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魔王は人間界の食べ物が好き
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意識が戻った時には、拘束されていた。魔法のかかった縄で強く両手と両足がくくられている。相手が魔物だからと強く縛ったのかもしれないが、とても痛い。縄にかかっている魔法のせいで魔法も相殺され使えないようだ。
部屋を見渡せば、ボロボロになった魔王城の寝室があった。お気に入りの人間界のオブジェも真っ二つにされている。
ドアがあき、先程の人間が入ってくる。毛の長い絨毯も裸足では歩けるような状態でない。
「おはよう。気分はどうだ?」
そういって金髪が顔を覗き込んでくる。
「……良くはない」
「くくっ、だろうな」
青髪の男が食事を前に出して、スプーンで掬った。食べるのかと思ったら目の前に出される。人間界で以前たべた、シチューのように見えた。
「ここの調理場で作った。君たちは普通の物も食べるんだね」
俺たちはさっき食べたから、と付け加える。なぜ僕に食事なんかを持ってきたのかとかいろいろツッコミどころまんさいだ。しかし、目の前にあるそれは、毒が入っているような感じも彼らからの敵意も感じない。
「僕たちは普通のものしか食べない、です」
目の前にあるスプーンにおそるおそる口をつけると、柔らかいミルクが広がった。人間界の食べ物は城に住んでいた魔物たちからも好評で、だいたい美味しいのだ。
「雛にえさあげてるみたいじゃん」
金髪でロングヘアの彼がそう言った。
その言葉にすこしむっとしたが、拘束されている身なので、心のなかでお前らより何百も歳上だけど!と悪態をつく。
「ところで、君は何者だい?」
美味しいそれを何回も享受しながら、金髪二人組は唯一綺麗なベッドに転がって僕に聞いた。
ちなみに金髪といっても、結んでいるロングヘアの金髪は今食べているシチューの色に近く、さっぱりとした短い方の人間の色は庭になっている人間界からパクってきた甘酸っぱいみかんの色に似ている。
「魔王です」
ベッドの方から驚くような声が聞こえ、突然スプーンが口に突っ込まれた。
「んぐっ?!」
「あっ、ごめん。動揺して……。」
こちらは危うく鼻からシチューを出すところだった。
「このちんまいのが魔王なわけあるか」
「だよね」
僕が小さいのではなく、彼らが大きいだけなのだ。筋肉が少ないため小さく見えるだけである。
「弱いし」
うっ……。
「あーんな子どもと遊ぶような魔法でぶっ倒れる魔王とか聞いたことないよ」
うう……。
「ほんとに魔王なわけ?」
うんうんと頷くと、バカにしたように鼻で笑われた。
「こんなのにあんなクソデカ賞金掛けてたの馬鹿じゃね?」
「それは同意だ」
「てかここまで来るほうが大変だったわ」
目の前での屈辱に豆腐メンタルの僕は耐えきれなかった。
「……どうしたの?」
青髪の食事係(仮の名)が俯いた僕の顔を覗き込んでくる。驚いたように目を開いて、手が伸びてきたかと思ったら涙を拭かれた。
なんで敵である僕を優しくするのだろう。人間からしたら早く殺したほうが良いのだろうに。
涙で青い髪が視界を覆う。
「……もうやだぁ」
魔王という位置についても、弱音は吐かないようにしていた。何もできない上に弱音を吐くなんてプライドが許せなかった。しかしそのちんけなプライドを支えていたものがなくなった今、一度弱音を吐いてしまえばあふれる涙は止まらない。
「うぅ……」
笑っていた金髪たちも話をやめてこちらによってくる。
「なになに、なんで泣いてんの?」
「うるさい!」
つい感情のまま叫ぶと、三人は驚きを隠せないようであった。
「僕だってなりたくなかったんです。魔王なんか。でもなんかほかに居ないし迷惑かけれないし、頑張ってきたつもりなのに結局なんのやくにも立たなかったし、殺すならはやく殺してください。証拠がいるなら頭でも備品でも持って帰ってくださいよ!ばか!人間のあほ!」
頭を下にさげ、首を落とされる衝撃を待っていると、耳に笑い声が入ってくる。
最期まで侮辱された気分だった。
「かわいい」
食事係が突然呟く。
「めんどくさい女みたいでかわいいね。名前なんていうの?」
あーんと言われ反射で口を開けてしまう。美味しい。
一番人情のあるまともな人間かと思っていたが、かわいいなどとかなり頭がおかしいのではないだろうか。
「めんどくさい女が可愛いとか頭イカれてるよお前」
これだけは金髪に同意だ。
「で、名前は?」
スプーンを運ぶ手をとめ、名前を聞いてくる食事係。教えてやるか、と思ったがシチューのおあずけは少しさみしく感じた。
「……無い」
「どうして?」
「僕らは人間みたいに親から名前を付けられないんです。呼び合うときは適当に名前をつけます」
話してくれたご褒美だとでもいうように、再びシチューが運ばれる。やっぱり美味しい。
「じゃあ今日からエテュべね」
この目の前のスプーンでシチューは完食である。名残惜しいがとてもおいしかった。
「エテュべだからエティで!エティちゃんこれからよろしく」
「ん」
じゃがいもとたまねぎ、にんじんそれによくわからないお肉のハーモニーが、個々があるのに包み込むようなミルクの味がして美味しかった。たまにしか人間界の食べ物を食べれないから(僕たち魔界の生き物が作ってもちがうものになってしまう)、それもあってとても感動だった。
「こいつ聞いてないぞ」
「エティちゃん!」
シチューのことを考えていると食事係の顔がとんでもなく近くて、逃げようとする前に口に何かが触れた。
人間界のキスだと思い至る前に驚きであいたところに厚い舌を入れられる。
びっくりして視線で金髪二人に助けを求めると、半笑いでこちらを見ていた。
「んぅっ……!」
歯列にそって舐められ、上顎をこすられ、パニックになる。さきほどとまった涙もパニックででてきた。
「ぷ、はあ、慣れてなさそうなところも可愛い。」
さきほどと同じように優しく涙をふくが、彼の目は先程と違いなにかが蠢いている気がした。
「人間こわい……」
部屋を見渡せば、ボロボロになった魔王城の寝室があった。お気に入りの人間界のオブジェも真っ二つにされている。
ドアがあき、先程の人間が入ってくる。毛の長い絨毯も裸足では歩けるような状態でない。
「おはよう。気分はどうだ?」
そういって金髪が顔を覗き込んでくる。
「……良くはない」
「くくっ、だろうな」
青髪の男が食事を前に出して、スプーンで掬った。食べるのかと思ったら目の前に出される。人間界で以前たべた、シチューのように見えた。
「ここの調理場で作った。君たちは普通の物も食べるんだね」
俺たちはさっき食べたから、と付け加える。なぜ僕に食事なんかを持ってきたのかとかいろいろツッコミどころまんさいだ。しかし、目の前にあるそれは、毒が入っているような感じも彼らからの敵意も感じない。
「僕たちは普通のものしか食べない、です」
目の前にあるスプーンにおそるおそる口をつけると、柔らかいミルクが広がった。人間界の食べ物は城に住んでいた魔物たちからも好評で、だいたい美味しいのだ。
「雛にえさあげてるみたいじゃん」
金髪でロングヘアの彼がそう言った。
その言葉にすこしむっとしたが、拘束されている身なので、心のなかでお前らより何百も歳上だけど!と悪態をつく。
「ところで、君は何者だい?」
美味しいそれを何回も享受しながら、金髪二人組は唯一綺麗なベッドに転がって僕に聞いた。
ちなみに金髪といっても、結んでいるロングヘアの金髪は今食べているシチューの色に近く、さっぱりとした短い方の人間の色は庭になっている人間界からパクってきた甘酸っぱいみかんの色に似ている。
「魔王です」
ベッドの方から驚くような声が聞こえ、突然スプーンが口に突っ込まれた。
「んぐっ?!」
「あっ、ごめん。動揺して……。」
こちらは危うく鼻からシチューを出すところだった。
「このちんまいのが魔王なわけあるか」
「だよね」
僕が小さいのではなく、彼らが大きいだけなのだ。筋肉が少ないため小さく見えるだけである。
「弱いし」
うっ……。
「あーんな子どもと遊ぶような魔法でぶっ倒れる魔王とか聞いたことないよ」
うう……。
「ほんとに魔王なわけ?」
うんうんと頷くと、バカにしたように鼻で笑われた。
「こんなのにあんなクソデカ賞金掛けてたの馬鹿じゃね?」
「それは同意だ」
「てかここまで来るほうが大変だったわ」
目の前での屈辱に豆腐メンタルの僕は耐えきれなかった。
「……どうしたの?」
青髪の食事係(仮の名)が俯いた僕の顔を覗き込んでくる。驚いたように目を開いて、手が伸びてきたかと思ったら涙を拭かれた。
なんで敵である僕を優しくするのだろう。人間からしたら早く殺したほうが良いのだろうに。
涙で青い髪が視界を覆う。
「……もうやだぁ」
魔王という位置についても、弱音は吐かないようにしていた。何もできない上に弱音を吐くなんてプライドが許せなかった。しかしそのちんけなプライドを支えていたものがなくなった今、一度弱音を吐いてしまえばあふれる涙は止まらない。
「うぅ……」
笑っていた金髪たちも話をやめてこちらによってくる。
「なになに、なんで泣いてんの?」
「うるさい!」
つい感情のまま叫ぶと、三人は驚きを隠せないようであった。
「僕だってなりたくなかったんです。魔王なんか。でもなんかほかに居ないし迷惑かけれないし、頑張ってきたつもりなのに結局なんのやくにも立たなかったし、殺すならはやく殺してください。証拠がいるなら頭でも備品でも持って帰ってくださいよ!ばか!人間のあほ!」
頭を下にさげ、首を落とされる衝撃を待っていると、耳に笑い声が入ってくる。
最期まで侮辱された気分だった。
「かわいい」
食事係が突然呟く。
「めんどくさい女みたいでかわいいね。名前なんていうの?」
あーんと言われ反射で口を開けてしまう。美味しい。
一番人情のあるまともな人間かと思っていたが、かわいいなどとかなり頭がおかしいのではないだろうか。
「めんどくさい女が可愛いとか頭イカれてるよお前」
これだけは金髪に同意だ。
「で、名前は?」
スプーンを運ぶ手をとめ、名前を聞いてくる食事係。教えてやるか、と思ったがシチューのおあずけは少しさみしく感じた。
「……無い」
「どうして?」
「僕らは人間みたいに親から名前を付けられないんです。呼び合うときは適当に名前をつけます」
話してくれたご褒美だとでもいうように、再びシチューが運ばれる。やっぱり美味しい。
「じゃあ今日からエテュべね」
この目の前のスプーンでシチューは完食である。名残惜しいがとてもおいしかった。
「エテュべだからエティで!エティちゃんこれからよろしく」
「ん」
じゃがいもとたまねぎ、にんじんそれによくわからないお肉のハーモニーが、個々があるのに包み込むようなミルクの味がして美味しかった。たまにしか人間界の食べ物を食べれないから(僕たち魔界の生き物が作ってもちがうものになってしまう)、それもあってとても感動だった。
「こいつ聞いてないぞ」
「エティちゃん!」
シチューのことを考えていると食事係の顔がとんでもなく近くて、逃げようとする前に口に何かが触れた。
人間界のキスだと思い至る前に驚きであいたところに厚い舌を入れられる。
びっくりして視線で金髪二人に助けを求めると、半笑いでこちらを見ていた。
「んぅっ……!」
歯列にそって舐められ、上顎をこすられ、パニックになる。さきほどとまった涙もパニックででてきた。
「ぷ、はあ、慣れてなさそうなところも可愛い。」
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「人間こわい……」
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