14 / 27
親友の異変(ルデオンside)
しおりを挟む今までずっと一緒に過ごしていた親友でもあり、上司でもあり、家族のような存在。
そんな大事な存在がエリックだった。
そんなエリックがいつから俺の前で笑わなくなったのだろうか?
王太子の身分故に仕方がないことなのかもしれない。
でも政治的に巻き込まれたエリックと、エリックが自分よりも大事にしている婚約者のエレノア嬢は深く傷付き、愛する二人の関係は歪んでしまった。
エリックは間違った方向に努力を続けてしまうし、エレノア嬢も笑わなくなってしまった。
二人はいつも悲しそうな表情をしていた。
それがエレノア嬢が大ケガをした事がきっかけに、やっと歪んでいた状態から戻り、二人の関係が前に進み始めた矢先にこの事件だ。
頼むからもう二人を巻き込まないでくれよ。
やっと二人は前を向けるように、自然に笑えるようになったんだ。
もう二人が傷つく様を見たくねぇんだよ。
あの女は学園に入学して来るとまずはエリックに接触した。
そしてオースティン、次に俺。
しつこいくらいに避けても絡んで来るあの女が本当に不快で仕方なかった。
でも、たまにあの女が呟くと、頭がボーッとして何を話したかわからない、何をしたか覚えていない時があった。
それをおかしいと思った俺は、オースティンに相談した。
頭の良いオースティンに聞けば、何かわかるだろうと思ったのだが···聞いて正解だった。
なんと、オースティンはあの女が禁術を使っている可能性まで見抜いていた。
しかし、この国で禁術を使おうとするようなバカな奴が本当にいるのか?
禁術の罰と言えばみんな恐ろしいものだと子供でも知っている。
だからこの国では、一度も禁術を用いた事件は起きていない。
本当に、そんなものを使おうとする奴がいるのか?
俺は半信半疑だった。
今は急ぎ、禁術を防ぐ為の魔道具が出来上がるのを待っている状態。
それが出来上がる前に事件が起きなければいいが···。
しかし、恐れていたことが起きてしまった。
それは王妃主宰のパーティーで起きた。
俺は久しぶりに、二人がパーティーに来るのを知っていたので、二人を待っていた。
ずっとエリックが俺達に紹介をしてくれなかったが、エレノア嬢の事は知っていた。
エリックが紹介してくれないから、話した事はなかったけど。
王城に、エリックに会いに来ているであろう姿を何回も見た。迷っていた彼女を実は助けたこともある。
きっと彼女は、覚えていないとは思うが···。
エレノア嬢は···俺の初恋の人だから。
大事なエリックの婚約者だから、この気持ちは一生彼女に告げるつもりはない。
だから、大事なエリックの為に、大事なエリックの婚約者の為に···俺は命をかけて二人を守ると決めている。
しかし、なんて事だ···。
あの女の姿を見た時、全力であの女を止めようとした。
だけどあの女が、「かきんあいてむ使用」と呟いた瞬間···体が動かなくなった。
「かきんあいてむ」ってなんなんだ?
その瞬間の記憶がボーッとしか思い出せない。
しかし、あの女が何かをぶつぶつと呟いているのだけは覚えていた。
「かきんあいてむを使い過ぎてもう後がないのよ···!心配だからって何度も試し過ぎたわ。一回使うごとに※100万ゴールドも使わないといけないなんて···。しかも、あんなに短時間の効き目しかないなんて···完全に詐欺じゃない!おかげで何回も使うハメになるし···没落寸前よ···。もうこれ以上迂闊に使えないのに···。」
※こちらの世界のお金に換算すると100万円くらいです。
あの女は、そんな事をぶつぶつ呟いていた。
そして、俺が動けない間にエリック達の方へ行ってしまう。
ボーッとする頭でも、あの二人を守らないと!と必死に抵抗していたその時、オースティンが俺の首に何かネックレスみたいなものを掛けた。
すると、あんなに頭がボーッとしていたのが嘘のようにクリアになる。
オースティンは「やはりか···。」と苦々しい苦悶の表情を浮かべていた。見れば、オースティンの首にも同じネックレスが
かかっている。
俺はエリックとエレノア嬢の元へ走るが、間に合わなかった。
エレノア嬢が、今にも泣き出しそうな表情で広間を駆け出して行く。
どちらへ行くか···迷ってしまった。
エレノア嬢を追いかけるか、エリックを救出するかで···。
困った俺はオースティンの方を見る。
オースティンは指でエリックを指差しパクパクと口を動かした。
オースティンの唇の形が「止めてください!」と動いたのが見えて、俺はエリックの肩を掴む。
まだ動けないと思っていた俺が動けた事に驚いたのか、あの女は「どうして動けるのよ···話が違うじゃない!」と呟いた。
やはりこの女は···。
思い切りあの女を睨み付けて、「エリック様は急ぎの仕事が入りましたので、商談の最中ですが失礼します!」と言い無理矢理控え室へ連れ帰った。
周りの貴族達は、「なんだ···商談だったのね。あまりに近い距離感で何事かと思ったわ。ランバート公爵令嬢は、商談の為に席を外したのね。まあ殿下があれほどランバート公爵令嬢を大事にされてるのだから···こんな公共の場で浮気なんてあり得ないわよね···。だいたいあの女性が、無理矢理商談を通そうと色仕掛けしようとなさったんでしょうけど···ねぇ?クスクスッ。」
ギリギリ悪評が広がる前に止めることができたのは不幸中の幸いだ。
あのまま···あの女とファーストダンスを踊ってなんかいたら···あいつの努力がすべて無駄になっちまう所だった。
今までにない程の怒りが湧いた。
無理矢理引き摺るようにエリックを連れて来たが、明らかに様子がおかしい。
虚ろな表情に何も映していない瞳。
無理矢理引き摺るように引っ張っているのに、抵抗すらしない。
急いでオースティンの待つ控え室へエリックを押し込んだ。
オースティンは部屋に鍵をかけて、盗聴と覗き見防止の魔法をかける。
そして先ほどのネックレスをエリックの首に掛ける。
すると、徐々に焦点の合わなかったエリックの目に光が戻ってくる。
「私は···一体···?ここは···?」
まだ禁術が解けたばかりで意識がハッキリしていないようだ。
「ハッ···!?おい!!エレノアは?エレノアは一体何処にいるんだ?彼女は私と····私と一緒にいたはずなのに···!!」
エレノア嬢が側にいないことに気付いたエリックが、エレノア嬢を探しに行こうと暴れ出した。
俺とオースティンは、気まずそうに顔を合わせた。
「エリック。落ち着いて今から私が言う事を聞いて下さい。エレノア様には王家の影がついているので安全です。今から何が起きたか、すべて話しますから···。落ち着いて下さいね。」
オースティンの言葉に頷くエリック。
そしてオースティンは、エリックに何が起きたのか、事細かに話し始めた。
2
お気に入りに追加
416
あなたにおすすめの小説
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
枯れ専で何が悪い!
嘉ノ海祈
恋愛
―何かが違う。侯爵令嬢であるエリワイドはその違和感に頭を抱えていた。違うのだ。かっこいいと思う基準が。周りの令嬢は若くて顔の良い貴族令息に黄色い声を上げる中、エリワイドは一人節くれだったおじさま方の姿に見惚れていた。数多くの有名令息からの縁談も、おじさま好きであるエリワイドの心には響かない。もうすぐ迎える18歳になって初めての社交界で、婚約者をパートナーとして連れて行かなければならないエリワイドはずっと恋焦がれていたとある人物に婚約を申し込む。しかし、その人物は40年以上誰とも結婚をしていないくせ者だった。
絶対に彼と婚約をしたい侯爵令嬢と、絶対に婚約を結びたくない辺境伯の恋の攻防物語。
※小説家になろうにも掲載しています。
家路を飾るは竜胆の花
石河 翠
恋愛
フランシスカの夫は、幼馴染の女性と愛人関係にある。しかも姑もまたふたりの関係を公認しているありさまだ。
夫は浮気をやめるどころか、たびたびフランシスカに暴力を振るう。愛人である幼馴染もまた、それを楽しんでいるようだ。
ある日夜会に出かけたフランシスカは、ひとけのない道でひとり置き去りにされてしまう。仕方なく徒歩で屋敷に帰ろうとしたフランシスカは、送り犬と呼ばれる怪異に出会って……。
作者的にはハッピーエンドです。
表紙絵は写真ACよりchoco❁⃘*.゚さまの作品(写真のID:22301734)をお借りしております。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
(小説家になろうではホラージャンルに投稿しておりますが、アルファポリスではカテゴリーエラーを避けるために恋愛ジャンルでの投稿となっております。ご了承ください)
すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜
四葉美名
恋愛
(どうして? 誰も私のこと覚えてないの?)
約一年前、私「渡辺咲良・わたなべさくら」は異世界の瘴気を浄化する聖女として召喚された。しかしどういうわけか、あと一箇所の瘴気の穴を残して、日本に戻ってきてしまう。
召喚された異世界で一緒に旅した若き騎士団長のカイルと恋人になっていた咲良は、どうにか帰れないかと泣き暮らす日々。
そんなある日、足元に再び魔法陣が現れ、異世界に再召喚される。
「やっとカイルに会えるんだわ!」
しかし自分が去った一年後のその世界では、誰も自分のことを覚えておらず、聖女の力も失っていた。言葉を話そうとしても喉に鋭い痛みが襲い、何も話すことができない。
そのうえ、結婚を約束していた恋人のカイルには、アンジェラ王女という婚約者がいたのだった。
そしてその王女の指示により、咲良は王宮に不法侵入した罪で崖から突き落とされてしまう。
その突き落とした相手は、かつて愛した恋人の「カイル」だった……
世界観はゆるゆるファンタジーです。恋愛小説大賞に参加中の作品です。
婚約者の浮気から、どうしてこうなった?
下菊みこと
恋愛
なにがどうしてかそうなったお話。
婚約者と浮気相手は微妙にざまぁ展開。多分主人公の一人勝ち。婚約者に裏切られてから立場も仕事もある意味恵まれたり、思わぬ方からのアプローチがあったり。
小説家になろう様でも投稿しています。
趣味で官能小説を書いていた王子が、婚約者に誤解されて婚約破棄されそうになった話
しがついつか
恋愛
第二王子ザカライアには、人には言えない趣味があった。
それは、官能小説を書くことだ。
このことを知っているのは友人であり、出版社社長の息子であるマックスのみだ。
いつも通り学園の図書準備室で書き上げた作品をマックスにチェックしてもらっている時に、
偶然通りかかったザカライアの婚約者が、彼らの会話を耳にしてしまった。
「――そもそも俺じゃ無くてもいいんじゃないか?ザカライアには俺よりもっと他に良い相手がいるかもしれないだろう?」
「ダメだよ!僕は…僕はマックスじゃなきゃダメなんだ!マックス無しじゃ何も出来ない!」
(はわわっ…)
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる