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白くて丸いケーキ

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魔のものはあまり眠らない。というより、人間ほど眠らなくても生きていけるため、寝ることは趣味の一環のうちである。
しかしながら、人間とともに生活するようになってから、エティの趣味はもっぱら睡眠になったのだった。
「朝だよ、エティちゃん」
人間であれば3人余裕であろうベッドに、気づけば四人(3人1魔王)で寝ることが当たり前になっていた。よく、キファーが二人を蹴落としていることは知らないことにしておこう。
ベッド横の窓から痛く柔らかい日が差す。声をかけられ、重い眼子をあげた。
「おはようございます」
目をこすると、ドア付近に防御力の高そうな装備をしたカラモスが立っていた。
「金をもらってくる」
「言い方悪いって~、奪ってくるくらいの意気込みないと」
わははと笑うプリュに対して、カラモスは苦笑である。しかし、苦笑ではあるが、カラモスも楽しげに見えた。
「じゃ、行ってくる」
「いってら~」
「気をつけてね」
プリュ、キファーと、カラモスに声をかける。三人が僕に目線をやった。
「いってらっしゃい、まるくておっきくて白いケーキがたべたいです」
そういうと、カラモスは目尻にシワを寄せて笑う。
「わかった」

窓からカラモスが人間界の方へ歩いていくのが見える。勇者に制圧された魔王城付近及び人間界へ続く道などは魔物も寄りつかないため、カラモスはまっすぐと歩いていた。
「無事においしいケーキ、食べれたら良いね」
キファーが僕の髪をときながら、楽しそうに話す。ベッドに転がっていたプリュも、なははと聞いたこともない笑い声をあげた。
「カラモス、味覚音痴だからなぁ。塩と砂糖を間違えても普通に食べてたし」
「でも、毒だけは人一倍敏感」
「そーそー!」
二人が交わす会話から、カラモスへの親愛が伝わる。3人で育って3人しか信じられる人がいなかったのだ、血が繋がっていなくても繋がりは信じられないほど強いのだろう。
「あ、もう見えなくなったね」
魔王としては人間に何があろうと関係のないことだ。けれど、僕としては彼になにかあったとき彼らになにかあったとき、たぶん関係ないなんて言えないだろう。
四人で、しろくておおきいケーキ、食べれたら良いな。

「お腹空いたー」
そう言ってベッドに倒れ込んだプリュの声に、自身の空腹を自覚する。
「エティちゃん何食べたい?」
「なんでもたべたいです」
「俺ハンバーグたべたい!」
きゃいきゃいと声だけをあらげるプリュの存在ごと居ないかのように無視して、キファーは僕に微笑みかけた。
「なんでもがいちばん困るんだよ~」
「ハンバーグ!」
ハンバーグの声にひっぱられて、脳内は肉汁のあふれるふかふかのハンバーグが出来上がる。プリュとキファーをちらちらと見ながら、脳内のハンバーグに気を取られた。
「あ、えと、ハンバーグがたべたいです」
「エティやさし~」
再びベッドに倒れたプリュはハハハと楽しそうに笑っている。
「ハンバーグね、分かった」
キファーがドアを出ていくと、プリュは静かになった。足をばたばたとさせながら、天井とにらめっこをしている。
僕は、プリュの横に体をすべりこませる。人のいい笑顔でどしたの、と言うが彼の顔は疲れているように見えた。
「カラモスが心配ですか?」
「別に~」
心配なのだろうと思う。幼い頃から一緒にいたという絆はそうそう容易くなくなるものではないだろうし。
「エティは何ハンバーグが好き?」
「僕は、彼が作ってくれるハンバーグしか食べたことがないので、あのトマトのソースがかかっているハンバーグが一番好きです」
プリュは何回か頷いておもむろに僕の髪をなでつけた。
「その好きだって思いを本人に伝えたらきっと喜ぶよ」
「わかりました!」
たしかに今まで作ってもらって食べるのが不思議で当たり前になってしまって、言葉をあまり伝えてなかった。魔物の僕たちみたいに、気ままで呑気な上に死闘だって好きでやるような野蛮な人間はいないだろう。僕たちは言葉が通じないものもいるから、雰囲気や拳でというのがスタンダードだけれど、人間は言葉が主な感情の共有だった。
脳内でキファーがはにかむ姿を思い、自然と頬も緩んでしまう。
「なににやついてんの~?」
頬を摘まれ、彼の体温がじんわりと染みる。
「にやついてないです」
ぺしりと頬を摘んでいた手を落とすとプリュはおおげさに痛がり、また所在なさげに天井を見上げる。
少しして、どちらともなくベッドから這い出て、食堂(今ではキッチンの机)へ向かった。
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