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ヌーッティ危機一髪

1.十五夜とヌーッティ

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「じゅうごやってお団子を食べる日なんだヌー?」
 キッチンの中央に置かれた木製の大きな作業台の上に立つ小熊の妖精ヌーッティが、作業台で団子を作っている青年アキに向かって尋ねた。
 アキは両手で生地をころころと丸めながら首を傾げた。
「団子を食べる日っていうかお月さまに団子を供えるっていうか、食べるのがメインじゃないんだよ」
 うまく返答ができないアキの声は先細りになった。
 十五夜に団子をススキや芋などと一緒に月に供えることは知っていても、何故そのような風習が生まれたのかを問われるとアキは答えに窮してしまった。あとでネットで調べてみようとアキは思った。いざとなれば日本にいる祖母に訊くのも手だなと思いながら。
「お月見のときに供えるものだから、お団子はすぐに食べられないんだよ。そうだよね、アキ」
 小人の女の子でヌーッティとアキの友だちのトゥーリが、ヌーッティの隣に立ちながら、上新粉の袋をばりっと音を立てて開けた。トゥーリはバットの中に上新粉を少しずつ広げるように振り入れた。
 アキはトゥーリの言葉に頷くと、
「供え終えてから食べるんだよ」
 そう付け足した。
 ヌーッティは出来上がった団子を、よだれを垂らしそうになりながら、しゃがみ込んで見つめている。
「そなえると時間が経ってかぴかぴになっちゃうヌー。今食べたいヌー」
 ヌーッティが団子に手を伸ばすと、トゥーリがすかさず作業の手を止め、ばちんっとヌーッティの手を叩く。
「痛いヌー! 食べようなんてしてないヌー!」
 ヌーッティは叩かれた手をさすりながらトゥーリを批難の色を湛えた瞳で見つめる。
「この間もそう言っておいてアキのドーナツ食べちゃったじゃん!」
 トゥーリは目を細めてわざとらしい仕草のヌーッティを見やる。
 その様子を見ていたアキは団子を丸める手を止めて溜め息をひとつ。
「そこまで。あともう少しで作り終えるんだし、喧嘩しない。トゥーリもヌーッティも生地を丸めて団子を作る! はい、やって!」
 アキの号令一下、ヌーッティとトゥーリはそれぞれの小さな手で団子を作り始める。
 ほどよい大きさのトゥーリの団子に比べてヌーッティが丸めた団子は一口では食べられないほどに大きかった。
 こうして十五夜の前日の夜があっという間にふけていった。
 それにしても、この時誰が予想をしていたのであろうか。後にヌーッティに降りかかる厄災のことを。
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