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第二部: 君の面影を求め往く - 第二章: 新進気鋭の男爵家にて
第四話: 起き出す村、従魔と冒険者
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朝の見回り……ではなく散歩を再開した僕は村の中の通りをぶらぶら歩く。
「それにしても、よく発展した開拓領ですね。一年前、赴任してきたときには驚いたものです。あれだけ立派な物見塔に石積みの外壁、他所の村ではそう見られるものではありませんよ」
「あはは、たまたま大量の石材が手に入ってしまって処理に困ったもので」
この時間はヒマなのだろうか、アドニス司祭も同行することとなり、僕の隣を歩いている。
「オットモー♪ オットモー♪ オトモシャボテンー♪」
「あたま……あたま……あたま、さわって?」
少し先をのそのそ歩くナイコーンさまの羽上には、器用に跨ったファルーラの姿もある。
女児を背に乗せたまま余裕で進んでいく毛玉は、今や体長一メートルほどにまで成長していた。
通常のアンガーウサギで体長七十センチを超える個体など見た覚えはないのだが、よほど村の水が合ったのだろうか。
そんなことを考えていると、不意に会話が途切れた。
傍らへ目を向ければ、アドニス司祭はじっと前方を眺めている。
「あのアルミラージ……実に、興味深い」
「やっぱり変わってますか?」
「いや、普通はアルミラージを観察する機会などありませんので、比較のしようもないのですが。そもそもテイムされたアルミラージというだけで前代未聞の存在と言えますよ」
「テイム?」
「魔獣を手懐けることをテイムと言うのです。通常、【従魔】に対して用いる言葉ですね」
「従魔……ああ、モントリーみたいな」
「ええ、そうした低位の魔獣を幼体のうちから人と馴らし、隷属契約を結ばせたものが従魔です。見たところ、彼のナイコーンさまが貴方様にテイムされていることについては疑いようもない。とは言え、あれほどの魔獣に隷属を受け入れさせるのは至難の業。従魔化はまず無理でしょう」
ナイコーンさまが僕の従魔なのではないかという推測は、父母や冒険者の口からも出ていた。
しかし、詳しく話を聞いたわけではなく、アドニス司祭の説明はどれもこれも初耳である。
『結局、従魔とは違うのか。だとすると……ふむ、ここは【仲魔】とでも呼んでみようか』
「それはさておき、モントリーが隷属関係だったというのは、僕としてはかなりショックだなぁ。単に人懐っこい鳥なのかと思ってたよ」
「いえ、スパローディアトリマ――モントリーは人に馴れやすい魔獣ではありますね」
と、そんな取り留めない話をしつつ、三人と一匹、拾い歩きをすること暫し。
「いよーう! そこ行く白坊ちゃん! 今朝もお気楽そうだなっ!」
「チーッス!」
「ちょっと、アンタたち! お貴族さまや司祭さまだよ。いいかげん、変な絡み方やめなってば」
気が付けば、幅広い村道の後方より、足早な一団が追いついてきた。
その中よりチャラチャラした態度で声を掛けてきたのは最近見知った三人組だ。
「やあ、ライレにアザマース。あははっ、君も大変だね、シイリン。三人ともおはよう」
「フフッ、ごきげんよう、少年少女たち」
気安く挨拶を交わした少年二人と少女一人を合わせ、集団は総勢十五名余り。
他の皆は会釈だけをこちらへ寄越し、歩調も緩めることなく次々と脇を通り過ぎていく。
まだ朝方の時間帯にも拘わらず、それぞれ武装して荷物を背負い、荷車を牽く数羽のレンタル・モントリーまで引き連れた物々しい彼らは、このエルキル領を拠点と定めた冒険者たちである。
と言っても、目の前にいる三人組【真っ赤な絆】だけは初級冒険者一行なのだが。
初級冒険者とは、見習いの雑用係であり、まだ正式に冒険者と名乗ることすら許されない。
確か、年齢はいずれも成人前後の十五六くらいだったろうか。
木製の大きな円盾をカメの甲羅のように背負ったツンツン赤髪の生意気そうな少年ライレ。
丸い金属球を付けた棍棒――明星鎚を携えるサラサラ金髪の生意気そうな少年はアザマース。
そして、軽装で手ぶら、黒髪ショートに短めポニーテールの真面目そうな少女がシイリンだ。
「ふへっ、今度こそマジやっべえもん取ってきてみせっから楽しみにしてろよな」
「見てろよ。俺らがこんなド田舎に止まるような玉じゃねえってこと認めさせてやらぁ!」
「ふふん、僕のコレクションに加える価値がある珍品は初級の君たちには難しいと思うけどね。まっ、こないだの銀色に光るゴミダマはなかなかだったけど」
「はあ? いやいやいや、ナメてもらっちゃ困るっしょ」
「そうだぜ! もう昇級間近の俺たちを捕まえてよ!」
