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魔王は過労

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本当は、魔王なんてなりたくなかったのだ。

そもそも上位の魔物は個体数が少ない上にめったに子も作らない。
ある年、人間が魔界の境界をこえて、好戦的な上位魔物たちが揃いも揃って戦いに出てしまった。彼らは今尚こちらへ戻ってはこない。
そんな佳境の中当時の魔王が退き、魔界は混乱に混乱を重ねて、なぜか一人余った僕が魔王候補(消去法)になってしまった。
魔王になるには200歳以上と決まっていて、残っていた上位魔物のうち僕以外はみなバブだったのだ。

「魔王様、人間が入り込んでおります」
椅子の上でねこけていたが、視界に入ってきた褐色の肌と長く揺れる白髪に再度目を瞑りたくなった。
その言葉に僕は頭を抱えた。何度追い払っても彼らは何度もやってきて意味もなく僕達を襲うのだ。
「結界を強めておきます。武力で敵わない場合は淫魔に手伝ってもらってください」
「畏まりました。彼らにお伝えいたします」
彼は深く礼をして、音もなく目の前から消えた。
僕に魔界を統治する頭も力もない。彼を含めた魔物たちのおかげで魔界は保たれているのだ。
机に置いてある人間界のふわふわとした甘味をひとつ口に入れた。口に広がりすぐに溶けるそれは一年に一回人間界に遊びに行くときにストック買いするものだ。

眉間を揉んで重い腰をあげると、ドンと大きな爆発音が聞こえた。
突然の音と鼻につく焦げ臭さに動きが停止して、目の前に現れた彼に咄嗟に対応出来なかった。

「魔王様、お気を確かに」
肩を揺らされ、やっと意識を取り戻す。
「……今のは」
「城門を突破されました。魔法につよく耐性があるものばかりで」
ああ、やはり僕が魔王になるなんて無理だったのだ。戦場に行った魔物の落ちこぼれである僕が武力でかなうはずもなく、目の前の彼になきついたい思いに駆られる。
魔界は確かに人間界を荒らすこともあるがあれは意思疎通のできない大食いの奴らばかりなのだ。彼らでも基本魔界から出ることはないのに。先に荒らしてきたのは彼らなのに、この仕打ちはなんだというのだ。僕達がなにをしたというのだろう。

「魔王様。ここは私たちに任せて、魔王様だけでもお逃げください」
そういって、彼は僕の手を握りしめる。
なんの役に立たない僕なんかを最後まで守ろうとしてくれるのだ。僕はもう彼らを犠牲にしたくない。
「僕が前に出ます。きみたちが外に出る道は作っておきます」
目の前の彼がおたおたとしはじめて、あまりにも珍しくて笑ってしまう。
「大丈夫。城の一番奥のこの部屋から繋げておくから、みんなを呼んでください」
彼の両手を優しくほどいて、ドアへ向かう。彼はドアが閉まるまで片膝をついて頭をもたげていた。

食堂で繰り広げられている戦いは、僕の目で視てもこちらが劣勢であった。相手は3人であるのに、まだ余裕がみえる。
手に指で名前をかいて、飲み込んだ。昔、人間に教えてもらった緊張をほぐすおまじないである。気を紛らわせるだけでもしたくなったのだ。
マントのフードを深くかぶり、小さくいきをはいて、背筋を伸ばして前へ出る。
「……用があるなら私が聞きます」
ちいさめの声で言ったような気がしたが、戦闘が一瞬やみ、全ての視線がこちらに向かう。手が震えるのを拳で抱え込む。
城の執事長である人物に視線で逃げろと送ると、気づいたようで周りとそっと消えた。
僕に気を取られていた人間は、戦っていた彼らが消えたのにハッとした後ぼくを睨みつける。
「あんたのせぇで居なくなっちゃったんだけど?」
「用はなんですか」
彼らは睨みつけはするが、こちらに襲いかかるような気はないようで武器を構えてはいない。
「用があるなら、私が聞きます」
ふと金髪の一人が笑った。
「元より話し合えるのなら、こうして戦う必要もないだろう。」
喋ったと思ったら、魔物でも稀に見るほどのスピードで僕に剣を振り下ろす。咄嗟に横に転移をしたが、魔力量もほとんどない上に攻撃魔法が限られているため、僕が死ぬのも時間の問題だ。
「その魔物特有のやつまじでうざくね?ちょこまかちょこまか虫かっての」
一人でもギリギリであったのに、複数となると厳しい。魔物が生きることの出来るギリギリの魔力まで絞り出し、闇魔法と光魔法の混じったもので彼らをまとめて拘束する。
距離があった三人は同時に中心に集まる反動で強くぶつかった。
「いっっっっっった!?」
魔法に耐性があるようだが、魔法耐性はたとえどんな道具を使ってもブレンドされた魔法には弱いのだ。
「初めて見たな、この輪は」
「抜けれない。」

人間が抜けることのできない様子で、ほっと息をつき油断してしまったのが悪かったのか、飛んできたそれ気づいたときには、既にピントの合わない位置に来ていた。
彼らが魔法を使えるなんて聞いてない……。
もとより少ない魔力のうちギリギリまで減っていたため、大した魔力でない初歩の攻撃魔法で地面と挨拶をしてしまう。
受け身もとれず魔法も使えず、僕はそのまま意識を飛ばした。
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