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18.朝の街

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 この街には電気が通っていないだけでなく、時計もないらしく、朝は柔らかな日の光で目覚める。それでも、街の人たちは既に仕事を始めていて、静かな朝を迎えることはなかった。
 門の前の広場に行くと、いつからそこにいたのだろうか、そこにはすでに不審者……いや、彼女がいた。こちらを向いて、口元には不敵(ふてき)な笑(え)みを浮かべている。俺は彼女を見かけて、背筋が凍りつくように感じた。黒い帽子と黒い服に、その不敵な表情が相(あい)まって、彼女は漆黒(しっこく)の雰囲気を身にまとっていた。まるで、彼女だけ夜に取り残されているように見えた。

(死の魔女、か……)

 俺は一瞬ためらって、ようやく諦めたように彼女に声をかけた。

「や、やあ……」

 何故か彼女は驚いたような顔をして、

「本当にきたんですね。からかわれたのかと思いました」
「そんなことないよ。実は、結構楽しみにしていたんだ」
「嘘……」

(すごい疑われているな。木の実を取りに行くくらいで、嘘をついてもしかたないのに。俺が薬草採取に飽きているように、この人も木の実の採取に飽きているんだろうか)

「それにしても、こんな時でも、その、見た目にこだわるんだね」
「こんな時だからこそ、です」
「ハハ、参ったな……」

 流石Sランクというか、彼女のパフォーマーとしてのプロ意識は、木の実の採取ひとつでも少しもぶれないみたいだ。

「荷物も、重そうだし」
「ご主人様、だからあれほど言ったじゃないですか。普通は彼女くらいの装備は必要です」
「えー、いつも口うるさく言われているから、どうせまた大したことないんだろうなと思って……フヒッ!」

 奴隷に刺すような視線でにらまれた。

(殺される……!)

 仮面をかぶっているからまだいいが、それがなかったら今頃は睨(にら)まれるだけで意識を持っていかれていただろう。そんな殺気を感じた。
 確か昨晩は、俺が「いつもの薬草採取のように軽装備で行きたい」というと、「薬草採取でも装備していないのがまず間違っている。あれはこの辺りでは命がけの作業なのだ」、というようなことを力説された。「いつも大丈夫じゃないか」というと、「私が魔除けしているから出ないだけ」とか、電波な理由をつけて強弁(きょうべん)してきた。この子は、とにかく俺のいうことが否定したくて仕方ないのだ。

(顔がいいやつって、不細工が相手なら何を言ってもいいと思ってるんだよな……。そう思うと、怒りが湧いてきたぞ)

 俺が今度こそ抗議をしようと口を開けると、

「また言い訳する気ですか?」

とすかさず気圧(けお)されたので、俺は恐怖で口を閉じた。

「大体ご主人様は……」
「あー、わかったもういい、えっと……」
「ロゼマリア・レーネルです」
「じゃあ、マリア、俺がその荷物持つよ」
「え……」

 マリアは戸惑ったように見えた。

(しまった、俺みたいなのに持ち物触られるのは嫌だったか?)

「なんてな……」
「いえ、お願いします……」

 そういうと、マリアは鞄を差し出してきた。俺は受け取ると、奴隷からの殺気が治まったのを感じ、安堵(あんど)した。
 しかし……

(フゥッ、何が入ってるんだよこれ)

 鞄はズシリと重かった。
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