「ああん、もぉ! バカ男子! 本当にそろそろ無礼――」
「そぉこのヒヨッコども!! なぁに、ちんたらしてんだい!」
「「「ひゃあ!?」」」
突然! 雷鳴の如き一喝! 僕の左右と後ろにピタリ付いていた少年少女が揃って飛び上がる。
「おはよう、ジェルザ。【草刈りの大鎌】も今日の出発でしたか」
「なんだ、誰かと思えば坊! それに司祭様かい! ああ、またしばらく留守にするよ!」
現れたのはお馴染みの女冒険者ジェルザとその仲間たちだった。
六人組の頼もしき中級冒険者一行――彼ら大鎌も未だこの村に留まってくれていた。
今では、先任として他の冒険者たちからも一目置かれる存在となっている。
「無用の心配でしょうけど、どうかお気を付けて」
「フ……武運をお祈りします。勇敢なる冒険者たちに女神レエンパエマのご加護があらんことを」
「あいよ! ほら、さっさと行きな! ヒヨッコども!」
「は、はい」「へーい」「うへえ」
「合わせなっ!」
「「「はい!」」」
新米三人組を追い立てるジェルザに続き、他の大鎌メンバーたちも僕らを追い抜き、先へ行く。
「いってくるぜえ」「坊ちゃんも頑張れよ」などと声を掛けてくるのは良いとして、頭ポンポン、背中バンバン、全員で身体を叩いてくるのは勘弁してほしいところ。
僕も数え年で九つとなり、身長で言えばもう一四〇センチ近くもある。
そろそろ子ども扱いは卒業とさせてもらいたいものだ。
通りの先、通り過ぎていった皆が構うファルーラのような愛らしい女児であればともかく。
『だが、まぁ、よく働いてくれる。冒険者たちの常駐は有り難い限りだよな』
「うん、開拓地じゃ有能な人材はいつでも大歓迎」
彼ら冒険者の目当ては、村の近隣にある屋外型ダンジョン【紅霧の荒野コユセアラ】である。
実は、近頃、あの不人気ダンジョンが再評価を受けつつあるのだ。
ダンジョン内部に立ちこめる赤靄や出現する魔物について粗方判明したこと。
加えて、ザコオニやゴミダマから取れるクズ魔石の需要が、日に日に領内で高まっていること。
ここ数年の不景気により食いつめた駆けだし冒険者には、これらが旨い話に聞こえたらしい。
現在、なんと六組もの冒険者一行が我が村に駐まって活動してくれている。
彼らが持ち帰ってくる素材……特に、大量の魔石とダンジョン産の木材は、もはや村にとって欠かせない資源となりつつあった。
また、領内の人口が増えたことに伴う治安悪化が、彼らのお蔭で抑えられているという事実も見逃せない利点と言って良いだろう。
組合という国営期間によって身元とある程度の人品を保障された特殊職能集団――冒険者。
今後ともよろしく付き合ってゆきたいものである。
「それにしても、よく発展した開拓領ですね。一年前、赴任してきたときには驚いたものです。あれだけ立派な物見塔に石積みの外壁、他所の村ではそう見られるものではありませんよ」
「あはは、たまたま大量の石材が手に入ってしまって処理に困ったもので」
この時間はヒマなのだろうか、アドニス司祭も同行することとなり、僕の隣を歩いている。
「オットモー♪ オットモー♪ オトモシャボテンー♪」
「あたま……あたま……あたま、さわって?」
少し先をのそのそ歩くナイコーンさまの羽上には、器用に跨ったファルーラの姿もある。
女児を背に乗せたまま余裕で進んでいく毛玉は、今や体長一メートルほどにまで成長していた。
通常のアンガーウサギで体長七十センチを超える個体など見た覚えはないのだが、よほど村の水が合ったのだろうか。
そんなことを考えていると、不意に会話が途切れた。
傍らへ目を向ければ、アドニス司祭はじっと前方を眺めている。
「あのアルミラージ……実に、興味深い」
「やっぱり変わってますか?」
「いや、普通はアルミラージを観察する機会などありませんので、比較のしようもないのですが。そもそもテイムされたアルミラージというだけで前代未聞の存在と言えますよ」
「テイム?」
「魔獣を手懐けることをテイムと言うのです。通常、【従魔】に対して用いる言葉ですね」
「従魔……ああ、モントリーみたいな」
「ええ、そうした低位の魔獣を幼体のうちから人と馴らし、隷属契約を結ばせたものが従魔です。見たところ、彼のナイコーンさまが貴方様にテイムされていることについては疑いようもない。とは言え、あれほどの魔獣に隷属を受け入れさせるのは至難の業。従魔化はまず無理でしょう」
ナイコーンさまが僕の従魔なのではないかという推測は、父母や冒険者の口からも出ていた。
しかし、詳しく話を聞いたわけではなく、アドニス司祭の説明はどれもこれも初耳である。
『結局、従魔とは違うのか。だとすると……ふむ、ここは【仲魔】とでも呼んでみようか』
「それはさておき、モントリーが隷属関係だったというのは、僕としてはかなりショックだなぁ。単に人懐っこい鳥なのかと思ってたよ」
