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第二部: 君の面影を求め往く - 第二章: 新進気鋭の男爵家にて
◆連載二百回記念閑話: 変態
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連載二〇〇回を記念した番外編となります。
アルファポリスでは短編を統合した関係で今回二〇二回なのですが……。
本文ピッタリ二、二二二文字、お楽しみいただけますように!
************************************************
ある朝、僕ことシェガロ・ベイン・エルキルが長すぎる夢から覚醒すると、寝床にある自身の姿が巨大なダンゴムシに変わってしまっていることに気が付いた。
硬い甲殻に覆われた背を藁の山に沈ませ、七対十四本もの脚を天井へ向けている。
『こ、これは!? 一体全体、僕の身に何が……ん? 藁?』
奇怪な変身事件に比べれば些細なことだが、どうやらここは領主屋敷の子ども部屋ではなく、大量の藁が積み上げられた小屋の中らしい。
まぁ、この姿では二段ベッドを下りるのも難儀しただろうから、それはさておくとして。
『おい、楽天家! 目を開けたんだ、起きているんだろう? どうなっている!?』
目蓋などないダンゴムシが目を開けるとは、おかしな物言いだ。
頭の片隅でそんなことを思いつつ、身体の主導権を握っているはずの楽天家へ呼び掛け、体長二百センチは下らない巨体を起き上がらせていく。
すると、誰からの返事もないまま、仰向けの身体は僕の意に従ってひっくり返り、勢い余って積み藁の上より剥き出しの土が広がる地面へ向かい、ごろんと転がり始めた。
『おおっ!?』
反射的に身を竦めれば、本能によるものかダンゴボディは瞬時に丸まり、綺麗な球体と化してころころ転がっていってしまう。
壁にぶつかり、柱に当たり、その度にコースを変えながら何故か速度はほとんど落とさずに、仕舞いには扉を内側から押し開き、勢いよく外へと飛び出した。
『ららら楽天家っ! 早く止めてくれ! な、何故、ずっと黙ってるんだ、オイ!』
「「わ! なんだ、こいつ!」」
「おっきなダンゴムシ!」
「どっから出てきた!? ファル、近付こうとするな」
「待てよ、ハイナルカたちも下が……いや、誰か闘える奴を呼んでこい!」
背中の甲殻を外側へ向けて丸まっている僕には周囲の様子は分からないが、村の子どもたちに見つかってしまったようだ。
おそらく、姉クリスタの取り巻きをしているイヌ・サル・キジのトリオだろう。
妖精の取り替え子であるエルフの女児ファルーラと、初級冒険者ライレの声もする。
『誰でもいいから止めてくれえ!』
――パッカーン!
『あいたっ』何かで背中を叩かれ、僕のダンゴボディがようやく失速する。
「俺が足止めをしといてやるよ! 行けっ!」
「任せたぜ、ライレ!」
なおもゆっくり転がる身体を伸ばして停止すると、僕は周りを見渡してみる。
低すぎる視点に加え、やけにぼんやりとして見えづらい視界に難儀するも。
『……ああ、ここは牧場の側だな。察するに、起きたときにいた場所は飼い葉の倉庫の一階か? おいおい、軽く二百メートルは転がってきたみたいだぞ』
「モールドクロウラーに似てるな。下級モンスターだが硬えっつう。俺のシールドバッシュじゃノーダメージっぽいし、参ったぜ」
「ライレ、だいじょぶよ? ダンゴムシはあぶなくないのよ?」
「ああん、ファル!? 兄ちゃんたちと行かなかったのか」
目の前には二人……ライレとファルーラだ。
ライレはカメの甲羅に似た大きな盾を構えて立ち、その背後にファルはいる。
『待て、こちらに敵意はない!』
僕はじっとしたまま触角をぴこぴこ動かし、無害さをアピールしてみる。
「お、来やがるか!?」
「んー、食べ物を探してるのかも」
『くっ、やはり意思疎通は無理か』
だが、警戒を強めたライレは盾の陰で守りを固め、僕の方も逃走と和解の道を即座に選びかね、気付けば暫し、お見合いじみた硬直状態が生まれていた。
時間にして二百秒ほどだろうか。
緊張感に満ちた空気を破ったのは近付いてくる急ぎ足の音だった。
「ライレ、無事なの!?」
「ふはっ! でっか! こんなん俺らじゃ無理じゃね?」
「なんだよ、お前らだけか?」
やって来たのはシイリンとアザマース、ライレと共に一行【真っ赤な絆】を組む二人だ。
こちとら寸鉄帯びぬダンゴムシ。この人数に殺す気で来られるのは流石に拙い。
『楽天家、何か妙案はないか? このままじゃ退治されかねないぞ』
