10 / 19
第10話 捜索
しおりを挟む彼女を探しに書庫へ向かう。
書庫へ行くと、彼女の一番上の兄ドミニクがいた。
いつも静かな書庫がなんだか騒がしい。
普段、沈着冷静なドミニクが私の顔を見るなりこちらに駆け寄って来る。
「ヘルムート!シルヴィアを見かけませんでしたか?」
ドミニクの顔は真っ青だった。
シルヴィアがいない...だと?
何だか...すごく嫌な予感がする。
動揺したドミニクを、椅子に座らせて、何があったのか詳しく聞く。
「財務部の文官から急ぎの資料を届けてほしいと連絡があり...手の空いていたシルヴィアに資料を届けに行ってもらったのですが...まだ戻らないのです。財務部に確認したら資料を届けてすぐに戻ったと言われ...行きそうな場所や周辺を探したのですがシルヴィアの行方が全くわからないんです...。」
ドミニクは顔をさらに青ざめさせて俯いてしまった。
シルヴィアが行方不明だと...?
やはり...目を離すんじゃなかった...。
「ドミニク...必ず、シルヴィアは私が見つけるから...。この手紙をあの方に渡してきてくれないか?届けたら、先に家に帰って待っていてくれ。見つけたら必ずシルヴィアを送り届ける。」
ヘルムートは、ドミニクに一通の手紙を差し出した。
「わかった。すぐに届けて来るよ。ヘルムート...シルヴィアを頼んだよ。」
城内で、侯爵家の令嬢が行方不明...。
もう...イタズラでは済まされない。
犯人に目星はついている。
私のシルヴィアに手を出したこと...絶対に許さない。
詰所に残っているメンバーに捜索を要請し、彼女の行動を予測する。
財務部から、書庫までのルートを探すことにした。
人のあまりいない遠回りルート、程よく人が通る最短ルート...シルヴィアならどちらを選ぶか...。
シルヴィアが一人で行動するなら...人のあまりいないルートを通って書庫に戻ると思う。
それにあのルートの途中には、あまり使われていない空き部屋がたくさんある...。
たぶん...そのどれかの部屋にシルヴィアはいる。
確信があった。
すぐに私は、空き部屋がある場所を目指す。
すっかり日も落ち、辺りは真っ暗だった。
それに今日は、かなり寒い...。
早く彼女を見つけないと危険だ。
私はランタンの光で辺りを照らす。
使われていない部屋はかなりある。
彼女がいなくなって、かなり時間がたっている...。
早く見つけないと...。
私は端から、ドアをドンドンと叩き、大声でシルヴィアの名を呼ぶ。
「シルヴィア!!いたら返事をしてくれ!」
そう叫び、ドアに耳を当てる...が反応はない。
次の部屋も、同じようにするが返事はない。
もし意識を失っていたら...そう考えると気持ちばかり焦ってしまう。
シルヴィア...頼む返事をしてくれ...。
何部屋目だ...ここにはいないのだろうか?
