76 / 227
第一部: 終わりと始まりの日 - 第五章: グレイシュバーグの胎にて
第七話: 異世界人?と戦う二人
しおりを挟む
連中を制圧するつもりならば、当然、まず最初に狙うべきは弓矢をおいて他にないだろう。
三人一組で攻め込んできたバイキング風の戦士たちも気になるものの、やはり脅威となるのはあの強弓だ。旋風に守られた砦までは届かないと言っても、自由に撃たせていては不測の事態が起こらないとも限らない。
「火の精霊に我は請う、燃えろ」
特に動きをイメージしなければ、虚空に浮かんだまま、その場で燃え続けるバレーボール大の火の玉……それが、この火の精霊術【火球】だ。
めったに雪と風が止むことなく酸素も少ない高山環境で、問題なく燃え上がってみせる様から分かる通り、この火の玉は、出現してしばらくの間は周囲の環境に影響されないという驚くべき性質を持っている。試したことはないが、おそらく水中や真空中でも使えるのではなかろうか。それでいて触れるものを焼く力だけは普通の火と変わらない。
更に、射出するイメージで願えば、丸い形を維持したまま真っ直ぐ高速で飛んでいく。
つまり、【火球】は、たとえ暴風の中であっても吹き散らされることなく直進する!
戦士ケオニの頭上を越えて弓ケオニを狙う軌道をイメージし、火球を次々と撃ち込む。
その多くは躱され、外れ、防がれてしまうも、いくつかは奴らの長い毛や身にまとった衣服を燃やし始めた。
意外なことに、連中は随分と火を嫌っているようだ。
火球が降り注ぐと途端に算を乱し、こちらに対する弓矢の攻撃がピタリと止む。
「ヒヨス、月子、バイキングの方を頼めるかい?」
「バイキン――あ、はい、行けます」
「にゃっ!」
既に透明迷彩によって姿を消しているヒヨスが一声鳴いて飛び出していく。
……と言っても、砦の外壁を蹴るシュタッ!という軽い音が聞こえただけで、僕にもその姿はほとんど捉えきれない。
しかし、ヒヨスが戦闘を始めたことはすぐに分かった。
「ギギャッ!?」
こちらへ向かってくる戦士ケオニの一人、向かって右側に位置する奴――仮にC――の構えた丸盾が、目に見えない衝撃を受け、いきなり腕ごと大きく跳ね上げられたのだ。
おそらくは、透明化しているヒヨスの尻尾攻撃だろう。
「水の精霊に我は請う――」
すかさず、無防備になった戦士Cの肩口を目掛け、月子が精霊術を放つ。
空気中の水分が凝結し、鋭利な五枚の花弁を持った氷片と化す、水の精霊術【雪花の刃】。
複数の手裏剣……いや、氷の花が回転しながら飛び、目標の胸・肩口・上腕をそれぞれ大きく切り裂いた。
どれも決して浅くはない傷である。しかも、傷口より噴き出した血が流れるそばから凍りつき、見る見るうちにCの上半身左側を真っ赤な氷で覆っていってしまう。
腕の自由が利かなくなるほどではなさそうだが、負傷自体のダメージも相まって、大きな盾を掲げるには苦労することだろう。
「ガァアアア!?」
続けて真ん中のやや後方にいた一人――戦士Aが叫びを上げる。
攻撃を喰らったCの方へ意識を傾けた一瞬の隙を衝かれ、背後より不可視の斬撃を受けたのだ。
脚の後ろ、ふくらはぎ辺りを突然斬りつけられたAは体勢を崩し、そこへ間髪も容れず月子の【雪花の刃】が襲い掛かっていく。
途切れることなく続く透明化したヒヨスの奇襲と月子の精密射撃の連携に、戦士ケオニたちは手に持った棍棒を振るうことさえできぬまま翻弄され、やがて三人がお互いに背を預ける円陣を組み、こちらへ向かってくるどころではなくなってしまう。
そうして前衛の戦士ケオニ隊が足止めされてしまえば、後衛の弓ケオニ隊はもう止むことなく降り注ぐ僕の火の雨に右往左往するばかりとなった。
弓というのは、基本的に極めて繊細な武器であり、特に熱や湿気は大敵と言って良い。
ましてや、中世以前の複合弓となれば、火の粉に炙られただけであっても弦や合成部分などが伸縮してしまい、ひとたまりもないはずだ。
一つ、また一つと、手に持つ弓が焼かれてゆき……。
やがて、弓ケオニ隊の全員が、使いものにならなくなった弓を床へ投げ捨てた。
三人一組で攻め込んできたバイキング風の戦士たちも気になるものの、やはり脅威となるのはあの強弓だ。旋風に守られた砦までは届かないと言っても、自由に撃たせていては不測の事態が起こらないとも限らない。
「火の精霊に我は請う、燃えろ」
特に動きをイメージしなければ、虚空に浮かんだまま、その場で燃え続けるバレーボール大の火の玉……それが、この火の精霊術【火球】だ。
めったに雪と風が止むことなく酸素も少ない高山環境で、問題なく燃え上がってみせる様から分かる通り、この火の玉は、出現してしばらくの間は周囲の環境に影響されないという驚くべき性質を持っている。試したことはないが、おそらく水中や真空中でも使えるのではなかろうか。それでいて触れるものを焼く力だけは普通の火と変わらない。
更に、射出するイメージで願えば、丸い形を維持したまま真っ直ぐ高速で飛んでいく。
つまり、【火球】は、たとえ暴風の中であっても吹き散らされることなく直進する!
