闇喰

綺羅 なみま

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血塗られた結界

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「村人に殺される、か。柴田さんを村から出したがらないのも気になるな」
「誰かと結婚させようとしているのか?」
「はなさんに聞いたより随分強引だな。でもまあそれなら、俺と柴田さんが同じ部屋で寝泊まりすると言ったときのあちらの反応も頷ける」

それにしては俺がすんなり入れたのも変だ。いや、柴田さんも入るのはすんなりだったのだから不自然ではないのか?

「高畑はなんでこの村に入れたんだ?」
「今俺も考えてた。僧侶のフリしていたからかと思っていたけど、柴田さんが誰かの花嫁候補として迎え入れられたとしたら、俺も同じ可能性がある」
「花嫁候補か?」
「せめて花婿であってくれ」

成人男性の俺が花嫁衣装を着させられたりしたら、ユーレイなんぞいなくたってホラーだよ。

「『村の外の人は中にいれちゃいけない』『婚礼をもって村人とする』この二つを合わせると、私達は中に入っちゃいけない気がするんたが」
「そうだな。なんらかの意図があって、婚礼より先に迎え入れ後ほど無理やり結婚させる予定か、」
「もしくは結婚とか関係なく他の用件がある」

他の用件?

「少なくとも高畑は、違う用件なんじゃないか?川の向こうで霊達が今か今かとこちらを狙っているし、人がやったと思いたくない事件も立て続けに四度も起きている。ただお清めしてほしいとか、そんなんじゃないか」
「それだとさっさとお祓いの依頼に来ると思うんだけど、なーんにも言われないんだよな」
「時期でも見計らっているんだろうか」

そうなると怪死事件はしばらく野放しにするつもりなのだろうか。
そんなことをして困るのは村の人達じゃないのか?村出身の人ばかり死んでいるんだぞ。

「わけが分からないな。大体、柴田さんも柴田さんで、わざわざ村にまで来なくても良かったのに」
「倒れた老人放っておけないだろ」

柴田さんは老人、村長が道端で倒れていて、そこにいて今は川向うにいるらしい少年が止めるのを聞かずに助けに入っている。

そもそも村長は本当に具合が悪くて倒れたのだろうか?
視えない以上柴田さんの話を信じるしかないが、ここに関係あると思われる少年の村長を見た時の反応。わざわざあんなトンネルを通らせて村まで連れ帰り、柴田さんが泊まっていくよう家まで見繕った。

そして、村の掟だかなんだか本人には大して説明のなされないまま、柴田さんは村に閉じ込められている。
村長は、柴田さんを意図的に迎え入れた?

「なあ、村長が柴田さんを村に閉じ込めたくて連れ帰るための演技をした、ということは考えられないか」
柴田さんは一瞬考え込むが、すぐに頷いた。
「あり得るな。だが私があそこにいたのは偶然だ。普段はあんな所うろちょろしていない」

柴田さんはこの村にも無関係のようだしな。なぜ村長は柴田さんを選んだのか。

「あんな人気のない道、そもそも私がいたこと自体が奇跡なんだぞ」
「その奇跡を起こしたのは、この村に何らかの強い恨みを持つ霊なんだろ?」

夢の内容やその時の柴田さんを思い出し、寒気がした。

「そう、その霊が私をあそこに呼び、その私を村長が村に引き込んだ、とすると」
「その霊と村長は繋がっている?」
「いや、逆もある。村長が中に入れる人を探しているのに気付いたあの霊が私をわざと村長の所に落とした」

村長と霊魂が繋がっていて柴田さんをここに迎え入れたのと、村長と霊魂の思惑が違っていたのとでは話が大きく変わってくる。

「村長と霊魂が繋がっていないとすれば、高畑、村長がお前にしてほしいのは簡単なお清めなんかじゃない。その魂を祓ってほしいんだよ」

柴田さんをこちらに引っ張った強い霊??祓う??無理に決まっている

「無理だぞ」
「無理だなぁ」

そして、霊魂側の考えが悪い考えかも分からない。
変死体に関係あるのかさえ分からない。

「それにしても、なんであんなに」
柴田さんにははっきり視えているはずの霊の多さに首を傾げる。
「そ、そんなに多いのか」
「廃病院でもそうそうあの量は見れないぞ」

その廃病院での量がそもそも分からないが、10体とかそんな量じゃなさそうな口ぶりだ。

「何かに釣られてきたのか?」
「ここからじゃ何言ってるかわからんな」
「そうか。この村には結界が張ってあるって言っていたな」
「ああ。まあ彼女の話からの憶測だが」

指を差すな。そこには川が流れているだけだ。

「彼女のことはさておき、もし結界が張られているとするなら結界を張るための何かしらが村のどこかにあるはずだ」
「そうなのか」
「一般的にはな」

こういう一見人間とは関係のないものにも、ルールはそれなりに存在している。

「そして、そういう物は大抵村の中央か、端にある。どうせ川まで来ているんだ、端から見ていこう」
「おーけい相棒」
「相棒ねえ」

いつからそんなもんになったんだったかな。
面倒くさいので黙ってそういうことにしておいた。



 
「これで四つ目かあ」
柴田さんがぐるりと石碑の周りを一周する。川から村の端を歩いてみたところ、村の東西南北に石碑がある。

「どれもこれと言って変なところはないな」

見たところ壊された形跡もない。
石碑にはしめ縄が巻かれていて、何かが供えられているわけではなかった。この四つの石碑を建てることによって、村全体に張るタイプの結界だな。

「結界ってこういうもん、なのか?」
「そうだな、別に結界を張る石碑としておかしなところは特にないな」

昔俺のように僧侶が来たのだろう。俺が来たときのトラック男の電話の内容でも、そんなようなことを言っていた。はぐらかされたが。

「結界って外から入ってこられなくするバリアみたいなものだよな?」
「まぁ用途は色々あるが、今回はそうだろうな。柴田さんが川の向こうに視ている光景と照らし合わせると」
「誰の血が必要なんだ?」

誰の血・・・
血だって?俺はそんなことは一言も言っていないぞ。

「村から霊魂を退けるための結界に必要なのは、霊力者と土地神を敬い力を借りるための供え物、そうだな日本酒とか。それもずっと必要なわけじゃなく最初と定期的に供えればいい。それから実際にここからここまでが結界、と示す物、今回で言う石碑。それだけだが」
「じゃあ、四つの石碑にまとわりついている血の匂いは何だ」

待て。なんだって?待て待て。最悪のシナリオが頭の隅を掠める。

「柴田さんっ」
「はいっ」 
「四つとも、本当に血のにおいがするんだな?」
俺は思わず彼女の肩を持つ手に力を込めてしまい、柴田さんはびっくりしたように目を見開いてコクリと頷く。

「クソッ。なんでもっと早く気が付かなかったんだ」
「、っあ、ごめん。こういうもんなのかと」
「俺がだよっ」

こんなことに気が付かなかった自分に腹立たしくなった。
俺がにおいを感じないということはここ最近の死体の血液は関係ない。

「お坊さん!」
そうでないといい、そう思い他の可能性をどうにか手繰り寄せようとする。
そこへ誰かが駆け寄ってきた。

人懐っこそうな笑顔を浮かべる20代頃の男性。
「お疲れ様です!何されてるんですか?」
「ああ、えっと」
誰だこの人。村の人か?外から来た人か?

俺が会話に困っていると、彼はハッとして自己紹介を始めた。
「あ、伊藤ケンっていいます!僕も最近越してきたんですよ~。この村ちょっと変ですよね」
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