辺りを見渡すと、埃っぽい通路に足跡を見つけた。
この部屋だ─。
直感で、ドアを蹴破る。
そこには、膝を抱えて蹲り、意識を失ったシルヴィアがいた。
「 シルヴィア!!」
私は、彼女をそっと抱きしめる。
体がかなり冷えている...息は...している。良かった。
だが...熱があるのか、額には汗が浮き..苦しそうに呼吸している。
このままでは危ない。
彼女を抱き上げ、部屋を出ると急いで医務室へ運んだ。
部屋を暖め、毛布で彼女の体を包み抱き締める。
もう大丈夫だから...今、医師が来るから...。
もう少しだけ我慢してくれ...。
ハンカチで彼女の額の汗を拭うと彼女がうっすらと目を開けた。
「 ヘルムート...様...?どう..して...?」
意識が朦朧としているのか、目の焦点があっていないが....私が側にいる事に気付いたようだ。
「シルヴィア...早く気付いて見つけてあげられなくてごめんね。もう大丈夫だからね...。つらいと思うけど、医師が今来るから少しだけ、このまま待ってて。」
ギュッと彼女の体が暖まるように優しく抱きしめる。
抱きしめながら彼女の手を取ると、彼女の顔が痛みに歪む。
手を見ると、紫色に腫れあがり、痣になっていた。
私は...怒りで手が震える。
足首も捻ったのか腫れているし...頬も赤く腫れている。
許さない...彼女にこんな酷い仕打ちをしたのは、アイツしか考えられない。
もう絶対に逃がさない。
怒りで顔を歪めると...彼女の手がそっと私の顔に触れた。
「ヘルムート..様は...そんな顔...似合わないです...。」
熱で苦しそうだが、意識が戻って来たらしい。
「 シルヴィア...僕のせいで...こんな酷い目に合わせてごめん...。君を傷つけたのはイザベル嬢だね...? 」
私がそう尋ねるとシルヴィアはコクリと頷いた。
やはりイザベルか...。
「シルヴィア...今は苦しいと思うから無理に話さなくていい。後日詳しく話を聞かせてもらってもいいかい?」
シルヴィアはコクリと頷いた。
「 シルヴィア...イザベルに、私の事を何か言われたと思うけどすべて出鱈目の嘘だから。信じてはいけないよ。君に、こんな酷い事をしたイザベル嬢を絶対に許さない...。私のせいでこんな目にあわせてしまって...本当にすまない。」
ヘルムート様は優しく私の頬に触れた。
暖かい...。
朦朧とする意識の中、泣きそうな顔のヘルムート様が見えた。
「体調が落ち着いたらまた話すけど...シルヴィアに聞いてほしい事があるんだ...。愚かな少年の過ちを...。」
彼はそういうと今にも泣き出しそうな顔で...ギュッと私を抱きしめた。
2
お気に入りに追加
466
あなたにおすすめの小説
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
【完結】恋につける薬は、なし
ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。
着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜
あまぞらりゅう
恋愛
クロエの最愛の母が死んで半年後、父親は愛人とその娘を侯爵家に受け入れて、彼女の生活は様変わりをした。
狡猾な継母と異母妹の企みで、彼女は居場所も婚約者も……全て奪われてしまう。
孤独に追い詰められたボロボロの彼女は、ゴースト――幽霊令嬢だと嘲笑われていた。
なにもかもを失って絶望した彼女が気が付いたら、時を逆行していた。
「今度は……派手に生きるわ!」
彼女は、継母と異母妹に負けないように、もう一度人生をやり直そうと、立ち上がった。
協力者の隣国の皇子とともに、「時間」を操り、家族と婚約者への復讐劇が今、始まる――……。
★第一章は残酷な描写があります!(該当の話は冒頭に注意書きをしています!)
★主人公が巻き返すのは第二章からです!
★主人公が虐げられる様子を見たくない方は、第1話→第32話(流し読みでOK)→第33話〜と、飛ばして読んでも一応話は通じると思います!
★他サイト様にも投稿しています!
★タイトル・あらすじは予告なく変更する可能性があります!
番(つがい)はいりません
にいるず
恋愛
私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。
本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。
私の婚約者が、記憶を無くし他の婚約者を作りました。
霙アルカ。
恋愛
男爵令嬢のルルノアには、婚約者がいた。
ルルノアの婚約者、リヴェル・レヴェリアは第一皇子であり、2人の婚約は2人が勝手に結んだものであり、国王も王妃も2人の結婚を決して許さなかった。
リヴェルはルルノアに問うた。
「私が王でなくても、平民でも、暮らしが豊かでなくても、側にいてくれるか?」と。
ルルノアは二つ返事で、「勿論!リヴェルとなら地獄でも行くわ。」と言った。
2人は誰にもバレぬよう家をでた。が、何者かに2人は襲われた。
何とか逃げ切ったルルノアが目を覚まし、リヴェルの元に行くと、リヴェルはルルノアに向けていた優しい笑みを、違う女性にむけていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる