで行くと、トゥーリとヌーッティはマフラーから這い出し、ジャンプしてホームに降り立った。
「気をつけてな」
アキはそう言って、2人に手を振った。
「行ってくるね」
「ヨウルプッキにアキは良い子にしてたって伝えてあげるヌー」
トゥーリとヌーッティもそれぞれ別れの挨拶をすると、列車に乗り込んだ。
数分経たないうちにドアが閉まり、列車はロヴァニエミへ向けて出発した。
アキは、列車が夜の暗がりで見えなくなるまで、ホームに立って2人を見送っていた。
それというのも、フィンランド北部にある都市ロヴァニエミまでどのように行けばいいのかと考えあぐねているのである。トゥーリたちのいるヘルシンキからロヴァニエミまでは、列車あるいは高速バスを使えば乗り換えなしで行くことができる。問題はどうやって列車やバスに乗り込むかであった。
「アキに付いてきてもらえばいいヌー」
ヌーッティは、アキのスマホで列車とバスの時刻を見比べているトゥーリに提案した。
「無理だよ。明日アキは学校があるもん。だから2人で行かなきゃなんだよ」
トゥーリは言いながら、調べた列車とバスの時刻を小さな紙に書き出す。
「電車やバスじゃなくて、鳥さんや精霊たちに運んでもらうヌー。それでもだめならトゥーリの魔術でどうにかできるヌー」
ヌーッティが言い終えるが早いか、トゥーリは手に持っていたボールペンでヌーッティの頬を小突く。
「それができないから列車かバスで行こうとしてるの。あと、ヌーッティも魔術使えるんだから魔術でぽんっと行けないことくらいわかるでしょ? 移動系の魔術は難しいんだよ」
トゥーリは呆れた目でヌーッティを見やった。だが、すぐに時刻を書いた紙に視線を落とし黙考する。しばらく間があり、やがてトゥーリは結論を出す。
「列車で行こう。こっちのほうがひと目につきにくいし、時間的にもちょうどいいかな」
「どうやって行くのかヌーッティにも教えて欲しいヌー」
そう尋ねられたトゥーリはロヴァニエミまでの道程をヌーッティに話して聞かせた。
まず、今夜23時13分ヘルシンキ中央駅発、翌日11時13分ロヴァニエミ駅着の列車に乗る。ロヴァニエミ駅からサンタクロース村まではバスが出ているので、それに乗る。乗車時間が30分程度ということもあり長くないので、ぬいぐるみと人形のフリをしていられることと、ヌーッティが飽きていたずらをしないで済むとトゥーリは判断したのである。
ヌーッティはこくこく頷きながら大人しくトゥーリの話を聞いていた。
「アキには部屋に戻って来てから言おう。いきなり私たちがいなくなったら心配すると思うから」
2人が旅の計画を話し合って、まとめているうちに夕方となり、アキが部屋へ戻って来た。トゥーリとヌーッティは今までの経緯をアキに話した。話を聞いたアキは心配そうな面持ちで溜め息を吐くと、
「行って来てもいいけど、気をつけて行ってくるんだぞ。あと、列車とバスの運転手さんには何かお礼をすること。それと、今からヨウルプッキ宛に手紙を書くから、それを渡してくること。できる?」
「できるヌー!」
「ありがとう、アキ!」
トゥーリとヌーッティは元気よく返事をした。
「おれが手紙を書いている間に、トゥーリとヌーッティは支度を整えて」
言われて2人は早速身支度に取り掛かる。アキは椅子に座ると、デスクの引き出しから黄色いレポートパッドとカラメル色の封筒を一枚取り出した。それから、青色のインクの万年筆でヨウルプッキ宛の手紙を書き始めた。やがて書き終えた1枚の用紙をパッドから取って丁寧に折り畳み、封筒の中へ入れた。糊で封をすると裏面にアキの名前を、表面に「Joulupukki」と宛名を書いた。そして、その封書をトゥーリに手渡した。
旅の前の腹ごしらえも兼ねた夕ごはんを、トゥーリとヌーッティはたくさん食べた。もちろんお代わりもした。それから軽くシャワーを浴びて部屋へ戻ると、2人はアキから真新しい赤い外套をそれぞれ受け取った。北極圏に位置するロヴァニエミへ行くのに、2人がヘルシンキで来ている服では寒いだろうと思ったアキが僅かな時間の中で作り上げた物であった。
外套の生地はウールとラマの毛の混合でできていて、襟には薄茶色のボアがマフラーの様に巻かれていた。先端に金色の装飾が施された農茶色のリボンを首で結べる様に作られていた。それをアキから受け取った2人は満面の笑みをアキに見せた。アキも2人が喜んでいる様子を見て嬉しい気持ちになった。
そうして過ごしているうちに、あっという間に22時を過ぎていた。
アキの自宅からヘルシンキ中央駅までは大人の人間の足で約30分ほど。駅まではアキが見送っていくというので、トゥーリとヌーッティはアキが着るコートのフードの中に入った。
夜の外の空気はすぐに凍ってしまうかと思うほどに冷たかった。トゥーリとヌーッティはフードの中で身を寄せ合い暖をとっていた。
「寒くない?」
アキが小さな声で、2人にだけ聞こえる声で尋ねた。
ヌーッティはアキのマフラーに潜り込んで、アキの右頬からひょこっと顔を出した。
「あったかいヌー!」
ヌーッティはアキに頬ずりをした。
それを見ていたトゥーリもマフラーに潜り込むとアキの左頬から顔を出して、アキの頬にぴたっとくっついた。
ほどなくして3人はヘルシンキ中央駅の中央口に辿り着く。アキはドアを開けて中に入ると、電光掲示板を見てロヴァニエミ行きの列車のホーム番号を確認した。見るとホームにはすでに列車が停車していた。
アキが列車の先頭車両まで行くと、トゥーリとヌーッティはマフラーから這い出し、ジャンプしてホームに降り立った。
「気をつけてな」
アキはそう言って、2人に手を振った。
「行ってくるね」
「ヨウルプッキにアキは良い子にしてたって伝えてあげるヌー」
トゥーリとヌーッティもそれぞれ別れの挨拶をすると、列車に乗り込んだ。
数分経たないうちにドアが閉まり、列車はロヴァニエミへ向けて出発した。
アキは、列車が夜の暗がりで見えなくなるまで、ホームに立って2人を見送っていた。
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