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元従者の部屋

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「従者くんの部屋にあるかもしれません」
白銀の髪に、褐色の肌の従者くん。最後まで僕に真摯に仕えてくれた。
僕の仕事の手伝いをはじめとして、僕の身の回りの世話もしてくれて、執事もメイドも仕事の右腕としても完璧で、今考えてもどう考えても僕より彼のほうが魔王に相応しかったと感じる。彼は無事に逃げたのだろうか、どこでなにをしているのだろう。
二人を連れて彼の部屋だった場所に城を歩く。彼の部屋は地下にあり、彼自身がその部屋を希望したのだ。彼は光に弱いらしく、なるべくなら陽に当たりたくないと言っていた。
……魔界自体あまり強い陽は照らないのだけれど。
地下に向かう階段は、ひやりとした空気が肌を撫でる。歩くたびにブーツが音を響かせた。
「ここですね」
軽く押すと、扉はギィと高い音を立てて鳴いた。
人のプライベートの部屋に無断で入るのはどこか渋られるが、城は人間に制圧されてしまったからそのような考えは邪道なのかもしれない。
彼の部屋は暗い色で統一されていて、家具はベッドとクローゼットのみである。
「ここにありそう~」
他人の部屋に入るのを躊躇していると、なんの躊躇いもなくプリュが入っていった。彼は、クローゼットを容赦なく開けて見ている。
「うわぁきも……」
プリュはまじまじとクローゼットを見つめる。カラモスを手で呼ふと、カラモスもそのクローゼットを見てうわぁとこぼした。
二人で盛り上がってるのが悔しくて覗こうとすると、僕が見る前にそっとクローゼットは閉じられた。
「エティは見ない方が良いかもしれない」
「?」
「とにかく、はさみは見つけたから帰ろ~!」
ぐるりと方向転換をさせられて、背中で扉の閉まる音がした。
「クローゼットには、何があったんですか?」
階段を登りつつそう聞くと、二人揃って苦い顔で渋々といったふうに口を開く。
「知らぬが仏っていう言葉があるんだよ」
「……知らないほうが良い幸せだってあるんだ」
「へえそうですか」
ひしひしとつたわる疎外感に不服の念をこめて返事をするが、横から半笑いが聞こえた。
ふと視界が陰り、上を向くとキファーがいつの間にかいた。
「それ以上口尖らしたら鳥になっちゃうよ」
流れ作業のようにキスをされ、呆けている間に背中に手をまわされ、横抱きにされる。抱えられながら彼の胸を押してみるが、逆に苦しいほど力を込められて負けた。カラモスとプリュは気づけばかなり先を歩いている。
「お姫さまじゃないんですから、おろしてください」
「お姫様ってどこで覚えてきたの?」
「人間界の、絵が描いてある本で……」
ふふ、と無意識で漏れたように笑うため、バカにされたような感じがして左手で軽く肩を殴った。
「お姫様は人によって違うんだよ。俺にとってのお姫様がエティちゃんなんだよ」
「お姫様は多義語なのですか」
そう言うと、困ったようにわらって、そうかもとつぶやいた。
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