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祠とお札
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四人はそれぞれ家族にしほの家に泊まると連絡をしていました。しほは、四人で行くと連絡したようで、しほの家族が笑顔で出迎えてくれます。夕飯の時間までは四人でゲームをしたり、漫画を読んだり思い思いに楽しみました。
夕飯を済ませると、いよいよ夜。四人はそわそわして時計を、外を気にしていました。早く暗くならないかと心待ちにする者。暗くなってきてしまったと怖気付く者。それぞれです。
しほの家はあまり門限などに厳しくないので、夜出掛けるにはちょうど良かったのです。しほの母親は「今からちょっと外で遊んでくる」というと、「あまり遅くならんようにね」とそれだけでした。知っている人間しかいないから安心、という思いもあったのかと思います。
外はすっかり暗くなりました。
「ねえ、ほんとにやるの?」
きっかはしほの腕にしがみついています。しほはやれやれといった感じできっかの頭を撫でています。
「もうここまで来たんだから」
みちるは両手でシャツの裾を握り、きょろきょろと辺りを警戒しています。
「なんもおらんて」
りまは大笑いして、そんなみちるのお尻を叩きます。
「りまちゃんー……」
みちるは今にも泣き出してしまいそうでした。とは言ってもはっきりお互いの表情が見えないほど、真っ暗です。道路でさえ街灯はほとんどなく、山に行けばもっと暗いだろうことは明白でした。
山に行くにはしほの家から通りに出て、田んぼに囲まれた畦道を抜けます。時間にして5分程度で山の裾に到着してしまいます。山とは言っても、この部落自体が山の中にあるようなもの。地元の三人にとってはかなり慣れ親しんだ場所です。明るい時間であればセミを取ったり、木の実を拾ったりと楽しい場所なのです。
「うわ、思ったより真っ暗」
「こんなん無理てぇ」
「大丈夫大丈夫! 目ぇ慣れて来たし、ちょっと見えるやん」
「ほんとにやるの? ほんとに?」
「ほーんーとーて!」
真っ暗な中で笑い声だけが浮かんでいるようでした。虫の鳴き声や何かが動く音に、今笑っていたばかりのしほとりまでさえも少し足がすくみます。二人が一瞬、でしょうか。ほんの少し口を噤む間にも、風の音やそれによって揺れる木々の音が四人の間を吹き抜けていき、恐れを抱く少女たちには人の囁き声のように聞こえるのでした。
「何、今の音っ」
「風だよ! 風が吹いただけ!」
自分にも言い聞かせます。
そんなに怖いならやめとけばいいのに。そう思いましたか? ですが、多分ですけど四人にはそれぞれ、ここまで来たら辞められないという思いもあったのです。なんと言っても、普段とは違う特別な夏の思い出となるには違いなかったのですから。
「ねえ、こんなところ一人で隠れてられないよ。せめて肝試しとかにしない?」
きっかが辺りを警戒しながらそっと腕を掴み、しほに問いかけます。今「やめよう」と言える人物がいるとするなら、他でもない彼女しかいません。
「そ、それじゃあつまらんやろ」
ですがやはりしほも、引くに引けないのです。
「ルールは? どうする?」
早く終わらせたい気持ち半分、早くやりたい気持ち半分でりまが腕を組みながら促します。
「じゃんけんで負けた人が鬼。この先にある祠のところに注連縄の木があるやろ。そこで100数えるの。」
しほが震える声を抑えてなるべく気丈にルールを説明します。
「ひゃくぅ!?」
「長い長い長いっ!」
怖がりの二人から抗議の声が上がりました。
「なるべく遠くに隠れたいやろ?」
その言葉に二人は合わせたかのようにぶんぶんと首を横に振りましたが、その様子にしほは肩をすくめるだけでした。
