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独立国家アステリオ
しおりを挟むアーサーのおかげで気持ちが落ちついたアンジェリーナは、両親の様子を聞く為にアドラスの元へ向かう。
アーサーが早めに指示を出して謁見の許可を得ていた為、スムーズにアドラスの元へ案内された。
「叔父様に聞きたいことがあります···。両親は無事ですか?私を逃がしてくれたサジテール叔父様の安否も気になります。何か情報は入っていませんか?」
真剣な表情で聞いてくるアンジェリーナに、隠しておけないことを察したアドラスは、アンジェリーナに全てを話すことを決めた。
「アンジェリーナがベルーガに到着した同時刻に、姉上から連絡が来た。アンジェリーナの父ジェラルド・ベネディクト公爵がアレンフラールから離叛。国境のベネディクト公爵領とベネディクト領に連なる領地の貴族達もベネディクト公爵家に続き離叛。第二王子アルベール殿下が先導し、アレンフラールの北部は分離独立し、独立国家アステリオとしてアレンフラールと対峙する道を選んだそうだ。サジテールのミネラス領も含まれている。皆無事だよ。」
アドラスの言葉に驚き、声が出なかった。
ベネディクト公爵家がアレンフラールから離叛!?それに第二王子が先導して独立だなんて···。
一体どうなっているの?
いくらアレンフラール王家が私に酷い仕打ちをしたからって、まさか離叛だなんて···。
これでは戦争になってしまう···。
それに第二王子と交流なんてあったの?
王宮にいたけど顔すら知らない···。
でもアルベールという名前には心あたりがあった。
王宮内で出会った少年。
彼はアルベールと名乗っていた。
いつも寂しげで、私を姉のように慕ってくれたアルベール···。彼が第二王子だったの?
アレンフラールと対峙って···お父様達は本当に大丈夫なの?
色々な情報が一気に入ってきた事で、頭が混乱し立ち眩みを起こした。
側にいたアーサーが咄嗟に支えて、アンジェリーナを近くの椅子に座らせた。
「このままアレンフラールが黙っているとは思えません。きっと両親とアルベール殿下を捕らえようとするでしょう···。お父様達は大丈夫なのでしょうか?」
不安に体は震え、指先が冷えていく。
私はそんな大変な時に、平和なこの国で一人安全に守られている。
発端が私なのに···このまま何もしなくていいわけがない。
私は一体どうすれば良いのだろう?
どうすればお父様達を守れる?
私ができる事は···?
思い詰めた表情を浮かべるアンジェリーナを見て、アドラスは溜め息を溢した。
「お前が思い詰めるのがわかっていたから話さなかったんだ···。すぐに話すべきだという事もわかっていた。でも義兄上達が簡単に攻め落とされる事はないから安心してほしい。」
アドラス叔父様の自信のある表情はなんでなんだろう?どこからその自信が···?
お父様達はアレンフラールという大国を敵に回してしまったのに···。
「叔父様···なぜそんなに自信を持って言えるのですか?お父様達は大国を敵に回してしまったのに···大丈夫なわけがないじゃないですか!どうしてそんな事を···?」
アンジェリーナは手で顔を覆い泣き出してしまった。
そんなアンジェリーナの側に行き、背を優しく撫でたアドラスは、優しくアンジェリーナに語りかけた。
「アンジェリーナ。独立国家アステリオって名前を聞いて何も感じなかったかい?」
アンジェリーナは首をふるふると横に振る。
「そうか···アンジェリーナはずっと王宮に閉じ込められてきたから···大事な事は教えられていなかったのだな···」
アドラスはアンジェリーナに聞こえないような、小さく冷たい低い声で一人呟いた。
俯き表情が見えないアンジェリーナにはわからなかったが、普段飄々としたアドラスの激しい怒りの顔がそこにあった。
「アンジェリーナ。独立国家アステリオの名前はね、“神獣アステリオ”の名前から来ているんだ。」
(神獣?どうしてここで神獣の話が?)
アンジェリーナは不思議に思い首を傾げた。
「皆が言う竜王ラグナの名も、竜の王ではなく、“竜の姿をした神獣の王”から由来しているんだよ。神獣の中でもラグナ様は、大陸を自ら作るほどの力を持った存在。他の神獣とは比べられぬ程の大きな力を持った神獣。そのラグナ様の使いが“神獣アステリオ”なんだ···」
えっ!?ちょっと待って···それって···。
「竜がいなくなった地には精霊も妖精もいなくなった。しかし、神獣アステリオはアレンフラール国の北の森に結界を張り、その地に留まった。ずっとアンジェリーナを見守る為にね。しかし、アレンフラール国は自分達の都合良くアステリオ様を国を守る神獣様だと崇めた。意図的にアンジェリーナにその事実が伝わらないように情報を遮断してね。アンジェリーナが神獣アステリオに近寄らないように、助けを求めに行かないように情報を秘匿していたんだよ。」
そこまで言うとギリッとアドラスの歯噛みする音が聞こえた。
「“独立国家アステリオ”と名乗ったという事は、第二王子がアステリオ様の説得に成功したという事。義兄上達の新たな国は、神獣アステリオによって守られているって事さ。国の周りは神獣アステリオ様の結界によってアレンフラールの人間はむやみに侵入などできないだろう。サジテールも策はあるって言っていただろう?だから安心してアンジェリーナ。みんな大丈夫だから。」
アドラスの言葉に安堵し、今度は安堵の涙が止まらなくなった。
側にいたアーサーは慌ててハンカチを取り出し、アンジェリーナの涙を拭った。
「良かったな。親父さん達が無事だとわかって」
アーサーが優しく微笑むと、アンジェリーナもアーサーの微笑みに落ち着きを取り戻し、ニコリと微笑み頷いた。
「しかし、悪い知らせも入ってきた···。アレンフラールの国王が崩御した···。新しい王には第一王子のルイエストが即位すると···。」
えっ···?国王が崩御ですって!?
「そしてアレンフラール国から今日、正式な書状が届いた。内容は“アンジェリーナを今すぐアレンフラールに引き渡せ”という要求だ。ゆっくり考えさせてやりたかったが状況が変わってしまった。ルイエストが即位する前に、選定の儀を受けてもらう。我が国では竜が王を選ぶ。私はあくまでも真の王が選ばれるまでの代理の王だ。明日選定の儀を執り行う。お前を守る為だ···許してほしい」
アドラスの言葉に愕然とした。
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