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11話
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殿下との顔合わせの後、わたしには王子妃教育が始まった。
うちの屋敷に王家から配属された教育係が来て教えてもらうだけで、今までの令嬢としての勉強に外国語や王族として振る舞わなければならないマナーが追加されただけだった。
公爵令嬢としての勉強はもうすでにしていたのでそれほど難しいとは思わなかった。
不思議なくらい先生の教えてくださることが頭にすんなりと入ってしまう。
まるで習ったことがあったかのように。
とっても不思議な気持ちだった。
先生達も6歳のわたしが簡単に外国語を覚え話すのを啞然としていた。
「アイシャ様にお教えすることはあまりありません」
どの先生も口を揃えてそう言ってくれた。
シルヴィオ殿下には月に一度、王宮に呼ばれお茶会でお会いするだけで、それ以上の接触は今のところない。
内心ホッとした。
そして月日は流れわたしは14歳、殿下は17歳になっていた。
月に一回のお茶会、それから最近は殿下のパートナーとして夜会やパーティーに参加することが増えた。
もうすぐわたしも15歳、成人として認められ社交界デビューもすることになる。
そのため王子殿下の婚約者として学園でも常に優秀な公爵令嬢として過ごすことを周りから当たり前のように課された。
だけどどんなに真面目に王子妃教育を取り組んだって、どんなに品行方正に過ごしたって……わたしの存在価値なんて………
「おはよう、アイシャ」
学園に行くと常にたくさんの人に囲まれて歩く殿下にお会いすることがある。
婚約者として彼を無視するわけにはいかず、彼らから少しだけ距離をとり「おはようございます、シルヴィオ殿下」と挨拶をする。
「今日のお昼、待っているよ」
「はい、畏まりました」
殿下は少しだけ足を止めただけで軽く手を振り、わたしを見ようともせずすぐに去っていった。
わたしにはまるで興味がない。
おかげで学園では好きに過ごせるのだけど周りの令嬢達はそんなわたしを放っておいてはくれない。
殿下のわたしへの態度を見て陰でクスクス笑う。
『婚約者なのに相手にされないなんて』
『あんな惨めな婚約者になんてわたしなりたくないわ』
『殿下はミラーネ様と仲がよろしいらしいわよ』
うん、全て知ってるわ。
殿下は名ばかりの婚約者のわたしに興味がないこともみんなから馬鹿にされていることも。
そして白銀の長い髪に色白の美しい顔立ちのミラーネ様に今は夢中だと言うことも。
今日のお昼だって、この前の王宮でのお茶会を殿下が一方的に断ってきた。それを知った王妃様がお怒りになり、学園で会うのだから直接謝罪をするようにと殿下に叱ったことで、今日お昼を共にすることになった。
殿下も嫌かもしれないけどわたしはもっと嫌。
「はああー」
殿下がさっきいた場所を見つめながらため息を吐いた。
「アイシャ嬢、暗いね?」
わたしの肩を叩いて「あんなの放っておきなよ」と言ってくれたのはわたしと同じ歳で、シルヴィオ殿下の弟のユリウス殿下だった。
「ユリウス殿下、おはようございます。別に気にはしておりません。いちいち気にしていては心がもちませもの。……ただ、お昼のことを考えると………」思わず言葉を濁してしまった。
だって行きたくないんだもの。でも兄であるシルヴィオ殿下のことを悪くは言えないし。
「兄上にも困ったものだよね?」
「いえ、婚約者であるわたしがしっかりとしていないから……」
「でも噂は噂でしかないから、アイシャ嬢はとても優秀なんだから堂々としてなよ。周りのピーピーうるさい雀達のことなんて相手になんてしなくていいよ」
「まあ!」「なんてことを!」とぶつぶつと言う声が聞こえてはきたけど、ユリウス殿下に文句を言いたいのだけど流石に目の前では言えない令嬢達は顔を真っ赤にしながらすごすごと去っていった。
「ほんと、あの人達、陰でしか言えないんだから、ねっ?」
呆れながら去っていく令嬢達を見るユリウス殿下。
「僕と教室へ行こう。少しは令嬢避けになれると思うんだ」
わたしの持っている鞄をさっと持って「行くよ」と言った殿下。
「あっ………」慌てて殿下の後を追った。
ユリウス殿下の側近の男の子達も「行きましょう」と声をかけてくれた。
婚約者のシルヴィオ殿下よりよっぽど優しくて頼りになれる。
✴︎✴︎ ✴︎✴︎ ✴︎✴︎ ✴︎✴︎
大好きなシルヴァ殿下の婚約者になった。
彼に相応しい婚約者になりたい。
勉強も苦手だけど頑張った。
外国語なんて全くわからない。
だけど、たくさん勉強した。少しでも彼に恥をかかせないように、隣に共に立てるようになりたいと。
ダンスだってマナーだって難しいし、たくさん鞭で手を叩かれたし、足も鞭で何度も叩かれた。
たくさん辛くて泣いたわ。
もう嫌だと逃げ出したくなった。だけど「アーシャ、辛かったらいつでも言ってね?父上達に勉強時間を減らしてもらえるようにお願いするから」と優しさから言われると、自分ができないことが情けなくて逆に必死で頑張った。
14歳になってからは殿下と共にパーティーやお茶会に参加する機会も増えた。
二人で踊るダンスはいつも楽しかった。
学園では3歳年上の殿下となかなか話す機会はなかったけど目が合えばにこりと微笑んでくれる殿下にわたしは真っ赤な顔をしながら微笑み返した。
