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第一部: 終わりと始まりの日 - 第五章: グレイシュバーグの胎にて
第十四話: 征する者たち
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周囲のどの方向に対しても即座に攻撃・防御へ転じることができる正三角の陣形を組み続ける、こいつら三人の元弓ケオニ隊を攻略するのは、なかなかに骨が折れそうだ。
今のところ、防戦一方に見える奴らだが、こちらが隙を見せれば先ほどのようなカウンターを即座に仕掛けてくるのだろう。
なにせ、ヒヨスの奇襲にも反応するような連中だ。
僕が正面切って攻撃しても絶好の反撃機会を与えるだけだということは、たった一度の攻防で十分に理解できた。
ならば、奴らの予想も付かない方向から攻めさせてもらおう。
「ヒヨス、やるぞ! 跳べ! 風の精霊に我は請う……」
大きく叫び、ヒヨスへ指示を出すと同時に願うのは、風の精霊術【高飛び】だ。
ただし、跳ばすのは僕自身でも声を掛けたヒヨスでもない。
足下を掬うように吹いた風が一点へと集まり、猛烈な上昇気流となってその場にいた者を空中高く跳ね上げる。
それは僕から見て正三角の陣形の奥に位置し、こちらへ側面をさらしていた元弓Cだった。
「ギャギャーッ!?」
地上を歩いて生きる者が宙に浮かされ、自在に動けるわけがない。
当然、元弓Cも例外ではなく、空中で手足をばたつかせて慌てふためくことしかできず……。
そんな常識に囚われない例外中の例外――ヒヨスの玩具となる。
半透明の白い影が、まるで見えない階段を駆け上がるかのように空中高くまで登っていく。
そして、地上五六メートルほどの最頂点に達し、一瞬だけ静止状態となった元弓Cの下方よりムチのような尻尾を叩きつけ、僅かに浮き上がったところを鎌の刃じみた長い牙で斬りつけた。
重力に従い、すぐに再落下し始める元弓Cだが、またも尻尾で浮かされ、牙で切り裂かれ……。
延々と宙に浮かされたまま、一切の抵抗も許されず、打ち付けられ、斬りつけられていくCを傍目に、僕はようやく陣形を乱した元弓ケオニ隊の残るAとBへ向かって手を掲げる。
「火の精霊に我は請う、爆ぜろ」
火の精霊術【爆炎】による五つの火球が同時に撃ち出され、二人の元弓ケオニを襲う。
残念ながら鎚矛によって打ち払われてしまい、一発たりと直撃はしなかったものの、炸裂した炎が奴らの衣服や体毛に引火してダメージを与え始め、地面で燃え上がった火が行動を阻害する。
そのとき、背後より響いてきた玲瓏たる請願。
「水の精霊と火の精霊に我は請う……」
僕は、二つ目のダルマが完成したことを確信し、後ろへ手を伸ばして彼女を呼ぶ。
「月子! こっちも決めに行く!」
「はい、松悟さん」
伸ばすと同時、その手に触れた彼女の手を掴むと、軽く引っ張り、傍らへと招き寄せる。
見上げてくる気配に視線を送れば、宝石を思わせる美しい瞳の中に信頼の色が見えた。僕は、しっかりと目を合わせてから深く肯き、やるべきことを手早く伝えていく。
「さぁ、終わらせようか」
「ええ」
やることは至極単純で難しくはない。
願うは、地の精霊。
「地の精霊に我は請う――」
「地の精霊に我は請う、埋めてくれ!」
例によって、月子の請願へ被せるように、瞬く間すらなく元弓ケオニの足下が陥没する。
【爆炎】が生み出した火の海に捲かれていた二人の元弓ケオニは、流石にろくな反応ができぬまま、突然足の下に空いた穴――深さ一・五メートルほどの落とし穴へと嵌ってしまう。
そして、遅れて効果を発揮し始める僕の請願は、声に出した通り、その穴を埋めるものだ。
胸の辺りまで穴に埋まった元弓ケオニたちは当然ながら脱出しようと藻掻くが、徐々に狭まる側面の壁と上から被せられてくる土砂に抗しきれず、やがて、二人揃って頭と両腕だけを地上へ突き出した姿で地面に埋められてしまう。
