異世界で遥か高嶺へと手を伸ばす 「シールディザイアー」

プロエトス

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第二部: 君の面影を求め往く - 第一章: 南の端の開拓村にて

第十五話: 僕の家族、食後の語らい

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 僕がなんとなしに空っぽの小皿を眺めているうち、朝食の席はお開きとなった。
 テーブルの上の食器がお手伝いメイドさんによって片付けられ、冒険者たちが席を立ち始める。

「あん? 俺の酒はどこいった?」
「こいつ、寝惚ねぼけてるな。とっくに飲み干してたろうが」
「……帰って寝ろ」

 彼らはガヤガヤと入り口の脇にまとめられていた自分たちの荷物・装備を手に取っていく。

「領主様! アタシらのために大層な馳走ちそう、痛み入るよ! この礼はキッチリと仕事で返すから期待しといておくれ!」
「おう、明日あすもよろしく頼むぞ」
「ジェルザ、もし時間があれば、あと一度くらいお茶に付き合ってくれたら嬉しいわ」
「――っ!? あ、ああ、もしも時間が合えばね」
「ノブロゴ、皆を表まで見送ってやれ」
「へい、旦那」

 ノブさんに伴われ、ジェルザさんら【草刈りの大鎌おおがま】はぞろぞろと表への扉をくぐっていった。
 室内から喧騒けんそうが失せ、一瞬だけふっヽヽと静まりかえる。
 彼らに負けず劣らず賑やかだった姉と妹たちはと言えば、菓子をたくさん食べてご満悦なのか、その甘さを思い出すかのようにニコニコ微笑みながら大人しくしている。……嗚呼ああ、僕の菓子。

 家族六人だけが残ったダイニングテーブル。
 その上座――入り口の扉から最奥の短辺にはマティオロ氏が座っている。
 左隣の長辺には母トゥーニヤと妹のラッカとルッカが並ぶ。
 姉クリスと僕は一旦立ち上がり、逆側の長辺……先ほどまで冒険者たちがいた席へと移った。

 そうして家族がいつもの定位置に収まると、おもむろにマティオロ氏が口を開く。

「よぉし、それでは、少しばかし遅くなったが、今日の朝会あさかいを始めるとするか」

 我が家では、毎日の朝食後、こうして家族揃っての朝会が行われている。
 冒険者を見送ってきたノブさんと、食後のお茶の用意を調ととのえ終えたお手伝いメイドさんも、それぞれ仕事の手を一旦止め、並んで壁際に立つ。

 日進月歩で変化していく開拓村の生活、それなりに話題は多い。
 各自の体調や本日の予定、村の様子、備蓄の状況……など、共有しておくべき情報もある。
 と言っても、あまり堅苦しい話をするわけではないのだが。

「みんな元気か? よく食べたか?」
「らっかげんきー」
「るっかもー」
「うむ、よいことだ。今日の予定に何か変わったことはあったか?」
わたくしの方は、おおむね、いつも通りですね~」
「ああ、一つ良いですかい? 早けりゃ今晩、鍛冶屋んとこに孫が生まれるかも知れねえです。うちとしてはやるこたぁ特にありやせんが」
「気に留めておこう。……念のため、トゥーニヤ」
「ええ、手を空けておくようにしますわね」

 基本的にはこんな調子でサクサク話が進んでいってしまう。

「あンのぉ、厨房からも一つ。そろそろ麦と塩が底を突きそうなんで、晩はお粗末になるデスよ」
「そろそろ行商人が来る頃じゃなかったっけ?」
「うふふ、それは早くとも明日以降になるのではないかしら。ほら、昨日のお昼時は、もう何も手に付かないくらい暑かったでしょう? きっと少し遅れると思うの」
「私は知ってましたわ! ふふん」
「そう言えば、行商と一緒に来る新たな領民たちの家と畑はどうなっている」
「小屋は西の外れに建っていますよ。畑は……ショーゴちゃん?」
「土は掘ってあるから夕方には出来るはずだよ。でも、それならあまり急がなくて良かったかな」
「いや、早いに越したことはない。頼むぞ、シェガロ」

 現在、我が領では絶賛! 領民! 募集中!である。
 人が増えれば口も増え、食糧問題も非常に悩ましいのだが、それ以上にとにかく人手が欲しい。
 なにせ、貧乏村なのに土地と金は余り、使う人間の方が足りていない有様なのだ。

 精霊術というチートのおかげもあり、草原を切りひらいて土を掘り起こし、建物や畑を作っていく単純な開拓だけが常識外れのハイペースで進められる、その弊害へいがいと言えるだろう。

 まずは農作業に従事する小作人、これは何としても数を揃えたい。
 既に農地はかなり広げられており、十分な収穫量を見込める作物も選定済みだ。
 あとは人がいればいるだけ自給自足の体制が整っていく……はずである。
 もう心身が健康そうであれば他は問わない。租税もしばらく免除するから誰でもウェルカム!といった勢いで、行商を通じてなりふり構わぬ募集を掛けてもらっている。

 それと比べ、優先度は大きく下がるのだが、ぼちぼち有能な人材も欲しいところではある。

「冒険者がいるのは、あと二三日にさんにちくらいかな?」
「そうなるだろう。できれば彼らは領地に留めておきたかったが仕方あるまい」
「うちの従士になってくれないかしらね~」

 現在、ノブさん唯一人ただひとりしかいない従士は、なるべく早めに増やしておきたい人材の一つだ。
 戦闘や狩猟、治安維持、僕ら領主一族の護衛……など、武人である従士の仕事は重要度が高く、さすがにたった一人にいつまでも任せっきりでいられるものではない。
 いずれは武だけに留まらず文――政務にも携わってもらう必要が出てくるだろうし。
 できれば【草刈りの大鎌おおがま】のような冒険者をスカウトできれば良いのだが、こんな出来たての開拓村では、引退した元冒険者ですら仕官に応じてくれないのが現実。せちがらいことである。

「とりあえず、従士には俺の下にいる若いのを何人か推薦するつもりでいやすがね」
「そうしてくれ。見どころがあれば剣術や学問を教えてやってもいい」
「へえ、もう少し揉んでやってから連れてきまさぁ」

 あとは、領主であるマティオロ氏に代わって村の雑事を処理できる村長や司祭だな。
 村長候補はもう数人いるのだが、いずれも少しばかり頼りなく、未だ一人に決めかねている。
 司祭に至っては、開拓初期に小さな神殿を建ててみたものの、待てど暮らせど便りを出せど、一向に聖職者がやって来る気配はなく、どうしても必要な祭事だけを母トゥーニヤが取り仕切り、領民の心を慰撫いぶしているという状況だ。

『いや、やはり有能な人材捜しの優先度は上げていく必要があるよな。今のままだと領主夫妻の負担が大きすぎる。いっそ下級冒険者に依頼を出すくらいしても良いんじゃないか?』

 長期の依頼は報酬が跳ね上がるし、貴族の囲い込みのように思われて問題も多いんだけどな。
 今後、それとなく勧めていくことにしよう。

「さて、今日の予定はこんなところだな……」
「はい、あなた」
「それでは子どもたち! パパにお前たちのことを聞かせてくれ!」

 マティオロ氏のその言葉が響くと、うとうと舟をぎ始めていた妹たちがバッ!と顔を上げ、退屈そうに意味もなくお茶をかき回し続けていた姉も顔を輝かせた。
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