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第10話 捜索

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彼女を探しに書庫へ向かう。

書庫へ行くと、彼女の一番上の兄ドミニクがいた。

いつも静かな書庫がなんだか騒がしい。
普段、沈着冷静なドミニクが私の顔を見るなりこちらに駆け寄って来る。

「ヘルムート!シルヴィアを見かけませんでしたか?」

ドミニクの顔は真っ青だった。

シルヴィアがいない...だと?
何だか...すごく嫌な予感がする。

動揺したドミニクを、椅子に座らせて、何があったのか詳しく聞く。

「財務部の文官から急ぎの資料を届けてほしいと連絡があり...手の空いていたシルヴィアに資料を届けに行ってもらったのですが...まだ戻らないのです。財務部に確認したら資料を届けてすぐに戻ったと言われ...行きそうな場所や周辺を探したのですがシルヴィアの行方が全くわからないんです...。」

ドミニクは顔をさらに青ざめさせて俯いてしまった。

シルヴィアが行方不明だと...?

やはり...目を離すんじゃなかった...。

「ドミニク...必ず、シルヴィアは私が見つけるから...。この手紙をあの方に渡してきてくれないか?届けたら、先に家に帰って待っていてくれ。見つけたら必ずシルヴィアを送り届ける。」

ヘルムートは、ドミニクに一通の手紙を差し出した。

「わかった。すぐに届けて来るよ。ヘルムート...シルヴィアを頼んだよ。」

城内で、侯爵家の令嬢が行方不明...。
もう...イタズラでは済まされない。

犯人に目星はついている。
私のシルヴィアに手を出したこと...絶対に許さない。


詰所に残っているメンバーに捜索を要請し、彼女の行動を予測する。

財務部から、書庫までのルートを探すことにした。

人のあまりいない遠回りルート、程よく人が通る最短ルート...シルヴィアならどちらを選ぶか...。

シルヴィアが一人で行動するなら...人のあまりいないルートを通って書庫に戻ると思う。

それにあのルートの途中には、あまり使われていない空き部屋がたくさんある...。

たぶん...そのどれかの部屋にシルヴィアはいる。

確信があった。

すぐに私は、空き部屋がある場所を目指す。

すっかり日も落ち、辺りは真っ暗だった。
それに今日は、かなり寒い...。

早く彼女を見つけないと危険だ。

私はランタンの光で辺りを照らす。

使われていない部屋はかなりある。
彼女がいなくなって、かなり時間がたっている...。
早く見つけないと...。

私は端から、ドアをドンドンと叩き、大声でシルヴィアの名を呼ぶ。

「シルヴィア!!いたら返事をしてくれ!」
そう叫び、ドアに耳を当てる...が反応はない。

次の部屋も、同じようにするが返事はない。

もし意識を失っていたら...そう考えると気持ちばかり焦ってしまう。

シルヴィア...頼む返事をしてくれ...。

何部屋目だ...ここにはいないのだろうか?

辺りを見渡すと、埃っぽい通路に足跡を見つけた。

この部屋だ─。
直感で、ドアを蹴破る。


そこには、膝を抱えて蹲り、意識を失ったシルヴィアがいた。

「 シルヴィア!!」

私は、彼女をそっと抱きしめる。
体がかなり冷えている...息は...している。良かった。

だが...熱があるのか、額には汗が浮き..苦しそうに呼吸している。

このままでは危ない。

彼女を抱き上げ、部屋を出ると急いで医務室へ運んだ。

部屋を暖め、毛布で彼女の体を包み抱き締める。
もう大丈夫だから...今、医師が来るから...。

もう少しだけ我慢してくれ...。

ハンカチで彼女の額の汗を拭うと彼女がうっすらと目を開けた。

「 ヘルムート...様...?どう..して...?」

意識が朦朧としているのか、目の焦点があっていないが....私が側にいる事に気付いたようだ。

「シルヴィア...早く気付いて見つけてあげられなくてごめんね。もう大丈夫だからね...。つらいと思うけど、医師が今来るから少しだけ、このまま待ってて。」

ギュッと彼女の体が暖まるように優しく抱きしめる。

抱きしめながら彼女の手を取ると、彼女の顔が痛みに歪む。

手を見ると、紫色に腫れあがり、痣になっていた。

私は...怒りで手が震える。

足首も捻ったのか腫れているし...頬も赤く腫れている。

許さない...彼女にこんな酷い仕打ちをしたのは、アイツしか考えられない。

もう絶対に逃がさない。

怒りで顔を歪めると...彼女の手がそっと私の顔に触れた。

「ヘルムート..様は...そんな顔...似合わないです...。」

熱で苦しそうだが、意識が戻って来たらしい。

「 シルヴィア...僕のせいで...こんな酷い目に合わせてごめん...。君を傷つけたのはイザベル嬢だね...? 」

私がそう尋ねるとシルヴィアはコクリと頷いた。
やはりイザベルか...。

「シルヴィア...今は苦しいと思うから無理に話さなくていい。後日詳しく話を聞かせてもらってもいいかい?」

シルヴィアはコクリと頷いた。

「 シルヴィア...イザベルに、私の事を何か言われたと思うけどすべて出鱈目の嘘だから。信じてはいけないよ。君に、こんな酷い事をしたイザベル嬢を絶対に許さない...。私のせいでこんな目にあわせてしまって...本当にすまない。」


ヘルムート様は優しく私の頬に触れた。

暖かい...。

朦朧とする意識の中、泣きそうな顔のヘルムート様が見えた。


「体調が落ち着いたらまた話すけど...シルヴィアに聞いてほしい事があるんだ...。愚かな少年の過ちを...。」


彼はそういうと今にも泣き出しそうな顔で...ギュッと私を抱きしめた。































    
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