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防衛戦
しおりを挟む外から激しく物がぶつかる音が聞こえる。
幸い私のプロテクト魔法が衝撃を防いでいるので建物が破壊されることはない。
「なんなんだ!?攻撃してるのに傷一つ入らないじゃないか···こりゃ魔法か?」
外の暗殺集団と隣国の公爵家の兵団の兵士達が必死に門扉を撃ち破ろうとしているが、プロテクトの魔法がかかっている為、なかなかダメージが通らない。
「バラバラな所を攻撃してても意味がねぇ。このままじゃ援軍を呼ばれちまう!一点を集中して狙え!!この建物全体に防御魔法をかけてるなら維持するにも相当な魔力が必要なはず。魔力もすぐ尽きちまうはずだ!!」
なんとか維持しているが···その通りだった。
今まさに魔力残量との闘い。
建物全体にプロテクトを張っている為、攻撃を受けるたびに攻撃された部分のプロテクトを維持するために魔力がゴッソリ持っていかれる。
人を一ヶ所に集めて、そこだけプロテクトを維持すれば魔力も少なくて済むのだが、白亜宮には建物の構造に致命的欠陥がある。
王族の住まいには、たくさんの抜け道が建物内に隠されている。
何か起きた時、王族が脱出する為の隠し通路だ。
万が一、人を一ヶ所に集めてプロテクトを張った時、隠し通路が敵に見つかってしまえば、逆に自分達を追い詰めてしまう恐れがある。
そうなってしまえば逃げ場がなくなってしまうのだ。
そして敵方の作戦の上手さもある。
とても優秀な指揮官がいるのだろう。
攻撃されている箇所だけに集中していると、全くの死角からも不規則に攻撃を仕掛けてくる為気が抜けない。
私の魔力残量を削る為の作戦だろう。
敵にとって、プロテクト魔法は予想外だったのだろうが、直ぐ様立て直す早さを考えると隠し通路に気付くのも時間の問題だと思う。
だから建物全体にプロテクトを張り続ける必要があった。
攻め込まれてどれくらい時間がたっただろう···。
後どれだけ耐えればいいのだろうか?
徐々に、心も体も疲弊してくる。
守りきれなければ死···。
考えただけでゾクッとする。
今まで死の恐怖に晒されることなどなかった。
暗殺集団が侵入してきたらひとたまりもないだろう。
体は恐怖に震える。
お願い早く···早く来て···。
カタカタと震える私の肩に温かな感触が触れる。
「防御魔法が解けても大丈夫だ。こちらも奴らがいつ侵入してきても大丈夫なように人員を配置している。だから自分をあまり追い詰めなくていい。君は本当によく頑張った。後は私達にまかせてほしい。」
優しいバリトンボイスが耳に響く。
その声を聞き、ずっと張り詰めて強ばっていた体から力が抜ける。
私の目からは安堵の涙が溢れる。
緊張の糸が切れた私はそのまま倒れ込んでしまった。
私が倒れた事でプロテクト魔法が解けて一気に敵が雪崩れ込むが、待ち受けていた警備の兵士やエヴァン侯爵率いる影の一族が応戦する。
油断していた訳ではなかったが、侵入者達は待ち伏せていた兵士や影の一族の奇襲に次々と倒されていく。
一人のまだ年若い少女が倒れるまでプロテクト魔法をかけ続けてくれたおかげで体力が温存できていた。
自分の力を振り絞り、皆の命を守る為に必死に頑張って耐え続けた少女の努力を無駄にしてはいけない。
その事実が彼等の力になる。
ずっとプロテクト魔法を破る為に力を使い続けた者とずっと体力を温存できた者の力の差が出た。
次々と敵が薙ぎ倒されていく。
エヴァン侯爵も包囲網から突破してきた敵を流れるような動きで次々と倒していく。
エヴァン侯爵の死角から攻撃を仕掛けようとした敵の頭に花瓶が落ちた。
エヴァン侯爵が死角の敵に気付いていないことに気付いた王妃が敵の頭に思い切り花瓶を叩きつけたのだった。
「もっと周りを警戒しなくてはダメよエヴァン?今のはかなり危なかったわ。」
王妃がしたり顔でエヴァン侯爵に笑いかける。
「お転婆姫は今も健在ですね。お見事です。」
エヴァン侯爵が苦笑いを浮かべる。
今でこそ淑女の鏡と呼ばれている王妃は、昔はとんでもないお転婆でお転婆姫と呼ばれていた。
儚げな見た目をしているが、こう見えて近接格闘が得意だという事を知っている人間は、昔の王妃を知っている人だけだ。
とくにエヴァン侯爵は彼女の本性をよく知っている。
何故なら、王妃に近接格闘を教えたのはエヴァン侯爵の父である前アーツブルグ侯爵なのだから。
「大好きな人の娘なんでしょ?何が何でも守り通しなさい。もう二度と後悔しないようにね。ただエレノアに惚れるのだけはダメよ?エレノアは私の息子エリックの嫁になる子なんだから!」
そう言ってニコリと微笑む王妃。
「キャデリーンも今は王妃なんだから無理はするなよ。ミルケル様が心配するだろ?」
