13 / 227
第一部: 終わりと始まりの日 - 第一章: 地方都市郊外の学園にて
第十一話: 二人の路地裏逃走劇
しおりを挟む
謎の少女に手を引かれ、狭い路地からメイン通りへと出た途端。
――ガツっ! ガツっ!
些か軽く響くそんな音と共に、近くにあった立て看板がドッ! ドッ!と音を鳴らして揺れる。
最初に音が鳴った左手方向に目を向ければ、こちらにモデルガンを向けるヤンキーの姿。
先の二人と比べれば特徴が薄い、普通の恰好をしていれば不良とも思われなそうなヤンキーC。
その後ろには三人のヤンキーの姿がある。
ついでに言うと、向かって右前方の道路中央では、先ほど倒したヤンキーAが未だ倒れたまま雪に埋もれ、脚を押さえて呻き声を上げているが、彼に関しては特に注意する必要はないだろう。
この通りを右へ行けば、彼らヤンキーたちがやって来たシャッター街の南側入り口へと続く。
今のところ行く手は塞がれていないが、僕には土地勘がなく、おそらく各所に彼らの見張りが立てられているはずだ。
逆に、左へ行けば僕が探索してきた通りを経てシャッター街の北側入り口に抜ける。
追っ手を撒けそうな複雑な裏路地、別の大通りへ抜けられそうな広めの庭がある廃屋……など、脇道まで含めたマップを把握しているが、既に臨戦態勢にあるヤンキー四人が道を塞ぎ――。
――ガツっ! ガツっ! ガツっ!
こちらに考える暇も与えず、降りしきる雪を切り裂いてヤンキーCによる銃撃が降り注ぐ。
彼が持つモデルガン――と言っても、弾を撃つ機構を持たない玩具ではなく、圧縮ガスによりプラスチック弾を撃ち出すエアソフトガン、しかも違法改造した高威力なそれと思われる。
法的には『準空気銃』とカテゴライズされ、所持しているだけで銃刀法違反の対象だ。
発せられている音はコミカルだが、たとえプラスチック製の小さな弾でもバカにはできない。撃たれれば服越しであろうと相当痛く、もし顔にでも当たれば大怪我必至の危険な代物である。
出てきた路地へと一旦引っ込み、銃撃から身を隠しているが、このままではジリ貧だろう。
どうするか?
「右へ走ります。遅れずに付いてきてください。撃たれても止まらないで」
僕の心の声に応えたわけではないだろうが、少女はそれだけ言い、勢いよく路地を飛び出した。
ワンテンポ遅れ、その後に続く。
「止まれや!! 逃げらんねーぞ!」
「おい、オッサン! 女よこしゃテメーは見逃してやる! チッ! 待てってんだコラ!」
「――おう、見つけた。今追ってる、男と女の二人組。おう、おう、他の奴らも回せ、アアん!? ちっげーよ! そっちじゃねぇボケ! おう、そう、通りの方――」
――ガツっ! ガツっ!
「ヲイ、コラ、さっきからどんだけ外してんだよ! どヘタクソが!!」
「るっせぇ! 暗えんだ! んな簡単に動いてる的当てられっか!」
『うん、仲が良くて大変結構。その調子で喚き散らしながら体力どんどん使ってくれたまえ』
後ろから追いかけてくるヤンキーとの距離が徐々に開いていく。
通りの周囲で待ち構えているらしい彼らの仲間のことを考えなければ、このまま引き離せそうではあるのだが。
「はっ、はっ……君、どうする気なんだ!? ……強引に囲みを抜けるのか?」
「荒っぽいことをしなくとも、二人いれば逃げきれると思います。協力してください」
さっきは危ないところを助けてもらったことだし、元より僕にはこっち側の土地勘がないのだ。
ひとまずは彼女に従ってみようか。
「あぁ、分かった。僕にできることがあれば言ってくれ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少女の後を付いて薄暗い脇道に駆け込み、路地から路地へとぐねぐね移動しているうち、気が付けば追っ手であるヤンキーたちの声が聞こえなくなっていた。
この複雑な路地裏は行き止まりの袋小路にこそ到らないものの、どうやら他の通りへ繋がっている様子もなく、やがて多人数で追ってくる彼らに追い詰められてしまうことは確実だ。
とは言え、完全に撒いたわけではなく、ほんの一時的な解放であるにせよ、それなりに気分は楽になる。
更にいくつかの路地を抜け、細い通りに出たところで少女が足を止めた。
「此処です。この塀を乗り越えたいんです」
細い路地で視線を上に向けたりせず走っていたため、他と変わらぬ建物の壁だと思っていたが、どうやらこの一画だけ道の片側が塀になっているようだ。
しかし、その高さはざっと見てバスケットボールのゴール位置――三メートル以上はあろうか。
助走を付けて跳んでも上面に手が届きそうになく、登れそうな電柱や足場になりそうなものも見当たらない。
『越える? この高い壁をか……』
――ガツっ! ガツっ!
些か軽く響くそんな音と共に、近くにあった立て看板がドッ! ドッ!と音を鳴らして揺れる。
最初に音が鳴った左手方向に目を向ければ、こちらにモデルガンを向けるヤンキーの姿。
先の二人と比べれば特徴が薄い、普通の恰好をしていれば不良とも思われなそうなヤンキーC。
その後ろには三人のヤンキーの姿がある。
ついでに言うと、向かって右前方の道路中央では、先ほど倒したヤンキーAが未だ倒れたまま雪に埋もれ、脚を押さえて呻き声を上げているが、彼に関しては特に注意する必要はないだろう。
この通りを右へ行けば、彼らヤンキーたちがやって来たシャッター街の南側入り口へと続く。
今のところ行く手は塞がれていないが、僕には土地勘がなく、おそらく各所に彼らの見張りが立てられているはずだ。
逆に、左へ行けば僕が探索してきた通りを経てシャッター街の北側入り口に抜ける。
追っ手を撒けそうな複雑な裏路地、別の大通りへ抜けられそうな広めの庭がある廃屋……など、脇道まで含めたマップを把握しているが、既に臨戦態勢にあるヤンキー四人が道を塞ぎ――。
――ガツっ! ガツっ! ガツっ!
こちらに考える暇も与えず、降りしきる雪を切り裂いてヤンキーCによる銃撃が降り注ぐ。
彼が持つモデルガン――と言っても、弾を撃つ機構を持たない玩具ではなく、圧縮ガスによりプラスチック弾を撃ち出すエアソフトガン、しかも違法改造した高威力なそれと思われる。
法的には『準空気銃』とカテゴライズされ、所持しているだけで銃刀法違反の対象だ。
発せられている音はコミカルだが、たとえプラスチック製の小さな弾でもバカにはできない。撃たれれば服越しであろうと相当痛く、もし顔にでも当たれば大怪我必至の危険な代物である。
出てきた路地へと一旦引っ込み、銃撃から身を隠しているが、このままではジリ貧だろう。
どうするか?
「右へ走ります。遅れずに付いてきてください。撃たれても止まらないで」
僕の心の声に応えたわけではないだろうが、少女はそれだけ言い、勢いよく路地を飛び出した。
ワンテンポ遅れ、その後に続く。
「止まれや!! 逃げらんねーぞ!」
「おい、オッサン! 女よこしゃテメーは見逃してやる! チッ! 待てってんだコラ!」
「――おう、見つけた。今追ってる、男と女の二人組。おう、おう、他の奴らも回せ、アアん!? ちっげーよ! そっちじゃねぇボケ! おう、そう、通りの方――」
――ガツっ! ガツっ!
「ヲイ、コラ、さっきからどんだけ外してんだよ! どヘタクソが!!」
「るっせぇ! 暗えんだ! んな簡単に動いてる的当てられっか!」
『うん、仲が良くて大変結構。その調子で喚き散らしながら体力どんどん使ってくれたまえ』
後ろから追いかけてくるヤンキーとの距離が徐々に開いていく。
通りの周囲で待ち構えているらしい彼らの仲間のことを考えなければ、このまま引き離せそうではあるのだが。
「はっ、はっ……君、どうする気なんだ!? ……強引に囲みを抜けるのか?」
「荒っぽいことをしなくとも、二人いれば逃げきれると思います。協力してください」
さっきは危ないところを助けてもらったことだし、元より僕にはこっち側の土地勘がないのだ。
ひとまずは彼女に従ってみようか。
「あぁ、分かった。僕にできることがあれば言ってくれ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少女の後を付いて薄暗い脇道に駆け込み、路地から路地へとぐねぐね移動しているうち、気が付けば追っ手であるヤンキーたちの声が聞こえなくなっていた。
この複雑な路地裏は行き止まりの袋小路にこそ到らないものの、どうやら他の通りへ繋がっている様子もなく、やがて多人数で追ってくる彼らに追い詰められてしまうことは確実だ。
とは言え、完全に撒いたわけではなく、ほんの一時的な解放であるにせよ、それなりに気分は楽になる。
更にいくつかの路地を抜け、細い通りに出たところで少女が足を止めた。
「此処です。この塀を乗り越えたいんです」
細い路地で視線を上に向けたりせず走っていたため、他と変わらぬ建物の壁だと思っていたが、どうやらこの一画だけ道の片側が塀になっているようだ。
しかし、その高さはざっと見てバスケットボールのゴール位置――三メートル以上はあろうか。
助走を付けて跳んでも上面に手が届きそうになく、登れそうな電柱や足場になりそうなものも見当たらない。
『越える? この高い壁をか……』
5
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説


断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

【完結】王太子は、鎖国したいようです。【再録】
仲村 嘉高
恋愛
側妃を正妃にしたい……そんな理由で離婚を自身の結婚記念の儀で宣言した王太子。
成人の儀は終えているので、もう子供の戯言では済まされません。
「たかが辺境伯の娘のくせに、今まで王太子妃として贅沢してきたんだ、充分だろう」
あぁ、陛下が頭を抱えております。
可哀想に……次代の王は、鎖国したいようですわね。
※R15は、ざまぁ?用の保険です。
※なろうに移行した作品ですが、自作の中では緩いざまぁ作品をR18指定され、非公開措置とされました(笑)
それに伴い、全作品引き下げる事にしたので、こちらに移行します。
昔の作品でかなり拙いですが、それでも宜しければお読みください。
※感想は、全て読ませていただきますが、なにしろ昔の作品ですので、基本返信はいたしませんので、ご了承ください。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる