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第5話 ベルーガの王

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今日は、ギルガー様がエスコートをしてくれるようだ。

ギルガー様が私の前で跪いた。

「 アンジェリーナ様の御手に触れる許可を頂けますか?」

ギルガー様が差し出す手の上に私の手を重ねた。

「 許可します。」

私がそう言うと、ギルガー様はそっと私の手を取り手の甲にキスを落とした。

ギルガー様の唇が手の甲に触れると、顔が熱くなる。

見た目は厳ついのに、彼はとても紳士的で...私に触れる手は、まるで宝物を壊さないようにするかのようにそっと触れるものだから、とても恥ずかしくなる。

ギルガー様は立ち上がるととても優しい笑顔と声で「行きましょうか。」とゆっくり歩き出す。

私がゆっくり歩けるように、進む早さも、歩幅も私に合わせてくれる。

「 昨夜はよく眠れましたか?昨日より顔色が良いですね。」

私の様子を気にかけてくれる。

「はい。皆様のおかげで、久しぶりにゆっくり休む事ができました。これも皆様が良くして下さるおかげです。ありがとうございます。」

私が笑顔でお礼を述べると、ギルガー様が頬を染めた。

「可愛い...」

ポソッとギルガー様が何かを呟いた。
なんて言ったのか気になり首を傾げると、ギルガー様は「な、なんでもありません...。」と俯いてしまう。

耳まで真っ赤だが...体調でも悪いのだろうか?

「アンジェリーナ様は無自覚過ぎます...!」

さらに真っ赤になるギルガー様がちょっと可愛いく見えてしまった。

無自覚とはなんだろう?

ギルガー様は、ゴホンと一度咳払いをすると再び歩き出した。

他の騎士様は、笑いながらギルガー様を見ていた。

一際荘厳な扉の前に着いた。

たぶん...謁見の間かしら?
途端に緊張してしまう。

「 国王陛下はどんな方ですか?」

緊張からギルガー様にそう聞くと、ギルガー様が優しい顔と声で緊張しなくても大丈夫ですよと微笑んだ。

「国王陛下は、貴女の事を悪いようにはしません。気さく...というか...お会いすればすぐにわかりますよ。」

ギルガー様が、少し言葉を濁したのが気にかかるけど...。ギルガー様がそう言うのだからきっと良い方なのでしょうね。

ギルガー様が声をかけると扉がゆっくり開いた。

すると中から人が飛び出して来た。

一瞬騎士達は警戒体制に入るが、飛び出して来た人物を見て、警戒を解いた。

そして飛び出して来た人物に飛び付かれ、体が硬直してしまう。

「ああ...。私の可愛いアンジェリーナ!やっと会えたね。ケガはしていないかい?ずっと心配していたんだよ。」

この状況は、一体なんなの...?

金糸のように美しく長い金髪に、整った甘いマスクの美丈夫に...何故か私は頬擦りされている。

「 あの...貴方は一体...?」

私が、恐る恐る尋ねると...。
彼はハッと何かを思い出したように体を離した。

「ごめんごめん...。挨拶がまだだったね。うっかり忘れてたよ。」

困ったように頬をかく目の前の美丈夫にレイナートが

「嬉しいのはわかりますが、うっかりしすぎです。お連れするまで、おとなしく王座に座って待っていて下さいと...。あれほど言いましたよね?陛下?」

と言うなり、ジトりと睨み付けた。


えっ...?陛下?


私は驚いて美丈夫を見た。
美丈夫は、一度ゴホンと咳払いをするとニッコリ笑った。

「私はこの国の国王、アドラス・ベルーガ。君のお母さんの弟だよ。小さい頃に、一度会ってるけど覚えてないよね?アンジェリーナ。驚かせてしまってすまなかったね。」

お母様の弟...?
という事は...私の叔父様!?

「 叔父..様?」

私が思わずポソッと呟くと、叔父様は嬉しそうに笑った。

「昔は、アドラスおじたんって呼んで懐いていたんだよ?」

そう言って、チラッと呼んで欲しそうにこちらを見ている叔父様。

いや?呼びませんよ?

一国の国王をそんな...呼べるわけないでしょ。
呼んで貰えず...目に見えてショゲる一国の王。

そんな残念そうにショゲても···呼べませんからね?

「 義兄さんと姉さんから...アンジェリーナが、アレンフラール王家に無理矢理取り上げられてしまったと話を聞いてね。いっそのこと、滅ぼしてやろうかとも思ったんだけど...。姉さん達に何かあっても困るしね..。どうにか保護をしてあげたくて、ゆっくりゆっくり奪還の準備をしたんだ。」

今、すごく不穏なこと言いませんでした?

考え直して下さって良かったです。
滅ぼすなんて...関係ない民まで巻き込んでしまいますから。

「向こうは...昨晩やっと君がいなくなったことに気付いて、大騒ぎして追手を放ったみたいだけど。もう保護した後だから遅いよね。」

アドラス叔父様は楽しそうに教えてくれた。

「そこでね。姉さん達と考えたんだけど...私にはまだ子供がいないから...アンジェリーナ。私の娘になってくれないか?
私の娘になれば、君はベルーガ国唯一の姫となる。アレンフラールは完全に手が出せなくなるから、君を保護するのにはもってこいなんだけど...どうかな?」 

突然の提案に困惑する。

「でも...私を娘になんてしたら...いずれ、叔父様に子供ができた時に困るのでは...?」

叔父様はまだ十分若い。
あり得ないことではない。

「今から言う事は、絶対誰にも言ってはいけないよ?
私には種がないんだ。子供が出来ないんだよ。兄さんは早くに亡くなってしまったし...本当ならば、私は王位を継ぐ権利などなかったんだけどね...。竜達が私に王印を付けたんだよ。」

叔父様は、髪を退かすと首筋に付いた王印を見せた。

ベルーガ国では、人ではなく竜が王を選ぶ。


「アンジェリーナ。どうか私の娘になって欲しい。君以外にいないんだ。それにアンジェリーナ...。
君ならば、必ず竜は君を次期女王として認めるだろう。」

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