「鬼は大きな声で数を数えること。隠れる人は声が聞こえるところまでしか行かんこと。100数え終わった時にいた地点より遠くには行かんこと。これでどう??」
「それなら少しは見つけやすいかもね」
しほとりまの二人で話は完結してしまいました。
道とは呼べない場所をどうにか小さな明かりで灯しながら歩いていると、しほの言っていた注連縄の木が見えてきました。
子どもが見上げるととても大きな大きな木に見えます。幹も太く、そこに巻き付けた注連縄と四角い垂が、四人にもこの木が特別な物であることを教えてくれます。もしかすると、しほは恐怖心から護ってもらおうとこの木を選んだのかもしれません。
注連縄の木の程近くには小さな祠があります。三人には見慣れたものですし、きっかもある夏に見たことがありました。昔に建てられたのか古くなっていて、夜に見ると少々不気味にも感じました。
村の子どもたちは大事な祀り神か何かだと思い、幼いながらも祠の前で無礼な振る舞いはいけないと気をつけていました。ですが本当は何なのか、誰も知らないのです。
「じゃあいくよっ、じゃーんけーん」
「ほいっ!!」
四人が声を揃えて掛け声に応え、それぞれ片手を出しました。
「やだぁ、私が鬼ぃ?」
「よし、じゃありま。100、数えてね! スタートっ」
じゃんけんの結果、りまはちょきで一人負けしてしまいすぐに鬼が決定しました。他の三人には安堵の表情が浮かびます。スタートの掛け声とともに、しほは一目散に駆けて行きます。
「いーち! にーい! 」
「えっ、も、もうっ!?」
「いこっ」
すぐさまりまが数を数え始め、きっかとみちるも慌てて駆け出します。カサカサと激しく枝や葉を踏む音が散り散りになっていきます。
りまは難易度は高いほうが面白いと、みんなに遠くに逃げてもらうため出来うる限りの大きな声を出しました。大きな声で数を数えていると暗闇に一人残された状況に慣れたのか、先程までいい勝負だった好奇心と恐怖心に決着がつき好奇心に満たされていきます。
これは何の音だろうか。今日は月がきれいに見えるな。みんなどこに隠れただろうか。負けず嫌いな側面も顔を出し、絶対にみんなを捕まえるぞと意気込みます。
ですがふと、ひっそりとこんな山の中に隠すように建てられた祠のことが気になりました。これは一体何を祀るためのものなのだろうか、気がそれ声が小さくなります。
「だめだめ! 数えなきゃ」
気を取り直して大きな声で数を数えますが、一度気になると頭から離れないのです。やっと58まで数えました。
りまはなるべく声のボリュームを落とさないよう注意を払いつつ、祠に近付いて行きます。祠の高さはりまの腰より低く、りまは座り込んで観察します。よく見ると石の戸で閉ざされた祠は奥行きがありました。
石の戸には読めない文字の書かれた紙が貼られています。開かないようにしてある風にも見えました。
はがしてみようか、中を見てみようか。そんな気持ちにもなります。
その頃には数を数えるのも忘れ、手に汗を握りながら目の前の祠に集中していました。戸に貼られた紙は雨風に曝され劣化していて、ほんの少し戸を動かそうとしただけで容易に剥がれてしまいました。
「うわ、剥がれたし」
りまはハラリと落ちた紙を指で摘み、気味の悪さにわざと強い口調で言いました。文字を読み解こうと懐中電灯で照らしますが、へろへろとみみずのような文字で何が書かれているのか、どの文字が使われているのかすらよく分かりません。
「もしかして、これがお札という」
夏頃になると放映されるホラー番組、これをりまは欠かさず見ていました。そういった番組でよく部屋中に貼られていたり、何か怖い物に貼られていたりするあのお札とかいう紙がこれなのでは?