わたしにとってここまでが一番幸せな時だった。
うちの屋敷に王家から配属された教育係が来て教えてもらうだけで、今までの令嬢としての勉強に外国語や王族として振る舞わなければならないマナーが追加されただけだった。
公爵令嬢としての勉強はもうすでにしていたのでそれほど難しいとは思わなかった。
不思議なくらい先生の教えてくださることが頭にすんなりと入ってしまう。
まるで習ったことがあったかのように。
とっても不思議な気持ちだった。
先生達も6歳のわたしが簡単に外国語を覚え話すのを啞然としていた。
「アイシャ様にお教えすることはあまりありません」
どの先生も口を揃えてそう言ってくれた。
シルヴィオ殿下には月に一度、王宮に呼ばれお茶会でお会いするだけで、それ以上の接触は今のところない。
内心ホッとした。
そして月日は流れわたしは14歳、殿下は17歳になっていた。
月に一回のお茶会、それから最近は殿下のパートナーとして夜会やパーティーに参加することが増えた。
もうすぐわたしも15歳、成人として認められ社交界デビューもすることになる。
そのため王子殿下の婚約者として学園でも常に優秀な公爵令嬢として過ごすことを周りから当たり前のように課された。
だけどどんなに真面目に王子妃教育を取り組んだって、どんなに品行方正に過ごしたって……わたしの存在価値なんて………
「おはよう、アイシャ」
学園に行くと常にたくさんの人に囲まれて歩く殿下にお会いすることがある。
婚約者として彼を無視するわけにはいかず、彼らから少しだけ距離をとり「おはようございます、シルヴィオ殿下」と挨拶をする。
「今日のお昼、待っているよ」
「はい、畏まりました」
殿下は少しだけ足を止めただけで軽く手を振り、わたしを見ようともせずすぐに去っていった。
わたしにはまるで興味がない。
おかげで学園では好きに過ごせるのだけど周りの令嬢達はそんなわたしを放っておいてはくれない。
殿下のわたしへの態度を見て陰でクスクス笑う。
『婚約者なのに相手にされないなんて』
『あんな惨めな婚約者になんてわたしなりたくないわ』
『殿下はミラーネ様と仲がよろしいらしいわよ』
うん、全て知ってるわ。
殿下は名ばかりの婚約者のわたしに興味がないこともみんなから馬鹿にされていることも。
そして白銀の長い髪に色白の美しい顔立ちのミラーネ様に今は夢中だと言うことも。
今日のお昼だって、この前の王宮でのお茶会を殿下が一方的に断ってきた。それを知った王妃様がお怒りになり、学園で会うのだから直接謝罪をするようにと殿下に叱ったことで、今日お昼を共にすることになった。
殿下も嫌かもしれないけどわたしはもっと嫌。
「はああー」
殿下がさっきいた場所を見つめながらため息を吐いた。
「アイシャ嬢、暗いね?」
わたしの肩を叩いて「あんなの放っておきなよ」と言ってくれたのはわたしと同じ歳で、シルヴィオ殿下の弟のユリウス殿下だった。
「ユリウス殿下、おはようございます。別に気にはしておりません。いちいち気にしていては心がもちませもの。……ただ、お昼のことを考えると………」思わず言葉を濁してしまった。
だって行きたくないんだもの。でも兄であるシルヴィオ殿下のことを悪くは言えないし。
「兄上にも困ったものだよね?」
「いえ、婚約者であるわたしがしっかりとしていないから……」
「でも噂は噂でしかないから、アイシャ嬢はとても優秀なんだから堂々としてなよ。周りのピーピーうるさい雀達のことなんて相手になんてしなくていいよ」
「まあ!」「なんてことを!」とぶつぶつと言う声が聞こえてはきたけど、ユリウス殿下に文句を言いたいのだけど流石に目の前では言えない令嬢達は顔を真っ赤にしながらすごすごと去っていった。
「ほんと、あの人達、陰でしか言えないんだから、ねっ?」
呆れながら去っていく令嬢達を見るユリウス殿下。
「僕と教室へ行こう。少しは令嬢避けになれると思うんだ」
わたしの持っている鞄をさっと持って「行くよ」と言った殿下。
「あっ………」慌てて殿下の後を追った。
ユリウス殿下の側近の男の子達も「行きましょう」と声をかけてくれた。
婚約者のシルヴィオ殿下よりよっぽど優しくて頼りになれる。
✴︎✴︎ ✴︎✴︎ ✴︎✴︎ ✴︎✴︎
大好きなシルヴァ殿下の婚約者になった。
彼に相応しい婚約者になりたい。
勉強も苦手だけど頑張った。
外国語なんて全くわからない。
だけど、たくさん勉強した。少しでも彼に恥をかかせないように、隣に共に立てるようになりたいと。
ダンスだってマナーだって難しいし、たくさん鞭で手を叩かれたし、足も鞭で何度も叩かれた。
たくさん辛くて泣いたわ。
もう嫌だと逃げ出したくなった。だけど「アーシャ、辛かったらいつでも言ってね?父上達に勉強時間を減らしてもらえるようにお願いするから」と優しさから言われると、自分ができないことが情けなくて逆に必死で頑張った。
14歳になってからは殿下と共にパーティーやお茶会に参加する機会も増えた。
二人で踊るダンスはいつも楽しかった。
学園では3歳年上の殿下となかなか話す機会はなかったけど目が合えばにこりと微笑んでくれる殿下にわたしは真っ赤な顔をしながら微笑み返した。
わたしにとってここまでが一番幸せな時だった。
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