自分の意志で動けるケオニはもう一人も残っていない。
こうして、戦いはようやく終わったのである。
今のところ、防戦一方に見える奴らだが、こちらが隙を見せれば先ほどのようなカウンターを即座に仕掛けてくるのだろう。
なにせ、ヒヨスの奇襲にも反応するような連中だ。
僕が正面切って攻撃しても絶好の反撃機会を与えるだけだということは、たった一度の攻防で十分に理解できた。
ならば、奴らの予想も付かない方向から攻めさせてもらおう。
「ヒヨス、やるぞ! 跳べ! 風の精霊に我は請う……」
大きく叫び、ヒヨスへ指示を出すと同時に願うのは、風の精霊術【高飛び】だ。
ただし、跳ばすのは僕自身でも声を掛けたヒヨスでもない。
足下を掬うように吹いた風が一点へと集まり、猛烈な上昇気流となってその場にいた者を空中高く跳ね上げる。
それは僕から見て正三角の陣形の奥に位置し、こちらへ側面をさらしていた元弓Cだった。
「ギャギャーッ!?」
地上を歩いて生きる者が宙に浮かされ、自在に動けるわけがない。
当然、元弓Cも例外ではなく、空中で手足をばたつかせて慌てふためくことしかできず……。
そんな常識に囚われない例外中の例外――ヒヨスの玩具となる。
半透明の白い影が、まるで見えない階段を駆け上がるかのように空中高くまで登っていく。
そして、地上五六メートルほどの最頂点に達し、一瞬だけ静止状態となった元弓Cの下方よりムチのような尻尾を叩きつけ、僅かに浮き上がったところを鎌の刃じみた長い牙で斬りつけた。
重力に従い、すぐに再落下し始める元弓Cだが、またも尻尾で浮かされ、牙で切り裂かれ……。
延々と宙に浮かされたまま、一切の抵抗も許されず、打ち付けられ、斬りつけられていくCを傍目に、僕はようやく陣形を乱した元弓ケオニ隊の残るAとBへ向かって手を掲げる。
「火の精霊に我は請う、爆ぜろ」
火の精霊術【爆炎】による五つの火球が同時に撃ち出され、二人の元弓ケオニを襲う。
残念ながら鎚矛によって打ち払われてしまい、一発たりと直撃はしなかったものの、炸裂した炎が奴らの衣服や体毛に引火してダメージを与え始め、地面で燃え上がった火が行動を阻害する。
そのとき、背後より響いてきた玲瓏たる請願。
「水の精霊と火の精霊に我は請う……」
僕は、二つ目のダルマが完成したことを確信し、後ろへ手を伸ばして彼女を呼ぶ。
「月子! こっちも決めに行く!」
「はい、松悟さん」
伸ばすと同時、その手に触れた彼女の手を掴むと、軽く引っ張り、傍らへと招き寄せる。
見上げてくる気配に視線を送れば、宝石を思わせる美しい瞳の中に信頼の色が見えた。僕は、しっかりと目を合わせてから深く肯き、やるべきことを手早く伝えていく。
「さぁ、終わらせようか」
「ええ」
やることは至極単純で難しくはない。
願うは、地の精霊。
「地の精霊に我は請う――」
「地の精霊に我は請う、埋めてくれ!」
例によって、月子の請願へ被せるように、瞬く間すらなく元弓ケオニの足下が陥没する。
【爆炎】が生み出した火の海に捲かれていた二人の元弓ケオニは、流石にろくな反応ができぬまま、突然足の下に空いた穴――深さ一・五メートルほどの落とし穴へと嵌ってしまう。
そして、遅れて効果を発揮し始める僕の請願は、声に出した通り、その穴を埋めるものだ。
胸の辺りまで穴に埋まった元弓ケオニたちは当然ながら脱出しようと藻掻くが、徐々に狭まる側面の壁と上から被せられてくる土砂に抗しきれず、やがて、二人揃って頭と両腕だけを地上へ突き出した姿で地面に埋められてしまう。
自分の意志で動けるケオニはもう一人も残っていない。
こうして、戦いはようやく終わったのである。
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