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第一部: 終わりと始まりの日 - 第一章: 地方都市郊外の学園にて
第十六話: 流される二人とテンプレ神?
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ぶぉー……っという、腹に響く低い音と振動を感じながら、徐々に意識が覚醒していく。
『ここは? えっと……』
どうも記憶がハッキリしないな。
何故、車に乗って? あ、そうだ。タクシーに乗ったんだったっけ。
あれ? そう言えば行き先をまだ告げていなかったような……?
なかなか思考がまとまっていかない頭の中で悪戦苦闘していると、ぶつぶつといった呟き声がどこからともなく耳に入ってくることに気付く。
「――あー、もー、なんでこうなっちゃったかなぁ。あそこは駆け落ちするシーンじゃないの? 君のことは僕が守る! せんせえ! 一緒に逃げよう! ああ、どこまでもついて行きますわ!みたいな!! なんで、仕方ないことだ。たぶん誰かが何とかしてくれる。諦めるのが人生さ……なんて流れになっちゃってるのよ? どんだけこじらせてるの?」
なんだろう? よく聞き取れないし、言葉の意味も上手く頭に入ってこないんだが。
「――てか、女の子の方もいろいろおかしいし! どうしてあのスペックで、何も変わりませんから……みたいなモードになってるの? いや、変わるし! 変えられるし! その気になれば物理的にも政治的にも性的にも一瞬で殺れるでしょ! あんなガマガエル! なんで二人揃って白紙解答みたいなことしちゃうのよ? いやがらせなの? 私のこと嫌いなの?」
女の子? あ、美須磨!? そうだ、彼女は!?
やけに重かった目蓋を見開き、体重を預けていた座席のシートから身を起こすと、首を回して車内を確認していく。
すると、右隣に横たわる可憐な少女がすぐさま目に留まり、ホッと一息。
「――やだー! やだやだやだ! 八十億もデータ見直したくない! いっそ、ランダムで半分くらい送っちゃえばいいんだ! つーか、なんで今日視察に来てたの!? あ、聖夜か。くそう!」
前の運転席では、安っぽいパーティーグッズにありそうな珍妙なサンタルックを身にまとった若い……幼い……? お多福……いや、ぬっぺらぼう? とにかく女性がハンドルを握っていた。
さっきからずっとブツブツ何かを言っているのは、この人か。
「あー、運転手さん? あのー、もしもし」
「ぴぎゃっ!? ……な、なに? あ? え? もお起きてたの?」
「うわ、前、ちゃんと前見て――……って」
声を掛けられ、どこかわざとらしく身を跳ねさせる運転手。
後部座席に振り向こうとするのを慌てて遮るが、そこで運転席と客席を隔つパーティションの向こう側にフロントガラス越しの景色が見え、ようやく頭が状況のおかしさを認識し始める。
「……白い。何もない? これ、外、どうなってるんだ? そもそも何処へ向かっているんです!? それに、いつの間に運転手さん変わって? な、時計も止ま……。ちょっと、これは一体――」
「待って待ってって答えるからちょっと待ってぷりーず一個ずつ――」
「……ん、んう?」
思わず運転席の背に向かって詰め寄ってしまい、次々と湧き上がってくる疑問をそのまま口に出していると、その騒ぎによってか、隣で美須磨も意識を覚醒させたようだ。
「あーあーあー、こほん。おはようございます、美須磨月子さん。それと白埜松悟さん」
「っ!?」
「おい! 君、どうして僕らの名前を――」
「お二人とも起きられ……られ? 起きたところで、説明入らせてもらいますね。いきますよ?」
運転手は、僕たちの反応を無視し、ハンドルを握って前を向いたままマイペースで話し出す。
「我が名は……ちがった、名前じゃないや。私は神です。女神です。あ、誤解しないでください。一週間で世界作ったり島ぽこぽこ生んだりした凄い神様とは違くて、ぺーぺーの神って言うか、この業界五年目くらいの、なので“様”付けとかはまだ結構です。なんだったら親しみを込めて“ちゃん”付けでもしてもらえたら――」
「あー、うん、簡潔に話まとめてもらえるかな、神ちゃん」
