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サブヒーローと遭遇しました
しおりを挟む探していた人物で小説のサブヒーローのイザークと遭遇したエルルーシアだったが、アリアナ達と離れすぎてしまい、どう二人を引き合わせるか悩んでいた。
「あの、つかぬことをお聞きしますが、ドミニコフ嬢はお一人ですか?」
イザーク様は、パートナーを連れていなかった私を心配してくれているみたいで、アリアナと引き合わせたかった私には渡りに舟だった。
「今日は、友人にエスコートしてもらったのですが···お恥ずかしい事に、美味しそうなお料理に余所見をしていたらはぐれてしまったんです。それと、フォレスター様さえ宜しければ、会場の中には妹も来ていますので、私の事はエルルーシアとお呼び下さいませ。」
恥ずかしいけど、今は食いしん坊キャラになるしかない。
そして、二人を引き合わせる前に、リリアと万が一遭遇すると、ドミニコフ嬢だとややこしい。
とりあえず名前呼びも不自然じゃないよね?
これも、アリアナとイザークの仲を取り持つ為よ。
たぶんイザークは優しいから、はぐれてしまったと言えば一緒に二人を探してくれるはず。
そうすれば、二人を自然と引き合わせる事ができる。とてもいい作戦ね。
「では、え···エルルーシア嬢。もし宜しければ、私の事もどうかイザークと呼んでいただけますか?
私も会場に弟がおりますので。
そして、ご迷惑でなければご友人が見つかるまでご一緒させて下さい」
イザークは、人見知りとかあがり症かしら?
頬を赤くして、とても緊張してるみたいだけど···。
私ごときに緊張する必要はないし、どうにか緊張を解いてもらえたら良いのだけれど。
たしか···レイブンは、緊張している時にいつも手を握ってくれた。
きっと、手を握れば緊張が解けるはず!
「イザーク様、ありがとうございます。
本当は、一人でとても心細かったので助かります。」
最高の笑顔をイザークに向けて、ギュッと優しく両手でイザークの手を握ると、イザークは顔を真っ赤にして固まってしまった。
あれ?おかしいな···私はこれで緊張が解けるんだけど。イザークは相当なあがり症?
イザークの意識が戻るまで待つと、意識が戻ったイザークが慌ててエスコートしてくれたので、二人で歩き出す。
「エルルーシア嬢は、婚約者か恋人はいらっしゃるんですか?」
まあ、友人にエスコートしてもらっていたら、いないのバレバレか。
転生してからもう半年。あの事件の後からずっと引きこもっていたから、婚約者どころか彼氏もいない。
前世も恋人より読書優先だったから恋人なんていたことなかった。
たぶん、エルルーシアもいなかったと思うわ。
こういう世界だと、高位令嬢なら婚約者がいてもおかしくないよね?
「お恥ずかしい事に、まだいないんです。
私が人見知りなのもありますが、まだ恋愛というものがよくわからないので···。
お父様が何も言って来ないのをいい事に、ずっと逃げていました。いつかは···と思うのですが、素敵な方に出会えたその時はしてみたいですね」
困ったようにエルルーシアが笑うと、イザークが何かを言いかけた瞬間だった。
エルルーシアは一点を見て固まった。
嘘よ····。
そんなわけない···。
絶対に違うのに····体が動かない。
エルルーシアの視線の先には、確かに処刑されたはずの男に瓜二つの男がこちらを向いて立っている。
イザークは、すぐに彼女の様子がおかしい事に気がついた。彼女が異常なほど震えていたからだ。
「何かありましたか?大丈夫ですか?」
声をかけても、彼女は恐怖に染まり震えて言葉を発する事ができなかった。
「今助けが必要ですか?無理に言葉は出さなくて構わないので、必要であれば頷いて下さい」
エルルーシアは、必死に頷いた。
それを見たイザークは、上着を脱いで彼女の姿が周りに見えないように、エルルーシアに上着を被せた。
「ちょっとお疲れみたいですね。良ければテラスまでお連れしますので、そこで少し休憩しましょう」
イザークは、違和感がないようにエルルーシアをテラスまで連れ出してくれた。
「もう大丈夫です。こちらに腰かけて下さい。
何があったのか話せそうですか?私で良ければお力になります、無理はしなくて大丈夫ですから、話せたら話してくれませんか?」
イザークは、騎士団に所属する騎士だ。
私の弱味を誰かに話す事は絶対にない。
もし今見たものが本物ならば、絶対に誰かの力が必要だ···。
「今から話す事は、誰にも話さないと誓っていただけますか?私の名誉にも関わる事なのです···」
