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3話

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「ふわぁぁ、よく寝たわ」

 両手をバンザイして体を伸ばして大欠伸をしながら目覚めた。

「アイシャ様おはようございます」

 わたし付きのメイドのミズナ。いつも優しい笑顔で大好き。

「おはよう」

 すぐに冷たい水の入ったコップを手渡された。

 寝起きはいつも冷たいお水が最高に美味しい。

 ミズナがカーテンを開けてくれた。明るい陽射しが目に眩しい。

「もうお父様はお仕事に行ってしまったの?」

「はい、アイシャ様がまだ眠っていたのでお顔だけそっと覗かれて行かれました」

「ああぁ……今日も会えなかったのね。起こしてはくださらなかったの?」

 がっかりしながらぶつぶつ言っていると
「旦那様にお会いしたいのなら夜遅くまで頑張って起きているのではなくて早くお眠りになって早起きする方がいいと思いますよ?アイシャ様はお眠りになるとなかなか起きませんからね?」

「でもそうすると会えるチャンスは一日に一回だけだわ。二回もチャンスがあるのにもったいないわ」

「そう言って朝も晩も会えなければチャンスを逃しているのと同じでは?」

「うーん、そうだよね?じゃあ今日は早く眠るわ」

「そうして頂けると私達もお身体を壊さないか心配せずに済みます」

「ミズナ、ごめんね?心配かけて」

「それも私達のお仕事ですから。でもアイシャ様の笑顔がずっと続いてくれることが一番私たちにとって嬉しいことです」

 大好きなミズナはいつもわたしの味方。

 いつも忙しいお父様。お母様が亡くなってからはわたしが寂しくないようにと使用人たちはわたしが好きな人達だけをそばに置いてくれているの。

 本当はお父様に会えないことが一番寂しいのだけどお父様はそんなことを知らない。

 だって我儘を言えばお父様を困らせてしまうもの。

 お父様は王城で財務大臣として働いている。

 だからいつも忙しくてわたしもなかなか会えずにいた。それでもお父様はどんなに仕事が遅くなっても王城内にある私室には泊まらず屋敷に帰ってきてくれる。

 わたしはそれだけでも嬉しい。
 本当は毎日お顔だけでも見れたらもっと嬉しいのだけど。








「本当に?」

 久しぶりに早起きしたらお父様が今日はお休みだと教えてくれた。

「お父様、今日は一日一緒?」

「アイシャが行きたいところがあるなら外出しようかと思っているんだがどうかな?」

「わたしお父様と街に行ってケーキを食べたい!」

「ケーキならいつでもうちのシェフが作ってくれるだろう?」

「うん、でもお友達のシェリーが言ってたの。新しくできたラ・ミロというカフェのテリーヌショコラが美味しいって聞いたの。一度でいいから食べてみたかったの!」

「わかった。じゃあ朝食を食べてアイシャの午前中の授業が終わったら出掛けよう」

「ほんと?急いで食べて急いで勉強を終わらせるわ。先生にお願いしましょう!」

「じゃあ、僕は急いで溜まっている仕事を終わらせるとしよう」

 お父様は少しお疲れのよう。

 お母様が亡くなって屋敷のことも王城での仕事も全て一人でこなしているもの。

 わたしはまだ6歳だからなにもお手伝いできない。我儘を言わないことくらいしかできないわ。



 急いで勉強を終わらせてミズナが可愛いお出かけ用のワンピースに着替えさせてくれた。

 街に出るのにドレスだと悪目立ちする。ピンクのフリルがたくさんついた可愛いワンピースはお父様がお出かけ用にとプレゼントしてくれていた。全く着る機会がなくてこのままでは小さくなってしまうと思っていた。

 やっと着る機会が出来て嬉しい。

 髪の毛はツインテールにしてもらいピンクのリボンをつけてもらった。

「お父様とのデート、これで大丈夫かな?」

「とっても可愛いです!」

「お土産買ってくるから楽しみにしていてね?」


 お父様と馬車に乗り街へと向かった。

 二人っきりのお出かけは初めてかもしれない。いつもならそこにお母様もいた。優しくて綺麗でいつも笑っていたお母様。

 突然の死はお父様もわたしもショックでしばらく笑うことを忘れていた。

 でも時間が少しずつわたし達の気持ちを変えていってくれた。まだ思い出にはならないくらい寂しくて辛いけど、ずっとそこに立ち止まってはいられない。

 お父様は忙しい日々の中、お母様の亡くなった寂しさを紛らわせるように過ごしていた。

 そんな姿を見てわたしもお母様のような人になろうと努力することにした。


 馬車を降りてお父様と手を繋ぎカフェへ向かった。

 お父様はいつの間にかお店に予約をとってくれていて、個室に案内された。

 その個室はガラス張りになっていてお店のお庭が一望できた。

 たくさんの花々が目を喜ばせてくれた。

 目的のテリーヌショコラももちろん美味しくてお土産に屋敷のみんなにもたくさん買って帰ることにした。

「じゃあ後で屋敷に届けてくれるかい?」
 お父様がお店のシェフと話をしているのを横で聞いていた。

「アイシャ、何か欲しいものはないのか?みんなへのお土産とは別に」

「別に欲しいものなんてないわ。お父様とお出かけできたかそれだけで十分なの。あっ……でも以前三人で行った湖に行きたい」

「湖かぁ、ちょっと遠いな。また休みを取るからその時に朝から出かけよう」

「うん、約束だよ?」

「絶対約束は守るから」



 お店を出たらすぐに執事のトーマスがお父様のそばへと駆け寄ってきた。
 お店から出るのを待っていたみたい。

 話終わるとお父様は慌てていた。
「急用ができてしまった。急いで王城へと行かないといけなくなった。アイシャはトーマスたちと屋敷へ帰っていなさい」

「お父様、今日は今日だけは一緒にいたいの。長くかかるの?ついていっては駄目?」

 初めて我儘を言った。せっかく楽しかったのにこれで終わるなんて寂しい。

「たぶんそこまで時間はかからないと思う。少し待たせることになるけどアイシャが待てるなら一緒に行こう」

「うん!」

 我儘を言って良かった。

 もう少しだけお父様と一緒にいられる。
 明日からはまたお父様は忙しくていつ会えるかなんてわからないもの。

 ずっとお屋敷で一人で待つ日々が続くんだもの。今日だけは一緒にいたい。




 お父様が仕事に行っている間わたしは王城の庭園でトーマスたちとお花を見ていた。

 ただお花を見ていただけなのになぜか涙が溢れた。

 “ここにはもうきたくなかった”

 よくわからないけどここにいるだけで胸が痛い。よくわからないけど苦しくて辛くて……

 綺麗なお花がたくさんあるのに、お花が大好きなのに。

 涙が溢れて止まらなかった。


「ねえ、君、ここで何してるの?」




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