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ヌーッティと魔法のティーポット

1.カフェ・サンポ

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 ある冬のお昼過ぎ——フィンランド首都ヘルシンキのルーネベリ通り。
 暖かい陽の光が石畳の路面を艶やかに照らし出す。観光スポットが近くにあるルーネベリ通りは普段よりも閑散としていた。
 その通りに面したマンションの一階部分に、アキの祖母が経営するカフェ「Kahvilaカハヴィラ Sampoサンポ」がある。アキは予定のない日の休日にここのカフェの店番をしている。この日も午前中から店番を任されていた。
 小人の女の子トゥーリと小熊の妖精ヌーッティもアキにくっついて来て人気の少ないカフェでアキの手伝をしていた。
 アキは造り付けのL字型の大きなカウンターの中でグラスを拭いたり、コーヒーを淹れたり、厨房にいる祖母が運んでくるサンドイッチやケーキ、それにサラダなどをガラスのショーケースに並べたりしている。
 トゥーリは、カウンターのワークトップの上で、洗いたてのキッチンクロスやタオルなどを丁寧に折りたたんでいた。他方、ヌーッティはというと、トゥーリと同じワークトップの上で、ヌーッティがすっぽり入れる大きさほどもあるティーポットを鼻歌混じりにクロスで磨いていた。
 ヌーッティは息を吹きかけながら、焦茶色の陶器のティーポットをまじまじと見つめる。そして、首を傾げた。
「もしかしてこれは魔法のティーポットかヌー?」
 側を通り過ぎたアキがヌーッティの言葉を耳に拾う。
「昨日の夜、一緒に観ていた番組のあのポット?」
 アキはマグカップをカウンターの上に並べながら視線だけヌーッティへ向けて尋ねた。
「そうだヌー。魔法の妖精さんが出てきてなんでも願いごとを叶えるあれだヌー。ヌーッティも魔法のティーポットが欲しいヌー!」
 それを聞いたアキは笑い、トゥーリは呆れた面持ちで溜め息を吐いた。
「ヌーッティは妖精なんだし、願い事を頼む役じゃなくて、ポットから出てくる妖精役がちょうどいいかもな」
 アキの言葉を聞いたヌーッティはあることを閃いた。
 その時、入り口のドアベルが店内に鳴り響いた。
 アキは入り口に目を移す。
「いらっしゃいませ……って、なんだ、健か」
 入り口には長身の男性が1人立っていた。
「なんだって何だよ。せっかく来たのに」
 健と呼ばれた男性は、アキが日本に住んでいた時以来の年長の幼馴染みである。彼はヘルシンキにある大学院に留学していて、このカフェの常連客の1人でもある。
「今日はコーヒーじゃなくて紅茶にしよっかな」
 言いながら健はカウンターに近いテーブルに着く。
 アキは焦茶色のティーカップと銀のティーストレーナー、そして健が好きなレッドアップルのフレーバードティーの茶葉をさっと用意した。その間にトゥーリが赤色のホーローのケトルに水を入れてコンロの上に置いた。アキはトゥーリにありがとうと言うと火を点けた。
 茶葉をティーポットの中へ入れるため、ヌーッティが丹精込めて磨いていたポットを手を伸ばした。すると、ヌーッティが指を一本立てて、しーっと潜めた声を出す。
「健をおどろかすヌー!」
 ひそひそとアキへ向かってヌーッティは提案をした。
 普段のアキならば、ヌーッティのいたずらを止めるのだが、いたずらされる対象が幼馴染みの健ということもあり、今回は2人で驚かそうということになった。こうして、アキとヌーッティのいたずら計画が始まったのである。
 しかし、後に2人の身に降りかかる災難をトゥーリ以外の誰が予想できたであろうか。
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