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第二部: 君の面影を求め往く - 第一章: 南の端の開拓村にて
第二十九話: 一閃! 草刈り鎌
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「ギェエトジュース! シェシェシェ――」
意味不明な呪文?を呟きながら、人面の魔獣ヒーシーが駆け出した。それは放たれた矢の如く!
「……ッチ!」
「ぬう! 来るか!?」
咄嗟にモントリーを構えさせ、防御態勢へ移る騎羽隊……しかし、奴の狙いは僕らではない。
ヒーシーが走るのは相対していた【草刈りの大鎌】の周囲だ。ニヤニヤ笑いの顔だけを無数の残像として後へ残しつつ、彼らをロープでグルグル巻きにしていくかのように超高速で駆け回る。
そのニヤニヤ旋風の中心、六人の冒険者は密集して防御陣形を取っていた。
かろうじて射手さんの弓矢と魔術師さんの魔法術が攻めを試みるも、あまりの速度ゆえ目標を捉えられない。それは、ジェルザさんら前衛組も同様……反撃を喰らってしまう虞を思い描けば、より一層、下手な攻撃など仕掛けられないだろう。
いや、そこは流石のジェルザさんだ。コンパクトに大鎌を繰り出し、果敢に足止めを狙う。
が、まるでタイミングが合わず、刃をかすらせることすらできていなかった。
『まさか、奴の方がすべて回避しているのか!? あの速さで周りの動きが見えているとでも?』
「何にしても、あんな全力疾走、いつまでも続けられるはずないさ。このまま待っていれば――」
「うげえっ!」
刹那、目にも留まらぬ一撃! 円周の大きさを一瞬だけ僅かに縮めたヒーシーが、斥候さんの喉元を引き裂こうと爪を伸ばしてきたのだ。
ジェルザさんが素早く彼を蹴り飛ばし、辛くも魔獣の爪は空を切っていったが、さもなければ今頃は首を斬られて死んでいたかも知れない。
「なんて速さだい! どっから来るかも読めない! 何度も止められる攻撃じゃないねえ!」
グルグル回り続ける残像のニヤニヤ笑いを前に、ジェルザさんは大きく嘆息する。
「仕方ないね! アタシがやる! おまえたち、しくじんじゃないよっ!」
「「「「「ういっす!」」」」」
リーダーのその声に応じ、後衛三人、前衛三人、それぞれで二重の三角陣形を組み上げていた【草刈りの大鎌】が小さな六角形……と言うよりは方円陣形へとゆっくり移行していく。
それは、守りが薄そうな後衛の魔術師さんや射手さんを危険にさらす行為としか思えないが?
突然、辺りに響き渡る激しい衝突音!
金属同士がぶつかったような鋭い高音と重い物同士がぶつかったような鈍い打撃音がほとんど間を置かず同時に鳴り響いた。
気付けば、宙をそれぞれ逆方向へ向かって吹き飛んでいく二つの巨体が目に入る。
一方の、身体を丸めて高く飛ぶものはヒーシーだ。
もう一方、激しい勢いで水平に飛ばされていくのは……身を仰け反らせたジェルザさんだった。
「え? ジェルザさん!? どこから? だって、みんなと一緒に円陣を……」
「よく見るのだ、シェガロ。お前もやられたことがあっただろう」
『分からなかったか? あえて陣形に穴を作ってヒーシーの攻めっけを誘ったジェルザさんが、僅かに逸れた奴の意識に乗じ、逆に飛び出していったんだ。自分の気配だけをその場に残して』
「あ! そこにいるのに、一瞬いなくなったように見えるアレか! あの逆!?」
そう、よく観ていれば、円陣を組み始めた時点で既に大鎌メンバーは五人だけになっていた。
高速で走り回る魔獣は疎か、離れている僕らからでさえ、すぐには気付くことができなかった巧妙な気配操作により、ジェルザさんは全員の意識から消え……。
生まれた僅かな間で、ヒーシーの進路上へ割り込むと、激しい正面衝突を起こしたのである。
姐御と慕うリーダーが身を挺して作り出したチャンス。
それを見逃すような中級冒険者たち……いやさ、【草刈りの大鎌】ではなかろう。
吹き飛ばされたヒーシーが着地するよりも早く、彼らは追撃に移っていた。
戦士さんの曲刀が! 斥候さんの双短剣が! 神術師さんの投槍が! 射手さんの矢の雨が! 魔獣の身に驟雨のように突き刺さる!
しかし、最後の力で彼らを引きはがすと、尻尾を大きく一振り! 再びヒーシーは駆け出す!
「ハッ! させるわけないだろう!」
と、行く手を遮る影一つ……背後に大鎌を振りかぶった構えで佇《たたず》むジェルザさんだ。
二つの巨体は一瞬で距離を縮め、されど、今度はぶつかることなくすれ違う。
――シャア! キィー……ン……。
遅れて一筋の光が閃いた。
気付けば、ジェルザさんの構えが大鎌を正面に振り抜いた残心へと変化している。
「……武技【草刈り鎌】!」
その宣銘を合図に、残像を残しながら駆け抜けていったヒーシーが上下二つに分かたれた。
二本の後ろ脚を斬り飛ばされ、どうっ!と地を滑って横倒しになる巨体……。
残った前脚でなおも身を起こそうとするが、魔術師さんの高らかな詠唱が響くと同時、魔法術【光の矢】が虚空に長い軌跡を描きながら飛来し、ちょうど人面の眉間辺りに直撃する。
それがトドメとなったのか、遂に魔獣はすべての動きを止め、大地に沈んだのだった。
意味不明な呪文?を呟きながら、人面の魔獣ヒーシーが駆け出した。それは放たれた矢の如く!
