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36話 アイシャの気持ち

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 夢の中はとても居心地が悪い。

 自分の醜さをひしひしと感じる。

 もうわたしかも?ではない。

 今見ている夢は全てわたし。

 アリシャはジルに恋をした。ジルもアリシャに恋をした。

 二人の恋は二人だけのもの。

 周りのことなんてみていない。

 周りはそんな二人をみてまるで何かの劇のようで、喜んで協力した。

 ううん、他人の恋の醜聞をみて楽しんでいた。

 ミネルバが苦しむ姿を笑って見ていた。

 なのに二人は二人の恋の邪魔をするミネルバを『悪』だと思った。

 ただ夢を見ているだけのわたしは『悪』はミネルバではなくアリシャとジルだと思う。

 だって婚約者がいるのに、真実の愛に溺れて自分たちだけが幸せになろうとしたのだもの。

 ううん、二人は幸せだった。

 ミネルバが犠牲となり、二人の前からいなくなって、二人は結婚して幸せな家庭を築いた。

 二人は互いを大切にしながら最後まで幸せに暮らした。

 二人はミネルバの存在など忘れて。

 ミネルバは修道院で過酷な生活に耐えられなくて数年で亡くなった。

 誰も彼女の死を憐れむことなく。

 そしてアーシャに生まれ変わったわたしはまたシルヴァに恋をした。

 そこにミランダが現れ、今度はわたしが陥れられた。

 わたしは今の今まで(アイシャ)そんな前世の記憶はなかった。

 でもアイシャになって生まれて、シルヴィオ殿下に恋はしなかった。
 ううん、彼に惹かれるどころか怖くて仕方がなかった。

 ミラーネ様………あなたは前世の記憶のまま生きているの?苦しんでいるの?

 わたしもアーシャの記憶が今ずっとあったら……気が狂っているかもしれない。

 わたしは……突然思い出した記憶にどう向き合っていいのかわからない。

 でも……『今』を生きてる。

 前世の世界は前世であってそれを引き摺って生きるのは幸せになれるのかな?

 だけど、わたしもアーシャの記憶にこれからどう向き合えばいいのかわからない。

 だって、だって、心が壊れてみんなに捨てられて死んだんだもの。

 そのことを考えると苦しい。
 胸が張り裂けそうになる。

 嫌だ、やめて!

 恐怖の中何人もの男達に犯される。

 またそのことを思い出すと叫び出す。

 さっきまであんなに冷静でいられたのに。

 夢の中でわたしは自分の体を抱きしめて地面の上で丸くなってただひたすら震えた。

 誰もいない、何もない、真っ暗な世界で。

 ーーああ、前世を忘れて今を生きる。

 なんて綺麗なことを考えたのかしら?

 わたし自身そんなことできないのに。

 誰かお願い、助けて!

 だめ、誰も助けてなんてくれない。
 お父様もわたしを見捨てた。
 友達もいなくなった。

 わたしが生きる場所なんてない。

 だったら……死ぬ?

 でもこの苦しい世界にずっと居続けなければいけないの?

 頭がおかしくなる。

 もう嫌だ、嫌だ!














「アイシャ」
「アイシャ大好き」
「アイシャ泣かないで」


 誰?


 誰がわたしを呼ぶの?


 もうわたしはどこにも居場所なんてないのに。


 夢の中ですら生きていけないのに。


「アイシャ………助けてあげられなくてごめん」
「アイシャ、苦しみだけ忘れよう」


 そんな都合のいいことなんてできない。

 わたしはわたしが前世でミネルバを苦しめたから罰を受けたの。


「違う、前世は前世。今のアイシャに罰なんて受けなくていい」


「アイシャ、私達と生きて」

「アイシャ、忘れよう」


 優しい声と温かな光、わたしを包み込む。


 たくさんの精霊達の光がわたしの体を覆った。
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