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第6話 戸惑いと決意と
しおりを挟む私は一体どう答えたら良いのだろう。
すでにそれは、決定事項のように思えた。
叔父様は狡い人···。でも国王として、国にとって最善の事を考えることは当たり前の事なのよね。
叔父様は、私が断れない性格なのをよく知っているわ。
だって···これだけ尽くしてもらって無理ですと断れる訳がないもの。
こうなる運命だったのかもしれないわね。
この国に来た時、優しいベルーガの国民性を知った。
心優しい人達の温かさに触れて、私がその時感じたのは何も返せない無力さだった。
私は、ベルーガの国の人々の役に立てるのだろうか?
きっと、それは私がどう考え、どう動くか次第なのだろうけど···。
何より、私には···もう戻れる場所はない。
私の居場所は···あの鳥籠のような国しかなかったのだから。
この私の決断は···この国の人々の命と未来に責任を持つという事。
私に出来るだろうか···?
いや···出来る、出来ないではない。
やらなければいけないのだ。
私はこの国に助けられた。
今度は私がこの国の為に···心優しい人達の為に頑張る番なのかもしれない···。
叔父様に跡継ぎが出来ないとなればこの国の行く末に関わる。
だけど、この大きな決断をするのには···もう少しだけ時間がほしい。
私にその覚悟がないのに、無責任に答える訳にはいかないから。
「 叔父様···少しだけ、少しだけ時間を頂けますか?この国に来たばかりの私には、その決断をするにはまだ覚悟が足りません。私は、私を助けてくれたこの国に、国民にそんな不誠実なことはしたくありません。少しだけ···その覚悟が決まるまでお時間を下さい。」
私は真剣に考えながら自分の考えを話した。
「それはもちろんだよ。ゆっくり考えてほしい。それに、もし不安に思うなら···。優秀な夫を見つければいい。優秀な伴侶がいれば、協力して公務を行えるからね。」
叔父様の言葉に固まった。
もしかして···叔父様の本音はこっちなの?
たしかに、この国の優秀で有力な相手を婿に取るのが一番手っ取り早い。
後継者問題も片付くし、結婚してしまえばアレンフラール国からも狙われなくなるかもしれない。
しかし···。
アレンフラールから逃げて来たばかりで、それも婚約者から蔑ろにされて逃げてきた私としては、とてもすぐに誰かと結婚するなんて気持ちにはなれない。
こんな私と夫婦になりたいなんて人間は、権力を欲する者だけではないだろうか?
こんな私を好きになってくれる人なんて···。
誰を選ぶかによっても国を左右してしまうだろう。
それに私が女王になる道にしても、優秀な婿を取るにしても、まずこの国の事をよく知らなければならない、もっとこの国を、人を知らなくてはならない
アドラス叔父様にはこの話は保留にしてもらった。
私の覚悟が決まるまで、もっとこの国を知るまで···。
まずはこの国をもっと知る所から始めよう。
アドラス叔父様に、教師をつけて貰えるか話した。
そして空き時間には、城の中を歩いてみたい。
城で働く者達を知る事も、できる事の一つではないだろうか?
できればまた竜達に会えるといいな。
竜とふれあうのは初めてだったがとても癒された。
思っていた以上に賢く、コミュニケーション力が高い彼らにまた会いたい。
それと···竜王の加護についての何かヒントを得られるのではないかと思ったのだ。
私が知らなければならない事はたくさんあるのだ。
一歩ずつ、一歩ずつ着実に歩んでいきたい。
私は8歳の時に親元から離され、城に閉じ込められた。
貴族としての知識や王妃になる為の教育はたくさん受けてきたが、私の知識は偏っている。
外界から隔絶された環境で育ってしまった為、世間一般の知識が足りないのだ。
人と関わる事も少なかったから···人の気持ちにも疎い。
もっと人の気持ちを察する事ができていたら···ルイエスト殿下に蔑ろにされるような事はなかったのではないだろうか···?
アレンフラールには、思い出らしい出来事などほとんどない。それがまた私を悲しくさせた。
ただ、一つだけ思い出がある。
王宮での暮らしで寂しさを募らせた時、中庭で出会ったアルベールという···私より少し年下の少年。
彼もまた寂しそうな目をした少年だった。
彼も王宮での居場所がないのかいつも一人でいた。
気づけば、どちらかともなく話しかけた。
日常の些細な事を話すだけではあったが、彼と出会わなければ私の心は折れていた事だろう。
弟のような存在だったのかもしれない。
彼はどうしているだろうか?
私はあそこから逃げ出してしまった。
彼を残して···。
唯一の心残りといえば、アルベールの事だけだ。
彼も王宮の中ではいつも一人だった。
急な事でお別れもできずに去ってしまった私を···彼は怒っているだろうか?それとも悲しんでいるだろうか···?
もしできるなら、もう一度彼に会いたい。
私を本当の姉のように慕ってくれたアルベール。
もし可能であれば、宰相であるサジテール叔父様に保護をお願いできないだろうか···?
しかし···私はあの国から逃げ出した身。
宰相である叔父様に手紙など出してはすべてバレてしまう。
彼の安否がどうしても気になってしまうのだ。
彼の為にも私は力をつけなくてはならない。
いつか彼をあの場所から解放してあげられるように···。
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