私は声が震えるのを必死に耐えながら話すと、イザークは「命に替えても秘密は守ります」と真剣な表情で私が話すのを待ってくれた。
「···今から半年前、私は屋敷の給仕見習いの男性に睡眠薬を盛られて、無理心中に巻き込まれそうになったのです···。運良く殺される前に意識が覚醒し、必死に抵抗したので命は助かりました」
話の内容に、イザークの顔色が青褪める。
イザークには心当たりがあった。
その犯人を取り調べたのは、イザークの班だったのだ。
確か···被害に遭ったのは、エルルーシア・ドミニコフ侯爵令嬢。
彼女だったのだ。
被害者の女性は、あまり積極的に社交の場には出て来なかったから、騎士団の人間は誰も顔を知らなかった。
彼女からも直接聴取する予定だったのだが、事件のショックから人と話せる状況ではなかったのでご両親からの願いもあり、聴取は彼女のご両親や使用人達のみだった。
当たり前だ。
身近な人間から薬を盛られ、殺されそうになったのだ。
騎士団は男ばかりで、我が国に女性騎士は少なく、だいたい王族の女性の警護に回っているから、聴取するのは男性騎士。
事件に巻き込まれたばかりで、見知らぬ男性に囲まれたら···恐怖以外のなにものでもない。
目の前のこんな可憐な女性が、そんな恐ろしい目に遭ったのかと思うと、犯人に対して怒りが湧く。
どうにか、彼女を支えてあげたい。
「犯人が捕まり処刑されたと聞いていたので、友人の力を借りて····必死に心のリハビリをしました。
やっと社交に出れるまでに癒えていたのに···。
先ほど、犯人に瓜二つの人間を見かけてしまったんです···。たぶん、見間違えではないと思います。その後、恐怖で体が動かなくなってしまって····」
泣き出しそうになった時、イザークに抱きしめられた。
「もう、それ以上無理に話さなくていいです。
もうこれ以上貴女が傷つく必要はありません···無理に話させてしまってすみませんでした」
イザークは、地に頭がついてしまうのではないかと思うほど深く頭を下げた。
「絶対に調べて捕らえます。私は、貴女の心を深く傷つけた犯人を許せません。貴女の事は、このイザーク・フォレスターが命に懸けてお守りすると誓います。どうか私に貴女を守らせて下さい。お願いします」
この人なら、絶対に守ってくれるという安心感から、イザークの腕の中で思い切り泣いた。
泣いている間、イザークはずっと私の背を撫でてくれた。
張りつめていた糸が切れてしまったのか、私はそのまま意識を失っていた。
「ねぇ···アンタ···エルに何をした···?」
意識を失ったタイミングで、テラスにレイブンが入ってきた。
「彼女のお連れの方ですか?彼女の事でお話があります。出来ればご家族を至急ここに呼んで来ていただけませんか?」
怒りが頂点に達し、無表情のレイブンに対しても怯む事なく冷静にイザークは話す。
「俺は、エルルーシアに何をしたのか聞いてんだよ!!お前エルに何をした?どうしてエルが泣いていたのか説明しろよ!」
「その事で緊急にご家族にお話しなければならないと言っている。彼女の心配をするのなら、すぐに彼女のご家族を呼んでくるのが先だろう?少し冷静になりたまえ」
レイブンは、それ以上言い返す事が出来ずに、壁をガン!と思い切り殴るとテラスを後にした。
イザークは、レイブンが彼女に友達以上の気持ちを持っている事を察した。
彼の怒りは、彼自身に対しての怒りだ。
彼女をエスコートしてきたのに、目を離してしまい必死に探していたのだろう。
彼女をちゃんと守れなかった自分への怒りを抑えきれなかったのだ。
イザークも、必死に自分への怒りを抑えていたのでわかった。
彼女は、犯人と瓜二つの人間を見たと言っていた。
犯人は確かに捕まり処刑された。
だけど、その家族への罰までは望まないと侯爵夫妻に言われたのだ。
罪があるのは本人だけだから、家族に罪はないと。
娘は優しい子だから、犯人の家族まで処刑したと聞いたら余計に悲しむから···と。
被害者側からの申し出だったので、犯人のみ罰を受ける事で事件は幕を閉じた。
でも、せめて家族の事くらいは調べておくべきだったのだ···。
もし犯人が双子だったら?
もし、捕まえた犯人が入れ替わっていたら?
イザークの頭の中には、すぐにその可能性が浮かんだ。
明らかな、イザーク達騎士団のミスだ。
彼女をあんなに怯えさせてしまったのは、自分自身の失態が原因かもしれないのだ。
だから、イザークはレイブンを責める事は出来なかった。
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