戦士ケオニの頭上を越えて弓ケオニを狙う軌道をイメージし、火球を次々と撃ち込む。
その多くは躱され、外れ、防がれてしまうも、いくつかは奴らの長い毛や身にまとった衣服を燃やし始めた。
意外なことに、連中は随分と火を嫌っているようだ。
火球が降り注ぐと途端に算を乱し、こちらに対する弓矢の攻撃がピタリと止む。
「ヒヨス、月子、バイキングの方を頼めるかい?」
「バイキン――あ、はい、行けます」
「にゃっ!」
既に透明迷彩によって姿を消しているヒヨスが一声鳴いて飛び出していく。
……と言っても、砦の外壁を蹴るシュタッ!という軽い音が聞こえただけで、僕にもその姿はほとんど捉えきれない。
しかし、ヒヨスが戦闘を始めたことはすぐに分かった。
「ギギャッ!?」
こちらへ向かってくる戦士ケオニの一人、向かって右側に位置する奴――仮にC――の構えた丸盾が、目に見えない衝撃を受け、いきなり腕ごと大きく跳ね上げられたのだ。
おそらくは、透明化しているヒヨスの尻尾攻撃だろう。
「水の精霊に我は請う――」
すかさず、無防備になった戦士Cの肩口を目掛け、月子が精霊術を放つ。
空気中の水分が凝結し、鋭利な五枚の花弁を持った氷片と化す、水の精霊術【雪花の刃】。
複数の手裏剣……いや、氷の花が回転しながら飛び、目標の胸・肩口・上腕をそれぞれ大きく切り裂いた。
どれも決して浅くはない傷である。しかも、傷口より噴き出した血が流れるそばから凍りつき、見る見るうちにCの上半身左側を真っ赤な氷で覆っていってしまう。
腕の自由が利かなくなるほどではなさそうだが、負傷自体のダメージも相まって、大きな盾を掲げるには苦労することだろう。
「ガァアアア!?」
続けて真ん中のやや後方にいた一人――戦士Aが叫びを上げる。
攻撃を喰らったCの方へ意識を傾けた一瞬の隙を衝かれ、背後より不可視の斬撃を受けたのだ。
脚の後ろ、ふくらはぎ辺りを突然斬りつけられたAは体勢を崩し、そこへ間髪も容れず月子の【雪花の刃】が襲い掛かっていく。
途切れることなく続く透明化したヒヨスの奇襲と月子の精密射撃の連携に、戦士ケオニたちは手に持った棍棒を振るうことさえできぬまま翻弄され、やがて三人がお互いに背を預ける円陣を組み、こちらへ向かってくるどころではなくなってしまう。
そうして前衛の戦士ケオニ隊が足止めされてしまえば、後衛の弓ケオニ隊はもう止むことなく降り注ぐ僕の火の雨に右往左往するばかりとなった。
弓というのは、基本的に極めて繊細な武器であり、特に熱や湿気は大敵と言って良い。
ましてや、中世以前の複合弓となれば、火の粉に炙られただけであっても弦や合成部分などが伸縮してしまい、ひとたまりもないはずだ。
一つ、また一つと、手に持つ弓が焼かれてゆき……。
やがて、弓ケオニ隊の全員が、使いものにならなくなった弓を床へ投げ捨てた。
1
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説


結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる