異世界で遥か高嶺へと手を伸ばす 「シールディザイアー」

プロエトス

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第一部: 終わりと始まりの日 - 第一章: 地方都市郊外の学園にて

第八話: 当て所なく種を蒔く教師

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 学園からは二十キロ近くも離れている市街地の最寄り駅前。
 辻ヶ谷つじがや先生の車で送ってもらった僕は、これより単独での捜索を開始する。

 あ、そうそう。もしかしたら誤解されているかも知れないので、ここで念のため言っておくと、捜索本部は未だ警察などに対して正式な捜索願を出していない。
 事件性があるかのかどうかも分かっておらず、何より体面を重んじる名門校ということもあり、こんな不祥事を大々的に喧伝けんでんしたりするわけがないのだ。
 しかし、そこは多くの有力者と繋がりを持つ名門校。
 詳しい情報を伏せつつ、正式ではない・・・・・・方法で警察を始めとする各機関に人捜しを依頼するのもお手の物である。
 今頃は母校の困り事を耳にした善意のOBたちが、それぞれ持てるつてを惜しまず用い、表から裏から捜索の手を広げてくれていることだろう。
 対して、僕らは事件を詳細に知る関係者として、それを現場からフォローしていく係となる。

 駅の構内へ入り、駅務室でこちらの用件を話すと、駅員の案内でそのまま駅長室へと通された。

「はい、はい、お話はうかがってます。構内と改札口の監視は徹底させてますので安心してください」
「ありがとうございます。僕はしばらく駅の近辺にいますので、何かありましたらこちらに連絡お願いします。あと、終電から始発までの間なんですが、できたら――」

 見たところ僕と同年代くらいだろうか。意外と若そうな駅長さんは、既に必要情報をまとめた資料が捜索本部の方から回されていたとのことで、拍子抜けするほどスムーズに話を進めていく。
 顔合わせと簡単な情報確認、緊急時のために直接の連絡先交換を終え、その場を後にした。

 その後、交番を訪ねてほぼ同様のやり取りを繰り返してから、バスのターミナルやタクシーの待合所、付近のまだ開いている店などを回るため、足を止めずに歩き出す。
 駅舎に併設された一際ひときわ大きなデパートはもう既に閉店しているものの、コンビニなどを始め、こんな時間になってもまだ営業している店舗は少なからずあった。
 それらを回って客に対する注意を呼びかけ、情報提供をお願いしていくのである。

「――話は分かった。ま、こんな時間に娘っ子が一人でいたら目立つだろ、すぐ見つかるって。客にも聞いといてやるし、なんかあったら連絡してやるから、そう気を落としなさんな」

 国内でも有数のスキー場へと向かう夜行バスの運転手が豪快にけ負ってくれる。

「いやー、さっきお巡りさんにも聞かれたけど、それらしいのは見てないね。気にはしとくよ」
「こっちも仲間に伝えときますよー」
「任しときな。なんなら俺に言えば送ってってやるからよぉ」

 駅前ロータリーの中にあるタクシー乗り場で煙草たばこを吸いながら休憩している運転手たち。
 気の好い人たちだ。ありがとう、よろしくお願いします。

「この雪じゃ心配ですよね。娘さんが家出しちゃったとか? 無事に見つかると良いですね」

「ちょっと、なんなんすか? 知りませんけど……。こっちはカノジョにすっぽかされて最悪の気分なの……チッ。……あー、あー、見かけたらね」

「あら、ショーゴちゃんじゃない。今夜は寄ってってくんないの? え? 人捜し? 頑張って」

 駅周辺を数十分走り回り、休憩がてら通りすがりや店の人たちにも声を掛けていく。
 そうこうしているうちに気が付けば、地面にはうっすらと雪が積もり始めていた。

美須磨みすまは寒くしていないだろうか」と、思わず口から独り言がこぼれ出てしまう。
 捜索本部や別行動の辻ヶ谷つじがや先生の方もあわせ、現時点に至るまでまったくの手掛かりゼロ。
 一向に進展しない状況、その手応えの無さに心が折れそうになってくる。

 流石さすがにもう良い時間だ。しばらくすれば本日の捜索は一旦打ち切り、ほどなく捜索本部だけを待機させ、一般教員には帰宅がうながされることだろう。
 そうなったとき、彼女はこの寒い夜をどこでどうやって過ごすのだろう。

「頼む。無事でいてくれ。今はもうそれだけで構わないから」

 続けて漏れたそんな呟きが周囲の雪へと吸い込まれていくのと入れ替わりに、懐中のスマホがバイブ音を鳴らした。
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