21 / 159
ヌーッティと魔法のティーポット
2.ヌーッティとアキのいたずら
しおりを挟む
「お待たせ」
数分後、アキは焦茶色のティーポットとカップ、銀色のティーストレーナーをトレーに乗せて健のテーブルへとやって来る。
「あれ? 今日はセルフじゃないんだ」
読んでいた本にしおりを挟んで健はアキの顔を見た。いつもなら、カウンターでトレーを受け渡すのだが、今日に限ってはアキがテーブルまで運んで来たのであった。
健は手にしていた本をテーブルに置くと、
「ありがとな、アキ」
顔を上げて、側に立つアキへ感謝を述べた。
「あとは任せた。武運を祈る」
アキはそう言い置いて健のテーブルから離れた。
何を言っているのか意味が取れなかった健は、ぽかんとした表情でアキを見ていた。やがて、
「まあ、いいや」
そう独り言つと、ティーポットの取手に手をかけた。その時であった。
「じゃじゃーん! 魔法のティーポットの妖精ヌーッティだヌー!」
ティーポットの蓋がかちゃりと持ち上がり、中からヌーッティが出てきた。
蓋を両手で持ち上げ、上半身だけポットから出てきたヌーッティを見るや否や、健はアキへ視線を移す。
「俺、こういうサプライズを頼んだ覚えはないんだけど?」
「特別なお茶だよ。ヌーッティという名の」
健はアキからヌーッティへ顔を向ける。ヌーッティの瞳はきらきらと輝き、健を真っ直ぐに見つめていた。
「ヌーッティは魔法のティーポットの妖精さんだヌー! さあ、ヌーッティの願い事を叶えるヌー!」
「逆でしょ?」
アキと健は同時に突っ込んだ。
「逆じゃないヌー。ポットの持ち主が妖精さんの願いを全部叶えるんだヌー。トゥーリと一緒に観た動画では魔法のティーポットの妖精さんがそう言ってたヌー」
アキはカウンターに腰掛けて3人の様子を観ていたトゥーリを見た。
トゥーリは首を横に振った。
「違うよ。魔法のティーポットの妖精がポットを持っている人の願いを叶えるんだよ。そう言ってた」
アキは、またいつものヌーッティの勘違いか、とそう内心独り言ちた。
「ヌーッティはどうでもいいからお茶早くちょーだい」
健がアキにお茶を催促する。
「その前に5ヶ月分のコーヒーのツケ払えよ」
アキの返答に健は照れるように笑った。今日も回収は難しいなぁと内心言ちるアキは健のテーブルへ戻る。
「もういいよ、ヌーッティ。カップから出ておいで。健の紅茶淹れなくちゃだから」
アキはひょいっとヌーッティが両手で持ち上げている蓋を取った。
「しかたないヌー。今日のとことはかんべんしてあげるヌー」
ヌーッティはティーポットの縁に手を置き、出ようとした。だが、するりと出られなかった。そこでお腹が邪魔をして出にくいとヌーッティは考えた。ヌーッティはお腹を引っ込ませ出ようとした。しかし、それでも出られなかった。ヌーッティは、今度はお尻が邪魔をしていると考えた。ポットの中に隠れているお尻を腰をよじってもぞもぞ動かす。けれども、ティーポットから抜け出ることはできなかった。
「ヌーッティ? ティーポット使いたいんだけど、まだ?」
訝るアキを懇願の瞳で見つめるヌーッティ。ヌーッティの顔は青ざめ、額には幾粒もの冷や汗が浮かんでいた。
それを見たアキの表情が強張った。
「……で、出られないヌー」
ヌーッティの声は震えている上にとてもか細いものであった。
それを聞いたアキの顔からさっと血の気が引いたのは言うまでもない。健はぐふっと笑い声を立てた。トゥーリは重い溜め息を一つ吐いた。
数分後、アキは焦茶色のティーポットとカップ、銀色のティーストレーナーをトレーに乗せて健のテーブルへとやって来る。
「あれ? 今日はセルフじゃないんだ」
読んでいた本にしおりを挟んで健はアキの顔を見た。いつもなら、カウンターでトレーを受け渡すのだが、今日に限ってはアキがテーブルまで運んで来たのであった。
健は手にしていた本をテーブルに置くと、
「ありがとな、アキ」
顔を上げて、側に立つアキへ感謝を述べた。
「あとは任せた。武運を祈る」
アキはそう言い置いて健のテーブルから離れた。
何を言っているのか意味が取れなかった健は、ぽかんとした表情でアキを見ていた。やがて、
「まあ、いいや」
そう独り言つと、ティーポットの取手に手をかけた。その時であった。
「じゃじゃーん! 魔法のティーポットの妖精ヌーッティだヌー!」
ティーポットの蓋がかちゃりと持ち上がり、中からヌーッティが出てきた。
蓋を両手で持ち上げ、上半身だけポットから出てきたヌーッティを見るや否や、健はアキへ視線を移す。
「俺、こういうサプライズを頼んだ覚えはないんだけど?」
「特別なお茶だよ。ヌーッティという名の」
健はアキからヌーッティへ顔を向ける。ヌーッティの瞳はきらきらと輝き、健を真っ直ぐに見つめていた。
「ヌーッティは魔法のティーポットの妖精さんだヌー! さあ、ヌーッティの願い事を叶えるヌー!」
「逆でしょ?」
アキと健は同時に突っ込んだ。
「逆じゃないヌー。ポットの持ち主が妖精さんの願いを全部叶えるんだヌー。トゥーリと一緒に観た動画では魔法のティーポットの妖精さんがそう言ってたヌー」
アキはカウンターに腰掛けて3人の様子を観ていたトゥーリを見た。
トゥーリは首を横に振った。
「違うよ。魔法のティーポットの妖精がポットを持っている人の願いを叶えるんだよ。そう言ってた」
アキは、またいつものヌーッティの勘違いか、とそう内心独り言ちた。
「ヌーッティはどうでもいいからお茶早くちょーだい」
健がアキにお茶を催促する。
「その前に5ヶ月分のコーヒーのツケ払えよ」
アキの返答に健は照れるように笑った。今日も回収は難しいなぁと内心言ちるアキは健のテーブルへ戻る。
「もういいよ、ヌーッティ。カップから出ておいで。健の紅茶淹れなくちゃだから」
アキはひょいっとヌーッティが両手で持ち上げている蓋を取った。
「しかたないヌー。今日のとことはかんべんしてあげるヌー」
ヌーッティはティーポットの縁に手を置き、出ようとした。だが、するりと出られなかった。そこでお腹が邪魔をして出にくいとヌーッティは考えた。ヌーッティはお腹を引っ込ませ出ようとした。しかし、それでも出られなかった。ヌーッティは、今度はお尻が邪魔をしていると考えた。ポットの中に隠れているお尻を腰をよじってもぞもぞ動かす。けれども、ティーポットから抜け出ることはできなかった。
「ヌーッティ? ティーポット使いたいんだけど、まだ?」
訝るアキを懇願の瞳で見つめるヌーッティ。ヌーッティの顔は青ざめ、額には幾粒もの冷や汗が浮かんでいた。
それを見たアキの表情が強張った。
「……で、出られないヌー」
ヌーッティの声は震えている上にとてもか細いものであった。
それを聞いたアキの顔からさっと血の気が引いたのは言うまでもない。健はぐふっと笑い声を立てた。トゥーリは重い溜め息を一つ吐いた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】
ちっき
ファンタジー
異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!
異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。
碧
児童書・童話
異世界転生したものの、チートもなければ、転生特典も特になし。チート無双も冒険もしないけど、現代知識を活かしてマイペースに生きていくゆるふわ少年の日常系ストーリー。テンプレっぽくマヨネーズとか作ってみたり、書類改革や雑貨の作成、はてにはデトックス効果で治療不可の傷を癒したり……。チートもないが自重もない!料理に生産、人助け、溺愛気味の家族や可愛い婚約者らに囲まれて今日も自由に過ごします。ゆるふわ癒し系異世界ファンタジーここに開幕!【第2回きずな児童書大賞・読者賞を頂戴しました】 読んでくださった皆様のおかげです、ありがとうございました!
ルカとカイル
松石 愛弓
児童書・童話
異世界に転移してきた魔法を使えるルカと、金色の虎から人の姿に変身できるカイルの日常。童話のパロディや、森の動物たちの日常をコメディ路線で書いてゆく予定です。
ほぼショートショートの読み切りのお話です。すぐに気楽に読めると思います。よろしくお願いします。不定期更新です。
妖精さん達と暮らそう 改訂版
東郷 珠
児童書・童話
私にしか見えない妖精さん。
色んな妖精さんが、女の子を助けます。
女の子は、妖精さんと毎日楽しく生活します。
妖精さんと暮らす女の子の日常。
温かく優しいひと時を描く、ほのぼのストーリーをお楽しみ下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる