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希望の光

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もうダメだ···と諦めかけたその時──。


扉がドカン!と音を立てて吹き飛んだ。

扉が吹き飛んだのと同時に、複数の武器を持った兵士が部屋に雪崩れ込むように侵入して莉奈を取り囲んだ。

そして····一番会いたかった人が俺の名前を呼ぶ。

「雪っ!!····無事か!?」

俺のもとへ一目散に駆け寄るソムーア。

「ソムーア···どうして···?」

目の前にいるのは····もう二度と会えないと思った人。

最後に一番会いたいと願った人。

「ソムーア···俺っ···ごめん···ごめんなさい···ううっ···」

安堵から涙が溢れて言葉にならない。

そんな俺をソムーアは優しく抱きしめてくれた。

「もう大丈夫···。もう大丈夫だよ···雪。すごく怖かったね···よく頑張ったね。一緒に王宮に帰ろう?」

ギュウッと強く抱きしめて背中を優しく撫でてくれるソムーア。その手は微かに震えていた。

「雪が無事で良かった···。目が覚めたら雪がいなくなってて···死ぬほど怖かった。もし、雪に何かあったらって考えただけで心臓が止まりそうだった。もう突然いなくなったりしないでくれ···。君に何かあったら僕は生きていけない···」

震える声、震える体···ソムーアの言葉は全て本心なのがわかる。

ソムーアの言葉だけは信じられる。

ソムーアの体温を感じて、冷えきった心が温まっていくのがわかる。

俺にとって、彼は特別な存在なのかもしれない。
だって···彼の言葉に次から次へと涙がこぼれていく。

でも····。

「ソムーア···ごめん。俺はお前の側にはいれない。俺はソムーアが思うような綺麗な人間じゃないんだ。俺は···人を不幸にする男だから····」

もう隠しきれない。

俺はこの男が好き。

自分の本当の気持ちはわかったけど···俺はソムーアに相応しくない。

俺は···人を不幸にしかしないから。

····親友と大恩がある叔父さんを死へ追いやった男なのだから···。

幸せになって良いわけがない。

「雪···理由を聞かせてくれる?」

ソムーアの真剣な瞳に嘘はつけない。

俺は、ポツリポツリと過去を話し始めた。

俺の本当の家族の話、今までの境遇···そしてあの女との出会いも。

「あのエベリーナという女性に取り憑いている女は···上野部 莉奈。俺がいた世界の学校···この世界だと学園と同じものなんだけど···学校のカウンセラーだった女だ。
俺がいた世界は、色んな問題を抱えている子供が多かったから···生徒達の心の問題に向き合う為に学校にカウンセラーがいた。
俺が高校生だった時に···カウンセラーだった莉奈と出会った。
俺は家族に恵まれなかったからいつも色んな不安を抱えてた。最初は本当にそれだけの関係だったんだ···」

エベリーナは雪のいた世界の女に取り憑かれている?

それにも衝撃だったが、やっと雪が自分の事を話してくれた。

雪がやっと心を開いてくれた事に喜びがあったが···雪の過去を聞いて、雪が今までこの若さでどれだけの傷を心に負って来たのか知る事になった。

「俺にはあの当時、心から信頼できる親友がいたんだ。
藤岡 直人(ふじおか なおと)たぶん、前の世界では俺を育ててくれた叔父さんの次に心を許せた人間だった。家庭の事情は複雑でも、直人がいるから俺には心の居場所があった。
それでも···親友の直人にも話せない不安もあって···俺はある日カウンセラーである莉奈の所に行ったんだ。俺は──あの時あの女の所に行った事を後悔してる」

雪は···とても苦しそうに話す。
「もういい···話したくないならもう十分だ」と言いたかった。

でも···。雪の全てを聞かないと、きっと雪はこの先もずっと一人で苦しみ続ける事がわかっている。

だから、雪の話を黙って聞いた。

「母が突然いなくなってしまった事で、俺はあの当時すごく混乱と動揺を隠せなかった。
直人は俺の複雑な家庭事情も知っていたけど···それでも俺を受け入れてくれた。
だから···心配かけたくなくて、家の事は直人に一切話さなかったんだ。でも、それを莉奈に話してしまった。」

「最初は莉奈も親切丁寧に対応してくれたから···。俺は自分の心の内の全てを話した事で莉奈を信頼してしまったんだ。それが間違いだった事にすぐに気づいた···。
俺が心を許してしまった事で、信頼して全てを話してしまった事で···。
莉奈は、俺が莉奈を好きだから心を許した···と誤解したんだ。
それからは、莉奈はまるで俺の恋人かのように振る舞い出した。直人が俺と莉奈が付き合ってると誤解する程に···。」