なんだろう、この……。とんでもない、しかもおそらく危機的な超常現象に巻き込まれているはずなのに、今にもタクシーのドアが開いて『どっきり』とか書かれたプラカード持った連中が入ってきそうな、ゆるい雰囲気は。
「私たちは生命を落としたということなのでしょうか?」
「あぁ、交通事故とか……で。さしずめここは三途の川、いや、カローンの渡し舟とやらか?」
「ブー! ブー! 話してる最中に予想すんのやめて! ネタつぶし反対!」
じゃ、早く本題に入ってよ。
「えふん、けふん。あなたたちはまだ亡くなってないんですが、誠に勝手ながら弊社都合で転生してもらうことになっちゃいました。ごめんね。だって、これバグなんじゃないの? ちゃんとチェックした? あれでフラグ立たないの設定ミスじゃね?とか、みんなで寄ってたかって――」
「はいはい、また脱線してる。先進めて」
「……転生ですか?」
「あ、うん。まー、ご想像通りの異世界転生ですよ。テンプレ通りだし説明いらないよね?」
「異世界?」
「テンプレ?」
「えー……、まさか知らないとか? ウソでしょ? じゃチートとかも説明しなきゃダメ?」
「いや、それくらいは……英語で言ういかさまだろう? カードゲームでもやらせるつもりかな」
「あの、転生というのは、仏教における輪廻転生の概念で合っていますか?」
「……うあ、これダメだ」
ひとまず、理由は説明されてもよく分からなかったんだが、僕たちの魂に何らかの問題があり、地球から追放されて異なる世界に転生させられることになったのだと言う。
何やら、近頃の若者向けサブカルチャーではよくあることらしいのだが、すまない、不勉強で。
また、チートというのは、こうした強引な転生が施行される際、特別な温情として与えられる便利な能力や道具のことらしい。なるほど、だからチートというわけか。
「ところで、私たちの存在は元の世界ではどういう扱いになるのでしょう?」
「そうだな、僕も気になっていた。行方不明で生徒たちの進路に悪影響が出ないと良いんだが」
「うーん、あなたたちに関する記憶だけが地球全体から永遠に失われるイメージかなぁ。名前や写真を見ても誰か思い出せないし、認識もしづらい。一緒にいたり影響を与えたりした出来事は各自なんとなくつじつま合わせて納得しちゃう。進路指導は副担任が最初からやってたし。別の先生から授業を教わってたはず。いつも一緒にいた美少女は遠くへ転校しちゃった。行方不明は誤報でした……とかね。あ、今のは全部てきとーですけど」
「そうですか」
「……どうにも怖い話だな。誰にも覚えていてさえもらえないわけか」
「あれれ? そういうの気にする人だったんですか? ふっ、俺に人間関係など必要ないぜ……とかいつも言ってましたよね?」
「いや、言ってないよ? 友人も教え子も大事だよ」
「やー、まー、原因が消えても結果だけはちゃんと残るわけですし、切り替えていきましょーよ」
確かに、今更何ができるわけでもなさそうだし、あまり未練を残しても仕方ないのか。
『ここは? えっと……』
どうも記憶がハッキリしないな。
何故、車に乗って? あ、そうだ。タクシーに乗ったんだったっけ。
あれ? そう言えば行き先をまだ告げていなかったような……?
なかなか思考がまとまっていかない頭の中で悪戦苦闘していると、ぶつぶつといった呟き声がどこからともなく耳に入ってくることに気付く。
「――あー、もー、なんでこうなっちゃったかなぁ。あそこは駆け落ちするシーンじゃないの? 君のことは僕が守る! せんせえ! 一緒に逃げよう! ああ、どこまでもついて行きますわ!みたいな!! なんで、仕方ないことだ。たぶん誰かが何とかしてくれる。諦めるのが人生さ……なんて流れになっちゃってるのよ? どんだけこじらせてるの?」
なんだろう? よく聞き取れないし、言葉の意味も上手く頭に入ってこないんだが。
「――てか、女の子の方もいろいろおかしいし! どうしてあのスペックで、何も変わりませんから……みたいなモードになってるの? いや、変わるし! 変えられるし! その気になれば物理的にも政治的にも性的にも一瞬で殺れるでしょ! あんなガマガエル! なんで二人揃って白紙解答みたいなことしちゃうのよ? いやがらせなの? 私のこと嫌いなの?」
女の子? あ、美須磨!? そうだ、彼女は!?
