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ヌーッティ危機一髪

4.ヌーッティ危機一髪

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「吐いて! 吐くんだよ、ヌーッティ!」
 慌てたアキは片手で団子を喉に詰まらせたヌーッティの背中を叩いた。
 ヌーッティは首を横に振った。吐き出したくないという意思表示であった。
「このままだと死んじゃうから吐く!」
 けれどもヌーッティは首を横に振った。加えて、あろうことか空いている両手で団子を二つ掴み取り、食べようとしている。
「だめだめだめ! とにかく吐くんだよ!」
 アキは空いている方の手でヌーッティの手を止めた。
 その時であった。
「アキ、任せて」
 デスクの上にいるトゥーリはすっと立ち上がると、ヌーッティとアキのいるベッドサイドテーブルへひとっ飛びで移る。
 トゥーリは青ざめているアキの顔を見つめると、
「ヌーッティから手を離してて」
 アキはそっとヌーッティの背中から手を離した。
「もう大丈夫だよ、ヌーッティ。絶対に死なせないから」
 トゥーリは優しく言葉をかけると、右手をぐっと握り締め、拳を作る。
 ヌーッティはそれを見て首を強く横に振る。
「すぐに楽になるからね」
 トゥーリは右肘をぐっと後ろへ引き、上半身を軽く捻る。
 そして、上半身を元に戻す勢いを利用し、右の拳をヌーッティの腹へぶち込んだ。
「ごぇふぅっ⁈」
 嗚咽を発したヌーッティの口からペースト状になった団子と一塊の団子が飛び出した。
 ヌーッティは腹を両手で抱えながらテーブルの上にうつ伏せで突っ伏した。
「これでよし!」
 ひと仕事を終えた感のある表情でトゥーリはアキに親指を立てて見せた。
 困惑した様相のアキは、痙攣を起こしながらテーブルにうつ伏せで横たわっているヌーッティと、何事もないような表情のトゥーリを交互に見て、
「トゥーリ。ヌーッティが泡を吹いているんだけど……?」
「喉に詰まらせた団子を吐いたから大丈夫だよ」
 悠然と答えるトゥーリにアキは再び尋ねる。
「えーっと、団子は吐いたけど、青ざめているんだけど?」
「そのうち起きるでしょ」
 トゥーリはそう答えるとデスクへ戻って行き、何事もなかったかのように、小皿に乗っている団子を再び頬張り始めた。
 アキは気を失っているヌーッティの口元をティッシュで拭うと、ヌーッティをベッドへ運んで寝かせた。それからティッシュとウェットティッシュを使い、ベッドサイドテーブルの上に吐き散らかされた吐瀉物を片付けた。
 こうして十五夜の夜が過ぎていった。

 翌日のお昼過ぎ。
「団子を食べるヌー!」
 ヌーッティは誰もいないキッチンで一人昨晩の残りの団子を食べ始めた。
 昨日団子を喉に詰まらせ窮地に陥ったことなどもう記憶には残っていないかのように、次から次へと、咀嚼し飲み込む前に、団子を食べている。
 そして、再びヌーッティの身の上に厄災が降りかかるのであった。
 その後のことは誰も知らない。
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