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ヌーッティと魔法のティーポット
5.トゥーリ、立つ
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アイノを視界に捉えたヌーッティは身の破滅を予感した。その美少女アイノとアキはとある事件で知り合った友人である。彼女は人間の姿をしてはいるが、神話の時代より生きている水の精霊であった。
「つ、ついに出てきたヌー……暗黒卿が来てしまったヌー!」
その言葉を聞いたアイノは目を細めてヌーッティを見据える。
「誰が暗黒卿なのよ。それで、どうしてヌーッティがティーポットに入ってシンクの中にいるの?」
アイノはアキたちに顔を向けて尋ねた。
「それが、何というか……」
歯切れ悪く、ぐぐもりながらもアキは事の顛末をアイノに話し始めた。
そして数分後。
手を顎に当てながらアイノはちらりと視線をヌーッティに移す。
「なるほどね。そういうこと。それなら簡単な解決方法があるわ」
言いながらアイノはカウンターの中へ入り、水で濡れたヌーッティとティーポット、そして置いてあった乾いたキッチンクロスを一枚手に取る。そして、それらを持って健とハンナの荷物が置かれたテーブルへ行くと、ティーポットをテーブルの上に置いてキッチンクロスでヌーッティとティーポットを柔らかい動きで拭いた。
ヌーッティは気持ちよさそうにじっとしていた。それは、まるでトリミングされている犬のような様子であった。
やがて拭き終えると、アイノはキッチンクロスを折り畳んでテーブルに置いた。
「それでどうするんだ?」
アキが心配そうな面持ちでアイノに尋ねた。
「簡単よ。頭から出られないなら足から出ればいいだけじゃない。さあ、ヌーッティ。ティーポットの中にもう一度入って」
ヌーッティは首を少し傾げた。
「無理だヌー。ヌーッティの身体はここで動こかなくなってるヌー」
困った様子でヌーッティは自身のティーポットにはまっている腰を指さした。
やや間があった。
次の瞬間、アイノの手がさっと動き、ヌーッティの頭を強く押した。
ヌーッティは悲鳴を上げる暇さえなく、無理矢理ティーポットの中へ押しやられた。
押し込まれたヌーッティは直感した。1番まずい状況が起きつつあるーー否、起きていると。
アイノはヌーッティ入りのティーポットを持ち上げると蓋側を下に向けた。すると、ティーポットの中からごとんと重い物が落下する音がアキたちの耳に入る。
見れば蓋が収まる場所からヌーッティの足がだらりと出ていた。
「ヌーッティ、自分の力でお尻から出るのよ」
アイノの言葉に答えてポットからヌーッティの尻が出始めた。ヌーッティは呻きながら何とか出ようと試みる。
しかし、数分後。
「途中でスタックしたようね」
アイノがティーポットを見ながら呟いた。
見ればヌーッティは両足と尻を出した状態で抜け出せなくなっていた。
アイノは再びティーポットをテーブルに置くと逆さまになっているヌーッティの両足を鷲掴み、引っ張る。何度か繰り返し引っ張るもヌーッティの身体は完全に動かなくなっていた。
「前衛的なアートっぽいね」
ハンナはそう言って、吹き出すよに笑った。釣られて健も吹き出して笑った。
他方、アキはというと額に手を当てうな垂れ、アイノは頬に手を当て困った表情でティーポットを見ていた。
「なんで笑うヌー⁈ もうやだヌー! トゥーリでいいから助けて欲しいヌー!」
注ぎ口から反響するようにヌーッティの懇願する声がアキたちの耳に届いた時、トゥーリがついに腰を上げ、立ち上がった。
「いいんだね? 本当に」
トゥーリは一跳躍でカウンターからテーブルへ飛び移ると悠然とした歩みでティーポットに近く。
「背に腹は変えられないヌー! 頼むヌー!」
両足をばたつかせながらヌーッティはトゥーリに答えた。
ティーポットの前に立ったトゥーリは手で軽くポットをノックした。そして一つ頷くとアキたちへと顔を向けて、
「アキ、みんな、手を貸して。私がヌーッティを出すから」
「どう手伝えばいいの?」
ハンナがトゥーリに尋ねた。
「ハンナとアキはティーポットが動かないようにしっかりと押さえてて」
言われた通りアキとハンナの2人は両手でがっしりとティーポットを押さえ、テーブルに固定した。
「身長の高い健とアイノはテーブルから少し距離を取って……」
健とアイノがテーブルから離れると、トゥーリは、
「降ってくるヌーッティに備えて待機してて」
そう告げた。
その場の全員がトゥーリのその一言でぴたりと動きを止めた。
「ヌーッティが降る?」
嫌な予感を抱いたアキが、テーブルの上に置かれていた健の本を踏み台のようにポットの側に置いているトゥーリに尋ねた。
「大丈夫だよ。一発で決めるから」
本の上に昇ったトゥーリがきりっとした面持ちで答えた。
「やっぱりやめるヌー! ヌーッティはこのままでいいヌー!」
そんなヌーッティの言葉を無視して、トゥーリは片腕でじたばたもがくヌーッティの両足を絡め取る。
「往生際が悪いよ!」
「やだヌー! やだヌー‼︎ やだヌー‼︎!」
ヌーッティがもがこうとすればするほど、トゥーリのヌーッティを押さえている腕に力が入り、それはヌーッティの力よりも優っていた。
「みんな、いくよ! せーの!」
掛け声一発、トゥーリは空いている方の手でヌーッティに強烈な腹パンを食らわせると同時に、絡め取ったヌーッティの足をポットから勢いよく引き抜いた。
すぽん! とボトルのコルクが抜けるような音と共に、ヌーッティの身体が宙を舞う。
トゥーリによって空中高くにぶん投げられたヌーッティをキャッチしたのは健であった。
ヌーッティは健の手の上で完全にのびていた。
「作戦完了」
見届けてトゥーリはアキに向かって親指を立てて見せた。
アキは安堵の溜め息を吐いた。
こうしてヌーッティは無事にティーポットから抜け出すことができた。
数日後。
ヌーッティのお腹まわりの締め付けられたように赤くなっていた箇所が薄らいできた頃、ヌーッティは1人でカフェのキッチンにいた。
アキとトゥーリ、ハンナと健とアイノは、カフェのテーブルに着席し、コーヒーや紅茶を飲みながら、クリスマスパーティの計画を話し合っていた。
暇そうにしているヌーッティの手元に、ヌーッティが入れるくらいの大きさの濃い青色のキャニスターがあった。
ヌーッティはまじまじとそれを見つめ、手を伸ばした。
そして、悲劇は繰り返されるのであった。
「つ、ついに出てきたヌー……暗黒卿が来てしまったヌー!」
その言葉を聞いたアイノは目を細めてヌーッティを見据える。
「誰が暗黒卿なのよ。それで、どうしてヌーッティがティーポットに入ってシンクの中にいるの?」
アイノはアキたちに顔を向けて尋ねた。
「それが、何というか……」
歯切れ悪く、ぐぐもりながらもアキは事の顛末をアイノに話し始めた。
そして数分後。
手を顎に当てながらアイノはちらりと視線をヌーッティに移す。
「なるほどね。そういうこと。それなら簡単な解決方法があるわ」
言いながらアイノはカウンターの中へ入り、水で濡れたヌーッティとティーポット、そして置いてあった乾いたキッチンクロスを一枚手に取る。そして、それらを持って健とハンナの荷物が置かれたテーブルへ行くと、ティーポットをテーブルの上に置いてキッチンクロスでヌーッティとティーポットを柔らかい動きで拭いた。
ヌーッティは気持ちよさそうにじっとしていた。それは、まるでトリミングされている犬のような様子であった。
やがて拭き終えると、アイノはキッチンクロスを折り畳んでテーブルに置いた。
「それでどうするんだ?」
アキが心配そうな面持ちでアイノに尋ねた。
「簡単よ。頭から出られないなら足から出ればいいだけじゃない。さあ、ヌーッティ。ティーポットの中にもう一度入って」
ヌーッティは首を少し傾げた。
「無理だヌー。ヌーッティの身体はここで動こかなくなってるヌー」
困った様子でヌーッティは自身のティーポットにはまっている腰を指さした。
やや間があった。
次の瞬間、アイノの手がさっと動き、ヌーッティの頭を強く押した。
ヌーッティは悲鳴を上げる暇さえなく、無理矢理ティーポットの中へ押しやられた。
押し込まれたヌーッティは直感した。1番まずい状況が起きつつあるーー否、起きていると。
