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秘境村の外に続く道
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「柴田さんは、いつから、その」言い倦ねていると何が言いたいのか察したのだろう。スッとこちらに目を向け、興味なさげに返事を寄越す。
「小さい時から。交通事故で友達が死んでしまったのを見てからだね」
「それは。悪いことを聞いたな、すまない」
「いや、良いんだ。あれは小学生の時だったかな」
「え、待って?語ろうとしてない?待って」
俺の静止を聞き流し、柴田さんはいきなり思い出オカルト話を始めてしまった。
彼女が初めて幽霊を見たのは小学生の頃だったらしい。
友達と下校していた際、事故が多発していた踏切で友人は突然一言も発さなくなった。
カンカンカン、という音と共に遮断器が下りてくる。
前触れもなく乾いた笑いを漏らした友人は柴田さんが止めるのを振り切り、もうそこまで来ている電車目掛けて線路へ入って行ったのだという。
「全てが終わってしまった後、警察の人が来て呆然とする私を落ち着かせようと声を掛けてくれた。でも私はね、呆然としていたわけじゃないんだ。見入ってしまっていたんだよ」
あるだろう?怪談話を聞いていて「来るぞ」って時。今だよ。
「そこには今亡くなったばかりの友人の体を見下ろしているかのような黒いモヤと、隣で笑う人型の影」
もうやめてほしい。
俺は何故か目を覆った。
「やがて黒いモヤがこちらに気付き、話しかけてきた。「私、死んじゃったの?」。「私」?そう。その黒いモヤこそ先程まで共に下校していた友人だった。友達が死んでしまった?おばけが見えている?私は初めての経験に、戸惑うことしか出来なかった」
聞きたくない、聞きたくないと思っていても先が気になってしまう。
「友人の隣にいたはずの人型の影は気が付くと私のすぐ隣にいて「扉開いたの?一緒に行こう?」と目のない顔で微笑んできた。両目のあるはずの部分には闇があるだけで、それは「私と同じではない」と小学生に分からせるのには充分なことだった。
怖くなった私はその場から慌てて逃げ出したんだ。後ろから警察官の呼ぶ声が聞こえたが、それに混じって友達の声も私を呼んでいたので立ち止まるわけには行かなかった」
「に、逃げ切れたのか?」
「ああ。だがあれからだ。私は毎日騒がしい夜を過ごすことになった。否応なく」
毎日何かに話しかけられる。それも夜中中。そんなこと、俺には耐えられるだろうか。
彼女も苦労しているな。と、少し同情してしまう。
「この村はね、本当に静かなんだ。確かに変な村ではあるが、こんなに静かだった夜は今まで何年もなかった」
彼女は今までの苦労を思い出すかのように遠い目をしている。
「頭元で誰かの話し声がするわけでもなく、部屋の至るところからラップ音が鳴るわけでもなく、天井を走り回る音もない」
「それは……快適だな」
「私としては村の秘密がなんだって構わないんだよ、この平穏が守れるならね」
柴田さんがだけど、と付け加える。
「人が死んでしまうなら、話は別だな」
俺は正直、ユーレイが関わっているなら手を引きたいんだけど。
この人は視える人だからユーレイを絡めて考えてしまっているだけで、連続殺人、集団感染、それらの可能性もまだある。
そして、柴田さんはこの村から出られないので被害者になる可能性がある。
それを知ってしまった以上、放っておくのもどこか後味が悪い。
「あーーー。なんでこんなとこ来ちゃったかな」
「本当にねぇ」
俺が頭を抱えた唸れば、間の抜けた返事が帰ってくる。
君は当事者だぞ。分かっているのか。
「週に一度、トラックで買い物に出るって言ってたよな?」
「うん。明日だよ」
「そりゃあ丁度いいね」
どうやら迷ってる暇はないようだった。
翌朝、俺は早速そのお買い物トラックとやらをこそこそと探した。
物陰に隠れ通行人をやり過ごす。そんなに人がいないことが救いだった。
それらしき物を見つけ、近くに潜み発車を待つ。
やがて中年男性が買い物のメモだろうか?紙を見ながらトラックに乗り込むと、車を出し、狭い道なのでゆっくり走り出した。
走って行けば余裕を持って付いて行けるスピードだ。
人目を気にしつつ車を追い、林の中に入って行った。半ば木々を突っ切るようにして入って行ったトラックを追うとそこにも道なき道があった。
木々が覆い被さり、その道は木を押し退けてくぐらなければ見つけられないようだ。外から見ればただの林に見える。
日頃の運動不足が祟り、はやく着いてくれと思い始めた頃、やっと目的のものが見えてきた。トンネル以外の村の出入り口だ。
運転手はトラックを停め降りると、慣れた様子で何かのスイッチを押す。すると有刺鉄線の張られた門が動き出した。門が開くと運転手はトラックに再び乗り込み、外へと出て行った。
門はセンサーで閉じるようになっているようで、トラックが通過するとピピッと音が鳴り門は閉じた。
「この寂れた村に、電気で動く門があるとはね」
だったら洗濯機くらい使えばいいのに。
門に近寄ると、スイッチはボタンが一つだけの簡単な物だった。
複雑な操作がないのはありがたい。
運転手がやったようにスイッチを押すと、門が開き簡単に外に出ることが出来た。
ふと考える。
ここに柴田さん連れてきて逃せば解決では?
