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第二部: 君の面影を求め往く - 第一章: 南の端の開拓村にて
◆短編: 僕は眼鏡を掛けていないよ?
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同棲中のワケあり美少女が僕の顔をじーっと眺めながら言った。
「眼鏡が似合うんですね」
……いや、僕は眼鏡なんて掛けていないし、掛けたこともないんだが?
これは、彼と彼女の、なんでもない日常の一幕。
何も意味なんてなかった和やかな会話の一つ。
【この作品について】
本文ピッタリ800文字でサクッと読めるラブコメ的な何かです。
舞台と時系列は、第一部の雪山サバイバル中ということにしておいてください。
カクヨムで開催されたイベント「KAC2024 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2024~」のお題 「めがね」で書かせていただきました。
アルファポリスの規約上、スピンオフを別作品として投稿することが認められていないようですので、ここに閑話として格納します。
************************************************
「眼鏡が似合うんですね」
唐突に彼女がそんなことを言った。
「ん? 眼鏡? 何の話かな?」
極寒の雪の中を数時間も歩き回り、ようやく温かな我が家へと戻ってきた僕は、ぐっしょり濡れた防寒着を脱ぎ捨てながら、そう返す。
僕は眼鏡なんて掛けてはいないし、これまで掛けたこともないのだが。
「……って、ああ! サングラスのことか。似合うかい?」
少し考えて思い当たったのは、先ほどまで掛けていたUV対策のサングラスだ。
帰宅早々、外してポケットへしまい込んでいたそれを取り出し、掛けてから彼女へ澄ました顔を向けてみた。
柄にもなくキメ顔……と言うんだったかな? そんな表情を作ってみたり。
実のところ、自分では似合っているとは思えないんだけどな。
このサングラスはデザインがごつく、レンズにはかなり濃い色が入っているため、団子鼻でガタイの大きい僕が掛けると、あぶない職業の人間に見られてしまいそうな気がしてならないのだ。
まぁ、彼女が似合ってると言ってくれるなら他人にどう思われようが構わないか。
「いえ、サングラスはあまり似合いません。柄が悪く見えてしまいます」
バッサリ切り捨てられた。
「あ、ああ……自分でもそう思うよ。でも、それなら眼鏡というのは……?」
「くすっ、それを外してみせてください」
促されるままサングラスを外せば、彼女がそっ……と手を伸ばしてくる。
たおやかな指先が僕の無骨な頬に触れ、目の下辺りまでを撫で上げた。
毎日、同じ空間で寝食を共にしていることが未だに信じられない、絶世の美少女を目の前にしてどぎまぎしつつ、触れられた顔が熱く火照りだすのを感じつつ、彼女の返答を待つ。
「雪焼けしたお顔が、まるで眼鏡を掛けているように見えるんです、ほら」
と、鏡を見せてもらえば……なるほど、大きな丸眼鏡みたいだ。
……ちょっと年寄りっぽくないか?
「今度、本当の眼鏡を掛けてみせてください」
「君のお眼鏡に適えばいいが」
「似合いますよ、きっと」
「眼鏡が似合うんですね」
……いや、僕は眼鏡なんて掛けていないし、掛けたこともないんだが?
これは、彼と彼女の、なんでもない日常の一幕。
何も意味なんてなかった和やかな会話の一つ。
【この作品について】
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舞台と時系列は、第一部の雪山サバイバル中ということにしておいてください。
カクヨムで開催されたイベント「KAC2024 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2024~」のお題 「めがね」で書かせていただきました。
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「眼鏡が似合うんですね」
唐突に彼女がそんなことを言った。
「ん? 眼鏡? 何の話かな?」
極寒の雪の中を数時間も歩き回り、ようやく温かな我が家へと戻ってきた僕は、ぐっしょり濡れた防寒着を脱ぎ捨てながら、そう返す。
僕は眼鏡なんて掛けてはいないし、これまで掛けたこともないのだが。
「……って、ああ! サングラスのことか。似合うかい?」
少し考えて思い当たったのは、先ほどまで掛けていたUV対策のサングラスだ。
帰宅早々、外してポケットへしまい込んでいたそれを取り出し、掛けてから彼女へ澄ました顔を向けてみた。
柄にもなくキメ顔……と言うんだったかな? そんな表情を作ってみたり。
実のところ、自分では似合っているとは思えないんだけどな。
このサングラスはデザインがごつく、レンズにはかなり濃い色が入っているため、団子鼻でガタイの大きい僕が掛けると、あぶない職業の人間に見られてしまいそうな気がしてならないのだ。
まぁ、彼女が似合ってると言ってくれるなら他人にどう思われようが構わないか。
「いえ、サングラスはあまり似合いません。柄が悪く見えてしまいます」
バッサリ切り捨てられた。
「あ、ああ……自分でもそう思うよ。でも、それなら眼鏡というのは……?」
「くすっ、それを外してみせてください」
促されるままサングラスを外せば、彼女がそっ……と手を伸ばしてくる。
たおやかな指先が僕の無骨な頬に触れ、目の下辺りまでを撫で上げた。
毎日、同じ空間で寝食を共にしていることが未だに信じられない、絶世の美少女を目の前にしてどぎまぎしつつ、触れられた顔が熱く火照りだすのを感じつつ、彼女の返答を待つ。
「雪焼けしたお顔が、まるで眼鏡を掛けているように見えるんです、ほら」
と、鏡を見せてもらえば……なるほど、大きな丸眼鏡みたいだ。
……ちょっと年寄りっぽくないか?
「今度、本当の眼鏡を掛けてみせてください」
「君のお眼鏡に適えばいいが」
「似合いますよ、きっと」
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