上 下
14 / 159
ヌーッティ危機一髪

3.お月見

しおりを挟む
 月が空に浮かび、ヌーッティはトゥーリとアキと三人でカーテンを開けた窓から夜空を眺めていた。
 月光が差し込むアキの部屋では天井にあるライトを消していた。その代わり、柔らかい光のスタンドライトと、火を灯した大小いくつかのキャンドルの明かりが部屋を照らしていた。月明かりも入ってきているので暗くはなかった。
 アキはワーキングデスクの前にある椅子に腰掛け、ヌーッティとトゥーリはベッドの上に座っていた。
 ヌーッティは窓からアキへ視線を移す。
「ススキは食べられないヌー?」
「食べられないよ」
 間髪入れずにアキにとトゥーリが答えた。
「お月見は月を眺めるんだよ」
 トゥーリがヌーッティに説明した。
 ヌーッティは首を傾げ、
「お月さまを見てもおなかいっぱいにはならないヌー」
 トゥーリは目を細めてヌーッティを見やる。
「どうしていつも『おなかいっぱい』が考えの基準になるの? お月見を始めてまだ三分も経ってないんだよ?」
「お団子を見てるだけはつまらないヌー。トゥーリはなにもわかってないヌー」
 ヌーッティは肩をすくめ、ため息をこぼした。
 トゥーリもため息を吐いた。
 そんな二人のやりとりを見ていたアキは柔い微笑みで笑った。
「お月見しながら団子でも食べよっか」
 ヌーッティの目が輝いた。
「食べたいヌー!」
 両手足をばたつかせヌーッティは全身で嬉しさを表した。
「一階へ行って用意してくるから少し待ってて」
 アキは椅子から立ち上がり、部屋を出て一階のキッチンへと向かった。
 程なくして自室へと戻ってきたアキは、大きめな皿に積まれた団子と、取り分け用の小皿三枚、あんこやきな粉が入った丸い器二つ、あんこやきな粉を取る時に使うスプーン二つ、牛乳が入った小さなグラス二つとコーヒーの入ったマグカップ一つをトレーに乗せて持ってきた。
 トレーをデスクの上に置くと、ベッドの上にいたヌーッティはベッドから下りて床を走り、デスクの引き出しを足場にしてデスクの天板の上へとよじ登った。対してトゥーリは一跳躍でベッドからデスクの上へと到着した。
 ヌーッティはグラスを手に取ると、
「お月見パーティーの始まりだヌー! 乾杯するヌー!」
 グラスを上へと持ち上げた。
 トゥーリもグラスを持つと、アキもマグカップを手に取り、
乾杯キッピス!」
 三人それぞれグラスとマグカップを軽く当てた。
 ヌーッティは牛乳を一気の飲み干すと、素早い動きで小皿を取り、団子をいくつも乗せた。その上にあんこをたっぷりとかけた。
 その様子を横目で見ていたトゥーリは、
「それ、全部食べられるの?」
「このくらいじゃヌーのお腹はいっぱいにならないヌー!」
 トゥーリは何の返答もしなかった。ただ、呆れた表情を浮かべているだけであった。
 アキはコーヒーを一口飲むとマグカップをデスクに置いた。
「がっついて食べて喉に詰まらせないようにな」
 ヌーッティは頷いて答えて見せただけで、団子を食べることに夢中であった。アキは内心、話を聞いてないなぁと思った。
 ヌーッティはあっという間に小皿に取り分けた団子を食べ切った。
 ちらりとヌーッティはトゥーリの団子が乗った小皿を見る。
 その視線に気づいたトゥーリは、
「だめだよ。こっちのお皿はわたしとアキの分だよ。ヌーッティのじゃないよ」
 それを聞いたヌーッティは小皿から窓辺に飾られている団子に視線を移す。
 しばらく沈黙があった。
「食べるヌー!」
 沈黙をぶち破ったのはヌーッティであった。
 ヌーッティが窓の方へ駆け出した。
「ヌーッティ⁈」
 トゥーリの手はヌーッティに届かなかった。
 ヌーッティは窓のところに置かれたベッドサイドテーブルをよじ登った。素早い動きであっという間に天板の上にたどり着いた。
「食べちゃだめー!」
 トゥーリの制止はヌーッティの耳に届かなかった。
 ヌーッティは両手を使って団子を二つ取る。
「いただきますだヌー!」
 食べるが早いか、ヌーッティは団子をひとかじりした。
 もぐもぐもぐもぐと、ヌーッティは団子を次々に食べる。
 幸せそうな笑顔でむさぼり食べるヌーッティ。
 何個目かの団子を口に丸飲みした瞬間、ヌーッティの手が止まった。
 顔は赤くなり、数滴の冷や汗が浮かぶ。
「ヌーッティ?」
 動かなくなったヌーッティを不審に思い、アキは声をかけた。
 だが、ヌーッティからの応答はなかった。
 何かを察したアキは急いでヌーッティの側へ寄る。
 見れば苦悶の表情を浮かべているヌーッティがいた。
「もしかして喉に詰まらせたのか?」
 恐る恐る尋ねたアキの問いにヌーッティは目で答えた。
 アキの顔に焦りの色が現れる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

野良の陰陽師少女♪

健野屋文乃
児童書・童話
吾が名は、野良のあき!ゆきちゃんの心の友にして最強の式神使い?! いつもは超名門女子小学校に通っている女の子のあき。 不可思議な式神たちと、心の友、引き籠り中の少女ゆきちゃんとの物語は進行中♪

魔法少女はまだ翔べない

東 里胡
児童書・童話
第15回絵本・児童書大賞、奨励賞をいただきました、応援下さった皆様、ありがとうございます! 中学一年生のキラリが転校先で出会ったのは、キラという男の子。 キラキラコンビと名付けられた二人とクラスの仲間たちは、ケンカしたり和解をして絆を深め合うが、キラリはとある事情で一時的に転校してきただけ。 駄菓子屋を営む、おばあちゃんや仲間たちと過ごす海辺の町、ひと夏の思い出。 そこで知った自分の家にまつわる秘密にキラリも覚醒して……。 果たしてキラリの夏は、キラキラになるのか、それとも? 表紙はpixivてんぱる様にお借りしております。

声優召喚!

白川ちさと
児童書・童話
 星崎夢乃はいま売り出し中の、女性声優。  仕事があるって言うのに、妖精のエルメラによって精霊たちが暴れる異世界に召喚されてしまった。しかも十二歳の姿に若返っている。  ユメノは精霊使いの巫女として、暴れる精霊を鎮めることに。――それには声に魂を込めることが重要。声優である彼女には精霊使いの素質が十二分にあった。次々に精霊たちを使役していくユメノ。しかし、彼女にとっては仕事が一番。アニメもない異世界にいるわけにはいかない。  ユメノは元の世界に帰るため、精霊の四人の王ウンディーネ、シルフ、サラマンダー、ノームに会いに妖精エルメラと旅に出る。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐︎登録して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

ぼくとぼくたち

ちみあくた
児童書・童話
大好きなおばあちゃんが急な病気で亡くなり、明くんへ残してくれたもの。 それは、山奥で代々守られてきたという不思議な鏡でした。 特別なおまじないをし、角度を付けて覗くと、鏡の中には「覗いた人」の、少しだけ違う姿が映し出されます。 人生の様々な場面で、「覗いた人」が現実とは違う選択をし、違う生き方をした場合の姿を見ることが出来るのです。 おばあちゃんは、鏡の中にいる自分と話したり、会ったりしてはいけない、と言い残していました。 でも、ある日、その言いつけを破ってしまった事から、明くんは取り返しのつかないトラブルへ巻き込まれてしまうのです…… エブリスタ、小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しております。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

猫のお知らせ屋

もち雪
児童書・童話
神代神社に飼われている僕、猫の稲穂(いなほ)は、飼い主の瑞穂(みずほ)ちゃんの猫の(虫の)お知らせ屋になりました。 人間になった僕は、猫耳としっぽがあるからみずほちゃんのそばにいつもいられないけれど、あずき先輩と今日も誰かに為に走ってる。花火大会、お買い物、盆踊り毎日楽しい事がたくさんなのです! そんな不思議な猫達の話どうぞよろしくお願いします

火星だよ修学旅行!

伊佐坂 風呂糸
児童書・童話
 火星まで修学旅行にきたスイちゃん。どうも皆とはぐれて、独りぼっちになったらしい。困っていると、三回だけ助けてもらえる謎のボタンを宇宙服の腕に発見する。  次々と迫り来るピンチ!  四人の心強い味方と仲良くなったスイちゃんは力を合わせ、数々の困難を乗り越えて、修学旅行のメインイベントであったオリンポス山の登頂を成功させる事はできるのでしょうか。  

処理中です...