「呪われちゃったりして」
くすくすと笑いながら肩を竦めます。
「コレ剥がれたし、開いてても閉まってても一緒やろ」
軽口を叩きながらも内心ひりひりした思いで、石の戸に触れました。そしてゆっくりと開け、中を覗いたのです。
中には何もありません。何もないそこに、またもや見たことのない漢字がぎっしりと赤い文字で書かれていました。
「うわー。いかにもすぎ」
丁寧な字が並んでいます。文字たちがこちらを覗き込んでいる感覚に一瞬どきっとしました。だけどこの生暖かい恐れの気配に負けないよう毒づきます。
「さて、数えないと」
夕飯を済ませると、いよいよ夜。四人はそわそわして時計を、外を気にしていました。早く暗くならないかと心待ちにする者。暗くなってきてしまったと怖気付く者。それぞれです。
しほの家はあまり門限などに厳しくないので、夜出掛けるにはちょうど良かったのです。しほの母親は「今からちょっと外で遊んでくる」というと、「あまり遅くならんようにね」とそれだけでした。知っている人間しかいないから安心、という思いもあったのかと思います。
外はすっかり暗くなりました。
「ねえ、ほんとにやるの?」
きっかはしほの腕にしがみついています。しほはやれやれといった感じできっかの頭を撫でています。
「もうここまで来たんだから」
みちるは両手でシャツの裾を握り、きょろきょろと辺りを警戒しています。
「なんもおらんて」
りまは大笑いして、そんなみちるのお尻を叩きます。
「りまちゃんー……」
みちるは今にも泣き出してしまいそうでした。とは言ってもはっきりお互いの表情が見えないほど、真っ暗です。道路でさえ街灯はほとんどなく、山に行けばもっと暗いだろうことは明白でした。
山に行くにはしほの家から通りに出て、田んぼに囲まれた畦道を抜けます。時間にして5分程度で山の裾に到着してしまいます。山とは言っても、この部落自体が山の中にあるようなもの。地元の三人にとってはかなり慣れ親しんだ場所です。明るい時間であればセミを取ったり、木の実を拾ったりと楽しい場所なのです。
「うわ、思ったより真っ暗」
「こんなん無理てぇ」
「大丈夫大丈夫! 目ぇ慣れて来たし、ちょっと見えるやん」
「ほんとにやるの? ほんとに?」
「ほーんーとーて!」
真っ暗な中で笑い声だけが浮かんでいるようでした。虫の鳴き声や何かが動く音に、今笑っていたばかりのしほとりまでさえも少し足がすくみます。二人が一瞬、でしょうか。ほんの少し口を噤む間にも、風の音やそれによって揺れる木々の音が四人の間を吹き抜けていき、恐れを抱く少女たちには人の囁き声のように聞こえるのでした。
「何、今の音っ」
「風だよ! 風が吹いただけ!」
自分にも言い聞かせます。
そんなに怖いならやめとけばいいのに。そう思いましたか? ですが、多分ですけど四人にはそれぞれ、ここまで来たら辞められないという思いもあったのです。なんと言っても、普段とは違う特別な夏の思い出となるには違いなかったのですから。
「ねえ、こんなところ一人で隠れてられないよ。せめて肝試しとかにしない?」
きっかが辺りを警戒しながらそっと腕を掴み、しほに問いかけます。今「やめよう」と言える人物がいるとするなら、他でもない彼女しかいません。
「そ、それじゃあつまらんやろ」
ですがやはりしほも、引くに引けないのです。
「ルールは? どうする?」
早く終わらせたい気持ち半分、早くやりたい気持ち半分でりまが腕を組みながら促します。
「じゃんけんで負けた人が鬼。この先にある祠のところに注連縄の木があるやろ。そこで100数えるの。」
しほが震える声を抑えてなるべく気丈にルールを説明します。
「ひゃくぅ!?」
「長い長い長いっ!」
怖がりの二人から抗議の声が上がりました。
「なるべく遠くに隠れたいやろ?」
その言葉に二人は合わせたかのようにぶんぶんと首を横に振りましたが、その様子にしほは肩をすくめるだけでした。
「鬼は大きな声で数を数えること。隠れる人は声が聞こえるところまでしか行かんこと。100数え終わった時にいた地点より遠くには行かんこと。これでどう??」
「それなら少しは見つけやすいかもね」