しかし彼女は逃がせたとしても、村の問題は何も解決していない。それではスクープにもならない。
俺はここに霊感地味女を助けに来たわけではない。
「そんな簡単には解決しないか」
センサーが発動し、門が再び閉まる。短い間に二度も門が開いたことがバレてなければいいが。そういう通知が行く仕組みになっていませんように。
「小さい時から。交通事故で友達が死んでしまったのを見てからだね」
「それは。悪いことを聞いたな、すまない」
「いや、良いんだ。あれは小学生の時だったかな」
「え、待って?語ろうとしてない?待って」
俺の静止を聞き流し、柴田さんはいきなり思い出オカルト話を始めてしまった。
彼女が初めて幽霊を見たのは小学生の頃だったらしい。
友達と下校していた際、事故が多発していた踏切で友人は突然一言も発さなくなった。
カンカンカン、という音と共に遮断器が下りてくる。
前触れもなく乾いた笑いを漏らした友人は柴田さんが止めるのを振り切り、もうそこまで来ている電車目掛けて線路へ入って行ったのだという。
「全てが終わってしまった後、警察の人が来て呆然とする私を落ち着かせようと声を掛けてくれた。でも私はね、呆然としていたわけじゃないんだ。見入ってしまっていたんだよ」
あるだろう?怪談話を聞いていて「来るぞ」って時。今だよ。
「そこには今亡くなったばかりの友人の体を見下ろしているかのような黒いモヤと、隣で笑う人型の影」
もうやめてほしい。
俺は何故か目を覆った。
「やがて黒いモヤがこちらに気付き、話しかけてきた。「私、死んじゃったの?」。「私」?そう。その黒いモヤこそ先程まで共に下校していた友人だった。友達が死んでしまった?おばけが見えている?私は初めての経験に、戸惑うことしか出来なかった」
聞きたくない、聞きたくないと思っていても先が気になってしまう。
「友人の隣にいたはずの人型の影は気が付くと私のすぐ隣にいて「扉開いたの?一緒に行こう?」と目のない顔で微笑んできた。両目のあるはずの部分には闇があるだけで、それは「私と同じではない」と小学生に分からせるのには充分なことだった。
怖くなった私はその場から慌てて逃げ出したんだ。後ろから警察官の呼ぶ声が聞こえたが、それに混じって友達の声も私を呼んでいたので立ち止まるわけには行かなかった」
「に、逃げ切れたのか?」
「ああ。だがあれからだ。私は毎日騒がしい夜を過ごすことになった。否応なく」
毎日何かに話しかけられる。それも夜中中。そんなこと、俺には耐えられるだろうか。
彼女も苦労しているな。と、少し同情してしまう。
「この村はね、本当に静かなんだ。確かに変な村ではあるが、こんなに静かだった夜は今まで何年もなかった」
彼女は今までの苦労を思い出すかのように遠い目をしている。
「頭元で誰かの話し声がするわけでもなく、部屋の至るところからラップ音が鳴るわけでもなく、天井を走り回る音もない」
「それは……快適だな」
「私としては村の秘密がなんだって構わないんだよ、この平穏が守れるならね」
柴田さんがだけど、と付け加える。
「人が死んでしまうなら、話は別だな」
俺は正直、ユーレイが関わっているなら手を引きたいんだけど。
この人は視える人だからユーレイを絡めて考えてしまっているだけで、連続殺人、集団感染、それらの可能性もまだある。
そして、柴田さんはこの村から出られないので被害者になる可能性がある。
それを知ってしまった以上、放っておくのもどこか後味が悪い。
「あーーー。なんでこんなとこ来ちゃったかな」
「本当にねぇ」
俺が頭を抱えた唸れば、間の抜けた返事が帰ってくる。
君は当事者だぞ。分かっているのか。
「週に一度、トラックで買い物に出るって言ってたよな?」
「うん。明日だよ」
「そりゃあ丁度いいね」
どうやら迷ってる暇はないようだった。
翌朝、俺は早速そのお買い物トラックとやらをこそこそと探した。
物陰に隠れ通行人をやり過ごす。そんなに人がいないことが救いだった。
それらしき物を見つけ、近くに潜み発車を待つ。
やがて中年男性が買い物のメモだろうか?紙を見ながらトラックに乗り込むと、車を出し、狭い道なのでゆっくり走り出した。
走って行けば余裕を持って付いて行けるスピードだ。
人目を気にしつつ車を追い、林の中に入って行った。半ば木々を突っ切るようにして入って行ったトラックを追うとそこにも道なき道があった。
木々が覆い被さり、その道は木を押し退けてくぐらなければ見つけられないようだ。外から見ればただの林に見える。
日頃の運動不足が祟り、はやく着いてくれと思い始めた頃、やっと目的のものが見えてきた。トンネル以外の村の出入り口だ。
運転手はトラックを停め降りると、慣れた様子で何かのスイッチを押す。すると有刺鉄線の張られた門が動き出した。門が開くと運転手はトラックに再び乗り込み、外へと出て行った。
門はセンサーで閉じるようになっているようで、トラックが通過するとピピッと音が鳴り門は閉じた。
「この寂れた村に、電気で動く門があるとはね」
だったら洗濯機くらい使えばいいのに。
門に近寄ると、スイッチはボタンが一つだけの簡単な物だった。
複雑な操作がないのはありがたい。
運転手がやったようにスイッチを押すと、門が開き簡単に外に出ることが出来た。
ふと考える。
ここに柴田さん連れてきて逃せば解決では?
しかし彼女は逃がせたとしても、村の問題は何も解決していない。それではスクープにもならない。
俺はここに霊感地味女を助けに来たわけではない。
「そんな簡単には解決しないか」
センサーが発動し、門が再び閉まる。短い間に二度も門が開いたことがバレてなければいいが。そういう通知が行く仕組みになっていませんように。
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