「……ッチ!」
「ぬう! 来るか!?」
咄嗟にモントリーを構えさせ、防御態勢へ移る騎羽隊……しかし、奴の狙いは僕らではない。
ヒーシーが走るのは相対していた【草刈りの大鎌】の周囲だ。ニヤニヤ笑いの顔だけを無数の残像として後へ残しつつ、彼らをロープでグルグル巻きにしていくかのように超高速で駆け回る。
そのニヤニヤ旋風の中心、六人の冒険者は密集して防御陣形を取っていた。
かろうじて射手さんの弓矢と魔術師さんの魔法術が攻めを試みるも、あまりの速度ゆえ目標を捉えられない。それは、ジェルザさんら前衛組も同様……反撃を喰らってしまう虞を思い描けば、より一層、下手な攻撃など仕掛けられないだろう。
いや、そこは流石のジェルザさんだ。コンパクトに大鎌を繰り出し、果敢に足止めを狙う。
が、まるでタイミングが合わず、刃をかすらせることすらできていなかった。
『まさか、奴の方がすべて回避しているのか!? あの速さで周りの動きが見えているとでも?』
「何にしても、あんな全力疾走、いつまでも続けられるはずないさ。このまま待っていれば――」
「うげえっ!」
刹那、目にも留まらぬ一撃! 円周の大きさを一瞬だけ僅かに縮めたヒーシーが、斥候さんの喉元を引き裂こうと爪を伸ばしてきたのだ。
ジェルザさんが素早く彼を蹴り飛ばし、辛くも魔獣の爪は空を切っていったが、さもなければ今頃は首を斬られて死んでいたかも知れない。
「なんて速さだい! どっから来るかも読めない! 何度も止められる攻撃じゃないねえ!」
グルグル回り続ける残像のニヤニヤ笑いを前に、ジェルザさんは大きく嘆息する。
「仕方ないね! アタシがやる! おまえたち、しくじんじゃないよっ!」
「「「「「ういっす!」」」」」
リーダーのその声に応じ、後衛三人、前衛三人、それぞれで二重の三角陣形を組み上げていた【草刈りの大鎌】が小さな六角形……と言うよりは方円陣形へとゆっくり移行していく。
それは、守りが薄そうな後衛の魔術師さんや射手さんを危険にさらす行為としか思えないが?
突然、辺りに響き渡る激しい衝突音!
金属同士がぶつかったような鋭い高音と重い物同士がぶつかったような鈍い打撃音がほとんど間を置かず同時に鳴り響いた。
気付けば、宙をそれぞれ逆方向へ向かって吹き飛んでいく二つの巨体が目に入る。
一方の、身体を丸めて高く飛ぶものはヒーシーだ。
もう一方、激しい勢いで水平に飛ばされていくのは……身を仰け反らせたジェルザさんだった。
「え? ジェルザさん!? どこから? だって、みんなと一緒に円陣を……」
「よく見るのだ、シェガロ。お前もやられたことがあっただろう」
『分からなかったか? あえて陣形に穴を作ってヒーシーの攻めっけを誘ったジェルザさんが、僅かに逸れた奴の意識に乗じ、逆に飛び出していったんだ。自分の気配だけをその場に残して』
「あ! そこにいるのに、一瞬いなくなったように見えるアレか! あの逆!?」
そう、よく観ていれば、円陣を組み始めた時点で既に大鎌メンバーは五人だけになっていた。
高速で走り回る魔獣は疎か、離れている僕らからでさえ、すぐには気付くことができなかった巧妙な気配操作により、ジェルザさんは全員の意識から消え……。
生まれた僅かな間で、ヒーシーの進路上へ割り込むと、激しい正面衝突を起こしたのである。
姐御と慕うリーダーが身を挺して作り出したチャンス。
それを見逃すような中級冒険者たち……いやさ、【草刈りの大鎌】ではなかろう。
吹き飛ばされたヒーシーが着地するよりも早く、彼らは追撃に移っていた。
戦士さんの曲刀が! 斥候さんの双短剣が! 神術師さんの投槍が! 射手さんの矢の雨が! 魔獣の身に驟雨のように突き刺さる!
しかし、最後の力で彼らを引きはがすと、尻尾を大きく一振り! 再びヒーシーは駆け出す!
「ハッ! させるわけないだろう!」
と、行く手を遮る影一つ……背後に大鎌を振りかぶった構えで佇《たたず》むジェルザさんだ。
二つの巨体は一瞬で距離を縮め、されど、今度はぶつかることなくすれ違う。
――シャア! キィー……ン……。
遅れて一筋の光が閃いた。
気付けば、ジェルザさんの構えが大鎌を正面に振り抜いた残心へと変化している。
「……武技【草刈り鎌】!」
その宣銘を合図に、残像を残しながら駆け抜けていったヒーシーが上下二つに分かたれた。
二本の後ろ脚を斬り飛ばされ、どうっ!と地を滑って横倒しになる巨体……。
残った前脚でなおも身を起こそうとするが、魔術師さんの高らかな詠唱が響くと同時、魔法術【光の矢】が虚空に長い軌跡を描きながら飛来し、ちょうど人面の眉間辺りに直撃する。
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