アイノはヌーッティ入りのティーポットを持ち上げると蓋側を下に向けた。すると、ティーポットの中からごとんと重い物が落下する音がアキたちの耳に入る。
見れば蓋が収まる場所からヌーッティの足がだらりと出ていた。
「ヌーッティ、自分の力でお尻から出るのよ」
アイノの言葉に答えてポットからヌーッティの尻が出始めた。ヌーッティは呻きながら何とか出ようと試みる。
しかし、数分後。
「途中でスタックしたようね」
アイノがティーポットを見ながら呟いた。
見ればヌーッティは両足と尻を出した状態で抜け出せなくなっていた。
アイノは再びティーポットをテーブルに置くと逆さまになっているヌーッティの両足を鷲掴み、引っ張る。何度か繰り返し引っ張るもヌーッティの身体は完全に動かなくなっていた。
「前衛的なアートっぽいね」
ハンナはそう言って、吹き出すよに笑った。釣られて健も吹き出して笑った。
他方、アキはというと額に手を当てうな垂れ、アイノは頬に手を当て困った表情でティーポットを見ていた。
「なんで笑うヌー⁈ もうやだヌー! トゥーリでいいから助けて欲しいヌー!」
注ぎ口から反響するようにヌーッティの懇願する声がアキたちの耳に届いた時、トゥーリがついに腰を上げ、立ち上がった。
「いいんだね? 本当に」
トゥーリは一跳躍でカウンターからテーブルへ飛び移ると悠然とした歩みでティーポットに近く。
「背に腹は変えられないヌー! 頼むヌー!」
両足をばたつかせながらヌーッティはトゥーリに答えた。
ティーポットの前に立ったトゥーリは手で軽くポットをノックした。そして一つ頷くとアキたちへと顔を向けて、
「アキ、みんな、手を貸して。私がヌーッティを出すから」
「どう手伝えばいいの?」
ハンナがトゥーリに尋ねた。
「ハンナとアキはティーポットが動かないようにしっかりと押さえてて」
言われた通りアキとハンナの2人は両手でがっしりとティーポットを押さえ、テーブルに固定した。
「身長の高い健とアイノはテーブルから少し距離を取って……」
健とアイノがテーブルから離れると、トゥーリは、
「降ってくるヌーッティに備えて待機してて」
そう告げた。
その場の全員がトゥーリのその一言でぴたりと動きを止めた。
「ヌーッティが降る?」
嫌な予感を抱いたアキが、テーブルの上に置かれていた健の本を踏み台のようにポットの側に置いているトゥーリに尋ねた。
「大丈夫だよ。一発で決めるから」
本の上に昇ったトゥーリがきりっとした面持ちで答えた。
「やっぱりやめるヌー! ヌーッティはこのままでいいヌー!」
そんなヌーッティの言葉を無視して、トゥーリは片腕でじたばたもがくヌーッティの両足を絡め取る。
「往生際が悪いよ!」
「やだヌー! やだヌー‼︎ やだヌー‼︎!」
ヌーッティがもがこうとすればするほど、トゥーリのヌーッティを押さえている腕に力が入り、それはヌーッティの力よりも優っていた。
「みんな、いくよ! せーの!」
掛け声一発、トゥーリは空いている方の手でヌーッティに強烈な腹パンを食らわせると同時に、絡め取ったヌーッティの足をポットから勢いよく引き抜いた。
すぽん! とボトルのコルクが抜けるような音と共に、ヌーッティの身体が宙を舞う。
トゥーリによって空中高くにぶん投げられたヌーッティをキャッチしたのは健であった。
ヌーッティは健の手の上で完全にのびていた。
「作戦完了」
見届けてトゥーリはアキに向かって親指を立てて見せた。
アキは安堵の溜め息を吐いた。
こうしてヌーッティは無事にティーポットから抜け出すことができた。
数日後。
ヌーッティのお腹まわりの締め付けられたように赤くなっていた箇所が薄らいできた頃、ヌーッティは1人でカフェのキッチンにいた。
アキとトゥーリ、ハンナと健とアイノは、カフェのテーブルに着席し、コーヒーや紅茶を飲みながら、クリスマスパーティの計画を話し合っていた。
暇そうにしているヌーッティの手元に、ヌーッティが入れるくらいの大きさの濃い青色のキャニスターがあった。
ヌーッティはまじまじとそれを見つめ、手を伸ばした。
そして、悲劇は繰り返されるのであった。
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