「いえ、スパローディアトリマ――モントリーは人に馴れやすい魔獣ではありますね」
と、そんな取り留めない話をしつつ、三人と一匹、拾い歩きをすること暫し。
「いよーう! そこ行く白坊ちゃん! 今朝もお気楽そうだなっ!」
「チーッス!」
「ちょっと、アンタたち! お貴族さまや司祭さまだよ。いいかげん、変な絡み方やめなってば」
気が付けば、幅広い村道の後方より、足早な一団が追いついてきた。
その中よりチャラチャラした態度で声を掛けてきたのは最近見知った三人組だ。
「やあ、ライレにアザマース。あははっ、君も大変だね、シイリン。三人ともおはよう」
「フフッ、ごきげんよう、少年少女たち」
気安く挨拶を交わした少年二人と少女一人を合わせ、集団は総勢十五名余り。
他の皆は会釈だけをこちらへ寄越し、歩調も緩めることなく次々と脇を通り過ぎていく。
まだ朝方の時間帯にも拘わらず、それぞれ武装して荷物を背負い、荷車を牽く数羽のレンタル・モントリーまで引き連れた物々しい彼らは、このエルキル領を拠点と定めた冒険者たちである。
と言っても、目の前にいる三人組【真っ赤な絆】だけは初級冒険者一行なのだが。
初級冒険者とは、見習いの雑用係であり、まだ正式に冒険者と名乗ることすら許されない。
確か、年齢はいずれも成人前後の十五六くらいだったろうか。
木製の大きな円盾をカメの甲羅のように背負ったツンツン赤髪の生意気そうな少年ライレ。
丸い金属球を付けた棍棒――明星鎚を携えるサラサラ金髪の生意気そうな少年はアザマース。
そして、軽装で手ぶら、黒髪ショートに短めポニーテールの真面目そうな少女がシイリンだ。
「ふへっ、今度こそマジやっべえもん取ってきてみせっから楽しみにしてろよな」
「見てろよ。俺らがこんなド田舎に止まるような玉じゃねえってこと認めさせてやらぁ!」
「ふふん、僕のコレクションに加える価値がある珍品は初級の君たちには難しいと思うけどね。まっ、こないだの銀色に光るゴミダマはなかなかだったけど」
「はあ? いやいやいや、ナメてもらっちゃ困るっしょ」
「そうだぜ! もう昇級間近の俺たちを捕まえてよ!」
「ああん、もぉ! バカ男子! 本当にそろそろ無礼――」
「そぉこのヒヨッコども!! なぁに、ちんたらしてんだい!」
「「「ひゃあ!?」」」
突然! 雷鳴の如き一喝! 僕の左右と後ろにピタリ付いていた少年少女が揃って飛び上がる。
「おはよう、ジェルザ。【草刈りの大鎌】も今日の出発でしたか」
「なんだ、誰かと思えば坊! それに司祭様かい! ああ、またしばらく留守にするよ!」
現れたのはお馴染みの女冒険者ジェルザとその仲間たちだった。
六人組の頼もしき中級冒険者一行――彼ら大鎌も未だこの村に留まってくれていた。
今では、先任として他の冒険者たちからも一目置かれる存在となっている。
「無用の心配でしょうけど、どうかお気を付けて」
「フ……武運をお祈りします。勇敢なる冒険者たちに女神レエンパエマのご加護があらんことを」
「あいよ! ほら、さっさと行きな! ヒヨッコども!」
「は、はい」「へーい」「うへえ」
「合わせなっ!」
「「「はい!」」」
新米三人組を追い立てるジェルザに続き、他の大鎌メンバーたちも僕らを追い抜き、先へ行く。
「いってくるぜえ」「坊ちゃんも頑張れよ」などと声を掛けてくるのは良いとして、頭ポンポン、背中バンバン、全員で身体を叩いてくるのは勘弁してほしいところ。
僕も数え年で九つとなり、身長で言えばもう一四〇センチ近くもある。
そろそろ子ども扱いは卒業とさせてもらいたいものだ。
通りの先、通り過ぎていった皆が構うファルーラのような愛らしい女児であればともかく。
『だが、まぁ、よく働いてくれる。冒険者たちの常駐は有り難い限りだよな』
「うん、開拓地じゃ有能な人材はいつでも大歓迎」
彼ら冒険者の目当ては、村の近隣にある屋外型ダンジョン【紅霧の荒野コユセアラ】である。
実は、近頃、あの不人気ダンジョンが再評価を受けつつあるのだ。
ダンジョン内部に立ちこめる赤靄や出現する魔物について粗方判明したこと。
加えて、ザコオニやゴミダマから取れるクズ魔石の需要が、日に日に領内で高まっていること。
ここ数年の不景気により食いつめた駆けだし冒険者には、これらが旨い話に聞こえたらしい。
現在、なんと六組もの冒険者一行が我が村に駐まって活動してくれている。
彼らが持ち帰ってくる素材……特に、大量の魔石とダンジョン産の木材は、もはや村にとって欠かせない資源となりつつあった。
また、領内の人口が増えたことに伴う治安悪化が、彼らのお蔭で抑えられているという事実も見逃せない利点と言って良いだろう。
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