「え?」
『え?』
と、絆たちの後ろ、一人の少年が顔を出す。
身の丈と比べて大きめのスコップを携え、灰色の髪と団子鼻が特徴的なその少年は――。
『僕じゃないか!?』
「……うわあ……本当にダンゴムシだよ……」
『他人事のように! いや、僕の身体がどうしてそこに……まさか……』
「なんか今朝から頭の中が静かだと思ってたら、こんなことになってたんだねえ」
『お前は、楽天家か? ひょっとして僕の声が聞こえるのか?』
「……ううん、何も聞こえないけど」
『聞こえてるじゃないか!』
こちらの心の声に反応しながらすっとぼける目の前のシェガロにイラッとさせられる。
「白ぼっちゃん、この子と知り合い?」
「ええ? まさかシェガロ様の新しい従魔?」
「あはは、そんなわけ……ん、いや、そういうことにしておこうかな」
ひとまずそれでモンスターとして討伐されずに済むか。
おもむろに近寄ってきて僕の背によじ登り始めたファルーラが落ちないよう脚を踏ん張りつつ、改めて考える。
『それにしても、何の因果でこんな目に……』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数刻ほど時間を遡る。
物語の語り手であるシェガロが観測し得ない某所にて。
「おや、もう儀式は終わりですか」
「ええ、魂喚びは今回も空振りでした」
「何かしら反応があるかと期待したんですけどね」
この会話の後、二百分……三時間余りを経て巻き起こった騒動は、原因の巨大なダンゴムシが村人二百人以上の見守る前で忽然と消失したことで収まるのだった。
それと同時、とある少年の頭の中に口うるさい声が戻ったことも追記しておこう。
************************************************
お粗末様でした!
ともかく内容が無くてスミマセン。
ふいに思いついた二、二二二文字の縛りがきつく、イベントには尺が足りなすぎました。
今回はここまでにしますが、さすがにあんまりなので、いずれ続編を書くかも知れません。
予定していたネタの消化や唐突な最後のシーンについての説明などもできたらと思います。
改めまして、今後とも本作をよろしくお願いします!
アルファポリスでは短編を統合した関係で今回二〇二回なのですが……。
本文ピッタリ二、二二二文字、お楽しみいただけますように!
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ある朝、僕ことシェガロ・ベイン・エルキルが長すぎる夢から覚醒すると、寝床にある自身の姿が巨大なダンゴムシに変わってしまっていることに気が付いた。
硬い甲殻に覆われた背を藁の山に沈ませ、七対十四本もの脚を天井へ向けている。
『こ、これは!? 一体全体、僕の身に何が……ん? 藁?』
奇怪な変身事件に比べれば些細なことだが、どうやらここは領主屋敷の子ども部屋ではなく、大量の藁が積み上げられた小屋の中らしい。
まぁ、この姿では二段ベッドを下りるのも難儀しただろうから、それはさておくとして。
『おい、楽天家! 目を開けたんだ、起きているんだろう? どうなっている!?』
目蓋などないダンゴムシが目を開けるとは、おかしな物言いだ。
頭の片隅でそんなことを思いつつ、身体の主導権を握っているはずの楽天家へ呼び掛け、体長二百センチは下らない巨体を起き上がらせていく。
すると、誰からの返事もないまま、仰向けの身体は僕の意に従ってひっくり返り、勢い余って積み藁の上より剥き出しの土が広がる地面へ向かい、ごろんと転がり始めた。
『おおっ!?』
反射的に身を竦めれば、本能によるものかダンゴボディは瞬時に丸まり、綺麗な球体と化してころころ転がっていってしまう。
壁にぶつかり、柱に当たり、その度にコースを変えながら何故か速度はほとんど落とさずに、仕舞いには扉を内側から押し開き、勢いよく外へと飛び出した。
『ららら楽天家っ! 早く止めてくれ! な、何故、ずっと黙ってるんだ、オイ!』
「「わ! なんだ、こいつ!」」
「おっきなダンゴムシ!」
「どっから出てきた!? ファル、近付こうとするな」
「待てよ、ハイナルカたちも下が……いや、誰か闘える奴を呼んでこい!」
背中の甲殻を外側へ向けて丸まっている僕には周囲の様子は分からないが、村の子どもたちに見つかってしまったようだ。
おそらく、姉クリスタの取り巻きをしているイヌ・サル・キジのトリオだろう。
妖精の取り替え子であるエルフの女児ファルーラと、初級冒険者ライレの声もする。
『誰でもいいから止めてくれえ!』
――パッカーン!
『あいたっ』何かで背中を叩かれ、僕のダンゴボディがようやく失速する。
「俺が足止めをしといてやるよ! 行けっ!」
「任せたぜ、ライレ!」
なおもゆっくり転がる身体を伸ばして停止すると、僕は周りを見渡してみる。
低すぎる視点に加え、やけにぼんやりとして見えづらい視界に難儀するも。
『……ああ、ここは牧場の側だな。察するに、起きたときにいた場所は飼い葉の倉庫の一階か? おいおい、軽く二百メートルは転がってきたみたいだぞ』
「モールドクロウラーに似てるな。下級モンスターだが硬えっつう。俺のシールドバッシュじゃノーダメージっぽいし、参ったぜ」
「ライレ、だいじょぶよ? ダンゴムシはあぶなくないのよ?」
「ああん、ファル!? 兄ちゃんたちと行かなかったのか」
目の前には二人……ライレとファルーラだ。
ライレはカメの甲羅に似た大きな盾を構えて立ち、その背後にファルはいる。
『待て、こちらに敵意はない!』
僕はじっとしたまま触角をぴこぴこ動かし、無害さをアピールしてみる。
「お、来やがるか!?」
「んー、食べ物を探してるのかも」
『くっ、やはり意思疎通は無理か』
だが、警戒を強めたライレは盾の陰で守りを固め、僕の方も逃走と和解の道を即座に選びかね、気付けば暫し、お見合いじみた硬直状態が生まれていた。
時間にして二百秒ほどだろうか。
緊張感に満ちた空気を破ったのは近付いてくる急ぎ足の音だった。
「ライレ、無事なの!?」
「ふはっ! でっか! こんなん俺らじゃ無理じゃね?」
「なんだよ、お前らだけか?」
やって来たのはシイリンとアザマース、ライレと共に一行【真っ赤な絆】を組む二人だ。
こちとら寸鉄帯びぬダンゴムシ。この人数に殺す気で来られるのは流石に拙い。
『楽天家、何か妙案はないか? このままじゃ退治されかねないぞ』
「え?」
『え?』
と、絆たちの後ろ、一人の少年が顔を出す。
身の丈と比べて大きめのスコップを携え、灰色の髪と団子鼻が特徴的なその少年は――。
『僕じゃないか!?』
「……うわあ……本当にダンゴムシだよ……」
『他人事のように! いや、僕の身体がどうしてそこに……まさか……』
「なんか今朝から頭の中が静かだと思ってたら、こんなことになってたんだねえ」
『お前は、楽天家か? ひょっとして僕の声が聞こえるのか?』
「……ううん、何も聞こえないけど」
『聞こえてるじゃないか!』
こちらの心の声に反応しながらすっとぼける目の前のシェガロにイラッとさせられる。
「白ぼっちゃん、この子と知り合い?」
「ええ? まさかシェガロ様の新しい従魔?」
「あはは、そんなわけ……ん、いや、そういうことにしておこうかな」
ひとまずそれでモンスターとして討伐されずに済むか。
おもむろに近寄ってきて僕の背によじ登り始めたファルーラが落ちないよう脚を踏ん張りつつ、改めて考える。
『それにしても、何の因果でこんな目に……』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数刻ほど時間を遡る。
物語の語り手であるシェガロが観測し得ない某所にて。
「おや、もう儀式は終わりですか」
「ええ、魂喚びは今回も空振りでした」
「何かしら反応があるかと期待したんですけどね」
この会話の後、二百分……三時間余りを経て巻き起こった騒動は、原因の巨大なダンゴムシが村人二百人以上の見守る前で忽然と消失したことで収まるのだった。
それと同時、とある少年の頭の中に口うるさい声が戻ったことも追記しておこう。
************************************************
お粗末様でした!
ともかく内容が無くてスミマセン。
ふいに思いついた二、二二二文字の縛りがきつく、イベントには尺が足りなすぎました。
今回はここまでにしますが、さすがにあんまりなので、いずれ続編を書くかも知れません。
予定していたネタの消化や唐突な最後のシーンについての説明などもできたらと思います。
改めまして、今後とも本作をよろしくお願いします!
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