しほとりまの二人で話は完結してしまいました。
道とは呼べない場所をどうにか小さな明かりで灯しながら歩いていると、しほの言っていた注連縄の木が見えてきました。
子どもが見上げるととても大きな大きな木に見えます。幹も太く、そこに巻き付けた注連縄と四角い垂が、四人にもこの木が特別な物であることを教えてくれます。もしかすると、しほは恐怖心から護ってもらおうとこの木を選んだのかもしれません。
注連縄の木の程近くには小さな祠があります。三人には見慣れたものですし、きっかもある夏に見たことがありました。昔に建てられたのか古くなっていて、夜に見ると少々不気味にも感じました。
村の子どもたちは大事な祀り神か何かだと思い、幼いながらも祠の前で無礼な振る舞いはいけないと気をつけていました。ですが本当は何なのか、誰も知らないのです。
「じゃあいくよっ、じゃーんけーん」
「ほいっ!!」
四人が声を揃えて掛け声に応え、それぞれ片手を出しました。
「やだぁ、私が鬼ぃ?」
「よし、じゃありま。100、数えてね! スタートっ」
じゃんけんの結果、りまはちょきで一人負けしてしまいすぐに鬼が決定しました。他の三人には安堵の表情が浮かびます。スタートの掛け声とともに、しほは一目散に駆けて行きます。
「いーち! にーい! 」
「えっ、も、もうっ!?」
「いこっ」
すぐさまりまが数を数え始め、きっかとみちるも慌てて駆け出します。カサカサと激しく枝や葉を踏む音が散り散りになっていきます。
りまは難易度は高いほうが面白いと、みんなに遠くに逃げてもらうため出来うる限りの大きな声を出しました。大きな声で数を数えていると暗闇に一人残された状況に慣れたのか、先程までいい勝負だった好奇心と恐怖心に決着がつき好奇心に満たされていきます。
これは何の音だろうか。今日は月がきれいに見えるな。みんなどこに隠れただろうか。負けず嫌いな側面も顔を出し、絶対にみんなを捕まえるぞと意気込みます。
ですがふと、ひっそりとこんな山の中に隠すように建てられた祠のことが気になりました。これは一体何を祀るためのものなのだろうか、気がそれ声が小さくなります。
「だめだめ! 数えなきゃ」
気を取り直して大きな声で数を数えますが、一度気になると頭から離れないのです。やっと58まで数えました。
りまはなるべく声のボリュームを落とさないよう注意を払いつつ、祠に近付いて行きます。祠の高さはりまの腰より低く、りまは座り込んで観察します。よく見ると石の戸で閉ざされた祠は奥行きがありました。
石の戸には読めない文字の書かれた紙が貼られています。開かないようにしてある風にも見えました。
はがしてみようか、中を見てみようか。そんな気持ちにもなります。
その頃には数を数えるのも忘れ、手に汗を握りながら目の前の祠に集中していました。戸に貼られた紙は雨風に曝され劣化していて、ほんの少し戸を動かそうとしただけで容易に剥がれてしまいました。
「うわ、剥がれたし」
りまはハラリと落ちた紙を指で摘み、気味の悪さにわざと強い口調で言いました。文字を読み解こうと懐中電灯で照らしますが、へろへろとみみずのような文字で何が書かれているのか、どの文字が使われているのかすらよく分かりません。
「もしかして、これがお札という」
夏頃になると放映されるホラー番組、これをりまは欠かさず見ていました。そういった番組でよく部屋中に貼られていたり、何か怖い物に貼られていたりするあのお札とかいう紙がこれなのでは?
「呪われちゃったりして」
くすくすと笑いながら肩を竦めます。
「コレ剥がれたし、開いてても閉まってても一緒やろ」
軽口を叩きながらも内心ひりひりした思いで、石の戸に触れました。そしてゆっくりと開け、中を覗いたのです。
中には何もありません。何もないそこに、またもや見たことのない漢字がぎっしりと赤い文字で書かれていました。
「うわー。いかにもすぎ」
丁寧な字が並んでいます。文字たちがこちらを覗き込んでいる感覚に一瞬どきっとしました。だけどこの生暖かい恐れの気配に負けないよう毒づきます。
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