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その頃のアレンフラール···。 (ルイエストside)
しおりを挟む国王である父上に呼び出された私は、父上の話を聞いて困惑し、その場に立ち尽くしていた。
アンジェリーナが行方不明···?
そして父から衝撃的な言葉を聞いた。
「ルイエスト···。お前とアンジェリーナの婚約は解消された。」
はぁ!?訳がわからない···。
私にも父にも、アンジェリーナはそんな話はして来なかった。
婚約解消の申し出もないのに、何故私達の婚約が許可なく解消されたと言うのか···?
「婚約解消の申し出もないのに···。そんなの無効ですよね?まさか···偽造ですか!?それなら余計に認められるわけがない。そうですよね···父上?」
しかし、父上は頭を抱えている。
「いや···可能なのだ。この国の法律では、“婚約してから10年の間に婚姻の手続きがなされなかった場合、片方からの申請だけでも婚約を無効にする事ができる”という法律がある。先代の国王陛下が作った法律だ。」
父上は当時の事を思い出しているのか、苦い表情を浮かべる。
「10年以上婚約という形で縛りつけていたのに、他に女ができたからと身勝手にも婚約を破棄した愚か者がいてな···。男性側の身勝手な都合だけで、女性が不幸にならないようにする為に作られた法律だ。私とした事が···今の今まで忘れていた···。私はまた同じ過ちを犯してしまった。それを彼女が絶対に許す筈がない。だから彼女は···この法律を利用して、娘の婚約を強制的に解消したんだろうな···。全て私のせいだ···。ルイエスト···すまない。アンジェリーナの事は諦めなさい。」
ルイエストは訳がわからなかった。
父上は何を言っているのだ···?
「ルイエスト···すまない。その愚か者とは···私の事なのだ。私は昔、隣国ベルーガの第一王女アルメリアと···アンジェリーナの母親と婚約をしていたのだ。10年以上も婚約者として、この国に縛りつけていたというのに···。私はお前の母親である、当時男爵令嬢だったセレーナを愛してしまった。そしてアルメリアに婚約破棄を一方的に突き付けて、王城から放り出した。」
父上が話し出した内容に、私は衝撃を受けた。
「しかし冷静になり、すぐに私は後悔した。お前の母親がアルメリアがいなくなり、本性をすぐに出した事もあって···私はすぐに自分の過ちに気付いた。そして彼女を捨てた事を後悔した。身勝手にも···離れてからいかに彼女が自分にとって大事な女性だったのかに気付いたから。しかし、その時には手遅れだった。傷ついた彼女は、私に裏切られ、追い出された後すぐに彼女の事を密かに慕っていたジェラルド・ベネディクトに保護されていた。そして半年後、ジェラルドが彼女にプロポーズして結婚した。」
自分の父親ながら屑だと思った。
そして···やはりこんな父の血を引いているから、自分は歪んでいるのだと思った。
「もう気付いた時には手遅れだった。もう二度と彼女の心は手に入らない。だから私は彼女は諦めた。しかし、彼女の子供だけは···どうしても私の子供と一緒にさせたかった。間接的に彼女と繋がりを持てるから···。それに彼女の娘は竜王が唯一加護を与えた娘。王家で囲うには都合が良かったのだ。無理矢理取り上げても···国の為だからと言えば彼女の家は逆らえない。自分がどうしようもない屑だとわかっている。例え彼女に嫌われても···彼女との繋がりが欲しかったんだ。彼女が絶対に私を許さないのはわかっていた···。全て私のせいなのだ···。ルイエスト···本当にすまない。アンジェリーナの事は諦めてくれ···。この通りだ。」
父上が私に頭を下げるのを見て絶句した。
アンジェリーナを···諦めろだと?
ふざけるな···!ふざけるな···ふざけるな···。
そんな事···今更できる訳がない···。
後少しで···後少しで彼女の心が折れるはずだった。
頼れる人間がいないこの王宮で、心細い思いをしているアンジェリーナの心を完全に折り、孤立させた所で私がドロドロにアンジェリーナを甘やかし、愛情を注ぐ予定だった。
そうすれば···彼女は私にだけ依存し、私だけを愛するだろうから···。
アンジェリーナは私だけのものだ。
アンジェリーナの瞳に入るのは、私だけでなくてはいけない。アンジェリーナが愛するのは···私だけでなければならないのだ。
だから、ずっと触れたいのも優しくしたいのも我慢してきた···。それなのに···それなのに···。
今更アンジェリーナを諦めろだと···?
アンジェリーナは私のものだ。
アンジェリーナを···今すぐ取り戻さなければ!!
もし父上が邪魔をすると言うのなら···例え父上であろうと許さない。
そうだ···。
父上を消そう。
父が不義理を犯したせいで、アンジェリーナの母親に我々は恨まれたのだ。それは全て父上の責任だ。
責任は父上が命を持ってして償えば良い。
父上さえいなければ···。
父上さえ消してしまえば···。
そうすれば、この国は私のものだ。
父上を消したら、アンジェリーナをすぐに探させて王宮に連れ戻そう。
そして私の部屋に囲い、閉じ込めよう。
もう二度と私から離れないようにすれば良いのだ···。
はははっ。簡単なことじゃないか···。
最初からこうすれば良かったのだ。
どうしてすぐに思いつかなかったんだ···?
アンジェリーナ···待っていろ。
すぐに見つけて迎えに行ってやる···。
今度こそ逃がさない。
私の白百合。私の愛しい女神よ···。
お前をここまで愛せるのは私だけだ···。
お前にふさわしいのはこの私だけなのだから。
それから父上を暗殺する為に、準備を始める。
そうだ···。父上を殺すのは毒にしよう。
丁度、私に取り入ろうとする女の中に毒にやたらと詳しい女がいた。
確か···その女が言っていたのだ。
即効性のある毒薬だが、体内に入るとすぐに吸収され、どんなに調べても毒は検出されないと。
まるで急に心臓の発作を起こしたように死ぬ事から、不自然さはなく、その毒で死んだ者のだいたいが“急性の心臓発作”と診断される···との事だ。
とても都合が良い。
アンジェリーナを自室に閉じ込めるなら、彼女の変わりに仕事をしてくれる人間が必要になる。
その女には王妃にしてやる···とでも言っておけば良いだろう。アンジェリーナの変わりに公務をさせておけばいい。
私の愛を独占できるのだ。
アンジェリーナは王妃の地位にこだわったりしないだろう。
彼女は私に愛されていればいい。
何もする必要はないのだから。
私はアンジェリーナだけいれば、他の女などどうでも良い。
私の愛を与えられない変わりに、あの女には王妃としての地位を与えてやるのだ。さすがにあの女も文句は言わないだろう···。
ああ····アンジェリーナ···。
早くお前をこの手で抱きたい。
今まで寂しい思いをさせ続けた分も、たくさん愛でてやろう。
お前は···私の腕の中で微笑んでいれば良いのだ。
必ず私が幸せにしてやろう。
アンジェリーナ···お前は私のものなのだと···皆に知らしめようぞ。
その為には···まずはあの女に接触せねばな···。
香水臭くて、やたらと体を押し付けてくるのは不快だが···あの女は使える。
その毒の知識と頭の早さだけはな···。
逆らったり、邪魔になるようなら···その時はその女も消してしまえばいい。簡単なことだ。
私にアンジェリーナ以外の女は必要ない。
必要なのは、アンジェリーナと“使える手駒”だけだ。
はははっ···。
誰も私の邪魔はさせないよ。
ルイエストは歪んた笑みを口元に浮かべた。
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