やけに重かった目蓋を見開き、体重を預けていた座席のシートから身を起こすと、首を回して車内を確認していく。
すると、右隣に横たわる可憐な少女がすぐさま目に留まり、ホッと一息。
「――やだー! やだやだやだ! 八十億もデータ見直したくない! いっそ、ランダムで半分くらい送っちゃえばいいんだ! つーか、なんで今日視察に来てたの!? あ、聖夜か。くそう!」
前の運転席では、安っぽいパーティーグッズにありそうな珍妙なサンタルックを身にまとった若い……幼い……? お多福……いや、ぬっぺらぼう? とにかく女性がハンドルを握っていた。
さっきからずっとブツブツ何かを言っているのは、この人か。
「あー、運転手さん? あのー、もしもし」
「ぴぎゃっ!? ……な、なに? あ? え? もお起きてたの?」
「うわ、前、ちゃんと前見て――……って」
声を掛けられ、どこかわざとらしく身を跳ねさせる運転手。
後部座席に振り向こうとするのを慌てて遮るが、そこで運転席と客席を隔つパーティションの向こう側にフロントガラス越しの景色が見え、ようやく頭が状況のおかしさを認識し始める。
「……白い。何もない? これ、外、どうなってるんだ? そもそも何処へ向かっているんです!? それに、いつの間に運転手さん変わって? な、時計も止ま……。ちょっと、これは一体――」
「待って待ってって答えるからちょっと待ってぷりーず一個ずつ――」
「……ん、んう?」
思わず運転席の背に向かって詰め寄ってしまい、次々と湧き上がってくる疑問をそのまま口に出していると、その騒ぎによってか、隣で美須磨も意識を覚醒させたようだ。
「あーあーあー、こほん。おはようございます、美須磨月子さん。それと白埜松悟さん」
「っ!?」
「おい! 君、どうして僕らの名前を――」
「お二人とも起きられ……られ? 起きたところで、説明入らせてもらいますね。いきますよ?」
運転手は、僕たちの反応を無視し、ハンドルを握って前を向いたままマイペースで話し出す。
「我が名は……ちがった、名前じゃないや。私は神です。女神です。あ、誤解しないでください。一週間で世界作ったり島ぽこぽこ生んだりした凄い神様とは違くて、ぺーぺーの神って言うか、この業界五年目くらいの、なので“様”付けとかはまだ結構です。なんだったら親しみを込めて“ちゃん”付けでもしてもらえたら――」
「あー、うん、簡潔に話まとめてもらえるかな、神ちゃん」
なんだろう、この……。とんでもない、しかもおそらく危機的な超常現象に巻き込まれているはずなのに、今にもタクシーのドアが開いて『どっきり』とか書かれたプラカード持った連中が入ってきそうな、ゆるい雰囲気は。
「私たちは生命を落としたということなのでしょうか?」
「あぁ、交通事故とか……で。さしずめここは三途の川、いや、カローンの渡し舟とやらか?」
「ブー! ブー! 話してる最中に予想すんのやめて! ネタつぶし反対!」
じゃ、早く本題に入ってよ。
「えふん、けふん。あなたたちはまだ亡くなってないんですが、誠に勝手ながら弊社都合で転生してもらうことになっちゃいました。ごめんね。だって、これバグなんじゃないの? ちゃんとチェックした? あれでフラグ立たないの設定ミスじゃね?とか、みんなで寄ってたかって――」
「はいはい、また脱線してる。先進めて」
「……転生ですか?」
「あ、うん。まー、ご想像通りの異世界転生ですよ。テンプレ通りだし説明いらないよね?」
「異世界?」
「テンプレ?」
「えー……、まさか知らないとか? ウソでしょ? じゃチートとかも説明しなきゃダメ?」
「いや、それくらいは……英語で言ういかさまだろう? カードゲームでもやらせるつもりかな」
「あの、転生というのは、仏教における輪廻転生の概念で合っていますか?」
「……うあ、これダメだ」
ひとまず、理由は説明されてもよく分からなかったんだが、僕たちの魂に何らかの問題があり、地球から追放されて異なる世界に転生させられることになったのだと言う。
何やら、近頃の若者向けサブカルチャーではよくあることらしいのだが、すまない、不勉強で。
また、チートというのは、こうした強引な転生が施行される際、特別な温情として与えられる便利な能力や道具のことらしい。なるほど、だからチートというわけか。
「ところで、私たちの存在は元の世界ではどういう扱いになるのでしょう?」
「そうだな、僕も気になっていた。行方不明で生徒たちの進路に悪影響が出ないと良いんだが」
「うーん、あなたたちに関する記憶だけが地球全体から永遠に失われるイメージかなぁ。名前や写真を見ても誰か思い出せないし、認識もしづらい。一緒にいたり影響を与えたりした出来事は各自なんとなくつじつま合わせて納得しちゃう。進路指導は副担任が最初からやってたし。別の先生から授業を教わってたはず。いつも一緒にいた美少女は遠くへ転校しちゃった。行方不明は誤報でした……とかね。あ、今のは全部てきとーですけど」
「そうですか」
「……どうにも怖い話だな。誰にも覚えていてさえもらえないわけか」
「あれれ? そういうの気にする人だったんですか? ふっ、俺に人間関係など必要ないぜ……とかいつも言ってましたよね?」
「いや、言ってないよ? 友人も教え子も大事だよ」
「やー、まー、原因が消えても結果だけはちゃんと残るわけですし、切り替えていきましょーよ」
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