するとキャデリーンの顔が暗くなる。
「あの人は···私がケガをしても心配しないかもしれないわ。だって···あの人が愛してるのはエメリアだもの。」
とたんにキャデリーンは強気な口調から弱気な口調に変わる。
「何度も言っているが、ミルケル様が愛しているのはキャデリーンお前だよ。お前がいない所で何度惚気を聞かされたか···。だからもっと自信を持てよ。とりあえず、ここを片付けたら本人に直接聞けばいい。今は来る敵に集中しよう。危ないと思ったらエレノア嬢を連れて二人で逃げるんだ。いいね?」
エヴァンが敵の攻撃を弾き飛ばしながら笑った。
キャデリーンは「エヴァン、ありがとう。」と言うと近くに落ちていた短剣を手に持ち敵を撃退した。
しばらく敵と応戦していると、急に外が騒がしくなる。
馬の嘶きと兵士の怒号が聞こえてくる。
その騒ぎでエレノアは目を覚ました。
「エレノアちゃん。目が覚めたみたいね?やっと増援が来たみたいよ。」
そう言って微笑む王妃様。
王妃様の言葉に安堵した。
良かった···。なんとか無事に耐えきれたのね。
ただ城の中の人達にケガや死亡者がいなければ良いのだけれど···。
外の状況がわからず不安になった──その時。
部屋の中にある隠し通路から、誰かが走って来る足音が聞こえた。
警戒体制に入るエヴァン侯爵。
しかし、扉から出てきたのは···私が今一番会いたい人だった。
「エレノア!!無事か?怪我は?怪我はしてないか!?」
扉から出てくるなり一目散にエレノアの元へ駆け寄るエリック。
「エリック!!貴方もケガはなかった?良かった···。エリック···。貴方と生きて会えて···。」
エレノアの瞳から大粒の涙が溢れた。
今頃になってガクガクと震えが止まらない。
「怖かった···っ··敵に囲まれたのも怖かった···けど···っ··もう生きてエリックに···二度と···っ···会えないんじゃないかって···っ··こわか··った··のっ··ううっ···。」
涙がポロポロと次から次へと溢れ落ち、私は上手く言葉を話すことができなくなってしまった。
そんな私を優しく抱き締めるエリック。
「怖い思いをさせてごめん。任務が終わってすぐに駆け付けようとしたんだけど···白亜宮が敵に囲まれているのに気付いて、兵を召集するのに時間がかかってしまった。すぐに駆け付けることができなくてごめん。」
エリックの抱きしめる力が強くなる。
「エレノアに何かあったらって考えたら···私もすごく怖かったよ···。本当に無事でいてくれて良かった。」
エリックの抱き締める腕が微かに震えている。
「エリック···。」
私からもギュッと強くエリックを抱きしめ返した。
「外は完全に制圧したからもう大丈夫だ。とりあえずここから出よう。」
そっと離れていくエリックの体温に名残惜しさを感じていると、エリックの大きな手が私の手を優しく包んだ。
「エレノア。私の手を離してはいけないよ?」
至近距離から突然囁かれ、胸の鼓動が早くなる。
(こんな至近距離でそんな甘く微笑まないでよ···!意識しすぎて···どんな顔していいかわからなくなるじゃない···。)
そんな私達の様子を見て微笑む王妃様とエヴァン侯爵。
「では私が先を歩きましょう。エリック殿下は一番後ろをお願いします。制圧したとは言え、まだ残党が潜んでいる可能性があります。警戒は怠らないで下さいね。」
エヴァン侯爵の真剣な表情にエリックは頷く。
私達は警戒しながら建物の外を目指し歩き出した。
警戒していたが、建物内に人の気配はなく無事に外に出ることができた。
外は隣国の公爵家の兵団と、暗殺集団の人間を捕縛した騎士団の騎士達でごった返していた。
その中にはルデオン様とオースティン様の姿も見える。
彼らに気を取られていたその時だった。
「エレノア様!危ない!!」
ルデオンの叫び声に振り返ると、すぐ目の前には今にも剣を突き刺そうとしている、隠れ攻略対象のルービック・シルスタインがいた。
ドンッ!!
強い衝撃で突き飛ばされた私は、激痛に顔を歪める。
ふと自分が立っていた場所を見ると──。
「エリック!!」
エリックの腹にルービックの剣が突き刺さっていた。
エリックの体が力を失くしグラッと倒れる。
私は慌ててエリックの体を抱きとめるが力が足りずエリックと共に崩れるように倒れる。
近くにいたエヴァン侯爵がすく様、ルービックを羽交い締めにする。
「エリック···?ねえエリック···?」
エリックを仰向けにするとエリックの顔は真っ青だった。
剣の突き刺さった腹部からは大量に血が流れ出ている。
「エリック···そんな···嫌···いやぁぁぁ!!」
静まり返ったその場は、エレノアの悲痛な叫びが響き渡った。
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