雪は、本当に後悔しているのだろう。
苦しそうな、切なそうな表情で言葉を丁寧に吐き出す。

「俺の容姿は···昔から女の人を狂わせてしまうらしい。
優しく接するだけで、勝手に勘違いをさせてしまうから···。
俺はなるべく女子には近づかないようにしてた。
莉奈は、まだ若い先生だったけど···大人だからそんな事はないと思っていた。そんな事はしないと思っていたから──全てを打ち明けたのに···。」

信頼を最初に壊したのは上野部 莉奈の方だったのだ。

「だから俺は莉奈をその時から避けた。
莉奈が自分の誤解に、過ちに気づくように···正常な先生と生徒の距離感を保つように。
その日から、一切カウンセリング室には行かなくなった。
それから、莉奈が異常なまでの執着と恐ろしい本性を見せるようになったんだ···。
莉奈は俺から全て奪い、孤立させようとするようになった。そうすれば俺が手に入ると思って狂って行ったんだ···」

その一方的な執着は、雪の大事なもの全てを奪っていった。

まずは一番大事な叔父さんの命を奪った。

そして、雪の心が完全に閉ざされる理由になったのは親友直人の自殺が原因だった。

まさか···直人が莉奈に恋心を持っていたなんて知らなかった。

知っていたら直人を止められたのに···。

直人は、俺と莉奈が付き合ってると誤解していたから···俺に莉奈が好きだと言えなかったんだ。

莉奈は、そんな直人も毒牙にかけた。

直人のそんな儚い恋心を利用して、直人を自殺へと追いこんだ。

でも一番は俺が悪いんだ。

莉奈をハッキリと振らなかったから。
距離を置くだけに留めてしまったから。

莉奈が狂ってしまったのも俺のせいだったのかもしれない。

そして直人が、自殺を選ぶほど自分を追い込んでしまったのも俺のせいだ。

そんな異常な執着をされてるのがわかっていたのに···直人の元を去れなかったから···。

もっと早くに莉奈の本性と、俺と莉奈が付き合っていないと誤解を解き、早くに直人の側から去っていたら莉奈は直人まで巻き込まなかったかもしれないのに···。

直人は、莉奈の本性に気づいてしまったんだ。

そして、俺がどれだけ莉奈に苦しめられていたのか直人は気づいてしまった。

だから、莉奈の罠にハマり俺を裏切ってしまった事を後悔して自殺を選んでしまった。

ちゃんと俺が莉奈の事を話せていたら···。

せめて誤解を解いていたら直人は死ぬ事はなかったかもしれない。

莉奈を好きになる事もなかったかもしれない···俺が直人を殺したも一緒だ···。

俺はソムーアに全てを話した。

きっとソムーアも俺の事を嫌いになるはずだ···。

一人になるのは慣れてるはずなのに···苦しくて悲しくて溺れているかのように息が苦しい。

ソムーアは俺の話を聞いて下を向いてしまった。

もう···終わってしまったんだな···。


そう思った次の瞬間。


「······がう····。雪···それは違うよ。
雪は···雪は何も悪くない!!全部その女が悪いんじゃないか。自分の立場も弁えず···本来なら、学生だった雪を導かなきゃいけない立場のその女が···!
全ての元凶じゃないか···。君は被害者なんだよ···。
ずっと一人でよく頑張ったね。辛い事なのに···。
俺に全てを話してくれてありがとう」

雪はソムーアにギュッと抱きしめられて困惑していた。

俺を抱きしめるソムーアの体は、怒りと悲しみで震えていた。ソムーアが俺の為に、感情を顕にして怒っているのが···悲しんでくれているのがわかる。

「雪···もう大丈夫だよ。もう誰も雪を傷つけたりしない。僕が絶対にさせないから···」

耳元で、優しくソムーアが語りかける。
ギュッと抱きしめるソムーアの腕に力が入った。

「雪はもう一人じゃない···。
俺がずっと側にいる。
側にいて君を何者からも守るから···。
だから、もうこれ以上自分を責めないで。
君はずっと苦しんできたからもう自分を許してあげてほしい。
きっと君の大事な人達も雪が傷つく事を望んでいないはずだから···」

今までずっと閉じ込めていた感情が全て溢れだした。

「俺···ずっと苦しかった。
みんなが急にいなくなってとても悲しかった。
俺が悪いから···罰なんだと思ってた。
俺は、誰かと共に歩んでもいいの···?
俺は···ずっとここにいても···いい···の··?」

雪は子供のように声を出して泣いた。

やっと長い呪縛から解放された雪はただひたすらに声を上げて泣いた。

そんな雪を、僕は力いっぱい抱きしめる。

ここにいてもいいんだと、いてほしいのだと雪にわかってもらう為に、ひたすら雪を抱きしめ続けた。

これだけたくさん傷ついてきた雪の心を癒してあげたい。幸せにしてあげたい。

雪が望むなら何でも叶えてあげたい。

流れ人だからじゃない。

俺は···目の前の冬賀 雪という一人の男が好きだ。

もう好きという言葉だけでは足りない程に···。












































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