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第一部: 終わりと始まりの日 - 閉幕: 暖かな部屋にて
これが、始まりの日
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ぼんやりとして何も見えず、うっすら赤く塗りつぶされたような視界。
ここはどこだろう? 僕はどうしてしまったというのか。
心地よい暖かさを感じるが、傍にいるはずの誰かがいない。そのことに堪らない不安がある。
――ギィ……バタン!
と、聞こえてきたのは、ドアを開け閉めする音だ。すると、ここは部屋の中か?
どこか狭い場所にすっぽりと収まり、身動きできずにいる僕の下へ、誰か近付いてくる。
「フュヴィン、マイタタプアプイヤ?」
その声は若い女性と思われた。
何を言ってるのかは理解できないが、おそらくは僕に対して話しかけているのだろう。
状況を把握するためにも、とりあえず返事はするべきか。
……と考えるも、何故か僕の口が勝手に動き、まったく意志とは異なる音を発し始めた。
「おんぎゃあああ! んぎゃあああっ!」
泣き声? なんだ、これは? これでは、まるで……。
「フフっ、オレコシェリュオテイト?」
そんな言葉と共に、僕の背に大きな手が回され、ふわりと持ち上げられてしまう。
「シャペ……ワオヴァニィ……」
膜が張ったような視界いっぱいに、美しい女性の顔が広がり、そっと頬ずりをされる。
明らかにおかしなサイズ感! もはや否応もなく確信する他はない。
そう、僕は小さな赤ん坊になっていた。
全身へ与えられる優しげな女性の温もり。
心が安らぎ、目が潤み……ずっと求めていた何かに満たされた……そんな気にもなってくる。
だが、一方で『彼女ではない』という声が、頭の中で鳴り止まない。
……ああ、もちろん分かっているさ。
なぁ、君はどこにいるんだ? 近くにいてくれているのかい?
この通り、どうやら僕は転生を果たしたよ。
ならば一緒に君がいてくれなければ始まらないだろう。
まさか、僕をこの世界で一人っきりにするつもりじゃないだろうね?
――つきこ……今すぐ君に逢いたい……。
「ほおぎゃああああああああ!」
想いは言葉にならず、ただ一際大きな泣き声として辺りへ響き亘る。
されど、どれだけ声を張り上げようと、それが月まで届くことはないだろう。
同様に、赤子の小さな手では、どれだけ高く伸ばそうと決して月へは届かない。
今はまだ……。
これが、始まりの日。
僕が、決して届かない遥かな高嶺へと手を伸ばす……物語は、ここから新たに始まる。
シールディザイアー 第一部 【完】
************************************************
以上をもちまして、松悟と月子の物語はひとまず区切りを付けることとなりました。
この大きな節目まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
ここまでのお話で何かしら良いと感じていただけていたら、下記「お気に入り」や「いいね」等、どうかよろしくお願いします。
さて、それはそれとして、ご覧の通り、この物語はまだ終わってはいません。
舞台とキャラを大きく変えた第二部の連載開始を予定しています。
ちなみに、本作はハッピーエンドを目指しています。最後は必ずハッピーエンドです!
ですが、その前に、味変や箸休めとしてここまでの設定をまとめた資料的なデータ集、それから数本の閑話をお送りしたいと思います。
よろしければ、この第一部の最後までお付き合いください。
引き続き、お楽しみいただけたら嬉しいです。
それでは!
ここはどこだろう? 僕はどうしてしまったというのか。
心地よい暖かさを感じるが、傍にいるはずの誰かがいない。そのことに堪らない不安がある。
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「フュヴィン、マイタタプアプイヤ?」
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何を言ってるのかは理解できないが、おそらくは僕に対して話しかけているのだろう。
状況を把握するためにも、とりあえず返事はするべきか。
……と考えるも、何故か僕の口が勝手に動き、まったく意志とは異なる音を発し始めた。
「おんぎゃあああ! んぎゃあああっ!」
泣き声? なんだ、これは? これでは、まるで……。
「フフっ、オレコシェリュオテイト?」
そんな言葉と共に、僕の背に大きな手が回され、ふわりと持ち上げられてしまう。
「シャペ……ワオヴァニィ……」
膜が張ったような視界いっぱいに、美しい女性の顔が広がり、そっと頬ずりをされる。
明らかにおかしなサイズ感! もはや否応もなく確信する他はない。
そう、僕は小さな赤ん坊になっていた。
全身へ与えられる優しげな女性の温もり。
心が安らぎ、目が潤み……ずっと求めていた何かに満たされた……そんな気にもなってくる。
だが、一方で『彼女ではない』という声が、頭の中で鳴り止まない。
……ああ、もちろん分かっているさ。
なぁ、君はどこにいるんだ? 近くにいてくれているのかい?
この通り、どうやら僕は転生を果たしたよ。
ならば一緒に君がいてくれなければ始まらないだろう。
まさか、僕をこの世界で一人っきりにするつもりじゃないだろうね?
――つきこ……今すぐ君に逢いたい……。
「ほおぎゃああああああああ!」
想いは言葉にならず、ただ一際大きな泣き声として辺りへ響き亘る。
されど、どれだけ声を張り上げようと、それが月まで届くことはないだろう。
同様に、赤子の小さな手では、どれだけ高く伸ばそうと決して月へは届かない。
今はまだ……。
これが、始まりの日。
僕が、決して届かない遥かな高嶺へと手を伸ばす……物語は、ここから新たに始まる。
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以上をもちまして、松悟と月子の物語はひとまず区切りを付けることとなりました。
この大きな節目まで読んでくださって、本当にありがとうございます。
ここまでのお話で何かしら良いと感じていただけていたら、下記「お気に入り」や「いいね」等、どうかよろしくお願いします。
さて、それはそれとして、ご覧の通り、この物語はまだ終わってはいません。
舞台とキャラを大きく変えた第二部の連載開始を予定しています。
ちなみに、本作はハッピーエンドを目指しています。最後は必ずハッピーエンドです!
ですが、その前に、味変や箸休めとしてここまでの設定をまとめた資料的なデータ集、それから数本の閑話をお送りしたいと思います。
よろしければ、この第一部の最後までお付き合いください。
引き続き、お楽しみいただけたら嬉しいです。
それでは!
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